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【WEB版】マッサージ師、魔界へ - 滅びゆく魔族へほんわかモミモミ -

作者:どっぐす
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第一部
第二章 魔族YOEEEEE
  第23話 温泉に入浴

 ここの森については、ルーカスも抜ける道がわからないそうだ。
 むやみに突っ切ろうとしてモンスターに囲まれると危ない。
 仕方なく、来た方向に戻った。

 元の場所にまだ勇者たちがいるのではないか?
 ぼくはそう思い、念のため森を抜ける直前でルーカスに施術をし、魔力を回復してもらったのだが……。

「倒れていた四人も、いちおう歩けはするだろう。いつまでも居座ることはありえない」

 と、彼は余裕綽々だ。軍人としての経験からくるカンか。

「ほら、誰もいないだろう?」
「ほんとだ」
「では東の方向に行こうか。街道に出られる」

 草原と灌木が続く景色の中を歩きはじめた。
 丈の低い草原、前方に自分の影が長く延びる。
 王都の辺りに比べると、だいぶ緑が豊富だ。



 街道に出た。
 ここを南に下っていくことになる。
 だが、リンブルクという城塞都市まではかなり距離があるそうだ。

「日が沈む前にたどり着けそうもないな。どこかで野営の準備をするか」
「ええっ? 夜通しで歩かなくていいんだ?」
「ああ。真っ暗だとかえって危険だ」

 えらくマイペースである。
 もう作戦は中止になった。軍は引き揚げ、ノイマールは放棄が決まっている。
 夜通し走って急いで帰る必要はないということだろうか。
 しかし……。

「ここ、イステールにだいぶ近いよね? 大丈夫なの?」
「ふふ、大丈夫だ。このあたりには詳しいのでな」

 彼は「こっちだ」と言い、左手――東の方角を示した。
 ぼくたちは今まで真っ直ぐ歩いていた街道から外れ、その方向に進んだ。

 するとしばらく歩いたのち、小さな川のすぐそばの岩場に、人が入れそうな大きめの横穴があった。

「ここなら安全だろう」
「へー、こんなところにちょうどいい穴が」

 今日はここで野宿ということになった。

「なんか頭と顔が砂ぼこりでザラザラする。前の川で水浴びしてこようかな」

 歩いていると気にならないが、じっとしているとかなり気になる。

「ふふふ、私が魔法でお湯を――」
「湯船がないでしょうが……」
「おお、それは盲点だった」

 あのさ、そういうのってわざとボケてるの? ネタなの?
 思わずそう問い詰めたくなった。

「ふふ……そういうことであればだ。
 この岩場を東方向に少し行くと温かい泉がある。そこに行くとよい。
 私は昔このあたりをよく歩き回ったのでな。まだ覚えている。下手したら誰も知らないかもしれないものだ。
 そのあたりは凶暴なモンスターもいないし安全だ。人間の見回りも湧かないだろう。冷たい水よりも温かいお湯に浸かったほうが疲れも取れるぞ」

「ルーカスは?」
「私も、お前が行って安全なようだったら行こうかな」
「わかった。なるべく早めに帰ってくるね」



 ***



 本当だ。岩場に囲まれて泉がある。
 湯気で景色が白っぽい。
 奥がよく見えないので大きさはわからないが、結構大きいと思う。

 手を入れてみる。
 うん。ちょうどよい温度だ。ルーカス、グッジョブ。

 さてと、ヨロイを脱ごうかな。
 まず兜からっと。

「お、お前は……!」

 いきなり女性の声が飛んできた。
 不意打ちだったので、体がビクンとなった。
 鼓動が急に激しくなる。
 声の方向を向くと……泉の湯気の中に、人が!

「あっ、ご、ごめんなさい!」

 慌てて後ろを向く。
 しまった……先客がいたのか。
 まさか中にいるとは思わなかった。もっとよく確認すれば良かった。

「わざとじゃないんだ。急ぎじゃないんであとで出直すよ」

 後ろ向きのまま言い、一度離れようとした。

「あ、待って!」
「え?」
「少し、き、聞きたいことがあるんだ」

「……? いいよ。こっちは後ろ向いたままで聞くから。なに?」
「ぬ、布巻いてるから……こっち、来てもらって、大丈夫、だよ」

 いや、後ろ向きのままでいいから――
 そう言おうとしたが、何かわけありな気がしないでもない。
 言う通りにすることにした。

 恐る恐る振り返り、慎重に近づいていく。
 そして目線が高くならないように、泉のすぐそばでしゃがみこんだ。
 脱いでいた兜は横に置く。

 女性はちょうど胸のあたりまでお湯に浸かっている。
 布は胸を隠すように巻かれていた。

 ……。

 最初にそこに目線が行ったのはもちろん変な意味はない。
 が、すぐに失礼だと思って目線を上にずらした。

 さっきは慌てていてよく見ていなかったが、恐らくぼくよりも若い。
 女の子だ。
 ショートと思われる髪は裾が濡れており、肩に雫を垂らしていた。
 黒髪のように見えるが、ぼくほど真っ黒ではない。少しだけブラウンが入っているのだろう。

 女の子は、少し緊張した様子で話しかけてきた。

「ええと……お前、じゃない……き、キミは人間なんだよね?」
「そうだけど?」
「人間なのに……魔国の、兵士なの……?」

 ……?

「ん? いきなり変なこと聞くね。どこから魔国だの兵士だのが出てきたの」
「あ、ああ、いや、その……ここ、魔国の都市に割と近いし。それに、そのヨロイ……」

 ああ、そうか。
 全身漆黒パーツに、兜には二本のツノ。
 このヨロイ、デザインが中二病すぎていかにも魔国産に見えるのか。

「そういうことか。たしかにぼくは魔国の者だけど、兵士じゃなくて民間人。マッサージ師だよ」
「まっさーじし? なに、それ……」 
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