NARUTO日向ネジ短篇
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【籠から開放されし忘却の鳥】
前書き
ベタな記憶喪失の妄想話で色々解釈間違っているかもしれませんが、生暖かい目で見て頂けると有り難いですm(_ _)m
───ナルトは、火影岩のある場所で一人ぼうっとする時間が増えていた。
半年以上前に、一つ上といってもほぼ同期といえる仲間が一人、死にかけた。
正確には、額の呪印が消えている事もあって一度死んだが、奇跡的に一命を取り留めた。
……とはいえ、半年近く昏睡状態に陥った上にそこからようやく意識が戻った時、日向ネジはほとんど記憶を失っていた。
意識不明の状態が半年続いたせいなのか、日向の呪印が消えたせいなのか────
どちらにせよネジは自分の事も、仲間達の事も、これまで経験してきた事ほとんどを、忘れてしまった。
それでいてネジは、以前より格段に笑顔が増えた。
無意識の内に常に微笑みを浮かべ、そう簡単には笑顔にならなかった以前の厳格そうなイメージから一変し、とても穏やかで優しい印象になり、親しかった仲間やそれなりに交流のあった者、あまり話した事がないような者など全てが初対面になったにも関わらず、自分の身の回りを世話してくれる者や見舞いに訪れてくれる者に対し、屈託のない笑顔を向けていた。
英雄を命懸けで守った者として里中や里外でも広く知られており、大戦後の昏睡状態から半年後に意識を回復した事も知れ渡って見舞い客が後を絶たず、病院側が制限をかけるほどだった。
───従妹のヒナタはほぼずっとネジの傍に居て身の回りの世話をしており、ナルトも時間さえあればネジを見舞っていたが、ネジが意識を戻してからというもの記憶をほとんど失い、きょとんとした表情でこちらの事を全く覚えていない様子にショックを受けたナルトは、それからあまり病室を訪れなくなっていた。
ヒナタの方も、半年近く経って目覚めてくれた喜びと記憶を失くしてしまった事に対してのショックで涙したが、それを目にしたネジは不思議そうにヒナタを見つめ、何故泣いているのかも理解できていないようだった。
ヒナタは、ネジ兄さんが生きていて意識を戻してくれただけでも良かったと思う事にし頭を切り替え、従兄を献身的に世話する事に努めた。
……ナルトとしては自分のせいでああなったと責任を感じ、少し距離を置こうとしたもののやはり気になって病室を訪れてみると、見舞い客の制限がかけられているとはいえ何人かが既にネジの元にやって来ており、馴染みの無い、面識すら無いはずの者まで訪れていて、それに対しネジは無意識の内に嬉しそうに、皆平等に穏やかで優しい表情を向けていた。
ナルトは連日のようにそれを見ていてついに黙っていられなくなり、馴染みの無い見舞い客を追い出してネジに詰め寄った。
「誰かれ構わず笑顔振りまくのやめろってばよッ。オレのせいなのは分かってっけど、自分の事……仲間みんなの事、忘れたままでいいのかよ! なぁネジ、思い出してくれよオレ達の事ッ。オレは、お前にちゃんと礼が言いてぇし謝りてぇんだ。───けど今のオマエに言ったって、何の事だか分かんねぇだろ? オマエそんな普段からニコニコしてる奴じゃねぇし、オレの知ってる“天才”に戻ってくれってばよッ!」
「────・・・??」
ナルトに両肩を掴まれて揺さぶられ、哀しみと怒りの入り交じった表情でまくし立てられても、ネジは困った顔をするばかりで何も答えられなかった。
「落ち着いて、ナルト君...! 無理に思い出させようとするのは良くないって、医療忍者の人に言われて────」
「…………ッ!」
ヒナタがナルトを止めようとした所、ネジは胸を抑えて呻き苦しみ出す。
「あっ、ネジ兄さん...!?」
「わ、悪い、大丈夫かネジ...?! オレ、医療忍者呼んで来るってばよッ」
自分が詰め寄ったせいで苦しめたと責任を感じたナルトは、医療忍者をネジの病室に呼んだあと病院を出て、茜色に染まり始めていた空の元、火影岩のある場所に自然に足が向いた。
(───仲間を死なせかけたのに、何が英雄だ。……いや、実際ネジの額の呪印が消えて、一度死なせちまったんだ。記憶まで、奪っちまったようなもんだ。“仲間は殺させねぇ”って言っといて、オレってば最低だな)
