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【WEB版】マッサージ師、魔界へ - 滅びゆく魔族へほんわかモミモミ -

作者:どっぐす
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第一部
第二章 魔族YOEEEEE
  閑話 カルラ様の成長

 リンドビオル卿が、帰還した。
 その知らせをカルラは魔王城百階で受け、すぐにリンドビオル邸に行こうとした。

 ……が、宰相アルノー・ディートリヒにたまたま見つかってしまい、呼び止められた。

「カルラ様、外に出かけるときは門で守衛に一声かけるのをお忘れなさいませぬよう。護衛がいないと危険ですので」

「はーい。行ってきます」
「どちらに行かれるので?」
「ルーカスの家。マコトに会いにいくー」

 その返事を聞くと、宰相は表情を急速に硬化させた。

「そのマコトとやらは人間の奴隷ではありませんか……。
 弟子入りの件は魔王様より聞いておりますゆえ、仕事での接触はやむなしと考えますが。私的に会いに行かれますのはいかがなものかと」
「でも行くー」
「私はあまり感心いたしませぬ」
「えー」

「話によれば、カルラ様は早朝にも連日リンドビオル邸に行かれていたそうではありませぬか。マコトとやらにはその後すぐに仕事場で会うでしょうに」
「おかあさまといっしょに、ねている顔を見にいってたんだよ」
「そんなものを見てどうするのです……」
「マスコットみたいでかわいいよ?」
「……」

 結局引き留めに失敗し、宰相は昇降機までカルラを見送った。
 執務室に戻ろうと渋い顔で振り向いた彼に、従者が声をかける。

「宰相、ずいぶん神妙な面持ちですが」
「まずいな」
「まずい?」

「うむ。このままではカルラ様が取……たぶらかされてしまう恐れがある。やはり、魔国の将来を考えればマスコットとやらは排除したほうがよいのではないか」
「いま『取られてしまう』って言いかけませんでしたか?」

「……お前、左遷先はどこがいい?」



 ***



 カルラがルーカス宅に到着したとき、マコトは四畳半の部屋で着替えている途中だった。
 少し濡れている髪から、風呂あがりであることがわかる。

「マコトおかえりー」
「ただいまです。カルラ様、わざわざここまで来てくれたんですか」
「うん。知らせを聞いたから」

「それはありがとうございます……が、いきなり抱き付く文化は魔国にはないはずなので。離れてくれると嬉しいです」
「えー」

 カルラは物足りなそうな声を上げた。
 しかしマコトは銀色の頭を一度ポンと叩くと、褐色の頬にそっと手を当てて離れさせる。
 そして着替えを終えると、にこやかに彼女に話しかけた。

「ぼくがいない間、ちゃんと言ったとおりに練習してましたか?」
「うん。毎日練習してたし、ほかの弟子四人にもちゃんと教えてたよ」
「そうですか、それは助かります。ありがとうございます」
「早速やらせてー」
「ずいぶん気が早いですね。じゃあお願いしようかな」

 マコトはカルラに対し、施術の難易度が高い仰向けから要求した。
 手から始まり、腕を施術しながらのぼっていく。

「カルラ様は覚えが早いです。とっても上手ですよ」
「わーい」

 マコトは教えた知識のおさらいになる質問も挟んでいった。

「職人さんは猫背が多かったですよね。そういう場合はどうするんでしたっけ?」
「うん。胸をもむんでしょ?」
「一応合ってますが。できれば大胸筋、小胸筋と言いましょう。誤解されます」

 カルラの小さい手がマコトの左胸を這う。
 マコトはくすぐったいのか、少し体をよじらせた。

「あまりここは撫でるようにやらないほうがいいですよ。まあ強くやると痛い場所なので、ゴリゴリやるよりはいいですが」
「うん。わかったー」

 腹部操作に移る。

「腰痛の場合はどこが大事なんでしたっけ?」
「ちょうようきん」

「そうですね、腸腰筋です。ぼくはそこまでじゃないけど、反り腰の人であれば腸腰筋の中でも、特に大腰筋をゆるめるといいです」
「うん。覚えてるよー。このへんだ」

 カルラはマコトのソケイ部のあたりからヘソのあたりまでを人差し指でなぞった。
 またマコトは体をよじらせる。

「そ、そうですが……その触り方はちょっとくすぐったいので本番ではダメですよ」
「はーい」

 カルラはマコトの膝を曲げさせた。
 これも師匠からの指導である。腹部操作の際は、膝を曲げたほうが腸腰筋がゆるみやすくなるのだ。
 まず左のほうの腸腰筋から始まった。

「ぅっ」

 マコトが苦しそうな声を出した。

「んー? だいじょうぶ?」

 施術を続けながらカルラが確認を取る。

「あ、あの……その辺は男性に施術するときはもうちょっと、し、慎重に……少し当たってるので」
「当たる?」

 かみ合わないまま施術はなおも続く。

「……ぅっ」

 マコトは突然上半身を起こし、少しズボンを振るような動作をした。
 そして再び寝る。

「……?」
「あ、いや、その、ここに当たっていたというか……」

 指をさされた部分を見て、やっと彼女は納得したようだ。

「あーごめん。気を付けるね」
「いや、今のはちょっとぼくのモノがたまたま左に寄ってたのも原因なんで……カルラ様のせいとは言えないです、はい。気になさらず」

 施術が再開される。

「……あ」

 マコトは慌てて上半身を起こした。少し汗をかいている。入浴後で放熱しているからという理由ではないようだ。
 そしてパッとうつ伏せに体勢を変えた。

「仰向けはもう終わりで……次はうつ伏せいきましょう」
「ごめん、ボクのせじゅつダメだった?」

「いや、そんなんじゃないです……技術的にはそんなに問題ないです……」
「じゃあどうしたのー? いきなり。マコトへんなの」
「ぅぅ……死にたい…………」 
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