魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
StrikerS編
113話:互いが望む未来
前書き
ほんっっとに、遅くなりました!二ヵ月近くもお待たせてしまいました。
学校でのやらなきゃいけないことやレポートなど、色々と忙しい日々を過ごしていました。
今回は予告通りのディケイドvsディエンド。少しシリアス面を強くしたつもりです。
それでは、どうぞ!
ミッドチルダ上空、ヘリコプター内部。
「スバル、ティアナ。ありがとう」
「い、いえ!」
「当然のことをしたまでです!」
ゆりかご内部に閉じ込められたなのはとはやて、リインを救出すべく突入した二人。
いくつもの壁を突破し、ゆりかごの玉座へとたどり着く。そこには戦闘機人№4―――クワットロと救出できたヴィヴィオを抱え、救援を待っていたはやてとなのはがいた。
彼女らを抱え無事に救出したスバルとティアナ。外で待機していたシャマルにヴィータ、ザフィーラを加え、ヘリへと帰還したなのはの第一声がこれだ。
なのはの感謝の言葉に、スバルとティアナは遠慮がちに返した。
「フェイトちゃんも、ライトニングの二人が応援に向かって、無事合流したって」
「そっか、よかった……」
スカリエッティのアジトへと向かっていたフェイトの現状を聴き、はやてとなのはは安堵する。
応援がいたとはいえ、六課からはフェイト一人で向かったのだ。心配するなという方が無理な話だ。
「これで一件落着、やな」
「いえ、実は…」
肩の荷が下りたと言わんばかりのはやての言葉、それに対してシャマルが一言加えようとした。
その時……
ドカンッ! と。
大きな爆発音と共に、黒々とした煙が立ち込めたのだ。
「ッ、なんやあれ!?」
「実はナカジマ三佐達のいる戦線で、例の〝怪人もどき〟がいたようで…。特策隊の方が応援に向かってくれたようなんですが、そこに巨大な敵が現れたようで…」
「巨大な…? それって…」
「角なのか他の何かなのか、よくわからないですけど、それがビルの上に飛び出ているのが見えました」
そんなに!? と驚くなのはやはやて、スバル達。実際に目にはしていなかったが、シャマルの目は嘘を言っているようなものではないし、嘘をつく必要もない。
先程煙が上がったの方に視線を向けるが、しかしシャマルの言っていたようなものは見えない。何か変化があったのか?
「……行こう」
「ッ、でもなのはさん、体が…!」
「休んでる暇なんてないよ、もしかしたら大変なことになってるかもしれないんだから」
「でも…」
追いすがる面々に、あくまで大丈夫と気丈に振る舞うなのは。実際は残りの魔力も体力もわずかだ。動かないのが無難なのだろうが……
(それでも、やっぱりじっとなんかしれられない…!)
