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トラベル・トラベル・ポケモン世界

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18話目 湖岸の戦場(前)


 エレナは、とあるポケモンセンターの近くの道を歩いていた。
 歩いている道の脇は崖になっており、崖の下には湖が広がっている。湖はとても大きく、まるで海のように見える。

 歩きながらエレナは、3週間前のライフ団のシャルラとの戦いを思い出していた。特に思い出すのは、敵のマグカルゴを倒した直後にシャルラが繰り出したポケモン、エレザード。戦いを強制終了させるがごとくの圧倒的な力で、残っていたエレナのポケモンをねじ伏せたエレザード。
(シャルラは全然本気で戦ってなんていなかった……アタシがシャルラのポケモンを1体倒せたのは、エレザードがいなかったから。もし、あの戦場に最初からエレザードがいたら、アタシは手も足も出なかったでしょうね……)
 エレナが2つ目のジムバッジを手に入れて以降、エレナが道端でのバトルで負けることはほとんど無くなった。また、例え格上の相手とバトルしても一方的に負けるようなことは無かった。
 そんなこともあり、エレナは自分のトレーナーとしての実力に自信をもっていた。また、例えポケモンバトルではなく、ポケモンの武力行使であったとしても、滅多な事では一方的に負けたりはしないという自信があった。
 そんな中、3週間前のあの日、ライフ団のシャルラとの戦闘があったのだ。
 ポケモンを悪事に使うような人間に手加減されても苦戦し、本気を出されたら手も足もでない。それに加え、トレーナーである自分が狙われているという事を意識から外してしまった自身の考えの至らなさ。
 エレナは自分の未熟さを痛感し、より一層、自分とポケモンの鍛錬を厳しく行うようになった。
 自分を厳しく鍛錬すること。これは悪いことではないだろう。しかし今のエレナの状態は、シャルラの敗北にとらわれるあまり、自分を見失っている状態であるとも言い換えることができた。
(今のアタシにどれ程の力がついたのか、これからの戦いで確かめさせてもらうわ)
 強い思いを抱きながら、エレナは湖に隣接する崖の上の道を歩いていく。



 やがてエレナは開けた湖岸にたどり着いた。砂浜には1人の少年が立っていた。
 その少年にエレナが声をかける。
「早い到着ね、約束の時間にはまだ早いんじゃないかしら? グレイ」
「早めに来て、戦場の状況を確かめてたんだよ」
 そう返事があった。

 1週間前、エレナはグレイから「バトルをしたい」という連絡を受けた。
 その時の2人が滞在していたそれぞれの町の位置と、これからの目的地を総合的に判断し、1週間後である今日、この湖畔のどこかでバトルをすることに決めた。
 戦うための場所探しは、エレナよりも1日早く湖畔に到着したグレイが行い、エレナはグレイに指定された場所にやってきたのである。

「ポケモンセンターから近くて、しかも人も動物もポケモンも少ない開けた場所。なかなか良い戦場だろ?」
 グレイがそう声をかけてきた。
 エレナは、グレイが見つけた湖岸の戦場を見渡す。
 2人が立っている場所を含めて砂浜が広がっており、硬い岩が所々に存在している。砂浜に隣接する海のような湖は、陸からすぐに深くなっていた。
(深い水辺……なるほど、アナタのギャラドスが活躍できそうな戦場ね)
 エレナは、グレイがこの場所を選んだ本当の理由を察した。しかし、それに文句を言うようなことはしない。
(グレイは確かに手強いトレーナーだと思うわ……でも、グレイが有利な状況でも関係なく勝てるぐらいじゃないと、シャルラには絶対に勝てない……! これくらいのハンデがちょうど良いわ)
 エレナはこのバトルのルールを確認する。
「事前の連絡通り、4対4のバトルなのね?」
「ああ、エレナが持ってるポケモンは4体に増えたんだろ? オレの持ってるポケモンも4体だ。近くにポケセンあるから、全員で戦っても大丈夫だろ?」
「バトルフィールドの範囲はどこまで?」
「とりあえず砂浜は全部OK。砂浜じゃない所は、あっちはあの崖まで、あそこはあの変な木がある辺りまで。湖の方は、あの島みたいになってる小さい岩の所まで」
 エレナの予想通り、グレイは陸だけでなく湖もバトルフィールドに含めてきた。
「じゃ、早速始めようぜ」
 そう言い終わったグレイは、エレナから距離をとってポケモンを出す準備をし始めた。

