魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~
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StrikerS編
112話:全力を持って
前書き
タイトルが中々思いつかない病
―――戦況は少しずつ、終息へと向かって行く。
スカリエッティの本拠地では、フェイト達によってスカリエッティと戦闘機人三名の捕縛に成功。
空を飛ぶ〝聖王のゆりかご〟では、ヴィータが駆動炉を破壊。聖王として覚醒したヴィヴィオと相対したなのはも、無事にヴィヴィオを保護した。
地上でも、エリオとキャロが紫髪の少女ルーテシアの説得、ティアナは戦闘機人三人の捕縛、スバルは自身の姉ギンガの救出にそれぞれ成功する。
それぞれが自らの戦場にて、最大限の力を発揮し、大きな戦果を挙げていた。
「―――どわぁぁぁッ!?」
「くッ、うぉお!?」
だが未だ、戦況の落ち着かない場所もあった。
地上本部へと続く道すがら、そこに設けられた防衛ライン。多くの魔導士達によって設けられたそれの目の前では、異常な光景が広がっていた。
巨大な剣が大地を裂き、棍棒がコンクリートを砕く。途中雷が轟き、見ている者達の聴覚に響く。
そんな異常な光景の中を、アスカとガイラの二人は駆け抜けていた。
剣や棍棒を潜り抜け、雷を辛うじて避けながら、魔力弾や斬撃を飛ばして牽制していた。が、相対する黒いフォーティーンは気にも留めずに攻撃してくる。
「こ、こんなBigなの…どうするんだ!?」
「つべこべ言ってんじゃねぇ! とにかく、なるべく早く動きを止める―――〝全力〟で行くぞ!」
あまりの猛攻に値を上げ始めるアスカ。だがそれに対しげきを飛ばし、ガイラは懐からあるものを取り出した。
それはバリアジャケットを纏ったときと同じような、しかしキラキラと光り輝くもの。直方体のような―――もといUSBメモリーのようなそれを構えた。
そしてアスカも、ガイラの口から放たれた〝全力〟という言葉に、笑みを浮かべ一度頷き、「OK!」と答えた。
両足をしっかり足に付け、両手を勢いよく突き出す。両手の小指と薬指を少しだけ曲げた状態で、手首の地点で交差させる。
するとアスカの足元に魔法陣が展開され、周りには勢いよく炎が噴き出し、アスカを中心に渦巻き始めるではないか。そして更に、その炎が所々雷を纏っているではないか。
周りから見ていた魔導士達も、この光景には驚かされた。いくら魔法とはいえ、ここまでの出力の炎が出るのは非常に稀であり、それが雷を纏うなど普通あり得ない光景なのだ。
〈 Extreme ! 〉
そんなアスカに対し、隣に立つガイラ。メモリーのようなものにあるスイッチを押し、音声を出す。
それと同時に、ガイラの足元に魔法陣が展開される。自らの魔力光である紫に輝いているのは当たり前なのだが、しかしその色はガラスでも含んでいるかのようにキラキラと輝いていた。
「「リミットリリース!」」
〈〈 Full drive 〉〉
「フルドライブ! モードッ…〝バーニングライジング〟ッ!!」
〈 Awakening 〉
「フルドライブ! モード〝エクストリーム〟!」
〈 Extreme ! 〉
巻き上がる炎と、光り輝く紫。その中でアスカは両手を引き両腰のスイッチを押し、ガイラはメモリーをロストのスロット部分へ滑り込ませ、横へ倒す。
二人を囲う現象は勢いを増し、二人をそれぞれ包み込む。
一瞬の輝きの後、炎と雷、そして光が弾け飛ぶ。そこに立っていた二人の姿は、先程までとはまた違った姿をしていた。
「―――準備完了、いくぞ!」
炎と雷が弾けた場所には、黄色かった髪が元の濃いめの茶色へと戻ったアスカが、拳を突き合わせていた。
一番初めのバリアジャケットに似ているが、それ以上に頑丈そうな装甲。深紅のカラーリングの上に、稲妻や炎が揺らめくようなデザインが施されている。
胸部のプロテクターはより分厚く、所々には黄色いヒビのようなものもある。
バイザーの付いたヘッドギアをはめ、その奥から鋭い眼光を黒いフォーティーンに向ける。
「油断するんじゃないぞ、気を抜いたら一瞬でやられる」
そう忠告するガイラ、バリアジャケットの構造自体は全体を覆うローブ型なのは変わらない。
しかし注目すべきはその色。先程まで黒を中心に紫色のラインで縁取られたものだったが、中心となっていた黒がキラキラ光るクリアカラーとなっていた。
スロットは両手両足に一か所ずつと増え、右拳にはカートリッジシステムを搭載している手甲、右足には他と違いスロットが四つもある。
