英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
外伝~それでも僕は~
~零の世界~
「ここは………みんなは……キーアはどこに行ったんだ?」
謎の異空間に立っているロイドは周囲を見回して考え込んだ。
「……どう考えても普通の場所じゃなさそうだ。無暗に動き回るわけにも行かなさそうだけど…………どうしてだろう。こんなに何もない場所なのに………なぜか……不安や恐れは不思議なほど感じない………いったいこの場所は……?」
ロイドは現状の把握をしようとし、必死に考え込んでいた。するとその時
「―――――どんな状況でも慌てずに踏みとどまって現場の把握に努める………だいぶ捜査官として板についてきたじゃないか。」
ロイドにとって聞き覚えがあり、ありえない人物である声が聞こえ、ロイドは振り向いた。
「――――――――」
するとそこには自分にとって見覚えがあり、”生きている事自体がありえない”青年がいた!
「なんだ、どうしたロイド?久しぶりの再会に口も利けないくらい驚いたのか?」
ロイドの様子を見た青年は口元に笑みを浮かべ
「あ、兄貴………兄貴なの……か………?」
青年が3年前イアンによって殺害されたはずの自分の兄である事を確信したロイドは信じられない表情で尋ね
「ハハ、”兄貴”だなんてカッコ付けてんじゃねえっての。前みたいに”兄ちゃん”って呼べばいいだろうが?2人しかいないんだから遠慮なく甘えていいんだぜ?」
尋ねられた青年――――ガイ・バニングスは口元をニヤニヤさせてロイドを見つめ
「………~~~~っ………放っておいてくれよっ!でも、その減らず口……間違いなく兄貴みたいだな……夢でもないみたいだし……一体どういうことなんだ……?」
見つめられたロイドは恥ずかしそうな表情で黙り込んだ後気を取り直して嬉しそうな表情でガイを見つめた。
「ああ、どうやらここはあの子の内面の一部らしいな。あらゆる可能性を内包しつつ、世界を再構成できる”零”の世界…………どうやらそんな場所らしい。」
「”零”の世界……兄ちゃんが………兄貴が現れているのも関係があるのか?」
ガイの説明を聞いたロイドは呆けた後真剣な表情で尋ねた。
「ああ、恐らくあの子は、過去の時空間に干渉することで俺という存在を識ったんだろう。そしてお前やセシル……アリオスやティオたちのためにも俺を甦らせようとしたのかもしれん。」
「兄貴を…………甦らせる!?」
複雑そうな表情で推測したガイの推理を聞いたロイドは驚き
「まあ正確には、今の世界を『俺が死ななかった世界』に紡ぎ直すって事だろうけどな。――――どうだ、ロイド?お兄様が戻ってきたら嬉しいか?それともウザったいか?」
ガイは説明を終えた後笑顔でロイドを見つめた。
「……はは………そんなの…………嬉しいに……決まってるだろう………?………でも……………それは……………」
ガイに問いかけられたロイドは苦笑した後複雑そうな表情をし
「―――俺が死んだ後の時間を、そこで頑張ってきた人々の努力を否定することにもなる………まあ、当然そうなるだろうな。」
ガイは静かな表情でロイドを見つめていた。
「……………………………」
「”特務支援課”だったか………俺も参加して、お前らと一緒に色んな事件を解決している世界もあり得たのかもしれねぇが………それは今のお前らの世界じゃない。」
「……………ああ………本当にそんな世界があったら、どんなに楽しくて、嬉しくて………幸せだろうと思うけど………それでも………僕は……………」
静かな笑みを浮かべて呟いたガイの言葉に頷いたロイドは涙を流して身体を震わせていた。
「ああ――――それでいい。お前がそう言えるようになったのを俺は誇りに思うぜ。」
ロイドの答えを聞いたガイは満足そうな表情で頷いた後ロイドに近づいてロイドの頭を撫でてロイドの両肩に両手を置いてロイドをジッと見つめた。