「準備はいいか? 最初のポケモンは同時のルールだからな?」
「分かっているわよ」
 グレイの言葉通りに、エレナとグレイは同時に1体目のポケモンを出した。
 エレナは、最初はリザードンに戦わせることにしていた。
 リザードン。炎タイプかつ飛行タイプの、かえんポケモン。手足があり二足歩行、体は橙色。大きな翼と尻尾があり、まるでドラゴンのような外見である。
 リザードの進化後のポケモンであり、シャルラに敗れた後、特訓の末に成長してリザードンに進化したポケモンである。
 次にエレナは、グレイが繰り出したポケモンに視線を移した。グレイの前には、ハピナスというポケモンが立っていた。
 ハピナス。ノーマルタイプで、しあわせポケモン。ピンク色でたまごのような丸っこい体に、小さな手足がある。お腹にはカンガルーのようにポケットがあり、たまごが入っている。全体的に体毛がカールしていたりフワフワしていたりと、触り心地が良さそうな見た目をしている。
(『第2のエースが新たに仲間になった』なんてメールで言っていたから、どんな攻撃的なポケモンかと思ったら……ずいぶん防御寄りのポケモンね)
 相手のハピナスを見ながらエレナはそう思った。
 エレナとグレイは何回かバトルしているので、お互いに使うポケモンも戦術もある程度分かっている。そんな状況の中、2人とも新たなポケモンを手に入れて最初のバトルである。エレナはハピナスを見るのは初めてであり、グレイもリザードンを見るのは初めてであった。
「お互い、最初っから新しいポケモンを見せ合ってしまうとはな。これでワクワク感は無くなったな」
 そう言いながらグレイは笑っている。
(ハピナスは力が弱いポケモン。力技でいきましょう!)
 作戦をリザードンに指示する。
「リザードン、相手の真上に飛んでから“ドラゴンクロー”!」
 エレナの指示通り、リザードンはハピナスの真上に飛び、巨大な爪の一撃“ドラゴンクロー”を放とうとハピナスに迫る。
「!? 止め!! リザードン、攻撃しないで!」
 攻撃を放とうとしていたリザードンだが、エレナはそれを止める指示をした。ハピナスがリザードンを引きつけるような動きをするのを見たエレナは、直観的に攻撃するのは危険だと感じたのである。
 リザードンは、“ドラゴンクロー”による巨大な爪の一撃を空振りさせ、再び空に戻った。
 エレナは、グレイが一瞬舌打ちしたような表情をしたのを見逃さなかった。
(やっぱり何かあるのね。あの相手を待つ動き……“カウンター”でも狙っていたのかしら? 確かめてみましょう)
「リザードン、“ドラゴンクロー”!」
 再び指示したエレナ。しかし、リザードンがハピナスに迫ったタイミングで、さらに新たな指示を出す。
「中断して、“エアスラッシュ”!」
 エレナの指示で、リザードンは慌てて“ドラゴンクロー”を中断し、空気の(やいば)を飛ばして相手を攻撃する飛行タイプの特殊攻撃技“エアスラッシュ”を放った。
 ハピナスはリザードンを引きつけて何か構えをしていたが、無抵抗に“エアスラッシュ”を受けただけで何もしてこなかった。
 その光景を見たエレナは結論を出す。
(やっぱり! “カウンター”を発動していたのね! あんなに接近したのに攻撃してこないのは、“エアスラッシュ”が特殊攻撃だから“カウンター”が失敗に終わって動けなかったからでしょう?)
 エレナは再び同じ指示を出す
「リザードン、“ドラゴンクロー”!」
 先程と同じく、最初は物理攻撃技“ドラゴンクロー”で攻めると見せかけて、途中で特殊攻撃技“エアスラッシュ”に切り替える作戦である。
 グレイが、このバトルで初めての指示を出す。
「ダメだ(ねえ)さん! もうバレてる! 殴るしかない!」
 グレイの指示を聞いたエレナは、内心で思う。
(無駄よ! もし“カウンター”を止めるんだったら、そのまま“ドラゴンクロー”で攻撃すればいいもの!)
 リザードンの“ドラゴンクロー”による爪の一撃がハピナスに直撃した。
 その直後、ハピナスの短い手から凄まじい威力のパンチが放たれた。ノーマルタイプの攻撃技“メガトンパンチ”である。
(えっ!?)
 エレナは、ハピナスがリザードンを殴り飛ばす光景を見て、思わず目を見開いた。ハピナスは力が極端に弱いポケモンというエレナの知識とは全く異なる光景である。
「姐さん! もう1発だ!」
「リザードン、空に逃げて! “ドラゴンクロー”!」
 再び拳に力を入れ始めたハピナスを見て、エレナはリザードンに逃げるよう指示した。ハピナスは空に逃げるリザードンに対し、拳を突き出した体勢で跳躍(ジャンプ)して飛び出し、再び殴りつけた。ハピナスの“メガトンパンチ”とリザードンの“ドラゴンクロー”がぶつかり合い、相殺された。
 リザードンは空中に逃げ去り、ハピナスは砂浜に着地した。
 思わずエレナはグレイに訊ねる。
「なんなの!? アナタのハピナス……本当にハピナスなの?」
 エレナの問いに対し、グレイが面白そうに答える。
「本当にハピナスかどうかなんて、どうでもいいだろ? こいつは正真正銘のオレのポケモン、『姐さん』さ!」
 グレイの返答は、今のエレナにとって理解できないものであった。
(ポケモンは、長所を伸ばして長所で戦うものよ。力が極端に弱い種類のポケモンの力を鍛えたって時間の無駄だわ。アタシなら、絶対にそんな育て方はしないわね! そんなことでは勝てないもの!)
 『そんなことでは勝てない』と無意識に思ったエレナ。勝ちたい相手は、今目の前にいるグレイの事ではなかった。
「姐さん! もう1発殴ってやれ!」
 グレイの指示で、ハピナスは助走をつけてリザードンの飛ぶ方向へ走ってくる。
「リザードン、水の上を飛んで! 遠距離から“エアスラッシュ”!」
 指示を受け、リザードンは砂浜から湖の方へ移動し、水上を飛んで“エアスラッシュ”を放つ。
 ハピナスは湖の水に阻まれ、ジャンプして近づくことができない。
 グレイが声をあげる。
「水の上に逃げるなんて卑怯じゃねえか!?」
「アナタが選んだ戦場でしょう? 何があってもアナタの責任よ」
 エレナは冷たく言い返した。
(そう、どんな状況も有効活用しなければ、シャルラに勝つなんてできる訳がない! それに、ハピナスの力が異常に強いからって、それがどうかしたの? その程度で動揺していたら、シャルラのエレザードを倒すなんてできないの!)
 リザードンが水上から“エアスラッシュ”で空気の刃を飛ばしてハピナスを攻撃しようとする。しかし、砂浜にいるハピナスは放たれた空気の刃をうまく避けていき、なかなかダメージを受けない。
「リザードン、“はじけるほのお”で攻撃!」
 今度、リザードンは“はじけるほのお”によって炎を飛ばして攻撃し始めた。
 ハピナスは迫る炎を避けるが、炎は砂浜に着弾すると同時にあらゆる方向に広く飛び散った。飛び散った炎まで全て避けることはできないハピナスは、ほんの少しずつではあるがダメージを受けていく。
(“はじけるほのお”……敵に使われると厄介だけど、自分が使うと便利な技ね)
 エレナは、シャルラのマグカルゴが使ってきた“はじけるほのお”を思い出しながらそう思った。