キラキラと輝く光の中、ガイラは光を払うかのように手を振り、フォーティーンに向けて構えを取る。
「■■■■■■ーーー!」
そこへフォーティーンが遂に動き出した。棍棒と剣を振り上げ、二人に迫る。
それを見た二人もフォーティーンに向かって駆け出す。振り下ろされる数々の攻撃を回避し、フォーティーンの下へと……
「アスカッ!」
「ッ…!」
その最中、ガイラが叫んだ。フォーティーンの棍棒が、アスカの横から迫ってきたのだ。
巨大な得物による横薙ぎの攻撃。進路的に先に攻撃を受けるアスカだが、直前に振り下ろされた剣の余波を避ける為飛び上っていた。その着地する間際を狙われたのだ。
このままでは、避けることすらままならない。そんなことが、見ていた者達の頭に過った。
―――しかし…
アスカが片足をつけ、フォーティーンの棍棒が当たると思われた瞬間、電気が放電するかのような音が響き……
フォーティーンの棍棒が、空を裂いた。
何かを殴るような鈍い音すら聞こえず、棍棒は屈んだガイラの上を通った。
誰もがアスカの行方を追い、そして気づいた。フォーティーンの眼前に、拳を引き振りかぶっている人影があることを。
「―――〝フォイボスブロー〟!」
拳に炎が渦巻き、引き絞られた拳が放たれた。
炎を纏ったそれは見事フォーティーンの額を捉え、顔面を跳ね上げる。
その光景に「おぉ!」と歓声が上がる。初めてフォーティーンに攻撃が加わったのだから、致し方ない。
だがこれはフォーティーンにとっては叩かれた程度だったのか、跳ね上がった顔はすぐに引き戻され、怒りの混じった咆哮が放たれた。
「まずっ―――」
〈 Luna 〉
「うおッ!?」
すぐに攻撃が来る。そう判断したアスカだったが、彼の腰に黄色いロープのようなものが巻かれ、体が急に引っ張られたのだ。
目の前に落ちる稲妻、少しでもあそこにいればその雷に焼かれていただろう。アスカは誰かに助けられたことになる。
引っ張られはしたが、アスカはうまく地面に着地する。視線を横に送ると、フォーティーンへと駆け抜ける、ガイラの姿が。
〈 Heat, Maximum drive ! 〉
「〝バーンブレイク〟!」
再び顔面を捉える炎、それはガイラの振るった銀色の棒に灯ったものだった。
流石フォーティーンも、これには小さく呻き声を上げる。着地したガイラはすぐさま駆け出した。
「サンキュー、相棒!」
「礼なんか言ってる場合か! 早めに止める、急げ!」
「ッ、おう!」
ガイラに言われ、気を引き締めるアスカ。再び交差させるように両手を突き出し、今度はすぐさま両側に広げる。
すると足元に魔法陣が展開され、再び炎が荒れ狂い、魔法陣から稲妻が走る。
ガイラもフォーティーンの横に建っていたビルを勢いよく駆け上り、フォーティーンの前上へと飛び出した。
そして四本のメモリー―――緑と赤、黄色と紫にそれぞれ配色されたものを懐から取り出し、その全てを右足の四つのスロットへと滑り込ませる。
〈 Cyclone 〉〈 Heat 〉〈 Luna 〉〈 Joker ! 〉
「マキシマムドライブッ!」
〈〈〈〈 Maximum drive !! 〉〉〉〉
「轟け炎! 滾れ雷! 二つの力一つと成りて、敵を射抜く力とならん! ―――オーバードライブッ!!」
〈 Blazing arow ! 〉
空中で回転しながら、ガイラの足が光を纏う。
しかしそれは今までの紫色の光だけではなく、他の三色も混ざった、キラキラと輝くダイヤモンドのような輝きだった。
そして地上にてアスカは、右足と右手を後ろに引き、右腰に添えた右手の近くに左手を添える。
炎と稲妻が体を覆い、引いた右足を中心に渦巻く。
「爆雷同舟ッ!」
「一撃必射…ッ!」
それに対して、フォーティーンが黙っているままの訳もなく。
地上にいるアスカには剣を振るい、空中にいるガイラには聖杯を使って雷を落とそうと動き始めた。
片や魔力を高め、片や空中で構えを取る。双方共簡単に避けられるような体勢ではない、そんな時を狙ってきたのだ。
しかしその攻撃を、この短い戦闘の間何度も見てきていた二人。その兆候に気づかない道理もなかった。
力を溜めに溜めたアスカは、剣が当たる直前で消え、雷鳴のような音と共にフォーティーンの懐へ。
聖杯が光る瞬間を見逃さなかったガイラは、身体を捻り足を振り上げ、光り輝く右足で落ちてきた雷を受け止めたのだ。
そして…
下では溜めた力を解放し飛び上り、上では雷を受け止めた勢いを利用し急降下。
「ブレイジングッ…」
「エクストリーム!」
炎と雷、光を纏った二本の矢が……
「「アロォォォォォーーーッ!!」」
今まさに、フォーティーンを穿とうと命中した!
