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ラブライブ! コネクション!! Neutral Season

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Unseal Operation (グランドプロローグ)
  活動日誌- み・はミュージックの・み! 4

「なるほど……絢瀬さんの意見はわかりました」

 言葉を締め、頭を下げた絵里を見て、話が途切れたと判断した南女史は絵里に声をかける。そして向けていた顔を穂乃果へと移しながら――

「……それで高坂さんは、この件についての意見はありますか?」
「「――えっ?」」

 そのままの表情で問い質したのだった。その言葉に驚きの声をあげる穂乃果と絵里。
 しかし南女史の言っていることは正論なのである。
 確かにリボンの件は絵里の懸念だろうと感じた。それに賛同する形で穂乃果が連れ立って来たのだろうと言うことも――。
 しかし、この話は『穂乃果が学院存続のご褒美』として提案してきた話。
 仮に絵里からの提案を賛同したとしても穂乃果自身の意見が何もないのであれば、それは彼女の提案とは言えない。ただ絵里の考えを鵜呑みにしたと言うことに過ぎないのだ。
 もちろん南女史も意地悪で問い質している訳ではない。より良い学院生活の為――
 現在の学院を担っている生徒会長が、自分の意見も持たずに生徒の意見を鵜呑みにして実行に移したのか。他人の意見に左右されただけなのか。つまり、公正な判断をできるか否か。
 そこを見極める為に問い質したのであった。
 南女史の言葉を聞いた絵里は、自分の迂闊さに気づき心の中で穂乃果に謝罪をする。
 元はと言えば自分の懸念。それを穂乃果が賛同してくれたことが嬉しくて、安堵して、肝心なことを失念していたのだった。
 
 絵里は南女史の言った意味を瞬時に理解していた。
 もし、自分が彼女の立場ならば同じことを問い質していたのだろう。結局、提案した人間の意見が最も効力を発揮するものだと考えているのだから。
 そう、あの時彼女は穂乃果に賛同してもらえた嬉しさから彼女に賛同をした理由を聞いていなかった。 
 ある意味その場の勢いにも近い賛同だった気もする。同じメンバーとしての絆で賛同していただけなのかも知れない。
 つまりは、穂乃果自身は何も言い分としては持ち合わせていないのかも知れないと思っていた。
『学院を納得させられるだけの言い分がない』
 それ故に自分は懸念を押し通すことができなかったのに。誰よりも理解していたはずなのに。
 賛同してもらえたことで舞い上がり、肝心な部分を考えていなかった。そんな状態で穂乃果に発言をしてもらった。このまま穂乃果が何も言い分を提示できなければ――
『穂乃果の生徒会長としての力量に対する学院のイメージや本人の発言力』を著しく低下させてしまうのだ。
 そこを見極める為に敢えて理事長は穂乃果に問い質したのだと感じていた。
 絵里はその場で固く目を閉じて自分の軽率な行動を呪った。
 今回の件は穂乃果には何も責任がない。全て自分の責任だ。 
 それでも理事長には穂乃果の生徒会長としての負のイメージが残ってしまう。
 もうリボンの件など、どうでも良かった。ただ、ひたすらに――
 穂乃果への謝罪を胸に、彼女のイメージを払拭する為にはどうするべきかを頭で。同時に思い考えながら穂乃果の発言を待っているのだった。

♪♪♪

「……今回の意見は絵里ちゃんの提案によるものです」
「……そう、それで?」
「…………」

 絵里の耳に穂乃果の声が響いてきたことに気づいて、パッと目を開ける彼女。
 自分の為に発言をする穂乃果に対して自分が顔を背けてはいけない。
 例え、どんな結末であっても自分には聞く義務があるのだから。
 絵里は穂乃果の第一声を聞いて次の言葉を瞬時に判断した。そう、きっと彼女は――
「だから、私には意見はありません」と言うのだろう。それが普通なのだと感じていたから。
 しかし、彼女の言葉を否定できる資格は自分にはない。
 だからせめて彼女の発言から逃げずに聞き遂げよう。そして残りの学院生活を投げ出してでも彼女に付いてしまったマイナスイメージを払拭をする。
 そう心に誓いながら次の言葉を待つのであった。
 もしかしたら南女史も絵里と同じこと――穂乃果の次に来る言葉を考えたのかも知れない。
 彼女は心なしか苦渋の表情を含ませて先を促す。ところが――

