ラブライブ! コネクション!! Neutral Season
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Unseal Operation (グランドプロローグ)
活動日誌- み・はミュージックの・み! 3
「……どうぞ?」
「……失礼します!」
「――失礼します」
「あら? 新旧生徒会長が揃ってどうかしたの? ……あっ、別に生徒会長挨拶は彼女らしくて良かったと思うのだけれど?」
「す、すみませぇん……ではなくてですね!」
「それじゃあ、スクールアイドルの方?」
「いえ、そうではないんです」
「……そう? それじゃあ、何?」
数時間後。理事長室の扉をノックする音が室内に響く。
中で執務をこなしていた南女史はノックの主に入室を促した。
すると穂乃果と絵里が連れ立って入ってくるのが見えるのだった。
確かに南女史は全身から醸し出す優しい雰囲気の母性溢れる女性で、生徒達も母親の様に親しみをこめて接している。
とは言え、理事長室と言うのは厳かな雰囲気を醸し出しているのだ。
職員室と違い、気軽に出入りする様な場所ではないのだろう。
生徒会として絵里が希と共に来た事はある。スクールアイドルの活動として穂乃果達が来た事はある。呼び出して来させたこともある。
だが、今は学院も軌道に乗り一段落ついている。
スクールアイドルとしても今は表立って学院へ報告することも申請することもないはず。
生徒会に関しても今日の就任式を迎え、あとは絵里達が引き継ぎを済ませれば問題はない。
つまり、今の段階で何か来る理由があるとは思えないと南女史は判断したのだろう。
それが穂乃果と絵里と言う組み合わせで来た事に疑問を覚えたのだった。
そんな風に思っていた彼女の脳裏に、先ほどの新生徒会長の挨拶を思い浮かべた彼女は――
きっと絵里のことだから、穂乃果の失態を憂いて、自分のところに謝罪を入れに来たのだろう。
そう解釈して苦笑いを浮かべながら答えるのだった。
言葉を受けた穂乃果は苦笑いを浮かべて謝罪をするのだが、即座に否定をする。
そうではないのならと、スクールアイドル活動の話かと訊ねると絵里が否定をした。
他に思いつくことがない彼女は2人に優しく話を促すのだった。
すると穂乃果が並んで立っていた絵里よりも1歩前に進むと――
「今日は理事長先生にお願いがあって来ました!」
「お願い? ……何かしら?」
「はい! 学院を廃校から救った私達にご褒美をください!」
「え? ……ご褒……美?」
「はい! ご褒美です」
「…………」
「…………」
「……ふーっ。わかりました……とりあえず、話だけは聞くことにします」
「本当ですか?」
「ただし! こちらの出来得る範囲でなければ却下しますよ?」
「ありがとうございます! ……」
「…………」
「……それで、ご褒美は何がほしいの?」
お願いの為に来たのだと伝える。当然何のお願いなのか知らない彼女は穂乃果に訊ねるのだが――
彼女は『廃校を救ったご褒美』を要求してきたのだった。
南女史は耳を疑った。自分の聞き違いかも知れないと復唱するのだが、穂乃果は再びご褒美であることを強調する。
少し怪訝な表情で彼女を見つめる南女史。無理もないだろう。
穂乃果達はご褒美が貰いたくてスクールアイドルを始めた訳ではない――
廃校を阻止する為にスクールアイドルを始めたはず。学院を愛しているから始めたのではなかったのか。
仮に廃校を阻止できたことにより、ご褒美がほしくなったとも考えられる。
でも彼女達は既に次の目標――自分達のスクールアイドルと言う活動に向けて突き進んでいた。
それは自分達の為。仲間の為。そして、学院の為。
純粋にスクールアイドルを愛し、自分自身がスクールアイドルとして輝きたい。その一心からくる活動だと感じていた。
だから、そんな彼女達の姿は決して何かが欲しくて動いているとは思えなかった。
廃校を阻止できたからと言ってご褒美をほしがる様な子達だったとは思えないから、彼女は怪訝な表情を浮かべるのであった。