「■■■■■■ーーーッ!?」
「「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
悲鳴のような声を上げるフォーティーン。その声に紛れ二人の雄叫びが響く、それは見ていた魔導士達の耳にも、フォーティーンの声に負けじと届いていた。
防ぐ術のなかったフォーティーンは二人の攻撃を耐えようとし、攻撃する二人はその全力を持って倒そうとする。
二人のフォーティーンの意思と力がぶつかり合い、互いに肉薄する。
放たれたエネルギーがその場に留まり続け、極限まで高まる。そして遂に…!
「「はあああぁぁぁぁぁッ!!」」
雄叫びと共に、戦場は炎と煙に包まれた。
「ぐぁっ―――ぐッ!」
「くっ…ぅぅ…!」
煙の中から這い出てきた影。勢いよく飛び出し、転がるように下がってきたアスカ。そして高く飛び上った勢いを、前転することで軽減したガイラだった。
多少バリアジャケットに綻びがあったり、煤だらけだったりはしたものの、それ以上に大きな外傷は見られない。
それを見た魔導士達は、喜びの声を上げる。ようやく…ようやくあの化け物に一撃を与えられたのだ。
あれだけの爆発の規模で、見るからに凄まじい威力の蹴りだったのだ。無傷でいられる訳がない。ここから他の面々と協力し合えば、もしかしたら…!
そんな希望が、皆の胸に灯る。小さくとも確かな希望。全員の手に再び力が入る。勝てるんじゃないかと。
対し、煙の中から出てきた二人。体勢を立て直し、息を整えながら煙の奥へと視線を送っている。
強力な一撃を…渾身の一撃を与えたとはいえ、今まで戦ってきた者達とは明らかに違う敵だ。何が起きるかわからない。だからこそ警戒を怠らないようにする。
少しずつ晴れていく煙。道路の上にうつ伏せのような状態で寝転んでいるような影が煙に映り始め、皆に灯った希望の光は強くなっていく。
起きていないと判断したアスカは少しだけ構えを解き、少しずつ近づいていく。
終わったのか、誰もが少しはその考えが過った―――その瞬間!