思わず、未だ首にかける自分のデバイスに、手が伸びる。
〝不屈の魔導士〟なんて呼ばれることもあるがその実、戦いに不安がない訳ではない。
誰かが傷つくかもしれない、大切な何かを失うかもしれない。
そして同時に―――自分自身が墜ちる可能性も孕んでいる。
それが戦いというもの。ということは、自分自身の体が身をもって知っている。
だがしかし、それでも尚。
自分のこの力を、必要とする場所がある。救える命が、守れる大切なものが、そこにあるはずなのだ。
それを守れなかった時の後悔の方が、傷つけられるよりもずっと痛い。そのことを、なのはは知っているのだ。
「…アルト、向かってくれるか?」
「は、はい!」
その様子を見たはやては、操縦桿を握っているアルトに指示を出す。
こうなったなのはは、てこを使っても動かないことを知っているからだ。
「行こうなのはちゃん、何か助けになるかもしれんし」
「うん…ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
互いに笑顔を向け合い、意思を疎通する。その様子を見ていた周りも、諦めたような表情を浮かべた。
心身ともにボロボロとなっている機動六課の面々を乗せ、ヘリはこの事件最後の戦場へと向かった。
「オオオォォォッ!」
「はぁぁぁぁッ!」
フォーティーンの暴れ回った跡の残る路上、そこで拳を交わし合う影が二つ。
右ストレートが飛び、それを避けカウンターを仕掛ける。それを仮面を掠れるほどのきわどいところで避け、互いの肘と肘を引っかける。
ストレートを出した勢いを利用し、両足を引っかけ地面へと倒す。左の拳を突き出す準備をするが、その前に背中に足が命中し、前のめりに倒れる。
前転するように転がり終えると、すぐさま後ろへと向き直る。そこには少し特殊な銃を構えた相手が、既に銃口を構えていた。
慌てて後ろへ飛び、飛んでくる銃弾を回避する。転がりつつシアン色のエネルギー弾を躱しつつ、片腕を支えに体を持ち上げる。
直線的に被る二つの銃口、ほぼ同時に引き金が引かれ飛び交う二色の銃弾。
衝突し合い火花を散らす弾もあれば、標的から逸れ地面に穴を開ける。体勢を立て直しながら、今度は弾丸を撃ちつつ相手に向かって走る。
「はッ!」
「ッ…!」
弾丸の雨の、一瞬の晴れ間。そこで銃を剣へと変え、再び来る弾丸をその刀身で弾く。
瞬く間に距離を詰めると白刃を振るう。しかしそれをスルリと躱すと、更なる追撃を逆手に持ち替えた銃で受け止める。
「この…ッ!」
「ぐぅッ!」
互いに腕に力を籠め、距離を空ける。銃と剣、通常では交わることのない二つの得物が結び合う。
ふとした瞬間に距離を開け、再び銃口を向ける者―――ディエンド。そして向かってくるシアンの銃弾を、致命打となり得るものだけを弾く―――ディケイド。
飛んでくる弾丸を凌ぎ、刀身である部分を拭うようになぞる。その相手の小さな舌打ちを受け、ディケイドは肩を落とす。
「なんかもう、随分と嫌われたもんだな」
「………」
「ま、それも当然といえばそうか」
片や自らの意思もなく、強大な悪意の下に戦い……
片や自らの意思で戦い、守りたいものの為に戦う……
似ても似つかない、二人の境遇。互いに別の―――こことは全く違う世界から来た人間である筈なのに。
いったい何が違ったのか、いったい何処で違えたのか。
「………ッ!」
ギリッ、と。小さな歯ぎしりが響く。仮面の下で、表情を歪めるのは…ディエンドの方であった。
しかし彼の宣言通り、言葉を交わす訳でもなく、ただ照準を合わせ引き金を引く。
やはり距離を取ったままではダメか、と判断したディケイドは、先程と同じように弾丸を弾きながら突き進む。
その間に標的から外れた弾丸、しかしそれらは単に無駄弾として浪費され霧散するのではなく、弾道が曲がり始め―――
気づけば、突き進むディケイドの背後から、隙を伺うように並走し始めていた。
「ッ!」
「いけ…ッ!」
ディエンドの合図と共に、並走していた弾丸がディケイドに襲い掛かる。
弾丸の群れを避ける為方向転換、ディエンドを中心として円状に駆け抜ける。途中小さく飛び上りながら剣を振り抜き、追いかけてくる弾丸を数発弾く。
