NARUTO日向ネジ短篇
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【ネジおじさんに向日葵の花を】
前書き
ヒマワリとネジおじさん中心のお話です。
ネジが向日葵の花を好んでいたという理由は、『向日葵畑に還る』というタイトルで以前自分なりの解釈で書きましたが、特にそれを見ていなくても構いません。
「ねぇ…… 起きて…… 大丈夫……?」
( ────・・・? お母さんの、声がする。う~ん、もう朝なの...? もっと、寝ていたいよ)
「どうしよう、目を覚ましてくれない……。病院に連れて行った方がいいかな…?」
(えっ、病院…? わたし、どこも悪くないよ。お母さんったら、大げさだよ……。今、起きるからっ)
「────ん~、ん……?」
「あっ、良かった、起きてくれた...! 大丈夫? どこか、痛い所とか無い?」
「だいじょおぶだよ、お母さん……わたし、何ともないよ」
「えっ? お、お母さん?? えっと、私……あなたのお母さんじゃないんだけど、もしかして、寝ぼけちゃってる?」
「なんで、そんなこと言うの...? ヒドイよお母さんっ」
「あ、え、そんな悲しそうな顔しないで...! こ、困っちゃったな……」
(あれ...? お母さん、だけど、ちょっと違う……?? 今のお母さんの髪の長さって、肩くらいまでなのに……このお姉さんは、もっと長いみたい)
「……私、そんなにあなたのお母さんに似ているの?」
「うん...、目元も声も、そっくりなんだけど……」
「そっか...、でもごめんね。私は、あなたのお母さんじゃないし……。私はね、ヒナタって言うの」
「───あ、やっぱりお母さんだ。名前同じだもん!」
「そ、そうなの...!? 偶然、なのかな……?? と、とにかくね、私は近くの森に傷薬になる薬草を取りに来てたの。そしたら、倒れてるあなたの事を見つけたんだよ。何が…あったの?」
「んっと、確か、お花……お花をあげたい人がいて、その人の所へ行こうとしてたはずなんだけど───」
(でも、わたしの手元にも、周りにも、その花は見当たらない。どこかに、落としてきちゃったのかな……? それに、どうしてこんな所で眠っちゃってたんだろう)
「どんな、お花かな?」
「ひまわり……向日葵の、花だよ。わたしと、同じ名前のお花なの」
「ヒマワリちゃん……、素敵な名前だね。きっと、あなたのお母さんかお父さんが好きなお花だからなんだろうね」
「────おじさん」
「……え?」
「わたしのおじさんが、好きな花だったって……お母さんが言ってたから」
「そうなんだ……。私のお友達にね、お花屋さんのお家の子が居るんだけど、そこに行けば───・・・あ、でも、もう季節過ぎちゃってるから無いかもしれない……」
「え、どうして? 今って、まだ7月だよね」
「ううん、もう十月の半ば過ぎだよ」
(あれ...? どうなってるのかな。そういえば、結構肌寒いかも……)
「───私のイトコのお兄さんもね、向日葵の花、好きなんだって教えてくれたの。ちょうど、二ヶ月くらい前に……一緒に向日葵畑を見に行ったから」
「お母さんのお兄さんって……おじさんでしょ?」
「えっ、おじさ...?! 違うよ、おじさんなんて呼ぶにはまだ早過ぎるよ...!」
「でも、わたしとお兄ちゃんにとっては、おじさんなんだよ」
「う~ん、な、何だか話が噛み合わないね……。とりあえず、お家がどの辺りか教えてくれるかな。私が送って行ってあげるから」
「だけどわたし、おじさんに向日葵を───」
「ヒナタ様」
男声の呼び掛けに振り向くと、白装束姿で長髪の青年がいつの間にか現れていた。
「あ、ネジ兄さん」
「...供も連れずに一人で出掛けるのは控えて頂きたいのですが」
