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トラベル・トラベル・ポケモン世界

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17話目 武闘派

「ワンリキー! “からてチョップ”!」
(ねえ)さん! “メガトンパンチ”!」
 町外れの道端。グレイはあるポケモントレーナーとバトルしていた。
 相手のワンリキーの“からてチョップ”と、グレイに「姐さん」と呼ばれたポケモンの“メガトンパンチ”がぶつかり合う。
 勝ったのは“メガトンパンチ”であった。相手のワンリキーの“からてチョップ”を打ち消し、そのまま相手にダメージを与えて吹っ飛ばした――。



 グレイに「姐さん」と呼ばれたポケモン。幸運の家で「姐さん」と呼ばれていたポケモンと同じ個体である。
 2週間前、幸運の家を訪れたグレイが、ライフ団と交戦し、勝利した後の話である。グレイは幸運の家の施設長ゼンに、ライフ団を食い止めたお礼として、「姐さん」と呼ばれていたラッキーを連れていくことを勧められた。
 ところで、今グレイの目の前にいる『姐さん』は、ラッキーではない。進化してハピナスになった。
 ハピナス。しあわせポケモン。見た目は進化前のラッキーとあまり変わらず、ピンク色でたまごのような丸っこい体に、小さな手足がある。お腹にはカンガルーのようにポケットがあり、たまごが入っている。しかしラッキーに比べると、全体的に体毛がカールしていたりフワフワしていたりと、触り心地が良さそうな見た目をしている。
 戦闘能力で言えば、一般的なハピナスは、異常な程にとても体力があり、さらに特殊攻撃への耐性も非常に高いポケモンである。反面、力はとてもとても弱く、物理的な攻撃力も、物理攻撃への耐性も異常な程に低いポケモンである。

 グレイは、ラッキー(現在は進化後のハピナス)と接するうちに、ラッキーが仲間を護るための強い力を求めている事に気がついた。
 仲間を護るために必要な力というのは、仲間を庇い、迫りくる相手を撃退するための肉体的な物理的な力である。
 ラッキーは、ギャラドスのように暴れるために力を求めている訳ではない。しかし、ギャラドスの持つ圧倒的な破壊力と強靭な体こそ、ラッキーが求める力に1番近いものであった。
 しかし、先で述べたように、ラッキーやハピナスという種類のポケモンは、物理的な力が極端に弱いポケモンである。現実的に考えれば、ラッキーがギャラドスのような力を得ることは不可能である。
 しかし、それは一般的な考えであり、機械的でデータ的な考えである。
********
『データや分類などではなく、ポケモン自身の本質を見抜くことじゃ……』

『チルは鳥ポケモンなのか? チルはチルタリスというポケモンなのか? そんな事は関係ないんだよ。だって、チルはチルなんだからね』
********
 グレイに『本質』を教えてくれた者たち。彼らに教えられた事を思い出し、グレイはポケモンの種類としてのラッキーやハピナスではなく、ありのままの「姐さん」を見ていた。そして本質を見抜いたのである。「姐さん」が秘めている力の限りない可能性に。
 グレイはラッキーの意思を尊重し、武闘派の路線で鍛えることを決めた。
 求める形が実現するかどうかは分からない。しかし、鳥ポケモンなのに空を飛ばずに戦い、なぜか“ドリルくちばし”を使うことができ、なんだかよく分からない“コットンガード”と“アイアンテール”を使う。そんな規格外で常識外れなチルタリスを見たことがあるグレイには、ラッキーが武闘派になり、ギャラドスのような力を得ることが不可能なこととは思えなかった。
 目指すべき武闘派ラッキーを現実のものとするために、物理的な攻撃技も新たに覚えさせた。

 現在、ラッキーから進化したハピナスが覚えている技は、次の4つである。

 “メガトンパンチ”。物凄い力を込めて相手を殴りつけるノーマルタイプの攻撃技。
 “カウンター”。タイミング良く発動すれば相手の物理攻撃を倍返しにできる技。
 “うたう”。相手を眠らせる技。
 “タマゴうみ”。体力を回復させる技。