「ッ…!!」
「―――アスカッ!」
フォーティーンの目に妖しい光が蘇り、咆哮がビリビリと空気を揺らした。
一番前で受けたアスカは勿論、後ろにいた魔導士達も全員動きが止まる。少しでも灯っていた胸の光が、一気にしぼんでいく。
一瞬呆気にとられたアスカ、その動きが少し止まってしまったのがいけなかった。
起き上がったフォーティーンが腕を振り上げる。その手には巨大な棍棒が。奴がこれから何をするかに気づいたガイラは、パートナーの名を叫びながら駆け出す。
少し構えを解いていたのも影響して、動きに一歩出遅れるアスカ。魔法ではなく自らの身体能力で飛び上り避ける。
だがその速度で起きた風で体勢が崩れる。まともに次の行動ができるものではない。
崩した体勢を立て直そうとしているところに―――フォーティーンが盾を突き出し、シールドバッシュのような攻撃をしてきた。
「くッ―――あッ!」
これは当たる、と思ったその時。
横からの衝撃で急に弾き飛ばされる。フォーティーンの攻撃からは抜け出せたが、何故急に……
衝撃が来た方向に視線を向けると、
「―――ぐッ、あぁ!」
フォーティーンの盾に突き飛ばされた、ガイラの姿があった。
「が、ガイラッ!」
勢いよく吹き飛ばされ、アスファルトを削りながら止まる。体勢を立て直しながら着地したアスカは、すぐにガイラが墜ちた場所へ向きながら叫んだ。
どうやら意識はあるようだが、ダメージでうまく体を動かせないようだ。上半身を起こそうとしては、また仰向けに倒れる。
「今そっちに―――くッ!?」
すぐに駆けだそうとしたが、その目の前に雷が落ちる。走り出そうとした足が止まった隙に、更に剣と棍棒による攻撃が降り注ぐ。
必死に避け続けるアスカだったが、何分先程全力の一撃を放ったばかり。疲労感と倦怠感で体を上手く動かせず、そして残りの魔力量を考えるとヘタに攻撃へと移れない。
フォーティーンを止めなければ、という責任感と、ガイラの無事を確認したい、という焦り。
そんな思いがアスカの動きを硬くしてしまい、遂に……
「がぁッ!」
雷の閃光によって視界が遮られた瞬間、棍棒が彼の体を捉える。強い衝撃で吹き飛ばされた彼は、先程のガイラと同じように地面に体を打ちながら転がる。
どうやら気を失ってはいないようだが、強い衝撃の所為で体が限界を迎えたようだ。うつ伏せで止まり、立ち上がろうとしてもうまく立てていない。
「■■■■■ーーッ!」
そこに響くフォーティーンの雄叫び。ようやく得物を仕留めたとでも言いたげなそれに、アスカは拳を地面に打ち付け、歯ぎしりをする。
ここで倒れる訳にはいかないとわかっている、しかし立ち上がろうとする意志に反し、体は言うことを聞いてくれない。
なんでだッ、やらなくちゃいけないんだッ。だから…言うことを聞いてくれ!
そう切に願うが、体は未だ重い。こんな時に、と拳を振り上げ再び叩きつけようとして……
誰かがその拳を掴んだ。
「ッ…!」
思わず視線を移す。そこには先程突き飛ばされ、もう既にボロボロのガイラが立っていた。
「……立て」
短くそう言うと、ガイラはアスカの手を引っ張り上げる。
おかげで立ち上がることはできたが、アスカは驚きながら尋ねる。動いて大丈夫なのか、体は?と。
「大丈夫な訳あるか」
「…だよな」
「それでも…俺は今ここでくたばるつもりはない。―――それは、お前もだろ?」
ガイラの質問に、あぁそうだったと頷く。
互いに目指す目標がある。明確に明言したわけではないが、そういう話はコンビを組んだ時になんとなく話した。
その時に感じた信念―――否、執念とも感じられる彼の表情はよく覚えている。何か譲れないものがあるのだろうと。
それは自分も同じだった。目標を持ってあの部隊に入隊し、あの背中を目指した。今ここでそれをポイ捨てできる筈がない。
「今はまだ、コイツには勝てない」
「あぁ、だから―――信じるしかない」
「あぁ…まぁ、あの人がこの場にいない方が信じられないのだが」
そうだな、とガイラは支えていたアスカを離し、自ら構えを取る。
アスカも身体中の痛みを我慢しながら、拳を握る。勝つことが全てじゃない、今はこいつをここに留め続けることを目的へ切り替える。
満身創痍の二人、しかしその瞳には絶望の色はない。むしろ先程よりもメラメラと激しく揺らぐ炎が見えるほどの眼光が、フォーティーンへと向けられる。
