【WEB版】マッサージ師、魔界へ - 滅びゆく魔族へほんわかモミモミ -
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第一部
第五章 滅びゆく魔国
第54話 ダルムント、要塞化完了
人間側に動きあり――。
その情報が入るとすぐに、魔王軍がダルムントへと派遣された。
「えらく立派になっちゃったね。この都市」
以前視察に来たときに登った塔の屋上。
ぼくはルーカスと一緒にまたここに来て、都市を上から再確認していたが、あまりの様変わりに驚いてしまった。
見る限りでは、要塞化の工事はほとんど完了していた。
新規に造られた堀は、川の水が引かれて水掘となっている。
城壁も大規模な拡張工事がおこなわれて厚みが増し、偵察のための塔も増築されていた。
ダルムントは半乾燥地帯を流れる大きな川の河口デルタにあるが、すっかりその川の力を生かした城塞都市に生まれ変わったようだ。
「うむ。王都にて他の用途でも職人を徴用しているので人数不足だったが。工事が間に合ってよかった」
「他の用途?」
「ふふふ。それはまだお前にも内緒だ」
よくわからないが、軍の責任者として何かためになることをしているのだろう。
そう。
彼――ルーカスは、魔王軍司令長官へと昇格した。
軍の戦力はリンブルクのときよりも大幅に下がっている。
単純に数が減ったということに加え、度重なる敗戦で有能な将やベテラン兵士の戦死も相次いでおり、数の減少以上のダウン感がある。
よって、いま魔王軍司令長官になるというのは最大の貧乏くじである。
彼は例によって何の不満も言わないが、この状況で軍のトップに座らされても能力を十分に発揮できるとは到底思えない。
彼がもっと前からトップで指揮していれば、と思う。
もしそうであれば、ノイマールでの大敗も、リンブルクでの大敗もなかったように思うし、その前のいくつかの敗戦も――ぼくはその時まだこちらの世界に来ていなかったので詳しく知らないが――なかったのかもしれない。
この戦争も、今とはだいぶ違った展開になっていただろう。
もちろん、古くからあるしきたりの問題や、彼のキャラクター的な問題もあったのかもしれない。
それでも、彼に対して、そして魔族全体に対しても、同情を禁じ得ない。
「どうした? 何か考え事でもしているのか」
その声で現実に引き戻された。
「最初からルーカスが軍のトップだったら、って考えてた」
「ほう。しかし人間の国では『歴史にニラレバはない』と言うぞ」
「……」
「ん?」
「そういうのもさ、今まで知っててわざと間違えてたんだよね」
「ふむ。今日はずいぶんノリが悪いな」
ルーカスは微笑とも苦笑ともつかない笑いを浮かべながらそう言った。
「まあ今そのようなことを考えても仕方あるまい。物事は基本的にうまくいかないことのほうが多いぞ?
大事なのは、現状をしっかりと受け止めて、今、そして今後何ができるのかを粘り強く考えることだ」
「ポジティブだなあ」
「ふふふ……それよりも、その剣はどうだ? 毎日素振りしていたようだが、慣れてきたか?」
ルーカスはぼくの持っている剣を見ながらそう言う。
武器が欲しい――その希望に応えてくれて持たせてくれた、ルーカス監修の特製ソードだ。
嫌だと言っていたにもかかわらず、中二病デザインの剣が仕上がってきた。
黒基調で変な装飾が付いており、赤い宝石のようなものも埋め込まれている。
「うん。だいぶ慣れてきたよ。ただデザインが――」
「素晴らしいだろう? 私のデザインは完璧だ」
「……」
「ふふふ、何か良い名前をつけようかな」
「いや要らないから」
ダメだこりゃ。
「リンドビオル卿!」
階段のほうから声がして、ぼくとルーカスはそちらを向いた。
兵士だ。
「ご報告です! 斥候が人間の軍を発見しました! 二日程度でこちらに来るものと思われます! 数は最低五万とのこと!」
ルーカスが「わかった。ご苦労」と言うと、兵士は駆け足で戻っていった。
「おいでなすったようだな」
「相変わらず人間の軍は数が多いね」
「ふふふ、そうだな。こちらとしては持久戦に持ち込むしかないだろう」
持久戦。
その言葉からは嫌な予感しかしない。
「今回は投石櫓で攻撃されても大丈夫なの?」
大丈夫なの、というのはもちろん、文官や民間魔族のヒステリー対策は大丈夫なのかという意味である。
この前のリンブルク防衛戦では、ルーカスの用意した作戦自体に問題はなかった。
しかし途中で防衛方針に茶々が入り、痛い目に遭っている。
魔王軍は前にも後ろにも敵――前回の戦ではそんな感じだった。
「一応今回は宰相に根回しはできている。完全に投石を防ぐことは難しいからな……。ある程度の被害は我慢してもらうよう周知をお願いした。
リンブルクのときのように恐慌を来すことはないだろう」
「そっか。ならいいけど。なんかあの人、今回また来てるよね?」
「来ているな」
なぜかまた宰相が軍に同行してここに来ている。
邪魔をしてこなければいいが……。
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