剣聖がダンジョンに挑むのは間違っているだろうか
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第2話・改訂版
前書き
うたわれるもの 二人の白皇、最高の最後でしたね。
既にクリアして、周回4周目に突入しています。(笑)
【視点:テレシア】
多くのモンスター達の魔石とドロップアイテムを換金する為!3ヵ月振りに豊穣の女主人の美味しい御飯を食べる為!ヘスティア・ファミリアの生活環境を改善する為!地上よ、私は帰ってきた!!
と、冒頭から心の内でアナ●ル・ガトーごっこに興じてみましたが、あまり楽しくもありませんね。あと、伏字の位置に悪意を感じるのは気のせいでしょうか?
ちなみに私が現在何をしているかというと、摩天楼の施設――主にシャワールームとコインランドリーっぽい所を利用して身支度を整え、ギルドへと向かっている最中だったりします。
パンパンに膨れ上がった荷物が地味に重いので、換金分の魔石とドロップアイテムをさっさとお金に換えてしまいたいんです。
3ヵ月振りの帰還ということを考えると、普通はまず主神であるヘスティア様に挨拶しに行くべきなんですが、うちの主神様はアルバイターなので就業時間中は報告に行けません。
このオラリオの地では探索系零細派閥の主神がアルバイトをしていることが割と普通だったりします。まぁ、ヘスティア・ファミリアは冒険者の人数的に零細派閥とは言えないと思いますけど。
一応、私が月収10,000,000ヴァリス以上稼いでるんですが、派閥結成時の方針で今でもヘスティア様はバイト生活をしているんです。ヘスティア様曰く、眷属に寄生する駄女神ヒキニートにはなりたくないとか。
まぁ、そんな訳でヘスティア様への帰還報告は後回しにして、ギルドでの換金を先にすることになった訳です。で、そんな説明をしている内にギルドに到着しました。
ギルドといえば、同年代で割と仲のいいエイナやミィシャと会うのも3ヵ月振りです。色々と小言を言われそうな気がします。そんなことを考えながらギルドの中に入ると、物理的な意味で軽い衝撃を受けました。
誰かにぶつかったみたいです。奇襲や不意打ちの類ではなかったので、≪初見の加護≫が働かなかったみたいですね。ぶつかった相手は前世の自分や弟を思い出させる白髪の少年、というか―――
「す、すみませ―――」
「あれ?あなたは……」
割と早く再会できましたね、ベル君。あっ、心の内ではベル君と呼びますが、実際には呼びません。だって、私達はまだ自己紹介すらしていないんですから。
ここでベル君の名前を口にする様なうっかり属性やドジっ娘属性を私は持ってなどいないんです。うっかり萌えやドジっ娘萌えの人はごめんね。
「テレシア=ヴァン=アストレアさん」
「私の名前……」
……予想はできていたけど、やっぱり私の情報をギルドで聞いてたんだ。もしかして、私が同じ派閥の眷属ってことも知ったのかな。
それとなくギルドの受付に視線を向けると、そこには手を合わせて申し訳なさそうにしているエイナが……。これは話しちゃってそうですね。
「テレシア=ヴァン=アストレアだと?」
「オラリオで並ぶ者のいないLV.10の女騎士、【剣聖】アストレアか!?」
「最強の第一級――いや、特級冒険者。数ヵ月前から迷宮の深層に派閥で潜ってるって話だったが、戻って来たのか?」
「見ろよ、あの膨れ上がった背嚢。ギルドに来たってことは、あの中身全部が深層のモンスタードロップや魔石なのか?そういえば、40分程前にも膨れ上がった背嚢を背負った集団が―――」
「剣聖の所属する派閥はギルドでしか換金しないって有名だもんな。けど、迷宮から直で来たんなら―――」
私の名前を耳にしたギルド内の冒険者が私を見ながらヒソヒソ話を始めた。正直、目立つのはあまり好きではないんですが……。兎に角―――
「約1時間振りでしょうか?5階層で会った方ですよね?」
「は、はい!ベル=クラネルっていいます。半月程前にアストレアさんと同じヘスティア・ファミリアに入団した駆け出し冒険者です!!」
「あっ、私が深層に潜ってる間に入団した新人さんだったんですね。分からないことがあったり、仲間を組みたい時は遠慮なく言って下さい」
「えっ!?けど、アストレアさんは深層に潜れる特級冒険者―――」
「上級冒険者――第一級や二級冒険者でも新人育成の為に仲間を組んで上層でモンスターと戦うこともありますよ。
そんなことより、同じ派閥の眷属なので家名ではなく名前で呼んでくれませんか?家名で呼ばれると距離を取られているみたいで哀しくなります」
「わ、わかりました。て、テレシアさん」
「それではベル君、モンスタードロップと魔石を換金して来るので、待っていて貰えませんか?どうせ同じ本拠地に住んでいるんです。一緒に帰りましょう」
「え?えぇっ!!?」