それを見たフォーティーンは、雄叫びを上げる。目が死んでないことを理解し、二人を未だ標的として設定し続けるようだ。
凶暴的な黒い怪物と、それに立ち向かおうとする二人。
そんな光景を、ただ茫然と見つめていただけだった魔導士達。だがそんな中でただ一人、はたと意識を現実に戻し腕を振るった人物がいた。
「―――何やってるんだお前達! あの二人を、全力で援護しろ!」
ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐、その人である。
「し、しかし三佐…我々では手に」
「あぁそうだ、あれは手に負えねぇ代物だ。だが、だからといってここで指をくわえて見てるつもりか!」
まともな考えならば、あの戦闘に手を出すなどという結論は出さない。
だがゲンヤは飛び続ける者達にも、バリケードの後ろで待っていた者達にも、大きなげきを飛ばした。
「ここであの化け物を止められなかったら、この後はどうなる? あの怪物がここを突破すれば、地上本部は勿論、居住区に澄んでいるミッドの人達の下へ向かうことになる!」
「「「「「ッ!」」」」」
「そうだ、何の非もない人達を、あの化け物が襲うことになるんだ! そんな事…許していい訳がない!」
そう、この防衛線の先には守るべきものがある。その為に自分達がここにいて、戦っていたのだ。
ゲンヤにも、守りたい者達がいる。友人や同僚、そして家族が。ただ今のような状況程、自分に戦う力がないことを悔やまれる。戦力にならない自分に、怒りすら覚える。
だが、できないことを悔やんでも仕方がない。
今自分ができること―――自分にしかできないことをする。
「別に戦わない奴になんかいいたい訳じゃない。俺だって戦いたいが、力がない。勇気のある奴だけでいい。
―――だがここでの戦いは、俺達だけの問題じゃない! この先で生きる人達の、ミッドの運命がかかってるんだ!」
とてつもない脅威が存在する、それは紛れもない事実だ。
だが退く訳にはいかない。自分が戦うべき人間であり、守るべき存在があるから。
「戦うぞ…守るべき人達の為にッ!」
ゲンヤの熱のこもった叫びを聞き、魔導士達は思い出す。自分達の後ろには、守るべき存在があることを。
杖を握る力が自然と強くなる。全員の目に、戦う意思が灯る。
その内の一人から、叫び声が上がる。それに釣られ、声はどんどん大きくなっていく。
最終的には全員から一丸となり、大きな叫び声を作り出していた。
「お前ら…!」
その光景に、アスカが小さく声を漏らす。
フォーティーンも相手側の思いがけない行動に、少したじろぐような素振りを見せる。ある意味自らよりも大きな敵が、目の前に出来上がったのを感じたのだろう。
「行くぞお前達! 今度は俺達が戦う番だ!」
ゲンヤの指示に、全員が応える。
杖の矛先をフォーティーンへ。敵に対する恐怖や、力がないという劣等感すら飲み込み、守りたい意思で立ち向かう覚悟を決める。
そして、全員がフォーティーンへの攻撃を開始しようとした。
―――その時だ。
『さすが、ナカジマ三佐。その心意気、俺は大好きですよ』
そんな言葉が、ゲンヤのすぐ横から聞こえてきた。
思わず振り向くと、そこにはモニターが。どうやら誰かが通信を繋いだようだが、生憎フルフェイス型のヘルメットのおかげで、顔が確認できない。
「あ、あんた一体―――」
誰なんだ、そう聞こうとした瞬間。後ろの方から、何かしらのエンジン音が聞こえてきた。
こんな時に誰が来るのか。そんな疑問を持ちつつ、その正体を知ろうと振り返る。
それはバイクだった。それも少し大きめの型。黒と白、そしてマゼンタ色で配色されたそれは、大きな音を生み出しながら走行、ゲンヤの横をすんなりと通過して行った。
その堂々たる姿に誰も止めることができなかったが、進路がまっすぐであることから、このままでは戦場へと出てしまうことに誰もが気づく。止めようと声を掛ける為前を向いたゲンヤだったが、その時には既にバリケードを足場にし、バイクが飛び上った瞬間であった。
『熱くなってるところ申し訳ないけど…こいつは任せてくれ』
画面越しに見える、フルフェイスのヘルメットを被った(声からしておそらく)青年が言う。どうやらこの青年は、先程のバイクに乗っている人物のようだ。