ナルトは周囲から英雄扱いされている事に、嫌悪感すら抱いていた。
「おセンチみたいだね、ナルト。...彼が記憶を失ったままじゃ、無理もないけれど」
「メンドくせぇな、そっとしときゃいいのによ」
「こんな時こそ、友達が力になってあげないとね」
サイとシカマルが、いつの間にかナルトの居る場所に現れていた。
「オレの……オレの、せいだから。アイツが、半年以上意識戻さなかったのも、記憶失ったのも、身体に後遺症残っちまったのも────。ヒナタは、ずっとネジの傍に居る。オレは……傍に居てやる資格ねぇんだ」
「まぁ、あのまま意識戻らずに植物状態の可能性もあったわけだしな。忍としてやっていけねぇ身体になって、記憶をキレイさっぱり忘れちまっても、生きているだけマシだぜ。……俺の親父は、あの大戦で完全に死んじまってるからな」
「────・・・」
シカマルの言葉で沈黙するナルトに、サイはある事を話して聴かせる。
「知ってるかい? 彼の誕生花の花言葉…。本で知ったんだけど、“タツナミソウ”って花らしくて……『私の命を捧げます』って意味があるそうだよ。彼は、ヒナタとナルトの為なら、自分の誕生花の言葉通りに出来る人なんだね」
「……死ぬつもりはなかったにしても死の覚悟なんてのは、大戦中のあの場の全員が持っていた。元々ナルトを守る為の戦争で、お前とヒナタを守ってそのまま死ねたらネジにとっては本望だったんだろうが……。一命取り留めたっつっても額の呪印は消えてんだから、ネジはホントに一度死んじまってんだ。記憶を失ったのは呪印が消えたからっつうのは、あながち無関係じゃないのかもしれねぇが……、視力自体失ってなくても、白眼の力は封じられちまったわけだから白眼使いとしては二度とやっていけない。記憶だっていつ戻るか……、下手すりゃ戻らないかもしれねぇからな」
「ズリぃんだぜアイツ、記憶無ぇからってオレに笑顔ばっか向けてきて…。ヒナタの言い方真似してオレの事、『ナルトくん』なんて呼びやがるし……」
「記憶を失った事で、自分を取り繕う必要が無くなったからね。仕来りの厳しい旧家に生まれてなければ、普段から笑顔でいられた人なのかもしれないけど」
「...そんなに嫌か? 今のあいつの笑顔。俺はキライじゃねぇけどな。記憶失ってからよく笑うようになったっつーのは確かに笑えねぇ話ではあるが、あいつ“らしく”はなくても色んなシガラミから開放された今のネジは寧ろ、清々しいくらいだぜ」
シカマルに次いで、サイが付け加える。
「彼って何ていうか、笑顔がちょっと不器用で笑った時“したり顔”になり易いみたいだったけど、今の彼は誰かれ構わず優しい微笑みを振りまいてるから、そんな心を許しっぱなしな彼が別の意味で心配なんじゃないのかい?」
「あぁ……まぁ、実はそうなんだってばよ。親しい仲間とかはともかく、他に色んな見舞い客が後を絶たねぇし、なに勘違いしてんだかいきなし告るヤツもいれば、勝手に病室から連れ出そうとするヤツまでいるんだぜッ?」
「近寄り難いイメージから一気に、“病弱美人”扱いみてぇなもんだな。会う奴みんなにキラースマイルかましてその気にさせるわ、後遺症の発作で面会謝絶の時は同情誘って儚いイメージが独り歩きしてるみてぇだぜ。...実際、後遺症の症状が重いとほとんど寝たきり状態だからな」
「そーなんだってばよ! 親しい仲間以外面会謝絶にしようとしてもアイツ自身、割と体調良いと“前にお見舞い物持って来てくれた人達にお礼言いたい”とか言い出すし、そういう事すっと相手付け上がるからダメだっつったら寂しそうな顔するんだぜ?! 今のアイツにとっちゃ、記憶失くす前の仲間と失くした後の初対面のヤツらとの区別がついてねーんだってばよッ」
「籠から開放されたはずなのに、いざ籠を出たら飛べなくなっていた鳥さんを守るのは、君の役目だと思うよ。元はナルトのお陰で彼は闇の中から救われたそうだし、自分から籠の扉を開けて最終的に従妹と君を守って撃ち落とされたんだから、介護してあげなくてどうするんだいって話だよ。病弱な鳥さんは自分の美しさを自覚してないんだ…、また誰かの“籠の鳥”にされてしまう前に、守ってあげるべきだね」