「あ...、ごめんなさい。でもそんなに遠くない場所だし、誰かの手を煩わすのも───」
「ねぇ、ヒナタ...お姉ちゃん。この人が、お姉ちゃんのお兄ちゃん?」
「………?」
「うん、そうだよ。私のイトコの一つ上のお兄さんだから、ネジ兄さん」
「───ヒナタ様、その子は?」
「えっとね、この子は───」
「おじさん」
「?」
「やっぱり、おじさんだ……写真で見てるから、知ってるもん」
ヒマワリはネジに駆け寄った。
家の写真立ての中のおじさんにはいつも、おはようやただいまなどの挨拶をしていたのだった。
「会いたかったんだよ、ネジおじさんっ...!」
「───・・・!?」
ヒマワリは、ひしっとネジの胴回りに抱きついた。
「ひッ...ヒナタ、様…この子は、いったい……??」
女の子を振り払うわけにもいかず、ネジは固まって少し驚いた表情のままヒナタに助けを求めるように尋ねた。
「ヒマワリっていう、名前の子なんだけど……ネジ兄さん、もしかして知ってる子なの? そんなに懐いちゃってるし...」
「し、知りませんよ。───何を、勘違いしているのか判らないが……俺は、君を知らないんだ。離れてくれないか?」
「せっかく会えたのに…、おじさん冷たいよっ」
今にも泣き出しそうな顔で見上げてくる女の子に、たじたじになるネジ。
「ま、参ったな……」
「ごめんね、おじさん。今年咲いた向日葵の花をあげに行こうとしてたのに、どこかに失くしちゃったみたいなの」
「向日葵の花を、俺に……? だが、十月も半ばを過ぎているし、元気に咲いている向日葵の花はもう、無いんじゃないか?」
「そんなことないよ! まだ7月だし、元気な向日葵いっぱい咲いてるもんっ」
「いや、そう言われても、だな……」
ネジは再び助けを求めるようにヒナタを見やった。
「ヒマワリちゃんは、まだ7月だと思ってるみたいなの。私の事は、"お母さん"と見間違っちゃうし───」
「お、お母さん...?! あいつとそんな仲になるのはまだ早過ぎますヒナタ様ッ」
「な、何を言ってるのネジ兄さんっ。私とナルト君はまだ、全然そんな仲じゃ...っ」
"お母さん"という言葉でネジはすっとんきょうな声を上げてしまい、ヒナタは恥ずかしさのあまり顔を両手で覆い耳を真っ赤にした。
「───っくしゅん!」
ヒマワリは夏の装いだったので、十月半ばの肌寒い空気に思わずくしゃみをする。
「か、風邪を引いてしまっては大変だ、自分の家に早く帰った方がいい。君の家は、どこなんだ? すぐに送って行ってあげたいが……」
「イヤだよ…、向日葵の花、見つけなきゃ。毎年、おじさんにあげてるんだもん...っ」
ネジの胴回りにしがみついたまま、つぶやくように言うヒマワリ。
「...私、いのちゃんの所のお花屋さんに行って向日葵の花がまだあるかどうか聞いてみるから、ネジ兄さんはひとまずヒマワリちゃんを兄さんの家に連れて行って、身体を冷やさないようにしてあげて? じゃあ、先行くね!」
「あ、ヒナタ様...!」
ネジはヒマワリという女の子と二人きりになり、一瞬どうしていいか判らなくなったがすぐに頭を切り替え、ヒマワリに目線を合わせるように身を低め、できるだけ優しく話し掛けた。
「風邪を引かれては困るから、一旦俺の家に連れて行くが……いいか? 向日葵の花の事はヒナタ様...、さっきのお姉さんに任せてみよう」
「うん……」
「よし、じゃあ……俺の背中におぶさってくれ。...髪が邪魔になるから、横に流しておこう」
ネジはそう言って自分の長い後ろの髪を前の方の横に流して背中を向け、しゃがんだ。
ヒマワリは素直にネジの背中におぶさり、ネジは跳躍して素早く自分の家に向かった。
「ん...、とにかく羽織る物を───。俺の物ですまんが、とりあえず使ってくれ。今、温かいお茶を用意するから」