そう思った彼女は隣に立つ絵里を見つめる。しかし絵里の表情からは驚きや困惑と言った類の感情は見えない。つまりは絵里も納得済みのお願いなのだと思った。
確かに穂乃果は絵里を救った。学院を救った立役者かも知れない。
そして現在の生徒会長なのかも知れない。
しかし絵里は決して穂乃果の意見を鵜呑みにする様な人間ではないと南女史は思っていた。
学院の為。生徒達の為。
穂乃果に救ってもらったからと言って、より良い学院生活を送れる様にと言う想いは色褪せてはいない。
むしろ今まで以上に学院への愛を良い形で表現しているとも思えていた。
それは先輩として、前生徒会長として。
学院の為にならない。生徒達の模範にならない様なお願いを許容するはずはないと言うこと。
ただの我がままや傲慢な自分の利益でしかないお願いを許す訳がないと言うこと。
そんな絵里が認めたご褒美なのであれば決して悪いことではないのだろうと判断する。
それと同時に――
確かに全てが彼女達の功績ではないのかも知れない。
しかし、廃校の危機を救ったのは彼女達の功績があったからだと思っている。
自分ではどうすることもできなかった。ただ決定を下すしかなかった。
そんな自分さえも救ってくれた彼女達に、何かご褒美を与えるのは大人として――
教育者として当然のことなのだろうとも考えていた。
南女史は一瞬だけ目を瞑り、軽くため息をつくと――決心したかの様に目を開けて穂乃果を見つめて話を聞くことを伝えた。
彼女の言葉を受け、喜びの表情で確認する穂乃果。
そんな彼女を諌める様に「こちらの出来得る範囲で」と、釘を差すのだった。
いくらご褒美を与えるとは言え、生徒としての度を越したものまで与えるつもりはない。
あくまでも生徒としての範疇でなら願いを受け入れると言うこと。
えこひいきや特権ではなく、頑張ったご褒美として――全校生徒にも納得してもらえる範囲での許可であること。
それが彼女の学院への礼儀なのだと感じていたからだ。
確かに絵里が認めたお願いなのだから心配はないとは思うのだが、敢えて口にすることで理解してもらおうと考えていたのだろう。
その言葉を受けた穂乃果は南女史にお礼を言うと、絵里の方に微笑みを浮かべていた。
その微笑みを安堵の表情で受け止める絵里。
そんな2人の表情を眺めながら、自分の考えは杞憂なのだろうと感じて微笑みを浮かべながら話を促すのだった。
♪♪♪
「それでは……絵里ちゃん?」
「ええ……」
「…………」
「実は、ご褒美と言うのは制服のリボンのことなのです」
「リボン? ……リボンがどうかしたの?」
「はい……実は――」
話を促された穂乃果は振り向きながら絵里に声をかける。その言葉を受けて絵里が穂乃果の横に並んだ。
てっきり穂乃果が発言するのだろうと思っていた南女史は、無言で絵里を見つめた。
絵里は真っ直ぐに彼女を見つめながら話を始める。
突然リボンの話が出たので疑問に思いながら先を促す彼女。絵里は2年の進級の際に抱いた懸念を彼女に打ち明けるのだった。
話を聞きながら南女史は気づいたことがある。これは元から穂乃果の提案ではなく、絵里の提案だったのだろうと。
しかし、あくまでも穂乃果の提案の様に彼女が発言をしていた理由。
それは制服のリボンへの提案が実施されるとしても、来年度からの適用になることを絵里が理解しているから。
今年度は既に数ヶ月も経過している。つまり今から実施をしたところで今年度は何も変化がないのだ。
そう、適用は来年度から――卒業してしまう絵里には卒業後の学院生活の事案を、自分が采配してはいけないと言う考えがあったのだろう。だから来年度の始まりの際の生徒会長である穂乃果に発言をしてもらった。
それに、絵里は穂乃果に救ってもらった身。そして学院を救ったのは自分ではない。
穂乃果が発案して、自分の反対にも負けずに頑張って、結果的に自分も仲間に入れてもらって――
そうして手に入れた功績なのだと考えているのだろう。
きっと絵里は穂乃果にお願いと言う形で話したのだと感じていた。その上で、穂乃果が了承してくれたのだと思う。
確かに自分の懸念ではあるが、今回学院にお願いとしてご褒美を貰えるのは穂乃果なのだから。