 しばらくの間、リザードンが“はじけるほのお”でハピナスを一方的に攻撃する状況が続いた。
 そんな中、グレイがエレナに声をかけてくる。
「いつまでそんなチマチマと攻撃するつもりだ? 早く近づいてこいよな」
「近づいて欲しいなら、アタシが近づかざるを得ない状況を作ってみなさいよ」
 エレナはまたも冷たく言い返した。
 グレイは一瞬エレナを不思議そうに見た後、再び口を開く。
「だったら、そうするさ。姐さん! “タマゴうみ”」
 ハピナスが“タマゴうみ”を発動し、自分の体力を回復した。これでリザードンが与えたダメージは全て消え、それと同時に弱い攻撃で少しずつハピナスにダメージを与える事は無駄なことであると判明した。
 しかし、この状況を見たエレナは内心で思う。
(残念ねグレイ、それを待っていたの。1度回復技を使えば、しばらく使えないでしょう?)
 ハピナスが“タマゴうみ”を発動するのを確認したエレナは、素早くポケモンを入れ替えた。今までリザードンがいた場所に、新たにチルタリスが現れる。ドラゴンタイプかつ飛行タイプのハミングポケモン。雲のような綿のような白くてフワフワした翼に、空色の体をもつ鳥のようなポケモンである。
 バトル中にポケモンを入れ替えた場合、新たに出したポケモンは少しの間無防備になり、その隙に好き勝手に攻撃されるリスクがある。しかし今回は、相手のハピナスは砂浜から水上へ踏み出せずにいるため、リスクは無い。
「チルタリス、“コットンガード”! そのまま相手に近づいて“みだれづき”!」
 チルタリスは、自身の防御力を超大幅に上昇させる技“コットンガード”を使った。チルタリスの体を更なるコットンが包み込む。
 グレイはなぜか、「あれが本当のチルタリスの“コットンガード”か……」などと(つぶや)いている。
 チルタリスが砂浜に立つハピナスに一気に近づき、ノーマルタイプの攻撃技“みだれづき”を放った。超高威力の連撃技がハピナスを襲う。
 ハピナスはグレイに指示されることなく“メガトンパンチ”を発動し、チルタリスを殴りつけた。しかし、“コットンガード”で防御力が超大幅に上昇しているチルタリスには、ハピナスの“メガトンパンチ”があまり効かない。
(力が強いハピナスに最初は驚いたわ。でも、ハピナスにしては攻撃力が強いってだけ。世の中にはもっと力が強いポケモンはいくらでもいるのよ!)
 そう思ったエレナが無意識に思い出すのは、シャルラのマグカルゴが使ってきた技“いわなだれ”である。“コットンガード”で防御力を上げたチルタリスも、マグカルゴの“いわなだれ”をくらい続け、最終的には体力を削りきられた。
 エレナにとっては、ハピナスの“メガトンパンチ”は、マグカルゴの“いわなだれ”の脅威には及ばないものであった。
 グレイが指示を出す。
「姐さん! “カウンター”!」
 ハピナスは、“みだれづき”で受けるダメージを倍返しにするために“カウンター”を発動するが、“みだれづき”は圧倒的に手数が多く、“カウンター”から漏れた攻撃がかなり多い。
「姐さん! いつもの感じで、とにかく全力攻撃!」
 ハピナスは、拳から放たれる“メガトンパンチ”の他にも、脚での回し蹴り、頭突き、体当りなどの攻撃を態勢によって組み合わせながら効率的にチルタリスに攻撃してくるが、より多くダメージを受けているのはハピナスであった。
 両者の激しい打ち合いの末、相手のハピナスは体力が尽き、戦闘不能となって倒れた。
 チルタリスもそれなりにダメージを受けたようだが、まだ戦える様子である。