「ワンリキー! もう1回“からてチョップ”だ!」
「姐さん! “カウンター”を狙ってみろ!」
 相手のワンリキーの拳から、“からてチョップ”が放たれる。
 ワンリキー。かいりきポケモン。2足歩行で、薄い青色の体をしている。全体的に人間の体に似た見た目をしている。高さ0.8m、重さ19.5kgと小柄なポケモンだが、全身が筋肉になっているらしく、大人の人間を100人投げ飛ばせると言われている。格闘タイプのポケモンである。
 “からてチョップ”がハピナスに命中する一瞬前。ハピナスは“カウンター”を発動した。相手のワンリキーの“からてチョップ”がハピナスにダメージを与えるが、ハピナスは“カウンター”でダメージを倍返しした。
 “カウンター”を受けたワンリキーは後ろへ勢いよく吹っ飛んだ。
「姐さん! “メガトンパンチ”!」
 吹っ飛ぶ相手を追い、ハピナスは“メガトンパンチ”による拳の一撃をくらわせた。
 相手のワンリキーは戦闘不能となって倒れた。

 “メガトンパンチ”を高い威力で放てるようになり、発動タイミングが非常にシビアな“カウンター”も徐々に使えるようになりつつある。
 その成果として、接近戦を得意とする格闘タイプのポケモンを相手に、接近戦で勝利することができた。
 グレイのハピナスは、早くも武闘派としての力を開花させつつあった。

 バトルはまだ続いている。
 このバトルは、お互い3体のポケモンで戦うことにしている。相手のワンリキーは1体目のポケモンである。まだ相手の最初のポケモンを倒したに過ぎない。
「僕の知識だと、ハピナスって力が弱いポケモンだったと思うんだけど……君のハピナスって、本当にハピナスなのかい?」
 相手のトレーナーが、次のポケモンを選びながら、そうグレイに声をかけてきた。
 武闘派のハピナスを見た相手がこのように訊いてくることは、グレイの想定内である。その時に返す言葉も事前に考えていた。
「姐さんがハピナスかどうかなんて、関係ないんですよ。姐さんは姐さんなので」
「いや、そういうレベルの問題じゃないと思うけど……」
 相手トレーナーが困惑気味にそう言った。
 グレイの今の言葉は、以前に出会った規格外のチルタリスを連れたトレーナーの言葉を借りたものである。もっとも、同じ言葉を使ったとしても、冗談半分で言っているグレイと本気で言っている規格外チルタリスのトレーナーでは認識に大きな差があるのだが。
 規格外のチルタリスを連れたトレーナーは、チルタリスが本来はどのようなポケモンなのか把握しておらず、そもそも考えたこともない。それに対してグレイは、ハピナスが本来は力が弱いポケモンであることを把握しており、自分のハピナスが常識外れの側であることを自覚している。