「……私はこの学院が好きです。とは言っても、廃校になるって聞いて気づいた気持ちですけど……それでも何かしなきゃって思ってスクールアイドルを始めました。そして海未ちゃんとことりちゃんとで始めた活動に花陽ちゃん達やにこちゃん。そして絵里ちゃん達が集まってくれて……9人で今でも頑張っています」
「…………」
「私達は、この数ヶ月で色々な経験や様々な人達の思いや考えに触れる機会を貰い、沢山のことを学んで考えてきました。そして、絵里ちゃんの提案で私達は『先輩後輩の垣根』を越えて活動しています。だからと言って、そこには学院で学んでいる秩序や礼節がきちんと根付いているからなんだって思っています。だから、今こうして私達が先輩後輩の枠に縛られずに自然に活動できているのも、学院の校則や規律のおかげなんだとは思います。でも……」
「……でも?」
「私達の今があるのは学年の枠のおかげではないと思うんです。いえ、逆に枠を取り除いたから今の様に強い絆を作ることができたんだと思っています。私達が私達としてお互いと接しているから――1人の生徒として向き合っているからなんだと思うんです。それは決して学年毎の繋がりではないんです。今ここにいる私だから皆と接していられるんだと思います。それは去年も今年も来年も――同じ高坂 穂乃果として接しているからなんです。1年生の私が2年生に進級しても周りの接し方は変わっていません。……今年で卒業しちゃう絵里ちゃん達とも来年になったからって何も変わらないんです!」
「……穂乃果……」
「絵里ちゃんの意見を聞きながら私も同じ気持ちでいました。スクールアイドルとして……まだまだ日は浅いですけど、頑張ってきた日々は――私達の想いや絆は学年で切り替わるものではありません。私は――いえ、生徒会長としての高坂 穂乃果は生徒全員に3年間を通して、そう言う気持ちで学院生活を送ってほしいと願っています。今この瞬間――進級で変わるのではなく自分に与えられた世代のリボンの色に誇れる様に、卒業式で3年間を寄り添った1色のリボンにやり切ったと言える様に……この出会いを、ただの偶然じゃなくて奇跡へと変えられる様に頑張ってほしいんです! そして自分がやり切った証しとして、卒業と入替わりに入ってくる生徒達へ残せるものだと思うんです。その為にも世代としてリボンを固定するべきだと感じました。この学院へ入学をして、学んで、卒業するのは区切りを付けていくものではないと思います。3年間の学院生活が私達の思い出になるんです。この学院が古くから守り続けてきた伝統も――1年おきに新しく変わっていったものではないはずです」
「…………」
「先輩達の想いや考えを尊重して自分達で納得をし、それを元に自分達でより良いものへと作りあげていったのだと考えています。それが託すと言うことだと思いますし、託される意味なのだと思ったんです。だから私は絵里ちゃん――いえ、絵里先輩の意見を尊重して学院のより良い未来の為に提案させていただきました! ……以上になります」
「…………」
「…………」

 穂乃果は自分の意見を言い終えると深々と頭を下げた。
 そんな彼女をジッと見つめる絵里と南女史。きっと2人の心の中では同じ感情が渦巻いているのだろう。
 それは、高坂 穂乃果が高坂 穂乃果であることを失念していた苦笑いの感情であった。

 もう手の打つ術を失っていた状況から学院を救った彼女。
 彼女は決して誰かが敷いたレールの上を進んでいた訳でも、誰かに薦められて始めた訳でもない。
 それ以前に絵里の猛反対を受けながら、初歩の基礎練習。そして部を設立する為、部員集めから始めなければいけないと言う0からのスタート。
 そして誰も集まらないファーストライブを経験した彼女。彼女の行く道は前途多難であった。
 それでも前に進んだ。諦めずに頑張ってきた。壁にぶつかっても乗り越えてきた。
 それは自分の信念があったから。誰かに言われたことを鵜呑みにするのではなく自分の考えで突き進んできたと言うこと。
 自分の絶対的な考えを持っているから揺るがずに進んできたのだと思う。
 そう言う彼女が――周りの意見を鵜呑みにする訳はない。
 聞いた意見をしっかりと考えて、考えて、悩んで考えて。
 その上で自分の思った道は正しいと判断――否、彼女の場合は正しいと思い込んで強引にでも正しくさせる実行力が備わっていると言った方が正解なのかも知れない。
 そう言ったリーダーとしての『天賦の才』を持ち合わせているのだろう。
 自分の信念に基づき、その信念に沿って行動をする――それが高坂 穂乃果と言う少女なのだ。
 
 つまり、彼女が自分の意見を持たずにその場をやり過ごすなどと言うことは愚問である。
 数ヶ月とは言え、密度の濃い接し方をしていた2人は――
 理解していたはずの彼女のことを過小評価していたことに気づき、苦笑いの感情に苛まれていたのだった。 
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