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【WEB版】マッサージ師、魔界へ - 滅びゆく魔族へほんわかモミモミ -

作者:どっぐす
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第一部
第五章 滅びゆく魔国
  第63話 決壊

「えっ……?」

 人間の軍が――。
 それを聞いた瞬間。後頭部から背中にかけて、何か冷たいものが通り抜けたような感覚があった。
 あまりに唐突で、衝撃的な知らせだった。

「少年よ。ダルムントのほうに……人間の軍が攻めてきたというのだな?」
「はい! 総攻撃が始まっています!」
「そちらのほうに来たのか……謀られたか……」

 ……。

「な、何で……」

 小さくそう呟かれた声。
 ぼくはその声の主である勇者のほうを見た。

「ち、違う! 何も――!」
「勇者様の言うとおりだ。我々も――」

 もしかしたら、無意識にキツい視線になってしまっていたのかもしれない。
 だが、彼女らが何も知らないというのはおそらく、本当だ。
 敵を騙すときはまず味方から――その対象となったのだろう。

 ルーカスもぼくもいない。このタイミングでの総攻撃。
 みんなが、危ない。

「ルーカス。すぐ戻ろう!」
「そうだな。少年よ、よく知らせてくれた。まだ走れるか?」
「はい! 走れます!」
「よし、行くぞ」

「マコト!」

 背後から勇者の悲痛な声がかかる。

「大丈夫! 疑ってないから!」

 ぼくは振り返らずにそう叫ぶと、部屋を飛び出した。
 彼女たちは、追いかけては来なかった。



 ***



 間に合ってくれれば――
 その思いは無残にも裏切られた。

「……!」
「まずいな」

 遠くからでもすぐにわかる。
 水掘に人間の工作兵が橋を渡したのだろう。城門にはすでに無数の人間の兵が押し寄せている。

 そして城壁のところどころに架けられた梯子。
 除夜の鐘のように門に打ちつけられている大きな丸太。
 今すぐ突破されてもおかしくない状況に見えた。

「一刻の猶予もない。人間の兵がまとわりついていないところから中に入ろう」

 ぼくたち三人は城の側面へと走った。



 しかし、ここにも人間の工作部隊が到着していた。
 人数は数百名か。

「だめだ。人間がいる! 裏に回――」
「いや、それでは間に合わない。ここから強引に入ろう」

 弓矢の射程を考え、五十メートルほど近づいたところで一度止まる。
 ここもすでに水掘には橋が渡されてしまっていた。
 その手前に固まっている人間の兵の塊から「魔族だ!」「敵だ!」という声があがる。

「道を開ける」

 ルーカスはそう言うと、右手のひらを掲げる。
 すぐに地面の色が広範囲に赤く変わった。

 ぼくは空を見た。
 巨大な火の……球ではない。紡錘形の火の塊から、両翼のように左右に広く伸びる炎。
 人間たちをまとめてなぎ倒すつもりで整形したら、そのような形になったのだろう。

 ヨロイ越しに感じる強烈な熱。
 それはノイマール戦役の勇者戦で見たものよりも大きい。

「行くぞ」

 強い風が起こり、ぼくたちの体を通り抜けていく。
 そして低く滑空し始める上空の火の鳥。
 同時に、ぼくたちも走り出した。

 人間の兵は盾を持っていたが、とてもそのようなもので防ぐことはできない。
 次々と火に包まれて倒れていく。
 出来上がった道を、ぼくらは駆け抜けていった。

 架けられていた橋を渡り、ルーカスが城壁の上に向かって叫ぶ。

「私だ! 引き上げてくれ!」

 ここには門がない。ロープで引き上げてもらうつもりだ。
 上から返事が来る。

 背後を見た。
 まだ残っている人間の兵たちが弓を――!

 ――と思ったら次々と火に包まれ倒れていく。
 ルーカスとフィン少年が火魔法を撃ったのだ。

「ロープ来たよ!」

 三本のロープが城壁の上から伸びてきた。
 ぼくたちはそれにつかまる。

「逃がすな!」
「殺せ!」

 付近にいた無傷の人間兵が寄ってきて、弓矢を浴びせようとしてくる。
 しかし、城壁上の魔族兵やロープを掴んでいる二人から沢山の火球が浴びせられ、狙いを定める余裕は与えられなかった。



 城壁の上に登ると、ところどころで人間の弓と撃ち合いが発生しており、正門の上は特に激しい様子が見て取れた。

「ルーカス! 肩に矢が!」
「数撃ちゃ当たるというものだろうな。大丈夫だ、この程度ならどうにでもなる」

 そう言うと、彼は右手で左肩に刺さった矢を掴み、抜いた。
 血が噴き出す。

「それより門が心配だ。指揮所まで急ぐぞ」

 彼は肩に手を当て治癒魔法をかけながら、正門近くの指揮所を目指し走り出す。
 ぼくとフィン少年も続いた。



 ぼくたちが指揮所に着く直前だった。

「城門が破られました!」

 悲鳴のような叫びが、聞こえた。

 門のほうを見る。
 ここでは直接門の状態を見ることはできないが、門から内側に向けて丸太の先が突き出ており、破られていることが上からもわかった。

 魔族の防衛隊はそれに対し、半円状に取り囲むような形で攻撃魔法を門へ向けて繰り出している。
 辛うじて、破られた門から人間がなだれ込んでくることを防いでいるようだ。

 しかし人間側は膨大な人数を生かし、前が倒れても次から次へと押し寄せてきている。

「間に合わなかったか」

 そうつぶやくルーカス。
 その彼の姿を見て「司令長官!」と駆け寄ってきたのは司令部の一人。確か参謀だ。

「司令長官! よくぞご無事で」
「大事な時に留守ですまなかった。状況は……悪いようだな」

 参謀が早口で報告をする。
 それを聞くルーカスの表情は険しい。
 急な総攻撃だったため、残留民間人や文官の避難準備が間に合っていないらしい。

「これは……まずいな……」 
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