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Track 2 受け取るキモチ 繋げるミライ
活動日誌11 きっと・セイシュンが きこえる! 1
「……それでね? 今日集まってもらったのは……そろそろ決めないとダメだと思ったんだ? ……ほら、ライブも決まったんだし、ね?」
私達の真剣な眼差しに微笑みを浮かべながら、花陽さんは言葉を切り出していた。とは言え、何とも曖昧な切り出し方だった。
まるで、その言葉を言いたくないような――そんな歯切れの悪さを感じていた。
それでも私達が理解していないだろうから。
ううん。お姉ちゃん達は理解している感じだったから、私と亜里沙と涼風の為に――
「……うん、新しい……ユニット名をね? 決めないといけないんだよね?」
悲しそうな表情を一瞬だけすると、それでも決意を固めた表情に変えて、私達に伝える花陽さん。
確かに6人で新しく進むことは歓迎会で決めたこと。ユニット名自体もローカルアイドルとしては存続をする。
それでも6人の新しいユニット名を考えると言うことは、スクールアイドル μ's と言うユニット名を正式に終わらせること。
たぶん花陽さんは、自分の言葉で終わらせるのが偲びなかったのだろう。
だけど、きっと――
この言葉を使えるのはお姉ちゃん達ではないんだと思う。
アイドル研究部の部長か、スクールアイドルのリーダーだけが使える言葉――花陽さんか凛さんのどちらかなんだろうね。
だって、ユニット名って言うのはアイドルにとって重要なものなんだから――
お姉ちゃん達の輝かしい1年の代名詞と言っても過言じゃない存在なんだから!
そんなユニット名の幕引きは、今のお姉ちゃん達が在籍するアイドル研究部の部長か――スクールアイドルとしてのリーダーがするべきことなんだと思う。
だけどスクールアイドルは活動範囲が特異ではあるものの、歴とした部活動だ。
部活動であるのなら、正式な指針は部長がするべきなんだろう。
だからアイドル研究部として、花陽さんが言う言葉なんだと感じていたのだった。それが――
部長としての役割なんだと思うし、責任なんだとも思う。
そのことを、お姉ちゃん達も私達も深く理解していた。だから無言で花陽さんの言葉を受け止めていたのだった。
♪♪♪
「……それでね? 新しいユニット名……私達で考えてみたんだけど?」
そんな風に切り出した花陽さん。
その言葉を受けて、真面目な顔でお姉ちゃん達を見つめる凛さんと真姫さん。お姉ちゃん達は何も言わずに微笑みを浮かべていた。
きっと、お姉ちゃん達が提案したのだろう――花陽さん達で「新しいユニット名を考えて?」って。
いや、お姉ちゃん? まぁ、真剣で大事な場面に水を差すのは悪いんだけどさ?
お姉ちゃん達がユニット名を考えていた時、結局自分達では思いつかなくて公募って言う形で丸投げしたんだよね?
それなのに、今回は花陽さん達に丸投げなの?
ま、まぁ、公募のおかげで希さんからの μ's と言う素敵なユニット名が与えられたんだし――今のアイドル研究部は花陽さん達を中心に動いているから、お願いしたんだろうけどね。
「あのね? 私達考えたんだ? ……私達ってスクールアイドルなんだよね?」
「そうですね」
「つまり、凛達は音ノ木坂学院の生徒ニャ!」
「うん、そうだよぉ」
「だからね? 音ノ木坂から付けてみようと考えたの」
「音ノ木坂から?」
最初に花陽さんが言葉を繋ぐと、海未さんが優しい微笑みを浮かべながら相槌を打つ。
その言葉に凛さんが言葉を返すと、満面の笑みを浮かべて、ことりさんが相槌を打った。
そして、結末を真姫さんが紡ぐと、お姉ちゃんが不思議そうな表情で疑問の声を上げていた。まぁ、私にも理解出来ていないんだけど。
「つまりね? ……音ノ木坂……その中の音と坂を使おうと思うの?」
お姉ちゃんの疑問の表情に優しい微笑みを浮かべると、真姫さんはノートを取り出して『音』と『坂』――
漢字ではなくて、英語で『Music Hill』と、書き記す。
「私達は μ's ……9人の女神って意味だったでしょ? そんな私達も解散――したはずだったのにね?」
「あはは……」
真姫さんの言葉に苦笑いを浮かべるお姉ちゃん。
もちろん真姫さんもお姉ちゃんの――解散したはずの μ's を、今の状態へと導いてくれたことに不満があった訳ではないから、気にせずに話を進めていた。
「そんな私達6人は、女神の役目を終えて天上から舞い降りてきたんだと思わない?」
「……上手いこと言うねぇ?」
「ちゃかさないのっ!」
だけど口が災いしたらしく、今度は真姫さんに怒られるお姉ちゃん。
怒られてシュンとするお姉ちゃんに呆れた表情を含ませた苦笑いを送っていた真姫さんだけど、気を取り直して言葉を繋げる。
「9人の女神として天上から音楽を降らしていた――そんな私達が天上を舞い降りて……今度は音楽を地上で降りそそぐ……だから……」
「――音の坂で Music Hill なんだ! ……良いね?」
「「…………」」
「……うん! それじゃあ、ユニット名は――」
「ちょっと、待って?」
自分で言っている言葉が恥ずかしかったのか――終始、顔を赤らめて説明していた真姫さん。まぁ、自分で天上から音楽を降らしていたとか言うのって、真姫さんの性格的に恥ずかしいんだろうけどね?