 相手トレーナーは、オオスバメを繰り出した。
 オオスバメ。ツバメポケモン。大きな(つばめ)の姿のポケモンである。ツヤのある羽と、ピンと立っている尾羽が特徴的である。ノーマルタイプと飛行タイプを併せ持つポケモンである。
 ハピナスとオオスバメが対峙する。
「姐さん! 突撃!」
 グレイのハピナスは現在、遠距離から相手を攻撃できる技をもっていない。攻撃するにも、補助技を使うにも、まずは相手に近づく必要がある。相手が誰であろうと、突撃あるのみである。
「オオスバメ! 上昇して空を飛べ!」
 “メガトンパンチ”を放つハピナスに対し、オオスバメは上空へと飛び立ってハピナスの攻撃を避けた。
「オオスバメ! “つばめがえし”!」
 ハピナスの攻撃を避けた相手のオオスバメは、素早い動きで相手を翻弄して斬りつける飛行タイプの攻撃技“つばめがえし”を発動する。
 技が発動した直後、相手のオオスバメは目にもとまらない程に速い動きで一瞬でハピナスに近づき、自らの羽でハピナスを斬りつけた。
 技を空振って隙ができていたハピナスは、相手の素早い攻撃になす術がなかった。
 相手のオオスバメは、攻撃を当てた後は素早く空を飛び、空中を飛行し始める。
 空に逃げる相手に対し、グレイは新たな指示をハピナスに下す。
「姐さん! 全力の“メガトンパンチ”!」
 ハピナスは、今までの“メガトンパンチ”よりもゆっくりと拳に力を込め始めた。
「よし行け!」
 グレイの合図と同時、ハピナスは拳にためた力を一気に解法し、拳を突き出したままの姿勢で、弾丸のような勢いで飛び出して空中のオオスバメに迫る。
「オオスバメ避けろ!」
 鳥ポケモンであり、空中で自由に方向転換できるオオスバメは、何とかハピナスの“メガトンパンチ”を避けることに成功した。
「今だ! “つばめがえし”!」
 “メガトンパンチ”が不発に終わったハピナスの隙をつき、オオスバメは再び、目にもとまらない程に速い動きで一瞬でハピナスに近づき、自らの羽でハピナスを斬りつけた。
 ハピナスは地面に落ちた。
 オオスバメは追撃してくることなく空中を飛行している。
「君のハピナスでは僕のオオスバメは倒せないよ。空中にいるオオスバメに攻撃してきた時は驚いたけど、避けられないことはない。君から攻撃すれば今のようにダメージを受けるだけだ」
 ハピナスが空中のオオスバメに迫ることができたのは、“メガトンパンチ”の威力を跳躍(ジャンプ)に利用したからであって、元々のハピナスの身体能力では空中のオオスバメに届く程の跳躍(ジャンプ)は不可能である。
 つまり、空中のオオスバメに迫る手段は限られており、相手トレーナーはそれを指摘しているのである。
 しかし、グレイも負けじと言葉を返す。
「それなら、相手が攻撃のために近づいてくるのを待てばいいだけだ」
 攻撃することなく空を飛び続けるオオスバメを見たグレイは、相手が遠距離攻撃の手段をもっていないと予想していた。
 相手トレーナーが言葉を返す。
「僕が待ちに徹したらどうする?」
「待ちに徹する? そんな考え、次の瞬間には変わってるだろうぜ。姐さん! “タマゴうみ”だ!」
 ハピナスは“タマゴうみ”を発動した。オオスバメから受けた攻撃のダメージ、さらに先ほどのワンリキーと戦った時のダメージも回復した。
「くっ……しょうがない、オオスバメ! こっちから攻めるぞ」
 回復技を持つ相手と戦う場合、回復が間に合わないよう激しい攻撃で早く倒すのが定石(じょうせき)である。
 ハピナスが先ほどのワンリキーとのバトルで使った技は、“メガトンパンチ”と“カウンター”だけであった。ハピナスが回復技を使えると新たに知った相手トレーナーは、作戦を変えざるを得なくなった。
「オオスバメ! “つばめがえし”!」
「姐さん! “カウンター”!」
 相手の攻撃を倍返しにしようとハピナスが“カウンター”の構えを見せるが、
「オオスバメ! 今だ!」
 相手トレーナーがそう指示した途端、相手のオオスバメは宙返り飛行を披露した。相手の宙返り飛行によって“カウンター”のタイミングを外され、ハピナスは一方的に“つばめがえし”を決められた。
「オオスバメ、とにかく攻撃だ! “つばめがえし”!」
「姐さん! “メガトンパンチ”!」
 グレイは、相手の宙返り飛行によるタイミング外しを警戒し、“カウンター”の指示に慎重になった。
 ハピナスの“メガトンパンチ”と、オオスバメの“つばめがえし”がぶつかり合うよりも少し前、オオスバメは相手トレーナーの指示で宙返り飛行をした。ハピナスの“メガトンパンチ”は空振りに終わる。
「今! “カウンター”だ!」
 宙返りしてから再びハピナスに襲い掛かるオオスバメを見たグレイは、今度こそ“カウンター”を指示した。
 しかし、またも相手トレーナーの指示でオオスバメは宙返り飛行した。完全にタイミングを外されたハピナスは、再び相手の“つばめがえし”を一方的に受けた。
(マジかよ、宙返り飛行2連続でできんのかよ……こりゃ、“カウンター”を決めるのは無理だな。こっちから攻めるしかない)
 そう判断したグレイは、ハピナスに指示する。
「姐さん! 前に出て“メガトンパンチ”!」
 グレイの指示を受けたハピナスは、再び迫りくるオオスバメに向かって突撃を開始する。相手のオオスバメは、ハピナスの攻撃のタイミングを外そうと宙返り飛行をしようとするが、宙返りが始まるよりも先にハピナスが距離を詰め切り、“メガトンパンチ”による拳の一撃を食わらせてオオスバメを吹っ飛ばした。
「オオスバメ、もっと早めに宙返りを始めるんだ! 僕が指示するタイミングで“つばめがえし”を当てるんだ!」
 相手トレーナーの指示で、再びオオスバメが迫りくる。ハピナスに近づかれないように、今度は早めに宙返りをし始める。
「姐さん、後ろに下がれ!」
 グレイの指示通り、ハピナスは後ろに下がった。
 オオスバメが早めに宙返りを始め、さらにハピナスが後ろに下がったことで、両者の距離が開く。ハピナスがオオスバメの動きを見てからでも対応できる程に大きい距離である。
 宙返り飛行で1回転したオオスバメは再びハピナスに迫る。
「姐さん、前! 殴れ!」
 グレイはハピナスを前に出させた。相手が再び宙返り飛行をしようとした場合でも、宙返りを始める前に攻撃できるようにする為である。
 ハピナスの“メガトンパンチ”と、オオスバメの“つばめがえし”がぶつかり合い、相殺された。
 直後、ハピナスは短い脚を巧みに操ってオオスバメに回し蹴りを放ち、さらに頭突きをくらわせた。技による攻撃ではなく肉弾戦である。
 肉弾戦の師であるグレイのギャラドスには及ばない威力だが、それでも相手のオオスバメに確実にダメージを与えた。
「くっ、こうなったら……オオスバメ! あれをやるぞ!」
 相手トレーナーがオオスバメに声をかけた。オオスバメは気合の入った鳴き声でそれに応じる。
「行くぞオオスバメ! “ブレイブバード”だ!」
 “ブレイブバード”。羽を折りたたんで低空飛行で相手に突撃する、飛行タイプの攻撃技である。非常に威力が高い強力な技である。
 オオスバメは低空飛行でハピナスに一直線に迫る。
「姐さん、“メガトンパンチ”!」
 ハピナスの“メガトンパンチ”と、オオスバメの“ブレイブバード”が正面からぶつかり合った。
 オオスバメの“ブレイブバード”は、ハピナスの“メガトンパンチ”を打ち破り、ハピナスに大きなダメージを与えた。
 しかし、技の()り合いで勝った側のオオスバメもダメージを受けてよろめいた。
 “ブレイブバード”は、とても強力な攻撃技である反面、自分も反動でダメージを受けるというデメリットがある。
 しかし、相手トレーナーはデメリットを無視してでも“ブレイブバード”を使う必要があった。
 宙返り飛行によるタイミング外しが攻略されたため“つばめがえし”を一方的に当てることはできなくなった。さらに、ハピナスに回復される前に倒し切らなければならない。相手は“ブレイブバード”を使うしかなかったのである。
「オオスバメ! がんがん攻めろ! “ブレイブバード”だ!」
 再びオオスバメが低空飛行でハピナスに近づいてくる。
「姐さん、“カウンター”」
 グレイは冷静にハピナスに指示した。ハピナスは“カウンター”の構えに入った。
 オオスバメがハピナスに“ブレイブバード”を直撃させた。反動のダメージで、オオスバメ自身も傷ついた。
 直後、ハピナスの“カウンター”により、オオスバメが放った攻撃は倍になってオオスバメ自身に返ってきた。
 オオスバメは凄まじいダメージを受けて地面に叩きつけられた。オオスバメを中心に、地面には蜘蛛(くも)の巣のような模様の亀裂が入った。
 ハピナスは地面に沈んだオオスバメに素早く“メガトンパンチ”を放った。
 オオスバメは戦闘不能となった。

