| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

セントバーナード

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三章

「番犬をしてもいい」
「いいことばかりね、ただ」
「ああ、どうもね」
 ここでだ、ハンスは少し苦笑いになって言ったのだった。
「ダイアは気が弱いな」
「それもかなりね」
「身体は大きいんだがな」 
 大型犬のセントバーナードだがその中でも特にだ、ダイアは大柄で如何にも強そうである。しかしその外見とは違いだ。
「弱いな」
「小犬に吠えられても逃げるし」
「泣きそうな顔でな」
「それもチワワとかに」
「勝てるだろ」
 体格的にというのだ。
「セントバーナードで相手がチワワなら」
「どう考えてもね」
「それが吠えられたら逃げて」
「フリッツ以外の子供からもな」
「逃げるわね」
「触られるのが嫌らしいな」
 その子供達にだ。
「だからだな」
「そうみたいね、フリッツには懐いてるから平気だけれど」
「それでもな」
「子供も苦手で」
「喧嘩もしなくてな」
 小犬に吠えられて逃げる位だから喧嘩なぞ出来る筈がなかった。
「ちょっとした物音でびくりとなって病院も怖がって」
「病院の前に来たら逃げようとして中に入ったら固まって」
「帰ろうって目で訴えてくるしな」
「弱いわね」
「ああ、かなりな」
「我が儘なところもあって」
 ヨハンナはダイアのその一面も話した。
「行きたく道は行かない」
「テコでも動かないな」
「引っ張ったらね」
「嫌そうな、悲しそうな顔で抵抗するな」
「そこも困ったところね」
「ものぐさだしな」
 ハンスはこの一面も指摘した。
「基本」
「一日二回の散歩以外は動かなくて」
「いつも中で寝ているな」
 空いている倉庫を家にしている、かなり大きな犬小屋にしているのだ。
「散歩行く時以外は」
「身体掻くのも面倒臭い顔をして」
「困ったところのある奴だ」
「ええ、けれどね」
「やっぱりいい娘だな」
「大人しくて優しくてね」
 困ったところはあってもそれ以上の美徳を備えた犬だというのだ。
「人懐っこくて愛嬌があって」
「のどかでな」
「本当にいい娘よね」
「全くだ」
 心からだ、ハンスはヨハンナに言った。
「あの娘はな」
「そうよね」
「俺達にとってもいい家族で」
「娘だな」
「そうね」
 血はつながっていなくてだ、そして種族も違うがだ。
「いい娘が来てくれた」
「フリッツにとってはいい妹がね」
「やっぱりあれだな」
「あれって?」
「家族三人だけだとな」
 それだけだというのだ。
「物足りないんだな」
「人間だけだと」
「ペットって言うがな」
 家族であるがだ、ハンスはあえてこの言葉を使った。
「必要なんだな」
「人にとっては」
「そう思った、今な」
 ダイアのことを思ってというのだ。
「本当にな」
「そうね、私もね」
「そう思うんだな」
「実は私も最近ね」
「物足りないって思っていたんだな」
「そうなの、何かね」
 ダイアが来る前はというのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