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【WEB版】マッサージ師、魔界へ - 滅びゆく魔族へほんわかモミモミ -

作者:どっぐす
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第一部
第二章 魔族YOEEEEE
  第20話 ノイマール戦役

「魔王様。ただいま参りました」
「リンドビオル卿か。脱獄が早いな」
「間に合って幸いでございます」

 魔王は「そうだな」と少しニヤリと笑った。

「とりあえず魔王の特権で恩赦としておこう」
「ありがとうございます」

「だが今回は司令部の警護ということで付いて参れ。
 作戦自体は司令官であるメルツァー卿や他の参謀に任せるがよい。そうしないと後で宰相のディートリヒがうるさいからな」
「はい、心得ております」

 宰相はディートリヒという名前らしい。
 彼は軍に同行していない。魔王城でお留守番である。

「お? マコトもいるのか」
「はい」
「おお、それは便利だな」

「魔王様……あくまでも彼は兵士の回復のために連れてきております。申し訳ございませんが、私的利用はお控えあそばされますよう」
「ちっ」
「……」

 魔王軍はノイマール救援のため、王都ミッドガルドを出発した。
 現在動かせる第二師団、第三師団、第六師団、第九師団、第十師団の五個師団。
 魔王直轄の親衛隊も含め、総勢約一万六千人である。



 ノイマールは大きな内海の南西岸に位置している都市である。
 内海を挟んで北はスミノフ国、東は陸続きでイステール国にも近い距離にある。

 今回、海からはスミノフ船団からの攻撃が予想されている。
 それだけであれば十分に耐えきれると見込まれているが、東からもイステールおよびカムナビの大軍が侵攻準備とのこと。
 さすがにそれは耐えきれない。

 よって陸路の大軍がノイマールを攻撃するところを背後から叩こう。
 それが、司令長官であるメルツァーが立てた作戦らしい。
 が……。

「そのような展開にはならない気がする」

 ルーカスは行軍中、ぼくのヨロイの耳元でこっそりとつぶやいていた。
 先にノイマールを陥落させたところで、あの拠点は防御が薄くて守りづらい。
 援軍である魔王軍を放置してノイマール攻略に向かうとは考えにくいという。

 恐らく人間の大軍は途中で進路変更し、こちらに向かってくる。
 ノイマールに行く途中で会戦が発生する可能性が高い。
 それがルーカスの予想だ。

「人間の大軍が進路変更した模様です! こちらに向かっています!」

 偵察兵が司令部に飛び込んで叫んだ。
 ルーカスの予想通り。司令部の目論見は外れた。

「むむむ……では前線基地を設営して野戦の準備を」

 メルツァーがつぶやいた。
 四十代くらいに見える壮年の司令長官。その表情にはやや焦りが見える。

 今回、彼は師団長から魔王軍司令長官へと、明らかに不本意ながら昇格した。
 しかし敗戦となると責任を取らされるはず。
 本人のやる気は十分である……と信じたい。



 ***



 人間の軍との戦闘が始まったという報告が司令部に入った。
 ノイマール南東の平原で会戦勃発である。

「マコトよ。ここには負傷者や、攻撃魔法隊で魔力が尽きた者が次々と来るだろう。お前はその者たちや、治癒魔法班の魔力回復を助けるのだ」
「うん。わかった」

 ぼくは、司令部の隣に仮設された救急及び魔力回復休憩所へと移った。
 ヨロイ姿のぼくだけだとビックリされる恐れがあるので、ルーカスも一緒だ。

 会戦は、飛び道具となる攻撃魔法隊の一斉攻撃からスタート。
 しばらくすると、魔力切れの攻撃魔法隊のメンバーが次々とやってきた。

「では施術していきますね」

 ――魔力回復が早まる効果が証明されている。怪しい術ではないので安心してほしい。
 そうルーカスが説明したのち、施術を始めた。
 合戦にそぐわない「アアアーッ」という声が、休息所に響き渡る。

 とにかくここでは、数をこなすことが重要だと思う。
 座位で五分程度の施術を次々と施していく方針にした。

 施術内容については、短時間で最大の効果をあげるべく、経穴の刺激をメインとする。
 ぼくは人間なので魔力のことはよくわからない。
 よって、ツボの選択は完全にカンだ。回復に効果がありそうなものを適当に選択した。

 足裏の「湧泉」、下肢の「足三里」、お腹の「関元」や「気海」、手のひらにある「労宮」などを刺激していく。

「……凄いな。確かに普段よりずっと早い気がする。ヨロイよ、お前は何者だ」

 その兵士の質問に、どう説明しようか迷っていたら。
 離れたところに座っていた兵士が
「あ! お前マコトじゃないか?」
 と言ってきた。
 知っている顔だ。

「そいつはマッサージ師ってやつなんだ。生きて帰ったらお前もそいつの店に通うといい。凄いぞ」

 彼が所属している第九師団は、ルーカスが試験的にうちの治療院に通わせている。
 ぼくのかわりに説明してくれた。

 まもなく、負傷者も次々と送られてきた。
 治癒魔法班が回復をおこなっているが、すぐに治癒魔法が間に合わなくなったようだ。
 ルーカスも魔王に一声かけたのち、治癒魔法班に混ざって手伝い始めた。
 ぼくもひたすら施術して、攻撃魔法隊のメンバーを前線に送り返していく。



 すぐ隣ということで、司令部の様子も聞こえてくる。
「申し上げます」
 という声が聞こえた。伝令が飛び込んできたようだ。

「第三師団、崩壊しました!」

 ……早い。
 まだ始まってそんなに時間は経っていないのだが。大丈夫なのか。

 そして間をおかず、別の伝令の声が聞こえてくる。

「第六師団、崩壊しました!」

 ……。

「第二師団、崩壊しました!」
「第十師団、崩壊しました!」

 よえええええ! 
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