「まさかオオスバメが倒されてしまうとはね……僕の自慢のポケモンだったんだけどね、もうこれで最後のポケモンだよ……」
 そう言い、相手トレーナーはエーフィを繰り出した。
 エーフィ。たいようポケモン。エスパータイプのポケモンである。4足歩行で紫色の体をしている。長い尻尾は途中から2つに分かれており、額には赤い宝石のようなものが光っている。
「エーフィ! “サイケこうせん”!」
「姐さん、とにかく突撃!」
 相手のエーフィから、エスパータイプの特殊攻撃技“サイケこうせん”が放たれる。超能力的な光線は真っすぐにハピナスに飛来し、直撃した。
 しかしハピナスは“サイケこうせん”に怯まずに、ひたすらエーフィに向かって一直線に進み、“メガトンパンチ”で殴り飛ばした。
 ハピナスというポケモンは元々、特殊攻撃に対して非常に高い耐性があり、さらに異常な程にとても体力があるポケモンである。特殊攻撃である“サイケこうせん”はハピナスには大きなダメージを与えられなかった
「エーフィ! とにかく距離をとりながら“サイケこうせん”」
 相手トレーナーの指示通り、エーフィは距離をとりながら“サイケこうせん”による超能力的な光線を放つ。しかしハピナスは“サイケこうせん”の軌道に関係なく最短ルートで距離を詰める。
 ハピナスが再び距離を詰め、エーフィを殴り飛ばそうとすると、
「エーフィ! “すなかけ”だ!」
 砂で目を潰して相手の命中率を下げる技“すなかけ”がエーフィから放たれる。ハピナスは“メガトンパンチ”の拳の一撃によって、放たれた砂を弾き飛ばした。
 “すなかけ”を防ぐために“メガトンパンチ”を使ってしまったハピナスは、技ではない己の腕力でエーフィを殴りつけ、回し蹴りをくらわせ、頭突きを放った後、追撃として再び“メガトンパンチ”で攻撃する。
 相手のエーフィは“サイケこうせん”を、ハピナスにダメージを与える目的ではなく、“メガトンパンチ”の威力を相殺する目的で、ハピナスの拳に向かって集中的に放つ。しかし“メガトンパンチ”が相殺されたハピナスは、肉弾戦でエーフィを攻撃する。決着がつくのは時間の問題であった。