飛び出したバイクに乗る青年は、ハンドルから手を離し、何処からか取り出した銃をフォーティーンへと向ける。
〈 ATTACK RIDE・BLAST 〉
突如として流れる電子音声と共に、銃口から数発の弾丸が飛び出していく。
マゼンタ色の弾丸はフォーティーンの顔面へと命中し爆発、煙が顔を覆い隠し、フォーティーンの悲鳴が上がる。
大きな音を立てて着地するバイク。勢いは少し落ちるものの、残った勢いのまま前へ進み、アスカとガイラの前で車体を横にして停止した。
後ろからやってきたものに驚きはしたものの、その正体に気づいた二人はこんな状況なのに笑みをこぼした。
「まったく…遅いですよ」
「本当だ…このまま来ないつもりかと思ったぞ」
「はは、なんかすまないな。無理をさせちまったようで」
ヘルメットを外し、素顔を晒した青年。バイクの車体にヘルメットを置き、足を大きく振り上げてバイクから降りる。
「まぁ、ありがとうな。―――後は任せろ」
「「はい(おう)ッ!」」
そう言うと二人は肩を支え合い、少し覚束ない足取りで後ろへと下がっていく。
青年は二人の行動を見て一度頷くと、正面へと向き直す。そこには腹を立てているのか、大きな叫び声を発しながら青年へと威嚇していた。
その光景を見て魔導士達は顔を強張らせるが、青年はなんと笑みを浮かべた。
「黒いフォーティーンか…」
《奴はこの世界の技術で作られた偽物だ。本物程の力はないにしろ、ここまで戦っているのを見るに、相当なものには違いない》
「この世界の技術…やっぱりスカリエッティと繋がりがあったか」
誰かと会話するかのように〝独り言〟を言う青年。それは誰にも聞かれることはなかったが、そのままだと内容のよくわからないものだった。
笑みを浮かべたまま、カードを取り出す。それをいつの間にか腰に巻かれたベルトへと、カードを差し込む。
「変身!」
〈 KAMEN RIDE・DECADE ! 〉
ベルトから数枚の板が出現、青年の周りには灰色の影が複数並び立つ。
一歩、また一歩と進んでいく中、灰色の影は青年と一つになり、姿を変化させる。色の付いていないその姿は、数枚の板が仮面にめり込むことで彩られる。
先程の車体と同じような、黒と白とマゼンタ色で配色された体。緑色になった複眼、額には紫色が輝く。
変化しながらも凛として歩くその姿は、その場にいる誰もが知っていた。いつも強大な敵と戦い、人々を守ってきた者……
―――〝世界の破壊者〟ディケイドだと。
「あれが…」
「ディケイド…!」
その姿を始めて生で見る者達もいて、驚きの声を上げている。
しかしそれが聞こえていても気にしないディケイド。剣を取り出し、フォーティーンを見定める。
ゆっくりとやってくるディケイドを見て、彼を敵と判断したフォーティーン。棍棒を大きく振り上げ、歩いて来るディケイドへ向かって振り下ろす。
歩きながらもそれをヒラリと躱す。続いて迫りくる剣も、轟く稲妻すら避ける。その衝撃や余波も勿論あったが、アスカやガイラと違いそれによって体勢が崩れることもなく、次々と繰り出される攻撃を躱していく。
「あぁくそ、鬱陶しいな…」
本当に面倒くさそうな声色で呟くディケイド。それはあまりに粗雑で、少し前に苦戦していた二人に失礼な気もする発言だ。
まぁ、それを聞き取っている者はいないのだが……
(しかしまぁ―――こんなもんか)
そう心の中で思うと、ディケイドは手に取っていた白い剣―――ライドブッカーを本のように開き、一枚のカードを取り出す。
それにはベルトやライドブッカーに所々ある、ディケイドの仮面をイメージしたようなマークが描かれていた。
取り出したカードを、フォーティーンの攻撃を避けつつ、バックル部分へと滑り込ませる。開いていた両側のギミックを、両手で挟み込むようにして戻し、カードを発動する。
〈 FINAL ATTACK RIDE・de de de DECADE !! 〉
音声と共に、ベルトの宝石部分からカード状のホログラムがいくつも飛び出す。それは回転しながら、フォーティーンと衝突し攻撃を未然に防ぐ。
その隙にディケイドは剣を上へと掲げる。すると宙を舞っていたホログラムの内、六枚が剣に突き刺さる。数周程回転し、刀身へと溶け込んでいく。光を纏った刀身は巨大化し、大剣と言える長さへと変貌する。