「本当に………あの甘えん坊がよくここまでデカくなったもんだ。」
「に、兄ちゃんなんかに甘えた記憶はないっての………セシル姉とルファ姉ならともかく………」
口元をニヤニヤさせたガイの言葉を聞いたロイドは唇を噛みしめて否定した後複雑そうな表情になった。
「はは………そうだったな。……………セシルもようやく新たな相手を見つけて安心したぜ………まあ、もっと早くお前が思い切ってアタックしていたらセシルと結ばれた相手はお前だったかもしれねぇぜ?何せルファディエルですらも落としたんだからな。」
「うるさい………セシル姉自身が選んだんだからな………あの”英雄王”が第一側室にする程兄ちゃんなんかには勿体ない、最高の女性なんだぞ………?」
口元をニヤニヤさせたガイの言葉を聞いたロイドは真剣な表情でガイを見つめて呟き
「ハハ、違いない。まあお前も、自分の相手はちゃんと見つけたみてぇだから余計なお世話ってもんか。それにしてもまさかお前がハーレムを築くとは思わなかったが。しかもその中にはティオやルファディエルまで入っているしな。」
「べ、別にそういうつもりじゃ……それに俺にはちゃんと婚約した人がいるんだからな。」
「クク、それじゃあ聞くがマクダエル市長の孫娘さん以外の女性達全員をふるつもりなのか?お前が婚約したマクダエル市長の孫娘さんも重婚には納得しているんだろ?」
「う”………」
からかいの表情で自分を見つめて言ったガイの話を聞いたロイドは表情を引き攣らせて唸った。
「……ま、俺は重婚もいいと思うぜ?家族の在り方は人それぞれだしな。セシルだってその一人じゃねえか。第一本人達も納得しているんだろう?」
「それは……………………」
ガイの説明を聞いたロイドは複雑そうな表情をしたが
「それに”据え膳食わぬは男の恥”って昔から諺があるだろうが?だったらいっそ開き直って自分に好意を寄せている女性達全員と結婚して幸せにしてやればいいんじゃねえか?」
「あのなあ……………」
からかいの表情で言ったガイの言葉を聞いて脱力した。
「………ま、その事を抜きにしてもいい仲間に恵まれたみたいだな?しかもお前達のトップ――――ヴァイスハイトとギュランドロスだったか?お前達……いや、クロスベルも良いトップに恵まれたじゃねえか。」
そしてガイは気を取り直した後笑顔で尋ね
「ああ………エリィ達や局長を含めたみんなは最高の仲間たちさ。」
尋ねられたロイドは笑顔で頷いた後ガイから離れた。
「……兄貴、そろそろ行くよ。大切なものを取り戻してみんなの所に帰るためにも。また………いつか会えるよな?」
「ああ、もちろんだ。俺はお前達の近くにいる。泣きたくなったら、甘えたくなったらいつでも呼んでくれりゃあいい。」
「はは……わかった。でも、どんなに苦しくても”壁”は乗り越えられると思う。みんながいて、その向こうにある明日を掴むためだったら………―――だから大丈夫。安心して見守っていてくれよな。」
「ハハ、生意気言いやがって。―――今のお前なら、あの子を本当の意味で見つけられるはずだ。殻の中に閉じこもったお姫様を見つけ出して抱きしめてやれ!」
「ああ……!さよなら―――兄貴!」
そしてガイの応援の言葉に力強く頷いたロイドは笑顔で別れを告げた後ガイに背を向けて走り去り
「………そう。生きている限り、”壁”はいつだって現れるもんだ。大切なのは、乗り越える意志とその先にどんな光を見出すか………気張れよ――――ロイド・バニングス。」
走り去って行くロイドをガイは優しげな微笑みを浮かべて見つめていた…………………
~無の世界~
「………………………」
何もない真っ暗闇な空間でキーアは地面に座り込んで悲しそうな表情をしていた。
「―――見つけた。」
するとその時ロイドがキーアに近づいてきた!