 結局、ハピナスは大きなダメージを受けることなくエーフィに勝利した。バトルはグレイの勝利に終わった。
 バトルの後は互いを称えあい、いくつか言葉を交わす。
「まさか1体のポケモンに全員倒されるとは思わなかったよ」
 相手トレーナーは明るくそう口にした。
(ボロ負けした事にあまり落ち込んでなくてよかったぜ)
 相手の様子を確認し、グレイは少しほっとした。

 グレイが旅に出てから4ヶ月半。グレイのポケモンは確実に強くなった。
 グレイは最初、強いポケモントレーナーを目指してバトルを極めるために旅をしていた訳ではなかった。しかし、戦闘狂ギャラドスの管理責任者になってしまった事、さらにバトルで負けたくないライバルができた事、これらの理由で、いつのまにかバトルの世界にどっぷりと浸かっていたのである。
 グレイがライバル意識を燃やして何回か勝負を挑んでいるエレナは、同時期に旅立ったラボ・チルドレン――将来一流のトレーナーになることを期待されて研究所から最初のポケモンをもらった者たち――の中ではトップを争う程の実力をもつと聞く。
 そんなエレナに、勝つまではいかなくとも拮抗した戦いができるグレイは、ラボ・チルドレンでない子供でありながら、ラボ・チルドレンの上位陣並みの実力があると言える。

 相手トレーナーが口を開く。
「実は僕、この前初めてジムリーダーに勝ってジムバッジをもらったんだ。楽しむことを目的にポケモンと旅している僕だけど、バトルにはかなり自信あったんだけどな」
「実はオレはジムバッジ2つ持ってる」
「ええ? ジムバッジ2つも持ってるの? どうりで強いハズだ、こりゃ負けても仕方ないかあ」
(まあ、ジムリーダーに勝ったのは姐さんと出会う前だから、姐さんはジムバッジの数と関係ないけどな)
 そう思ったグレイだが、余計な事は言わない。

 相手トレーナーと別れた後、グレイは先ほどのバトルを振り返り、ハピナスの強さについて考えていた。
(さっきのバトルでもそうだったが、やはり姐さんはかなり強い! オレの手持ちの中では、KKに次いで地力が高いかもしれない。これなら、エレナにも勝てるかもしれないな……)
 グレイは、最近はしばらくエレナに挑んでなかった事を思い出し、そろそろ自分のポケモンの力を試す時かと考え始めたのであった。


 
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