NARUTO日向ネジ短篇
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【ネジおじさんとヒアシ伯父さん】
前書き
甥のネジと、伯父のヒアシのお話。
「───ネジよ、邪魔するぞ」
「はい? ...あぁ、伯父さん。いらっしゃい」
元日向宗主ヒアシ、離れのネジの家に何やら分厚い書類を小脇に抱えてやって来た。
「……また、持って来たんですか」
「うむ、今度こそお前に相応しいであろう見合い話を、な。見合いを申し入れてくる者の中に男が混じっていたのは排斥しておいてあるから、そこは心配要らん」
「はぁ...、まぁ、せっかく持って来てくれたので見るだけ見ますけど」
ヒナタとナルトが結ばれ、ボルトとヒマワリが生まれて数年経った頃合いで日向当主の座をハナビに譲り、その後は何かと甥のネジに見合いの話を持ち掛けて来る為、正直な所ネジはうんざり気味だったがいつものように茶を出して、話は聴いてやる事にしていた。
「───ネジよ、お前には里中や里外からも見合いの話は尽きないのだ。いい加減良縁を見つけ、身を固めて欲しいものだが……。お前の親しい仲間達は、既に子供が居るというのに」
「余計なお節介……とは言いませんけど、そっとしておいてくれませんか、伯父さん」
「いや、しかし……見合いが嫌なら、やはり意中の者が居るのか? もしや…、既婚者か? 諦めきれぬ者がおるのか」
「いえ...、特に居ませんけど」
「……まぁ、確かに私が余計な口出しをしてお前の“自由な意思”を阻害するような真似は良くないとは判っているが、どうにも心配でな。ハナビの方もなかなか良縁に恵まれず、見合いの話を受けてもなかなか上手く行かぬようだし……」
ネジの伯父としてもハナビの父としても、そこの所案じずにおれぬヒアシ。
「だからといって、従妹のハナビと俺を結ばせるような真似はしないで下さいね。俺は、その気は無いですし」
「む、そうか……。我が弟なら、あまり余計な事は言わずに息子のお前の好きなようにさせたのだろうな。───とはいえ、お前にもヒナタとナルトのように自分の家族を持ち、幸せになってもらいたいものだ。ヒザシも...、喜ぶだろうに」
ヒアシは、茶の間の隅の仏壇にふと目を向ける。
「確かに、自分の子孫を残す上では結婚すべきなんでしょうが……、俺はあまり拘っていない。それに、血の繋がりで言えば既にボルトとヒマワリとは繋がっているし、俺としてはそれだけでも充分なんだ。“自分の”というわけではなくても、今ある家族が俺にとって何より大切で、今を幸せだと言えるよ。父様だって……きっと判ってくれているから」
ネジも仏壇に目を向け、父親のヒザシの遺影に微笑み掛けた。
「お前は...、自分の幸せより相手の幸せを想えるのだな。ヒザシは本当に、いい息子を持った」
「買い被り過ぎだよ、伯父さん。さっきも言ったように、俺は俺なりに“幸せ”だ」
それは、まだ日向の次期当主が正式に決まっていない頃の事だった。ネジは、ヒアシの自室に呼び出されていた。
「───だが本当に良いのか。大戦後に呪印制度は廃止され、宗家と分家の隔たりを無くしていこうとする上で、周囲の者も日向の次期当主にはネジ、お前が相応しいとしている。それは我が弟……、お前の父ヒザシの願いでもあったろう」
「...私には、今さら日向当主に拘わる理由はありません。父上なら、判ってくれるでしょう。───次期当主としての責任をハナビに押し付けるような形にとられるかもしれませんが、私なりの自由な立場で可能な限り力を貸し、日向の新しい未来を担って行きたいと思っています」