しかし尚も自分目がけてやってくる弾丸はまだある。それを着地した直後、側転と前転で回避し、それを繰り返しながらディエンドとの距離を徐々に縮めていく。
そしてある程度距離を詰めたところで、剣を構えて突撃し切りかかる。
〈 WEAPON RIDE・BEAST ――― DICESABER 〉
その斬撃を止めたのは―――鍔が特殊な構造をしている剣―――ダイスセイバーだった。自らの剣を受け止めたその剣を見て、ディケイドは仮面の奥で表情を歪める。
ディケイドの剣と、ディエンドの剣と銃のぶつかり合い。時には剣同士が、時には剣と銃が。互いにぶつかり合い火花を散らす。
だがその二人の、斬り結び合いの一瞬の最中。剣と剣がぶつかり合い、二人の仮面がぶつかりそうにも見える程の距離。
そんな距離で、ぶつかり合ったその距離で……
「―――何をそんなに焦ってるんだ?」
「ッ…くッ!?」
耳元での、いきなりの囁き。寒気と驚きですぐさま剣を押し出し、二人の間に距離を取る。そして銃口を向け、引き金を引く。しかし先程とは違い、弾丸ではなくシアンの砲撃が放たれる。
だいぶ近い距離からの砲撃に、ディケイドは剣の前に魔法盾を展開し、構えることで拮抗する。
「うらぁあッ!」
拮抗し停止していた剣を無理矢理振り抜き、ディエンドの砲撃を防ぎきる。霧散していく小さなのシアンの魔力粒子が飛び散り、ベクトルが変えられた砲撃がビルに衝突する。
見ていた観衆からは「おぉ」と歓声が上がる。銃口を向けるディエンドと、剣を構えなおすディケイドだが、先程までとは違い互いを正面に捉えたまま、静観している。
「…僕が、焦っている? ハッ、いったい何に?」
そんな中口を開いたのは、ディエンドの方であった。銃を向けたまま、先程の言葉に答えるかのような口ぶりに、しかしディケイドは顎に手を当て頭を捻る。
「いや、焦るとはちょっと違うか…―――どこか苛立っている、の方が合っているか」
「ッ……」
図星、思わず言葉を詰まらせる。
その様子を感じ取ったディケイドは、ディエンドをしっかりと正面から見やる。その理由をどこか理解しているかのように……
「そんなに憎いのか? 俺が―――世界が」
「…あぁ、憎いよ。この世界も…―――前世の世界も」
静かに燃ゆる憎しみの炎。仮面の下に隠れる歪んだ表情が、その炎の激しさを物語っていた。
「今も変わらない、世界は今のままではダメなんだ」
「そうだな、確かに変えなきゃいけない。でもそれは、支配によってできる世界じゃない!」
「いや、そうでもしない限り世界は変わらない。犠牲無くして変革はない」
この世界は、この世界に生ける者達は……次なる世界の犠牲に。
今のこの世界そのものは、次なる世界の礎に。
「破壊なくして、創造はない」
それはお前が一番、分かっているだろう?
「破壊者…ッ!」
「………」
再び引かれたトリガー、弾丸の射出音が鳴り響く。咄嗟に剣を振るってシアンの弾丸を弾き落とし、すぐさま一歩踏み出す。
銃撃戦で敵わない以上、戦うには接近戦あるのみ。そう判断しての行動だ。
しかし、それを想定していないディエンドではない。
〈 WEAPON RIDE・KNIGHT ――― DARKVISOR 〉
新たなカードの発動、現れた剣のナックルガードで振り下ろされる剣を受け止める。
ナックルガードが黒い蝙蝠のような形状をしている細身の剣―――ダークバイザー。それと先程召喚した剣と同時に振るい、二刀流の構えを取り、再びディケイドと斬り結ぶ。
「支配での変革なんて、できる訳ない! いつか誰かが、その世界に疑問を抱く!」
「その疑問すら、支配で消し去る! そしていつかは、誰も疑問を持たなくなる! それが世界の当たり前になる!」
そうすれば変える者は現れない。全てが変わらず、公平で不幸のない世界が―――
「おおぉぉッ!」
「ぐぁッ!?」
攻撃をいなし、二振りの剣を交差するように振り上げる。丁度胸部のあたりで火花が散り、ディケイドは地面を滑りながら後退する。
追撃を行うべく追いかけるディエンド、二つの得物を逆手と順手に持ち直し、ディケイドに迫る。
「変えなきゃならない…全てを!」
「変えなくてもいいものだって、この世界にいくらでもあるだろう!」
誰かとの思い出や、大切にしたいものなんて人それぞれだ。それすらも、変えるつもりなのか!?