ヒマワリを茶の間に座らせてすぐ羽織る物を持ってきてやり、それからネジは台所でお茶の用意をし、湯のみに注いでヒマワリに差し出した。
「ありがとう、おじさん...」
ネジが淹れてくれたあったかいお茶をすすって、ほっとひと息つくヒマワリ。
「君の、おじさんというのは……そんなに俺と似ているのか?」
「...会ったことはなかったけど、知ってるの。写真で」
「写真……?」
「うん、間違いないよ。だってお母さんと同じキレイな目だし、髪は女の人みたいに長くて白い格好で黒のスカートみたいなのしてるの」
「───いや、すまんがちょっと違う。これはスカートではなくて前掛けのようなもので……」
「その前の頃は、半そで短パン姿だったでしょ? 頭の両脇から何だかピロピロしたのしてて」
「あぁ、まあ確かにそうだが、会った事はないのに写真で俺の事を知っていて、君は俺を"おじさん"と言う……。その上君の母親と同じ眼をしているという事は、その人は────」
「ヒマワリちゃん、ネジ兄さん...!」
ヒナタがネジの家に上がり込み、茶の間へやってくる。
「ヒナタ...お母、さん?」
ネジはつい、座ったままの姿勢でヒナタを怪訝そうな表情で見上げ、つぶやくように言った。
「はい?? えっ、ちょっ……ネジ兄さんまで私の事、お母さんだなんて...!?」
「───あッ、いや、何でもないです。気にしないで下さい...! ひ、向日葵の花は、どうでしたか?」
焦りつつも、平静を装うネジ。
「あ、うん、えっと……やっぱり、向日葵の花はもう無いらしくて...。ごめんね、ヒマワリちゃん」
「…いいの、お店のじゃなくて……今年わたしの家のお庭に咲いた向日葵の花を、おじさんにあげたいから。お母さんと一緒に...、ちゃんとお世話して育てた向日葵」
どこかぼんやりした様子で、ヒマワリはそう答えた。
「じゃあやっぱり、ヒマワリちゃんのお家に送ってあげないと───」
「この子の家は、こちらにはまだ存在していないのかも知れません。探した所で、見つからないと思います」
「え……?」
ヒナタには、ネジの言っている意味がよく分からなかった。
...ふと立ち上がったネジは、近くの棚から何かを取り出し、ヒマワリの前で片膝をつき片手をスッと優しくとり、その手の平に幾つかの種を持たせた。
「この向日葵の種は……今年取れたものなんだ。君の居るべき場所に帰って植えれば...、まだ花開くのに間に合うかもしれない」
「そう、なの...? ありがとう、おじさん」
受け取ったヒマワリは、大切にポケットにしまった。
「ネジ兄さん、その種って……二ヶ月くらい前に行った、向日葵畑から取れたもの?」
「えぇ...、そうです」
ヒナタの問いに、ネジが答えた。
「───ヒマワリ、自分の本当の居場所に帰った方がいい。もうここに居てはいけないよ」
ネジはヒマワリに優しく諭すように言った。
「おじさんは……わたしと一緒に、帰ってくれないの?」
「俺は...、まだそちらには行けない。というより……行く事が出来ないのかもしれないな。だから君は毎年、直接ではないにしろ俺に向日葵の花をあげてくれているんだろう?」
「おじさんが...本当に居てくれたら、一緒に向日葵の花、育てられるよ。直接、おじさんにあげられるよ。だから……一緒に帰ろ、ネジおじさん」
ヒマワリはネジに手を差し伸べるが、ネジは瞳を閉ざして僅かに口元に笑みを浮かべ、首を横に小さく振る。
「さぁ...、もうお帰り。───ヒマワリを待っている、家族みんなの元へ」
ささやくようにネジに言われたヒマワリの視界は次第に霞んでゆき、意識が遠のいていく中でヒマワリは必死になって言葉を紡ぐ。