「そうか……。ハナビは、出来れば次期当主は従兄のネジに譲りたいと常々言っていたが、『自分が日向当主になるにしても、その心構えはとうに出来ているし、兄様が当主になっても全力で支えていくから、父上は安心して見守っていて』と...、言ってくれてもいる。お前達に日向の未来を託す事が出来るとはいえ、責任を押し付けているのは寧ろ、私なのだろう」
「そんな事はありません。これは……、自分達にとって自由な意思の選択の一つです。“大切な家族”を守って行きたいと思うのは、自然な事ですよ」
ネジは微笑を浮かべ、ヒアシはそれを見て在りし頃の弟のヒザシの家族に対する優しさを、改めて身に染みて感じた。
「ならば、良いのだが。───それでネジよ、お前に一つ頼みがある」
「何でしょうか」
「次期当主をハナビに譲るにあたって、私の事は“伯父さん”と……、呼んでくれて構わぬ」
「え...? ヒアシ様を、“伯父さん”と……ですか」
「実際お前の伯父なわけだから……丁寧語も、そんなに必要あるまい。大戦時は身分を関係なくしていたわけだし、ヒナタやハナビにはとうに敬語はやめているだろう。私にもそうしてくれて良い。これを期に、“対等な家族”として在りたいのだ。今更、都合の良い話に聴こえるだろうが」
「いや、そんな事は……。では、その……、ヒアシ、伯父───さ、ま。...ぁ」
妙な気恥ずかしさで口がもつれ、下向いてしまうネジ。
「フフ……まぁ、すぐには無理でも、少しずつ慣れてくれれば良い。───ヒナタとうずまきナルトが一族間の枠を越えて結ばれ、子も授かってお前ももうすぐ“従兄妹伯父”となるのだ。私は“祖父”になるのであって……、弟のヒザシは“大叔父”になるわけだな」
「あ…、確かに、そうですね。私の……俺の父様も、大叔父さんに────。そして俺は、ナルトの義兄になりその子供の、おじさん……ですか。はは、何だかおかしな話というか、感慨深いものですね」
照れたように思わず笑みをこぼす甥のネジに、ヒアシは優しい眼差しを向ける。
「まだ正式に火影にはなっていないが...、うずまきナルトは確かに、日向を変えてくれたな、ネジ」
「───えぇ、あいつには本当に感謝している。鈍感なあいつがようやくヒナタの気持ちに気づいて、ヒナタを介して俺達とも繋がってくれて……。ナルトは俺にとって、“陽だまり”のような存在だ。いや……それは俺が言うべきではなくて、ヒナタにとってだろうけど。...落ちこぼれだったあいつが今や里の英雄で、火影になる事も決まっている。───なぁ父様、ナルトは俺の自慢の友であり、自慢の義弟だよ。きっと父様も、気に入ってくれているよな」
ネジはその時、迷いなく伯父のヒアシを真っ直ぐ見つめて微笑みを浮かべた。
「───・・・ネジよ、言うまでもないとは思うが私は、兄の方のヒアシだ。いくら双子とはいえ、お前に見分けられぬわけではあるまい」
「あ……、いや、ついその……、伯父、さんが、父様に見えてしまって。さっきから、父様のように優しい顔をしているから……」
ネジは気恥ずかしさで口ごもり、再び下向いた。
「はは…、良いのだ。ヒザシには悪いかもしれぬが、そう言ってもらえてお前の伯父としては嬉しい。───ヒザシもきっと、息子の自慢の友であり義弟を大いに気に入っているだろうさ」
「あぁ...、ありがとう、ヒアシ伯父さん」
ネジとヒアシは、互いに穏やかな笑みを交わした。
その日は新雪が降り積もり、日向家に遊びに来ていたボルトとヒマワリ相手に祖父のヒアシは少々手を焼かされていた。
後からすぐネジも呼ばれて離れからやって来ていたが、ヒアシが祖父として孫のボルトとヒマワリを見つめる眼差しは優しく穏やかで、ネジにしてみると自分の父親を想い起こさせる。
……父様が生きていたら、きっとこんな風にボルトやヒマワリと戯れていたんだろう。双子で似ているから、どっちがどっちか混乱しただろうか。そんな事を考え、ネジは顔をほころばせた。