「…………………どう……して……?」
ロイドを見たキーアは信じられない表情をした後悲しそうな表情をした。
「声が、聞こえたからさ。いつだって俺は……キーアの声が聞こえていた。耳を澄ませて、感じていたから……キーアの心の声が……何処にいるかがわかったよ。」
「そっか………えへへ………」
優しげな微笑みを浮かべて言ったロイドの言葉を聞いたキーアは嬉しそうな表情をしたが
「……でもキーア……ロイドにそんな風にしてもらう資格なんてない………だって……だってキーアは……」
すぐに辛そうな表情になった。
「キーア、それは違う。生まれがどうであろうと―――」
ロイドは真剣な表情でキーアの言葉を否定しようとしたが
「ちがわないよう!」
キーアは涙を流して叫んでロイドに続きを言わせなかった。
「キーアは本物の人間じゃないし、心や魂だって本物じゃない……!そんな風に優しくしてもらえる、守ってもらえる資格なんてなかった!それなのに……それなのにキーアは……ッ!う、ううっ………!」
キーアは泣き叫んだ後顔を俯かせて声を殺して泣き続けた。
「…………………」
キーアの様子を見たロイドは考え込んだ後キーアの隣に座った。
「―――なあ、キーア。キーアが俺達の所に来てから半年以上経って………どれだけの幸せを俺達にくれたと思う?」
「…………………」
「多分それはキーアが感じた幸せと同じか、それ以上だと思う。キーアはさ………俺達といて楽しくなかったのか?」
「楽しかった……!すごく……シアワセだった……!でもそれは……ロイド達がそう感じるようにキーアが仕向けただけかもしれない!大切なみんなの心を操っていただけかもしれない!そんなのって………そんなのって………」
「…………………」
自分の問いかけに答えた後顔を再び俯かせて泣き続けているキーアは真剣な表情で黙って見つめ
「こら。」
片手をポンとキーアの頭に置いた。
「あのな……きっかけはどうかは知らないよ。俺達には操られた実感も無いし、それに、そんな風にだったら別に操られたって構わないと思う。仔猫や赤ちゃんだって無条件に愛らしくて守りたくなる存在だろう?キーアのそうした”力”だってせいぜいその程度じゃないのか?」
「…………ぁ………………………………」
優しげな微笑みを浮かべて言ったロイドの話を聞いたキーアは呆けてロイドを見つめ
「そして、俺達の過ごした時間はそんな”力”なんかじゃ測れない。俺と一緒に、料理の練習をしたり同じベッドで寝て寝坊した事。エリィと一緒に本を読んだり、みんなの洗濯物を屋上に干したこと。ティオと一緒に掃除をしたり、みっしぃの限定グッズを買った事。ランディと一緒にポーカーをしたり、露店街に買い出しに行った事。セティ達とアクセサリーを作ったり、エルファティシアさん達に異世界の様々な事を聞いた事。課長と洗い物をしたり、ツァイトたちと昼寝をしたこと。――――それが”嘘”だったなんて本当にキーアは思うのか?」
「……それ……は…………」
ロイドの問いかけにキーアは考え
「……嘘じゃ……ないと思う。」
やがて首を横に振って答えた。
「だったらそれが俺達にとっての”真実”だ。そしてその”真実”がある限り……この先、どんな困難が迫ろうと俺達は決して負けはしない。だからキーア……一人で全部背負う必要はないんだ。それは、キーアを含めて俺達全員で頑張ればいいんだから。それが”仲間”で………”家族”っていうものだろう?」
「ロイ……ド………ロイド………ロイドおおぉっ………!」
ロイドの微笑みを見たキーアは呆けた後涙を流して泣いた。するとキーアの姿は”零の御子”から元の子供の姿へと戻り
「……ぅぅっ………ぁぁああっ………!わぁぁぁぁぁぁぁっ………!」
元の姿に戻ったキーアはロイドに抱き付いて大声で泣き
「……キーア……………はは……相変わらずいいタックルだ。」
ロイドは優しげな微笑みを浮かべてキーアの頭を撫でた。するとロイド達の足元の地面に罅が入り、罅からは光がさした。
「―――さあ、帰ろう。みんなが俺達を待っている。このまま抱っこするからちゃんと掴まっているんだぞ?」
「うん……うんっ………!」
そしてロイドはキーアを抱き上げて光に包まれた世界から走り去った………!
ページ上へ戻る