【WEB版】マッサージ師、魔界へ - 滅びゆく魔族へほんわかモミモミ -
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第一部
第二章 魔族YOEEEEE
第18話 魔国の興廃この一戦にあり?
「揃ったようだな」
魔王城百階にある謁見の間で、玉座の魔王が声を発した。
その広い謁見の間には、いかにも位が高そうな恰好の魔族が、多数控えている。
会議というよりも、決起集会に近い性質の集まりのようだ。
「よし、では宰相。頼むぞ」
魔王が、玉座のすぐ斜め前に立っている初老の男性に声をかけた。
「皆の者。我が魔国の北の拠点ノイマールに向け、人間どもが出兵予定との情報が入った」
宰相の話が始まった。
魔国に宰相がいるということは聞いている。
権力的にはかなり強いらしいが、ルーカスとの相性はあまりよろしくないらしい。
ルーカスのほうは宰相を特段嫌っているわけではないのだが、どうやら宰相が変人ルーカスをあまり好いていないようで、彼としては色々とやりづらさがあるとのこと。
「情報によると、今回も先の戦と同様、攻めてくるのはイステール国、スミノフ国、カムナビ国の三か国による連合軍となる」
イステール国は大陸中央部から南部にかけて存在する国。
スミノフ国は大陸北部の国。
そしてカムナビ国は大陸北東部の国。
魔国と国境を接するのは、主にイステール国である。
「ノイマールには近くに貴重な鉱山がある。先の戦いでも我々は鉱山を失っており、これ以上の喪失は国勢のさらなる衰退を招くであろう。
しかるに、速やかに軍を現地に派遣すべきであると判断するものである」
どうやら出兵する予定のようだ。
「出兵に関してはすでに魔王様も了承済みである。諸卿におかれては励まれたい」
「御意」
「御意」
「御意」
「御意」
「御意」
「御意」
「御意」
「御意」
「御意」
「御意」
「御意」
「御意」
「御意」
「御意」
「反対」
「御意」
「御意」
「御意」
……。
「ん? 今、誰か『反対』と言わなかったか?」
宰相が訝しげに言った。
「はい。私でございます」
ぼくも、出席者の視線を一手に集めているその人物を見る。
げ、ルーカスじゃないか……。
魔王を見ると、顔を手で押さえていた。
アチャーな感じか。
「リンドビオル卿か……。反対とはどういうことか?」
「はい。〝今すぐ〟の出兵には反対ということでございます」
「……これは魔王様の意思でもあり、決定事項である。正気の沙汰とは思えんが」
「私は至って正気でございます。ノイマールは要塞化も不十分であり、人間の言葉を借りますと『攻めるに易く守るに難い』拠点。増援到着までもたぬ可能性すらあると思われます。
ここは同胞および物資をすべて引き揚げさせ、一時的に人間に明け渡すことがベストと考えております」
場内はにわかに騒然となった。
宰相は「そのような提案が通るわけがなかろう」と言って続けた。
「卿は最近、怪しげな術を使う人間を飼っているようだが。何か悪影響を受けてはおるまいな?」
「……たしかに、人間の奴隷を入れて試験を致しておりますが」
参加者の何人かは、場から外れた所にいるぼくのほうをチラリと見た。
さすがにもう知っている人もいるようだ。
このヨロイの中の人が、その「人間の奴隷」であると。
「卿の父は魔国一の勇将と名高かった。その名を汚さぬうちに、その人間は処分するべきではないか」
「なんだと!?」
いきなりの女声。
宰相とルーカスが、同時に「え?」と魔王のほうを見る。
魔王は慌てた様子で口をおさえた。
「あ……いや、なんでもない。気にするな」
なんだ今のは。
しかし、おそらくこの宰相の反応がこの国では正常だと思う。
ルーカスのほうが異端なのだ。
「ええと、つまりだ。奴隷であっても近くにいれば、卿の精神に悪い影響を及ぼす可能性はあろう」
「いえ。悪影響を受けているという事実はないと考えます」
「わからぬぞ? 自分では気づかぬものだ」
「現在は魔王様も了承のもと、大切な試験をしております。少なくとも今すぐの処分はありえません」
「ふむ……。まあなんにせよ卿の態度は問題である。魔王様、このたびの戦が終わるまで、リンドビオル卿には牢に入ってもらいますが。よろしいですかな」
「あ、ああ。まあ仕方ないな。リンドビオル卿よ。今回は牢で休んでおれ」
ルーカスはつまみ出された。
ぼくは彼を追いかけるか迷ったが、一応最後までここにいることにした。
この会議が終わったら、牢のほうに面会に行くことにする。
場は仕切り直しになり、宰相が話を続けていた。
「では、将軍たちよ。作戦の総指揮を執るべき立場の軍司令長官であるが……前任者が辞任し、いまだ空席のままである。この有事に我こそはという者はいるか」
魔王は軍の最上位でもあるが、実際に細かい指揮をおこなうわけではない。
師団長の上位で実際の指揮を執るのは、軍司令長官である。
しかし空席のままとは初耳だった。
……。
しーん。
え、何これ。
「……? 誰かおらぬのか」
「はい」
一人の男が挙手をする。また場内の視線が集まる。
「おお、トレーガー卿か。卿ならば安心して――」
「いえ、私ではなく他薦でございますが。ヘスラー卿が適任であると思われます」
立候補ではなく他薦だった。
宰相は「ほう、ヘスラー卿か。ではいかがであろうか?」と振る。
「いえ、私よりもメルツァー卿のほうが適任かと思います」
ヘスラー卿と呼ばれた人物も他薦をしたようだ。
「私よりもワーグナー卿のほうが戦上手だ」
「いや私よりフレンツェル卿が適任」
「私よりゾンバルト卿がよい」
「ルーベルト卿が適任」
「ゲイラー卿が」
「いゃぁ」
宰相が顎を手でいじりながら「うーむ」と呻く。
そして魔王のほうに視線を向けた。
「では、ここは魔王様に総指揮を任せる将軍をご指名頂きたく」
「そうか……じゃあメルツァー卿で」
「ではメルツァー卿に決定した。魔国の興廃はこの一戦にあると言っても過言ではない。よろしく頼むぞ」
「むむむ……謹んでお引き受けいたします」
この人たち、大丈夫なのかな……。
前司令長官が辞任というのは、恐らく前回の敗戦の責任を取ったのだろう。
だが、後任を決める時間はいくらでもあったはずだ。
この感じだと、ずっと辞退合戦になっていて決まらなかったのだろう。
まだ今回の戦いは始まっていないが、現在のところ不安しかない。
魔国が滅ぶと、せっかく開業したうちの治療院も潰れてしまう。
なので、魔王軍には頑張ってもらわないといけないのだが……。
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