「おじさんだって...、わたしとお兄ちゃんと、お母さんとお父さんの家族、なんだよ...! だから、お願い……帰ってきてよ。ネジおじ、さ・・・─────
[newpage]
「ヒマワリ……、ヒマワリ...!」
「────っ! ぁ…、お母、さん……?」
呼び掛けに目覚めると、母のヒナタが心配そうにヒマワリを見つめていた。
「大丈夫? うなされていたけど...、怖い夢を見たの?」
ヒマワリはどうやら、ソファの上で母親に膝枕されて眠っていたらしい。
「お母さん……、おじさん、おじさんが───」
「おじさん...? ネジ兄さんが、どうかしたの?」
「「たっだいま~~!!」」
父親のナルトと、兄のボルトの威勢よく重なった声が玄関から聞こえてくる。
「いや~、久々にいい汗かいたってばよ! 火影室に籠りっきりじゃ身体鈍っちまうからなー! にしてもボルト、また腕を上げたなッ!」
「そりゃそーだってばさ、オヤジが火影なんかやってる間におれは、おじさんとよく修行してるからなっ!」
「...里に戻っている間はサスケが修行相手になってくれているから、そのお陰もあるだろう。それに、ボルトに実力があってこそだ」
「さっすがおじさんってば分かってくれてんな~! 火影で忙しくてあんま相手してくんないオヤジとは大違いだってばさっ」
「それを言わないでくれってばよ、ボルトぉ…」
「お帰りなさいナルト君、ボルト、ネジ兄さん」
「────・・・」
ヒマワリは、居間に現れた三人の中で金髪ではない長い黒髪の人物に目を留めたまま、驚いた表情で固まっている。
「ん? どうしたってばさヒマワリ。何か、あったのか??」
「お兄、ちゃん……おじさん」
「はっ? 兄ちゃんはおじさんじゃないってばさ! おじさんは、ネジおじさんのことだろっ?」
「うん...、そうだよね……。ネジおじさん、だよね...?」
「───ヒマワリ、どうした? そんなに見つめられると、困るんだが……。俺の顔に、何か付いてるか?」
「おじさん……ほんとに、帰ってきてくれたんだっ...!!」
ヒマワリはネジに思い切りぎゅっと抱きついた。
「いや、それはまぁ、近くの広場でナルトとボルトの修行に付き合っていて、たった今共に帰って来た所だが……」
大げさな態度を少し疑問に思いつつ、ヒマワリの頭に片手をぽんと置いて宥めるネジ。
「ヒマワリはオレよりネジに懐いてんなぁ、父ちゃんとしては寂しいってばよ...」
「だったらオヤジ、火影なんか辞めて影分身じゃない本体で家に居る時間増やせってばさ。じゃないとヒマワリ、ネジおじさんのこと"お父さん"って呼ぶようになっちまうかもだぜっ?」
「そ、そりゃ困るってばよ...?! けどまだ火影辞めるわけにゃいかねぇし、こうなりゃ何とかシカマルに頼んで、休み増やしてもらうかッ」
「───ヒマワリは、ヒナタと一緒に家の庭で向日葵の花の世話をしていたんだろう?」
「えぇ。その後ヒマワリ、眠くなっちゃったみたいでソファに寝かせていたの」
ネジにそう話すヒナタ。
「...そうだ! おじさん、あのね」
ヒマワリは、確信を持ってポケットの中から向日葵の種を幾つか取り出した。
「お家の庭にはもう向日葵の花咲いてるけど、このタネ、今から植えてもまだ咲くのに間に合うよね? 一緒に、この向日葵のタネ植えようよ!」
「...あぁ、そうしよう」
ネジはヒマワリと一緒になって、夏の日差しが燦々と降り注ぐ庭の空いているスペースに種を植えた。
「このタネ…、誰がくれたんだと思う?」
「ん...? 誰かに貰った種なのか?」
「ふふ……、ヒミツっ」
ヒマワリはにっこり無邪気な笑顔になり、ネジはそれにつられて目を細め、柔らかに微笑んだ。
《終》
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