ディケイドの変化に気づいたフォーティーンも、剣や棍棒を構え狙いを定める。その間にもホログラムは襲ってくるが、盾で防ぎながら体への衝突を最小限に抑えている。
振り下ろされる剣を前に、ディケイドは巨大になった剣を構え、振り上げる。
まともに衝突し合えば、フォーティーンの剣が勝ると思われるような状況。正直、見ている魔導士達はそう思っていた。
避けるように促す声も上がるが、既にディケイドの足は止まっており、その暇もない。二振りの剣が衝突し合う、そうなる筈だったその瞬間……
バキンッ! という音を立てて……
―――フォーティーンの剣が、粉々に砕け散ったのだった。
「……は…?」
誰からかそんな声が漏れる。当然だ、剣と剣がぶつかり合って折れるならまだしも、柄の先の刀身がほぼ全て砕けたのだ。
あまりに現実離れした光景を見て茫然とする全員の耳に、フォーティーンの悲鳴が劈く。自らの攻撃が防がれただけでなく、武器を一つ失ったのがあるのか、何処か怒りを含んだものだった。
柄のみとなった剣を投げ捨て、代わりに棍棒を振り上げディケイドを狙う。斜め上から振り下ろすように繰り出された棍棒は、風を切り轟音を奏でてディケイドに迫る。
しかしこれを見たディケイドは飛び上ることで回避し、下を通る棍棒を見定めると、棍棒を持つ腕に向かって剣を振り切る。
するとディケイドの剣によって、フォーティーンの腕がスパッと綺麗に切り裂かれた。ゴロゴロと転がる棍棒は、脇に立ち並ぶビルに衝突し止まった。
「■■■■■ーーッ!?」
またしても悲鳴を上げるフォーティーン。少し痛みに負けるように上半身を上げ、悲鳴を上げたまま暴れ回る。
ディケイドは着地すると再び構え、飛び上る。自らの眼前へと迫る敵に対し、相手の剣を防げると考えたのか無意識なのか、盾を構える。
彼が振るった剣はフォーティーンの盾に触れると―――先程と同じように、盾が切り裂かれた。しかも持っていた手ごと、二つに切られる。
またしても悲鳴、しかしこのままではマズいと攻勢に出ようと、聖杯を準備する。
撃ち下ろされる雷撃、だがこれすらも剣を振るうことで防御し、更に聖杯を持つ手に向けて振るう。
これまたスパッと手首を切り裂かれ、聖杯が地面へと盛大な音を立てて落ちる。
「さて…そろそろ終いしよう」
無事に着地したディケイドは、剣先を横に向けそう言うと、未だ空で回転していたホログラムが新たに七枚、剣に突き刺さる。
ゆっくりと掲げられた輝く剣は、更に巨大化していく。まさに四肢をもがれた状態のフォーティーンは、その体で押しつぶそうとしているのか、それとも強靭な顎でかみ砕こうとしているのか。蛇のような動きでディケイドへ迫ってきていた。
だがそんな事も気にせず、剣を構え手に力を籠める。
「てめぇの跳梁も―――ここまでだッ!」
一瞬の閃光。
ディケイドの手によって振るわれた輝く大剣は、フォーティーンの顔面を切り裂き、胴体を両断する。
フォーティーンの声にならない悲鳴が響き渡る。切り裂かれた胴体の切り口から、眩い光が漏れだし始めた。
そして遂に……
漏れだした光は炎に変わり、轟音と共に煙が辺りを包み込んだ。
視界をほぼすべて煙で覆われ、状況が飲み込めない面々。
あまりに浮世離れしていた光景を目の当たりにして、口があんぐりとしたまま茫然としている者もいた。
煙の中から影が見えてくる。腕で煙を振り払うように、現れたのは……
「士さん…!」
先程までの仮面をかぶった姿―――ではなく、制服を着こなしながらも所々包帯が見え隠れしている姿……
門寺士、その人であった。
「よう、怪我の方は大丈夫か?」
「…大したことはない」
肩を支え合う二人を見て、肩を落とす士。
その様子で言われてもねぇ…? と苦笑いしながら言うと、ガイラはむっと顔をしかめる。
「門寺…」
「あ、ナカジマ三佐!」
バリケードの奥から出てきたゲンヤ、それを見かけた士は、ニカッと笑みを浮かべ指を二本立てた。
所謂、Vサインだ。
それを見た魔導士達は、ワァァァッと歓声が上がった。
巨大な敵を倒せた、その事実が魔導士達にとって大きなものとなっていく。守るべき者達を、守ることができた。
それが見ていた者達全員に、喜びを与えたのだ。
―――しかし……
「―――ッ…!」
皆の喜びようを笑いながら見ていた士だったが、突然顔を強張らせ後ろに振り向いた。