「メンドくせぇサイの言い回しはともかく、ネジの記憶がいつ戻るか判ったもんじゃねぇが……今度はお前とヒナタで、ネジを守ってやりゃあいい。だがまぁ、二人だけに任すつもりはねぇから、俺ら“仲間”で支えてきゃいいんだ」
「───あぁ、そうだよな。二人共、ありがとよッ」
サイとシカマルの言葉を受けナルトは、夜のとばりが迫る中ネジの居る病院へと引き返して行った。
「あ、ナルト君」
ネジの病室に通じる廊下で、小さめの花瓶を持ったヒナタと鉢合わすナルト。
「ヒナタ、ちょうど良かったってばよ。...ネジは?」
「兄さんなら、症状は軽かったからもう落ち着いているよ。私は、花瓶のお花の水を取り替えてきたの」
「そっか……。ごめんな、ヒナタ。オレってば、つい焦っちまってよ」
「気持ちは分かるよ。私も、ネジ兄さんの記憶が早く戻ればいいなって……。でももし、このまま戻らなかったとしても、これから新しい想い出を一緒に作っていけたらいいなとも思っているの。ネジ兄さんは、命懸けでナルト君と私を守ってくれたから……今度は私が、ネジ兄さんを守って行きたいから」
ひたむきな眼差しをナルトに向けるヒナタ。
「───元はと言えばオレの責任だし、そんな資格ねぇかもしれねーけど……オレも一緒に、ネジを守って行きてぇってばよ」
「ありがとう、ナルト君。そう言ってくれて嬉しいよ。一緒に、ネジ兄さんの病室に戻ろう?」
「あぁ…、困らせて苦しませちまったから、ネジには謝っとかねぇと」
……ナルトとヒナタがネジの病室に戻ると、窓が開け放たれており、白いカーテンがふわりと風に揺れていて、ネジが横たわっているはずのベッドは既にもぬけの殻だった。
「ネジ兄さんっ? あれ...、私が病室を少し離れていた間に、どこかへ行って……?」
「いや、ちょっと待てってばよヒナタ。病室の窓がほとんど全開って事はまさか、誰かに攫われちまったんじゃねぇのか…ッ?!」
「えっ、そんな...! だとしたら、すぐに見つけないと! ───白眼っ!」
花瓶をサイドテーブルに置いてヒナタは視野を広げ、ネジの姿を急いで捜す。
「……あ、居た...! まだそんなに遠くへは行ってないみたい……、一人で外を歩いてるって事は、誰かに攫われたわけじゃ───」
「一人で窓から出てったってのか、後遺症持ちの身体で...! ここ三階だぜッ? 記憶も無ぇのに、どこ行こうと───あッ、もしかして記憶戻ったんじゃねぇか!?」
「そうなの、かな……。とにかく、もう辺りも暗いし今のネジ兄さんを一人にすると心配だよ。ナルト君、私に付いて来て...!」
「おう、変なヤツに絡まれる前にネジを保護してやらねーとなッ」
ヒナタとナルトはネジが出て行ったであろう同じ窓から飛び降り、ネジの居る場所まで急行する。
「ネジ兄さん...!」
「────? ヒナタ……ナルトくん、どうしたんだ?」
後ろからのヒナタの呼び掛けに、ゆるりと振り向いてきょとんとした様子のネジ。
「どうしたって……こっちのセリフだってばよ! オレの事ヒナタの真似して君付けしてるって事は、記憶戻ってねぇんだな……。いや、それより誰にも何も言わねーで病室抜け出すなってばよッ。しかも三階の窓から───本来のお前ならどって事ねぇだろうけど、今のお前じゃ相当危険だろ! 身体、大丈夫かッ?」
「あぁ…、降り立った時ちょっとふらついたが、大丈夫だったよ」
ナルトとヒナタの心配をよそに、ネジはふわりと微笑んで見せた。
「ネジ兄さん…、一人でどこへ行くつもりだったの?」
「────わからない」
「え?」
「わからないけど……、行きたい場所があるような気がして」
「何だそれ……っておいネジ、待てってばよ...?!」
ナルトの制止を聞かず、ネジは長い髪をさらりと揺らし、前に向き直って一人歩き出す。
「ねぇ、ナルト君……ネジ兄さんの好きなように、行かせてみよう? 私達は後ろから見守って、付いて行けばいいから」
ヒナタはそう言ってナルトと共に、ネジの後に付き従った。
────・・・そこは、日向本家の離れにある、ネジの家だった。
「ここに……来たかったんだね、ネジ兄さん」
「よくわからないが……、そうかもしれない」
