【WEB版】マッサージ師、魔界へ - 滅びゆく魔族へほんわかモミモミ -
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第一部
第二章 魔族YOEEEEE
第17話 魔国の兵士
そもそも、ぼくは魔国の軍がどのような組織なのかを知らない。
読んでいた小説などでは、中世ヨーロッパ風の世界であることが多い。
中世ヨーロッパであれば封建制であり、それぞれの領主が騎士を従えている。
そしてその騎士の日常は、土地の管理や、警備、裁判などの仕事をしつつ、訓練――
そんな感じだったと思う。
ところが、ルーカスは「兵士」という呼び方をしている。
中世ヨーロッパの騎士とは少しかたちが違うのではないか?
ぼくは、おそらく知っておいた方がいい。
日々の生活がどうなっているのかを知れば、施術上のヒントが見えてくる可能性もあるからだ。
「ルーカス、ぼくは軍について何も知識がないんだ。〝簡単に〟教えてくれるかな」
「よいぞ。簡単に説明しよう」
念のため、脱線防止に〝簡単に〟を強調する。
ルーカスがメイド長を呼んだ。
ちゃぶ台にルーカスの好物カップスープが置かれ、彼の説明が始まる。
またしても話が枝葉だらけで長かった。簡単にと言ったのに。
大幅に割愛すると次のようになる。
魔国は軍制がある。
魔王を形式上のトップとして、その下に軍が存在している。
そして軍は師団で構成されている。
地方の有力な家は私兵を抱えているケースがあり、緊急時には戦争にも参加することもあるらしいが、それは例外。
きちんと職業軍人が存在し、基本的には彼らが戦に出ていく。
軍の兵士は徴兵されたわけではなく、ほぼ志願者のみ。
普段は兵舎に住み、戦がない時は訓練をしつつ、街の警備や災害対応をおこなっている。
滅多にないが、危険なモンスターが近くに現れた場合は退治もしている。
なるほど……。
しかし。近代国家のような軍制があって、しかも志願者。
それなら強いはずでは? と思うのだが。
それをルーカスに突っ込んでみたら、「数不足や士気不足もあって、やはり弱い」とのこと。
敗戦続きで補充が間に合っていないこともあり、現在は三千人規模の師団が十二個あるのみだという。
そうなると、国内をかき集めても三万六千人程度。
当然、各要所の警備に常駐させなければならない分もある。
会戦で動員できるのはせいぜい一万二万の世界だろう。
一方、人間側はやる気になれば三倍以上は用意できるとのこと。
数の力は強いだろうから、確かにそれでは苦しい。
士気不足は……どうしてだろう? 志願者なのに。
***
ルーカスの宣伝開始からほどなくして、兵士が続々と来院するようになった。
彼はひとまず一個師団に声をかけていると言っていた。
そしてどんな効果が出るのかを調べるべく、連日兵舎に足を運び、視察及びヒアリングもおこなっているらしい。
二か月データを取って効果が確認できたら、他の師団にも声をかける予定だとも言っていた。
その頃には、新しく入った四人の弟子も戦力になっているはず。
ペースとしては問題なさそうだ。
兵士の第一印象であるが、「活力がない」に尽きた。
体は屈強でも、精気が感じられない。本当に志願して軍に入ったの? と疑うレベルだ。
敗戦が続いている国の軍はこんなものなのだろうか?
――うちの施術で何か良い変化が出ればいいな。
本心からそう思う。
そして魔族の危機的な状況とやらも少しはマシになれば、施術者としてこんなに嬉しいことはない。
こうして、ひたすら診療時間には既存患者と兵士をモミモミ。
診療後には弟子の指導、たまに魔王城百階に呼び出されて魔王をモミモミ。
そのような毎日が続いた。
***
そして二か月ほど経ったある日――。
さて……。
今朝も寝坊することなく目が覚めた。
いつも通りの一日が始まると思って起き上がる。
ちゃぶ台に魔王が……あれ? 居ない。
カルラが一人でお茶を飲んでいる。
「マコトおはよー」
「おはようございます。魔王様がいませんね」
「うんー。今日は午前中から忙しいみたいだよ」
「へえ、そうなんですか」
いないならいないで別に困ることはないが、理由は少し気になる。
そこにルーカスがややシリアスな顔で登場した。
なんだろう。
二か月経ったので、次は別の師団に通院を勧めるとか、そんな話だろうか?
でもそれならいつものニヤニヤ顔だよな……。
いつもと違う顔だと、こちらも構えてしまう。
彼は朝の挨拶を交わすと、意外なことを言いだした。
「マコトよ。今日は魔王城で会議がある。お前も一緒に来て欲しい」
「え? 会議に?」
「うむ。お前は奴隷だが、立ち位置が特殊だ。聞いておいたほうがいい」
また急な。
「むー……治療院はどうしようかな」
「カルラ様はもう施術できるようになっているのだろう?」
「うん。もう一人で施術をお願してるよ」
「なら今日は治療院をお任せできないかな?」
二人でカルラのほうを見てしまう。
「ボク不安だけど多分だいじょうぶだよー」
ニコニコしながら彼女はそう答える。
不安だが大丈夫というその意味は謎だが、彼女に技術的な心配はない。
もちろん、症状別の攻め方など、知識的な部分はまだまだではある。
しかし施術自体は非常に上手だ。
通常の患者さん相手にトラブルは発生しないはず。
「では今日はカルラ様に治療院をお任せします。難しい患者さんに対しては無理せず、魔王城までぼくを呼びに来てください」
「わかった。そうする」
現在でも、難しい症状を持つ患者が来たときは、なるべくぼくが施術するようにしている。
手に負えないと判断したら呼びに来てもらおう。
「マコトにはまたヨロイを着てもらうぞ」
「そのほうが安全ってわけだね? でも会議にヨロイの不審者が混ざっていて大丈夫なの」
「大丈夫だ。私の従者ということで集まりの外側で聞いていればよい」
中二病ヨロイは好きではないが、魔王城に行くのであれば仕方ない。
「了解。けどルーカス、なんで急に会議が? 何か事件?」
「ああ……。どうやら、人間の軍が攻めてくるらしい」
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