側にいたアスカとガイラ、そしてゲンヤは士の様子に、不思議に思った。そしてどこかに孕んだ不安が、周りで喜び合っている全員にも伝染し始める。
歓喜から静寂へと一気に変わる空間。そこにいる全員の視界の先、未だしっかりとは晴れない煙の先。
―――そこから、新しい影が現れる。
「あれは…?」
「……来た、か…」
アスカの疑問に士は答えることなく、踵を返し煙に映った影へと向かって歩き出す。
更に疑問符を浮かべる面々、それを手で抑えそのまま進む。制服の上着を翻し、手に収めていたバックルを腰に当てる。
煙の奥の影、それが遂に煙から抜け出してきた。
水色の長髪を頭の高い場所で結ぶ髪型、まぁ所謂ポニーテールに中性的な顔立ち。他の戦闘機人と―――細部が少し違うが、同じようなボディースーツ。
その表情は…怒りそのものだった。
「―――エクストラ…」
「…ディケイド」
一度は士を破った敵、戦闘機人エクストラ。
今までは近くの高層ビルの屋上で、もしディケイドが現れた場合の対策として待機していたのだ。
先程までの戦闘もずっと見ていた。何もかも自分をイラつかせる、士の部下だった二人の戦闘も、士のディケイドとしての戦いも。
士に聞き取られないように、小さく舌打ちをする。心の中で沈殿していく負の感情、物事が自分の思った通りにならない。ただ世界を憎み、それを変えたいと思っただけなのに。
「―――交わす言葉はいらない、ここでお終いにしよう」
「いいじゃないか、少しぐらい」
士の言葉を聞いたエクストラは、更に不機嫌な表情を浮かべて背中に手を回す。
一瞬の光が輝くと同時に、再び手を前に戻すと……
その手には、特殊な大型銃が収められていた。
反対の手には何処からか取り出したカード、それを銃の隙間に差し込む。
〈 KAMEN RIDE ――― 〉
「全力で、潰すッ!」
それを見た士も、ライドブッカーからカードを取り出し、開かれたバックルの挿入部分に、滑り込ませる。
〈 KAMEN RIDE ――― 〉
「潰されてたまるか。俺にだって、守りたいもんがあるんだからな!」
そして、その言葉が放たれる。
「「変身!」」
〈 DIEND ! 〉
〈 DECADE ! 〉
宝石と銃口からそれぞれ発射される板状の物体、同時に二人の周りにいくつもの影が並び立つ。
飛び出した物体は二人の丁度間で衝突し合い、盛大な音を立てながら火花を散らす。影は一つに重なることで、二人の体を変化させる。
白と黒のみで染まった装甲、そこへ周りを飛び回っていた板状の物体が仮面に突き刺さる。額のポインターが黄色と赤にそれぞれ染まり、頭から足先まで、マゼンタとシアンが追加される。
片や、守ろうとする者―――ディケイド。
片や、破壊しようとする者―――ディエンド。
「―――オオオォォオォォォォッ!」
「…………」
雄叫びを上げ、走り出すディエンド。
標的を見定め、ただ静かに。一歩一歩距離を縮めていくディケイド。
〝D〟を持つ者達が、再び相見えようとしていた。
後書き
いや~、九月ですね~…涼しくなりますね……
さんま食べたいな~……
士「死ねッ!」
どあぁ!?ちょ、待って!ほんとごめんなさい!ふざけてほんとすんません!
士「夏休みだからって、早く更新できるとか言ってたのは、どこのどいつだぁ!?」
……ワタクシです…
無駄な事いっぱいしてました。旅行とかに行ってた、とかじゃないんですが…すいません。思いの外ポケモンが楽しかったので。
士「おい」
い、いや!言い訳させて!なんか知らんけど、だいぶいいとこまで書けたところで、パソコンが勝手にシャットダウンしてしまって…データが飛んでしまったんです!
それでモチベーションが落ちて、書くペースが、
士「保存してなかったのか?」
……すまん。
士「死ねッ!」
ギャアアアァァァァァ!?
―――てな訳で、ようやく書けました。
ほぼ一カ月ぶりの更新で、大変お待たせしてしまいました。
しかし、文字数は約13000文字。久々ですね。
次回からはディケイドvsディエンド。三度目の正直です。はてさて、どうなることやら(ニヤニヤ
士「小説内の誤字脱字のご指摘、ご感想など。よろしくお願いします」
それではまた次回、お会いしましょう~(^^)ノシ
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