 ハピナスを倒したエレナは、自分の実力が上がっているのだと確信する。
(アタシにとって、リザードンとチルタリスは、4番手と3番手なのよ。それなのに、グレイが『第2のエース』なんて言っていたハピナスを倒すことができた……これで、厳しくした鍛錬が無駄ではなかったと証明されたわ)
 グレイは、倒れたハピナスに声をかけながらハピナスをモンスターボールに戻している。そんな光景を見ながら、エレナは思う。
(でも、『第2のエース』なんて言っても、結局はシャルラのマグカルゴの方が強かった訳なのだから、チルタリスが勝つのは当然のことかしらね……そうよ、グレイを相手に苦戦するようでは、シャルラに勝つことなんてできないわ!)

 チルタリスの勝利が当然の結果。そう思ってしまったエレナは、ハピナスに殴られる痛みに耐えたチルタリスに、(ねぎら)いの言葉をかけることを忘れてしまっていた。

 頑張ったポケモンを労う。例え当然の結果であっても、相手に勝利したポケモンに一言かける。それは悪人であるシャルラですらやっていることである。

 グレイとエレナの戦いは続く。



********
エレナ側
 リザードン (小ダメージ)
 チルタリス (中ダメージ)
 アブソル  (無傷)
 ジュカイン (無傷)

グレイ側
 ハピナス[呼び方:姐さん] (戦闘不能)
 ギャラドス[呼び方:KK]  (無傷)
 ビビヨン[呼び方:ビビ]  (無傷)
 レパルダス[呼び方:レパ] (無傷)
********

 
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