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【WEB版】マッサージ師、魔界へ - 滅びゆく魔族へほんわかモミモミ -

作者:どっぐす
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第一部
第四章 魔族の秘密
  第35話 軟禁、そして……

 二日ほど待たされたが、ぼくは牢を出た。

 心配なのはリンブルク防衛戦の行く末だが、もう落ちている可能性もあると思っている。
 願わくば、みんな無事に撤退できていますように、だ。

 そして、今ぼくがいるここは、イステールの王都にある迎賓館……らしい。
 「らしい」というのは、よくわからないためである。
 目隠しをされて連れてこられたのだ。

 しかも、現在許可なく一人で部屋から出られない状態になっている。
 ズバリ『軟禁』だ。

 国側と勇者がどんな話をしたのかは聞いていない。
 だが空気を察するに……おそらく国側は、さっさと牢で拷問し何も引き出せないようなら処刑、という流れにしたいのだと思う。

 一方勇者は、ぼくを連れてきた経緯や、国側からそんな話は聞いていなかったという事情から、それはちょっと待ってくれという考えのようだ。

 勇者以外は皆、国側の考えを支持していたと思われる。
 だがこれまで戦の牽引役となってきた勇者を無視するわけにもいかないのだろう。
 折衷案として、屋敷に軟禁し、ぼくが自発的に協力するかどうか様子を見ようということになったのではないか。

 もちろんぼくのほうにはイステールに協力する気など毛頭ない。
 隙あらば脱走の機会を伺いたい。



 部屋はかなり広い。
 中央にある大きなベッド。
 その上には、この世界では贅沢品と思われるふわふわの羽毛布団。
 壁際には立派なアンティーク調の机と椅子。
 とても良い部屋なのだが……。

 入口の横に、壁に寄りかかってこちらを睨む鎧姿の男がいる。
 リンブルクの戦いのときに勇者の後ろにいた人らしい。
 兜の被服面積が大きく顔がよくわからないため、言われるまで気付かなかった。

 この迎賓館に来てから四日目になるが、彼に見張られ続けている。
 監視はかなり徹底しており、食事やトイレはもちろん、風呂も一緒に入ってきた。
 さすがに夜中は交代要員が来ているが、一日の大半をぼくの監視に費やしている状態である。

 風呂のときに顔が見られるかな?
 そう期待したが、顔はマスク、頭は手ぬぐいのようなものでうまく隠されてしまい、彼の体がマッチョであるということしかわからなかった。
 名前を聞いても教えてくれないので、脳内ではマッチョ男という名称で処理している。

「……なんだ?」
「いや、何でもないけど」

 なんとなくそのマッチョ男を見ていたら目が合ってしまい、咎められた。

「脱走でも考えていたか」

 はい。

「……勇者様はお前に甘すぎる」

 マッチョ男はぼくのほうから視線を外すと、少し斜め上を見ながらそうボヤいた。

「そうなのかな?」
「ああ。お前は魔女だ。さっさと拷問して火あぶりにするべきだと、おれは思う」
「魔女って。ぼくは男だけど」
「男でも女でも関係ない。異端認定されれば魔女として火あぶりだ」
「……」

 今まで魔国で働いていたわけだから、殺されるというのは自然と言えば自然である。
 一応それは理解しているつもりだ。

 だが、やはりまだ死にたくない気持ちもある。
 日本で大失敗した治療院の開業だが、この世界では魔国でうまくいっていた。
 そのため、患者がたくさんいる。弟子の指導だってまだ道半ばだ。
 できれば生きて向こうに帰りたい。

 ただ、延命のために魔族に不利になるようなことをしゃべるのもいやだ。
 死んでもいやだ。
 我ながら矛盾だが、実際そうなので仕方がない。

 だいたい、全部しゃべって人間に協力したところで、それはそれで「ハイ用済み」と殺される可能性もある気がしている。
 勇者は反対してくれるだろうが、一人だけではさすがに庇いきれないだろうから。

 そうなると。
 やはりぼくが採るべき方針としては――
 のらりくらりとできるだけ時間を稼ぎ、隙を見つけて脱走。
 それしかないと思う。
 それで失敗してまた捕まったらもう仕方ないので、諦めて刑死することにしよう。

 コンコン――。

 扉から、ノックの音が聞こえた。

「どうぞ」

 ぼくよりも先にマッチョ男が答え、扉を開けた。
 あ……。

「マコト」

 勇者だった。
 会うのはぼくがこの部屋に入った日以来となる。

 やはり全身鎧の姿。
 いつもと違うのは、腰に小さな袋がぶら下がっていること。
 そして両腕で、紐でまとめられた黒い鎧を抱えていること。
 ――ぼくの使っていたヨロイだ。

「勇者様、体調は大丈夫なのですか?」
「うん、心配しないで。ありがとう」

 いきなり体調について聞くのか。変だな。何かあるのだろうか?
 ぼくは少し訝しく思った。

「マコト、これ。牢から持ってきておいたから」
「ありがとう。そのヨロイ、デザインは恥ずかしいけど、貰い物なのでなくしたくないんだ。助かるよ」

 ルーカス設計の特製ヨロイを受け取った。
 こうやってあっさり渡してくれるということは……。
 やはりヨロイに魔力が込められていることにはまだ気づかれていない――そういうことでよさそうだ。
 脱走するチャンスがあれば、そのときには大きな助けになるだろう。

「あと、これも」

 彼女は腰に下げていた袋から本を取り出した。
 あ、牢でくれた四冊の本だ……。
 まだ一冊も読み終わっていなかったのでありがたい。

「それも持ってきてくれたんだ。うれしいな」
「机の上に置いておくけど、いい?」
「うん。ありがとう」

 ぼくがヨロイを抱えてどこに置こうかと迷っている最中だったので、勇者は四冊の本を持ったまま部屋の机のところまで歩いた。

 そして――。

 バッタリと倒れた。

「カミラ!」
「勇者様!」 
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