その問いにディエンドは斬撃で答える。二振りの剣による怒涛の攻めに、ディケイドは押されつつも、致命傷になりそうなものは捌きながら後退する。
「それらがあって何になる、残酷で無慈悲なこの世界では意味をなさない!」
「確かに、それ自体に意味なんてないかもしれない! それでも、それがあるだけで人は大きく変われる筈なんだ!」
大切な思い出があれば、人は前に進める。
大切にしたいものがあれば、人は戦える。
「捨てちゃいけないんだよ、人として大事なものは!」
連撃の中で見つけた一瞬の隙。首元を狙って交差した瞬間、ライドブッカーの柄の部分で弾き飛ばす。
突然思ってもいない方向から力が加わり、二本の剣は宙へと弾き飛ばされた。
数歩たじろぐディエンド、そこへ柄での攻撃が腹へと一回、二回。
怯んだところへと拳が飛ぶ。返しに裏拳。ディエンドは顔を抑えつつ、後ろへと下がる。
「世界はいつだって残酷で、無慈悲だ! 助けてくれる人なんて、いないのかもしれない!」
それでも! と、剣を振るうて叫ぶ。すぐさま取り出した銃で応戦しようにも、それすら弾き斬撃を繰り出す。
なんだコイツ。ついさっきまで互角……いや、こちらが押していた筈だったのに、なんでこちらの攻撃が防がれる? ディケイドの攻撃が避けきれない?
何故今、僕が押されているんだ!?
「そんな世界でも、懸命に生きていこうとする奴らだっている! 自分に科せられた罪や、背負わされた運命があっても……誰かの為に戦おうとする奴だっているんだよ…ッ!」
今まで見てきた人達の、そんな姿を思い浮かべながら、ディケイドは拳を作る。
「そんな奴が、この世界にはいるんだよ…ッ」
「ぐッ…!」
「例えそいつら以外の奴らの所為で、世界が滅ぶべきだと言われても! 懸命に生きようと、前へ進もうとする奴が一人でもいるのなら、滅んじゃいけないんだッ!」
握った拳を振るって、ディエンドを大きく吹き飛ばす。
呻き声を上げ転がるディエンド、すぐに見上げるようにディケイドを見やる。
「そんな綺麗事が、まかり通ると本気で思っているのか!? 結局は理想論だ!」
「あぁ確かにそうさ、俺の理想は綺麗事で、結局は理想論だ。
―――でも、理想だからこそ、現実にしたいんだよッ!」
お互いの思いが言葉となって衝突する。しかし悲しいかな、やはり二人の主張は平行線、決して互いの意見を受け入れられない。
「また〝あの人〟達からの言葉か!? 戯言を、あれは|英雄〈ヒーロー〉だったからできたこと! 必ずしも望んだ通りになるとは限らないッ!」
「そうさ、望んだからと言って必ず叶う訳じゃない…。―――それでも、救いたいと思ってるよ! 大切な奴らがいるから、そいつらが目指す未来があるから! 助けてほしいって声があるから!」
全ては無理かもしれない、救えずに消えてしまう命や声があるかもしれない。
それでも手を伸ばすと決めたから。たとえ届かなかったとしても、掴めなかったとしても! 伸ばし続けると決めたのだから。
「―――だから、お前も必ず助ける!」
「ッ、黙れ!」
ディケイドの言葉に、大声を上げて引き金を引く。
唐突の攻撃に横っ飛びで回避し、剣を銃へと組み換え弾丸を放つ。
「助けるだと? 誰が頼んだ、そんなこと! 俺は救ってほしいなんて言ってないッ!」
「別に頼まれたわけじゃねぇ!