ヒナタに言われ、満月の煌々とした光が覗く夜空の元ぼんやりと、明かりの灯っていない自分の家を見上げて呟くネジ。
「自分とこの家に、帰りたかったって事か? そりゃあもう半年以上、帰れてねぇもんな……」
「ネジ兄さんの家の鍵なら、私持ってるよ。家のお掃除なんかは他の人に頼んでるけど、時々必要な物とか取りに来たり、病室で溢れ返りそうなくらいになるお見舞い物を持って来たりしてるから」
ヒナタはナルトにそう言ってポケットから鍵を取り出し、家の玄関の扉を開けたその途端、ネジはスッ...とヒナタを横切って先に入って行き、灯りも点けずに茶の間へと向かったようだった。
「ネジ...、やっぱ記憶戻しかけてんじゃねぇかなッ?」
「無意識の内に、微かに残る記憶を辿って……ここへ来たんだと思う。だってここは、ネジ兄さんにとってお父上との、想い出が残る場所だから」
「ん? ヒナタ、それっつうのは────」
「ナルト君...、ネジ兄さんの様子を見に行こう」
ヒナタは期待を込めるナルトを伴い、暗がりの家の中へと入る。
「……なぁネジ、何か、思い出したんじゃねぇのか?」
「────・・・」
ネジは黙ったまま茶の間の隅の、仏壇の傍に立ち尽くしていた。縁側のふすまから僅かに、月明かりが差し込でいる。
「ネジ兄、さん……」
「──────」
二人が呼び掛けても、ネジは背を向けたまま下向いている。
「なぁおい...、何とか言ってくれってばよ...ッ!」
じれったくなったナルトは、ネジに近寄って肩に手を置き振り向かせる。
「……?! お前、泣いて・・・───」
「…………ッ」
ネジは、頬に涙を伝わせ、悲痛な面持ちで声もなく泣いていた。
「ネジ兄さん...、ここへ来て、何か思い出せたの……?」
「わか...らない……。やはり、思い出せない…ッ。けど“この人”は、俺にとって……大切、な・・・───」
後は言葉にならず、ネジは顔を覆い静かに啜り泣く。
そんなネジを、ヒナタは優しく抱き包んだ。
ナルトは、どうすればいいか迷ったが、とりあえず頭を軽く撫でてやった。
────それから、どれくらいの時が経ったろう。
ネジは横になった姿勢でヒナタに膝枕され、泣き疲れたのか、すうすう眠っていた。
「お仏壇に……、小さめの遺影があるでしょう。ネジ兄さんの……お父上のヒザシ様。ネジ兄さんは、お父上が大好きだったから───ううん、今でも大切に想ってる。その遺影を...、病室に持って行ってあげようかとも思ったけど、私が...ネジ兄さんのお父上の遺影をこの家から安易に持ち出すのは良くないって、思って……」
ネジとヒナタがまだ互いに幼い頃、“日向事件”の起こる前、父親が稽古の後に少しでも一緒に遊んでくれたりした事をネジがとても嬉しそうに話すのを、ヒナタは今でもよく覚えていてそれを懐かしむと同時に、胸がぎゅっと締め付けられる思いだった。
「親父さんの写真見ても、ハッキリとは思い出せねぇみたいだな……。けどやっぱ、完全に忘れちまってるわけじゃねぇ。“大切な想い出”っつーのは、心の奥に刻まれてるもんなんだ」
「ネジ兄さんにとって辛い思い出も……、刻まれてるんだよね。───私はどこかで、このまま記憶を戻さなくてもいいんじゃないかって思ってたりするの。だって私は……ネジ兄さんにとって大切なお父上を、奪ってしまったから。……でも兄さんは、『───父は自らの“自由な意志”で、里の仲間や家族を守る為に命を賭した。だから……あなたのせいじゃない』って、言ってくれた事があったけれど」
「いい思い出も辛い思い出も全部含めて、“大切”なんだってばよ。このまま思い出せなくても、ネジにとって“大切な想い出”は、忘れてたって心の奥で消えやしねぇんだ、きっと。それに……、オレ達が覚えていてやれるだろ? ネジとの過ごした時間を全部、な」
「うん……そうだね。色んな事、乗り越えてきたんだもの。この先だって…、きっと越えて行けるよね」
ナルトの言葉を受けてヒナタは柔らかに微笑み、膝の上に寝かせているネジの滑らかな髪に触れ、そっと撫でやった。
《終》
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