私がそう言うとベル君は驚きの声を上げましたが、私はそれを敢えて無視し、換金専門のギルド職員がいるカウンターへと向かった。
「換金、お願いします」
私はそう言うや否や背負っていた背嚢を床に置き、換金分のモンスタードロップと魔石をギルド職員へと渡していった。そして、鑑定が始まってから十数分後―――
「全部合わせて97,000,000ヴァリスだな」
「きゅ、きゅうせっ!!?」
「では、それで換金をお願いします」
「……本当にいいのか?お仲間にもいつも言ってるが、ギルドの換金額は最低価格だ。ヘファイストス・ファミリアやゴブニュ・ファミリア、ディアンケヒト・ファミリアといった大手商業系派閥に持って行って交渉した方が高値で換金できる可能性が高いんだぞ?」
「私達が交渉事を苦手としているのは知ってますよね?商業系派閥に行っても安く買叩かれるのがオチです。そんなことするぐらいなら安定した金額が貰えるギルドで換金した方が賢いと思いますけど?」
「……まぁ、お前さん達がそれで納得してるってなら別にいいんだ。換金額を持って来るから、もうちょい待ってな」
換金担当のギルド職員はそういうと換金額を用意する為、ギルドの奥へと消えて行った。………換金額といえば、ついさっきベル君が驚きの声を上げていた様な気が……。
何となくベル君の方に顔を向けてみると、ベル君は何かに驚いたみたいに大口を開けた状態で固まっていた
「どうかしましたか、ベル君?まるで第1層でゴライアスと遭遇したみたいな顔をして」
「どんな顔ですか、それ!?というか、テレシアさんは驚かないんですか!?換金額が97,000,000ヴァリスですよ!!?」
「え?3ヵ月深層に潜って得た額って考えると妥当じゃないですか?中層探索でも朝から晩まで潜っていれば月10,000,000ヴァリスは稼げますから」
まぁ、その代わり休む間もなくモンスターに襲われることになりますけど。あと、単独で挑むことが大前提の話でもあります。
あっ、私とベル君がそんな話をしている内にギルド職員さんがサンタのプレゼント袋みたいに膨れた麻袋を持って戻って来た。
「ほらよ、97,000,000ヴァリスだ」
「どうも、ありがとうございます」
ギルド職員さんからお金の入った麻袋を受け取ると、私はそれを背嚢の中に入れ、背嚢を背負い直した。
「それじゃあ、また近い内に来ます」
「おう。ただ、貯め込んだのを一気に持って来るのは止めてくれよ。換金する金を奥から持って来るのも疲れるからな」
「いつも言ってますけど、疲れるならお金の運搬だけでも若い職員に任せたらどうですか?そうすれば疲れませんよ?」
「俺はもう若くないってか?」
「少なくとも、私より若くはないでしょう?ほら、ベル君。換金も終わったから本拠地に帰るよ」
私はギルド職員とのいつもの遣り取りを終えると、呆けて突っ立っていたベル君の手を取り、ギルドを後にした。
【視点:ヘスティア】
バイトも終わってベル君との愛の巣に帰って来たボクは、愛おしい眷属の帰りを待っていた。
「あっ!そういえば、そろそろテレシア君が戻って来る頃だ。ベル君にもテレシア君のことを教えてあげないといけないな」
ベル君の帰りを待っている時に、ふと最初の眷属のことを思い出した。テレシア=ヴァン=アストレア。僅か5年でLV.10に到達した自慢の眷属。
あの娘はどんなに長くても3ヵ月以内にはボクの元に帰って来ていた。そして、テレシア君が他の眷属達と長期遠征に出たのは約3ヵ月前。帰還祝いの準備をしておかないと。
そんなことを考えていると、ボク達の本拠地の玄関ともいえる隠し扉が開く音と、階段を下りてくる足音が聞こえてきた。そう、ボク達の本拠地は廃教会と隠し通路で繋がった地下室にあるんだ。
しかも、テレシア君の手で増改築が繰り返されたことで、どこぞの特務機関本部気分を味わえる広さがあって、不自由を感じない住居と言える。
って、少しばかり話が逸れたね。そんなことより今重要なのはベル君を出迎えることと、ベル君にテレシア君を含めた他の眷属達のことを話すことだ。
「神様ー、ただいま帰りましたー!」
「やぁやぁ、お帰りー!今日もご苦労様―――」
「3ヵ月振りです、ヘスティア様。只今戻りました」
「ヘスティア様、ただいま帰りました」
「久し振りじゃない」
「漸く帰ってこれたえ~」
「やっぱり長期遠征は疲れるのです」
ベル君に労いの言葉を掛けようと地上へと繋がる階段へと近付いたボクが見たのは、最愛の眷属と手を繋いで帰って来た最強の眷属の姿、とその他大勢だった。
……………テレシア君、君達の帰還をボクはとても嬉しく思うよ。けど、3ヵ月振りに戻って来たかと思えば、ベル君と手を繋いで帰宅とは一体どういうことだい?
それに手を繋いでいるベル君が赤面している理由も教えて欲しい。ボクが背中に跨ってもベル君がここまで赤面したことは無いぞ。
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