―――俺がお前を〝助けたい〟だけだッ!」
「なッ!? …何を、勝手な…ッ」
「だってそうだろう!? 〝あの人〟達だって、頼まれてやってた訳じゃない!自分の〝意志〟で、〝思い〟でッ! 戦ってきたんだ!!」
だから俺は、お前も助ける。俺が助けたいから、放っておけないから!
〈〈 ATTACK RIDE・BLAST ! 〉〉
「「ぐぅッ!」」
互いに同じカード、同じ数の弾丸を放ち、撃ち合う。その内の数発の弾丸は互いの体へ、命中した場所から火花を散らし後方へと飛ぶ。
「…お前に、あったことをッ。全部、理解できる訳じゃない! お前の気持ちを…全てわかるなんて都合のいいことを、言うつもりもないッ!」
お前が感じたであろう孤独も、苦痛も、不安も、後悔も。
全てお前自身にあった出来事だ。赤の他人がそれを理解しようなんて、普通誰だってできない。
「―――それでもッ、お前のその感情を分かち合うことができる!」
「ッ!」
「孤独も苦痛も後悔もッ、手を取り合えば少なくできる筈なんだ!」
バッと腕を伸ばす。開かれた掌の先には……立ち上がるディエンド。
―――いや、そこにいるエクストラに。
「そう信じているから、手を伸ばすんだよ! きっとお前を助けられると、信じているから!」
「なんで…なんで、そこまで…ッ!?」
「なんで? ハッ、それこそお前、愚問だろ…!」
互いにフラフラとしながら立ち上がる二人。差し出した手は固く、強く握られ、ディケイドの胸を打つ。
「言った筈だ、俺が助けたいだけだって。それ以外…何か理由がいるかよ?」
「……ッ!」
「お前が少しでもッ…今のこの状況を、変えたいと思っているなら…少しでも、今とは違う未来を見たいならッ!」
大きな声を上げてくれ、その手を伸ばしてくれッ。
そしたら必ず、そこに行くからッ! 伸ばしてくれたその手を…必ず、掴み取ってやるから! 引っ張り出してやるから!
「手を伸ばせ…ッ―――エクストラぁッ!!」
「………」
……あぁ、クソッたれ。
今まで一人で考えて抱え込んでいたものを、全部見透かされてるような気分だ。こっちの憎悪も後悔も…心の奥にある、自分でもわからない何かさえも。
一人であがいても届かなかった姿、一度は憧れた正義。諦めてしまった自分には、もう掴めないと思っていた。
それでもこいつは、それを掴もうとしている。仲間と一緒に、自らが望む未来を。
―――しかも、この僕も救って…否、助けて。そして僕も一緒にその未来を目指そうとしている。
あぁ、クソッ……
眩しくってしかたない…ッ!
気がつけば、手を伸ばしていた。
まるで何かを求めるかのように…救いを求めるかのように……
あぁ、そうか…
僕はずっと憧れていたんだ、あの英雄達の姿を…正義の下で戦うことを。誰かを護る為に戦えることを…
そして、望んでいたんだ。世界に対する憎悪から抜け出すことを、世界を脅かす巨大な悪から抜け出すことを。
―――誰かに、今の自分を救ってもらうことを…ッ!
「まったく…羨ましいよ、お前が…」
憧れたものを全部持ってるお前が、輝いていて眩しい。
でも、僕もお前のようになれるだろうか? 正義の味方なんてものでなくていい。ただ守りたい者達を、自分の手で守れるような……
守るために戦えるように、なれるだろうか?