「ネジおじさーん、おれ達のこと見てばっかいないで、おじさんもこっち来て雪合戦しようってばさ~!」
「あ、じゃあヒマはおじさんと組む~!」
「ヒマワリ...、そこは“おじいちゃん”とじゃないのか……」
さっきまでボルトとヒマワリが組み、ヒアシは一人相手をしていたが、ヒマワリが自分とは組んでくれないようなのでつい寂しそうな声になった。
「ヒアシおじぃちゃんとは、あとで組んであげるよ!」
「ヒアシのじぃちゃんってば、おれよりヒマワリと組みたいのかよ~。まあ、気持ちわかるけどさ? おれの妹はカワイイもんな! おじさんもそう思うだろっ?」
「あぁ、もちろん。幼い頃のヒナタに似て、とても可愛い」
「えへへ~、お兄ちゃんにカワイイって言われるよりおじさんに言われた方がヒマはうれしいなぁ...!」
ヒマワリは照れながらネジの胴回りにぎゅっと抱きつく。
「そ、それって何か、おれとしてはショックだってばさ……」
「ボルトよ、そう気を落とすな。私もネジよりはヒマワリに懐かれないからな……」
「じぃちゃん...、いつかネジおじさん越えてヒマワリを振り向かせてやろうってばさっ」
ボルトとヒアシは妙な密約を交わすが、直後のヒマワリの言葉にそれも脆く崩れる。
「ヒマは将来、ネジおじさんとケッコンするんだもん! だからおじさんは、誰ともケッコンしちゃダメなんだよっ!」
「───何!? ネジよ、お前が見合い話を受けないのはその為か……?!」
「マジかよおじさんっ! おれは兄ちゃんとして、ヒマワリをそう簡単に渡さないってばさ!!」
「ちょ...ッ、誤解するな伯父さん、ボルト。俺はそんなつもり───ふぉッ...?!」
ボルトとヒアシはネジだけに向けて雪玉を投げつけ、ネジは思わず身を縮めてされるがままになる。
「……ちょっとお兄ちゃん、おじぃちゃん……、ネジおじさんイジめるの、ヒマが許さないんだからねっ!!」
見ていられなくなったヒマワリはいつもの薄蒼い瞳から白眼に切り替わり、素早くボルトとヒアシとの間合いを詰め強烈な柔拳を一発ずつ食らわせた。
……二人は後方に吹き飛び、仰向けに雪の上に倒れ込んだ。
「ひッ、ヒマワリ、いくら俺の為とはいえやり過ぎだ。……ボルト、伯父さん、大丈夫か?」
「うあぁ、やっべぇ、動けねーっ。やっぱヒマワリ怒らしちゃダメだってばさ……っ」
「はは...、そのようだな。元気な孫には敵わんよ。私も歳を取るわけだ……」
苦笑気味に、雪のちらつく空を見上げたままのヒアシに、ネジがふと微笑を浮かべ労るような優しい声音で言葉を掛ける。
「───あなたにはまだ、この子達の“おじいちゃん”でいてもらわないと困る。父様の分も…、まだまだ元気に生きてくれ、ヒアシ伯父さん」
「フフ...、心配するな。弟のヒザシの分まで、大いに長生きしてやるとも」
「ふ、その意気だ、伯父さ───くしゅッ」
「...あっ、ネジおじさんクシャミしたぁ! カゼ引いちゃったのかもしれないよ、お家に入ろっ?」
「あ、いや、俺なら平気だヒマワリ。それより二人を動けるようにしてやらないと……」
「お兄ちゃんもおじぃちゃんも丈夫だから平気だよ~、ヒマとおじさんは先に帰って“おこた”であったまろ♪」
ネジはヒマワリに背中を押されて家に向かわされ、ボルトとヒアシは降り積もる雪の上に取り残された。
「なぁじぃちゃん……、いくら何でもカゼ引くの、おれ達だよなっ?」
「これも修行の一環だと思えば何て事はないぞ、ボルト」
「さ、さすがヒアシのじぃちゃんだってばさ……。よっしゃ! ネジおじさんに負けねぇくらいカッケー男になって、ヒマワリを見直さしてやるってばさっ!」
《終》
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