だけど私は、お姉ちゃん達をそんな風に見ていたから、すんなりと心に入っていたのだった。
そんな真姫さんの言葉を遮って、お姉ちゃんが言葉を重ねる。
Music Hillの意味を知ったお姉ちゃんは、満面の笑みを浮かべて賞賛をすると、隣に座る海未さんとことりさんに顔を向けて意見を求める。お姉ちゃんの言葉に2人は笑顔で頷いていた。
そのことを確認したお姉ちゃんは、再度真姫さんの方を向いて正式に決定をしようとしたのだけど――真姫さんの言葉に止められたのだった。
真姫さんが話しているとは言え、これは花陽さんと凛さんも一緒に考えたユニット名のはず。まぁ、考えたと言うよりは賛同したのかも知れないけどね。
そして、この時点でお姉ちゃん達も賛同した。
同じアイドル研究部員ではあるけれど、ユニット名に関しては私達が口を挟める問題ではない。つまり、私達の賛同は要らないんだよ。
だから正式に決定で良いと思うじゃん?
なのに、真姫さん達とお姉ちゃん達。メンバー6人全員の賛同が得られたのに止められた。
そのことを疑問に思ったお姉ちゃんは、不思議そうに真姫さんを眺めていたのだった。もちろん、海未さんとことりさん。そして、私達も。
そんなお姉ちゃんの表情を眺め、苦笑いを浮かべた真姫さんは――
「別に、Music Hillってユニット名にする訳ではないわよ? ……Music Hillは正式な意味なだけ……本当のユニット名は、Music Hillを略して……」
「「「……えっ!?」」」
「「「…………!?」」」
そんなことを言いながらノートに正式なユニット名を書き記した。そのユニット名を見たお姉ちゃん達は驚きの声をあげる。
お姉ちゃん達の驚きの声を聞いて気になった私達も、ノートを覗いてソコに書かれたユニット名を見て、言葉にならない驚きを覚えていた。
書いた真姫さんと、隣で知っていた花陽さんと凛さんは――いたずらが成功した子供のような誇らしげな笑顔を浮かべていたのだった。
そう、お姉ちゃん達と私達が驚いた、お姉ちゃん達の新しいユニット名。
真姫さんはノートに書き記した文字を――
「……略して μ'LLよ!」
声高らかに宣言したのだった。
♪♪♪
驚いたままでいるお姉ちゃん達と私達を見ながら、真姫さんが顔を赤らめて言葉を繋げる。
「……ほら? にこちゃん達には μ's は私達だけのものにしたいって言ったじゃない? その気持ちは今でも変わらないんだけど……」
「やっぱりね? 完全に消しちゃうのは私達も悲しいから……」
「だから3人で μ's を忘れない――新しいユニット名を考えてみたニャ?」
そして、真姫さんに続いて花陽さんと凛さんが微笑みを浮かべて言葉を繋げていた。
ミューズとミュール――
s を LL に変えただけだし、確かに音の響きも似ている。
きっと、自分達でユニット名を言う時――メンバーとの思い出を感じながら紹介出来るんだろう。とても良い名前だと思っていた。
――なのに、お姉ちゃんときたら?
「……履物じゃないよね?」
「――当たり前でしょっ!?」
こんなことを言うんだもん。真姫さんが怒るのも無理はないよね?
一生懸命考えたユニット名を履物扱いされたら、私でも怒るもん。
まぁ、お姉ちゃんの場合 μ's の時も石鹸を連呼していたそうだから?
と言うか、空気読もうよ?
なんて、口には出していないけど同じこと考えた私も同罪なんだけどね? ごめんなさい。やっぱり、姉妹なんだろうね。
そんな冗談を交わして苦笑いを浮かべると、お姉ちゃんは再び海未さん達に微笑みを向けて――
「……私は良いと思うけど?」
「私も良いと思いますよ?」
「私も良いと思う」
そんな風に聞いていた。海未さんとことりさんも笑顔で賛同する。
「それじゃあ、新しいユニット名は……」
「…… μ'LL に決定だね!」
賛同を受けて、お姉ちゃんがユニット名を決定しようとして――ユニット名を言う手前で花陽さんに目配せをする。
そう、今この場は花陽さんが部長として話を切り出したのだから、最終決定も花陽さんがするもの――そんな目配せだったのだろう。
お姉ちゃんの意図を気づいた花陽さんは、微笑みを浮かべて頷くと、決定を言い切る。その言葉に全員が満面の笑顔を浮かべて拍手を送っていた。
まるで、新しいユニット名の μ'LL が μ's からバトンを受け取って――今、羽ばたこうとしているのを見送るように。
そんな全員の願いを受けて送られている拍手の中、これからお姉ちゃん達は μ'LL として活動していくのだった。
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