来年度の学院をより良くしていくのは穂乃果なのだから。
きちんと穂乃果自身が賛同して提案をしてくれることが絵里にとっての『自分のやりたいこと』だったのだろう。
南女史は真剣に想いを伝えている絵里。そんな絵里の意見を後押しする様に真っ直ぐな曇りのない瞳で隣に立つ穂乃果。そんな2人を前にして――
音ノ木坂学院が大切に守り、受け継いできた伝統や校風は今もなお色褪せることなく、彼女達の胸に宿っていることを嬉しく思う。
そして、この先もずっと生徒達の胸に宿り続けることを願っていたのだった。
「……ふーっ。……そして――」
絵里は自分の懸念を南女史へと伝える。伝え終えると一瞬だけ目を閉じて小さく深呼吸をすると、目を開けて新たな想いをぶつけるのだった。
「私には歳の離れた亜里沙と言う妹がいます。妹は穂乃果の妹の雪穂さんの同級生なんです」
「あら、そうなの?」
「はい!」
始めに絵里は亜里沙のことを説明する。穂乃果の妹の雪穂の同級生だと知った南女史は穂乃果へと声をかけた。
その言葉に満面の笑みで肯定する穂乃果。
穂乃果の肯定を微笑みの表情で眺めていた絵里は再び南女史へと向き直り――
「亜里沙と雪穂さんは今年音ノ木坂を受験します」
「そう? ……合格すると良いわね?」
「「ありがとうございます」」
晴れて入学試験を執り行うことになったおかげで受験する旨を報告する。
その言葉に感無量な表情で2人の合格を祈る南女史。彼女の言葉に絵里と穂乃果は同時に笑みを浮かべて感謝の言葉を述べるのであった。
そして絵里は一変、真面目な表情に切り替えて本題へと話を進めていく。
「確かに学院の教育概念は素晴らしいと思います。入れ違いでしか可能ではない譲り合いが、どの学年へも可能である慣例は……世代固定よりも理にかなっているのかも知れません」
「…………」
「ですが私は自分がこの学院で培ってきた――3年間で学院に残していったことの積み重ねを、入れ違いで入ってくる私達の知らない世代の子達……亜里沙達へと引き継いでいきたいのです。もちろん学年固定でも引き継げるのかも知れません。ただそれは私達と言う『世代』ではなく『各学年』と言う枠でしかないのだと思います。穂乃果達や花陽達……今の2年生と1年生には私達が直接伝える――いえ、同じ時間を刻み、想いを託していけるものだと考えています」
「…………」
「私は自分達に直接的な関わりはなくても、同じ色のリボンと言う次の世代への繋がりとして託していきたいのです。そして、それが学院を巣立つ私達のバトンなのだと考えています。今のままの学年固定では私達は卒業と同時に託すものを失います。穂乃果達には既に託しているのですから。……ですが、世代固定なら――次の緑のリボンの生徒達が、次の緑のリボンの世代として3年間学院生活を送ってくれます。この学院の入部届――あの用紙の意味は入学式後に先生から聞きました……私はあの入部届の意味をリボンにも持たせたいのです! 入部届は瞬間的に役目を終えてしまうものです。しかし、同じ意味を持たせたリボンなら3年間役目を果たせます。想いを託すと言うのは、そう言うことなのだと思っているのです。……これで私の意見は以上になります……」
「…………」
「…………」
絵里が真摯に訴えかけていた間、南女史は彼女を真っ直ぐに見つめ、何も言わずに言葉を受け止めていた。しかし――
彼女の話す内容が学院の伝統や運営に関係すること。いかに学院を救ったとは言え、生徒が口を挟むべき問題ではない。
そんな考えから、学院に不利益だと判断して聞く耳を持たずに――最初から却下をするつもりで何も言わなかった訳ではない。
より良い学院の為、公正に判断する為に生徒の話をしっかりと聞き、その上で自分の考えに結論を出す。その為に絵里の言葉をしっかりと受け止めていたのである。
終始、真剣な表情を浮かべて耳を傾けていた彼女を見つめていた絵里は『本来の学院の責務』と言うものを感じると共に――
改めて、学院存続に囚われていた当時の自分の行動を深く反省するのであった。
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