そんな思いを持ちながら、いつか届くようにと願いながら。
目の前で手を差し出す光へと、自らの手を伸ばし……
そして―――
「え…?」
その瞬間、ディケイドとディエンドの戦闘場所に到着したヘリから様子を見ていたなのはと、まさしくそこにいて手を伸ばしていたディエンド―――エクストラのセリフが重なった。
二人の言葉は誰にも聞き取られることはなかったが、その場にいる者全員が同じような思いだったであろう。
―――何せエクストラの胸部から、淡い光が漏れ始めたのだ。
それは深紅のような色合いで、徐々に強くなっていく光。ディエンドの胸部の隙間から漏れるそれに、なのはは…否、なのはだけでなく多くの者達が強い既視感を感じていた。
それは先刻スカリエッティが扱っていた、レリックが放つ光だった。
「なん…―――ッ!?」
「ッ、エクストラ!」
いきなりの事に何故と疑問を覚えるが、それを遮るかのように彼の体に激痛が走る。
なんだか胸がはち切れるような痛みに、呻きながら数歩よろける。その様子を見ていた士は、思わず声を掛けながら駆け寄る。
「く、来るガ―――ァアアアッ!?」
手で制しようとするが、さらに強い痛みに襲われ大声を上げた。思わず足を止める士、そこへ視界を遮る程の赤い光が差し込む。
「な、なんだッ…これは…!?」
『―――やぁ、エクストラ。調子はどうだい?』
「ッ!? スカリ、エッティ…ッ!?」
謎の光に疑問を抱く彼に、まるで答えるかのように声が響く。
横へと視線を向ければ、そこにはモニターの奥で不気味な笑みを浮かべるスカリエッティの姿があった。
『キミがこの映像を見ているということは、私の保険が正常に作動しているという訳なのだが…。そこは一体、どこなのだろうね?』
「な、何を…ッ!?」
『まだ戦場なのか、それとも捕まってどこかの次元艦の中で幽閉されているのか…まぁそこはどうでもいい』
キミは気づいていなかっただろうが、この保険は以前からあってね。戦闘機人をベースにしているとはいえ、キミが叛旗を翻す可能性があったのでね。少し細工をさせてもらったのだよ。
モニターの奥で悠々とそう語るスカリエッティに対し、胸を抑えながらもエクストラが反論する。
「細工、だと…!? そんなの、いつの間に…ッ!?」
『一つはまぁ、ある程度コントロールが効くようにする細工。これは今回とは関係ないんだ、ある種保険中の保険だ。
しかしもう一つ。私がそのコントロールができない状況で、キミが何かをしでかそうとしたときの保険だ』
なッ!? と驚く声が二つ、間近で聞いていたエクストラと士のもの。
それに応えるように、スカリエッティが声を抑えながら笑う。まるで先程とは違い、こちらの様子が分かっているかのように。
『元よりキミの力が、正義の下で振るわれていたものだと聞いていたものでね。キミの身体の中に入れさせてもらったよ―――レリックをね』
「くッ…!?」
『まぁ実際には保険が半分、自分の興味が半分と言ったところだが。戦闘機人をベースにしているとはいえ、私の作品とは違う反応があるかもしれない。そんな研究者の性のようなものだよ』
それは結果として役に立ったようだ。そう語るスカリエッティに、「黙れッ!」と言って腕を振るうエクストラだが、相手はモニター。腕は無駄に空を切るのみ。
「ぐ、ああぁあぁぁぁッ!?」
「エクストラッ!」
『キミの姿を見られてるかはわからないが……見させてもらうよ。キミの奥底に宿る〝欲望〟を』
―――〝世界を破壊したい〟という衝動をッ!
そう言い残すと消えるモニター、それと同時にに光は更に強さを増していく。共に痛みも動悸も激しくなっていく。
漏れだす光、しかしその色は次第に一色だけではなくなり始める。体の中から溢れ出る光の他に、黒く炎のように揺らぐ光が少しずつ漏れ出していた。
「あれは…プロトWのときの…!」
『闇の瘴気…負の感情と本人のより強くなりたいという願いに感応している…!』
そう言えばあの時もそうか、と納得する士。早く止めないと取り返しのつかないことになる。そう判断し、踏み出したのだが……
二色の光が渦を巻き、荒れ狂う嵐のように士に襲い掛かった。両手で顔を庇うようにするも、嵐の勢いは収まらず士の体を吹き飛ばした。
「ぐッ―――え、エクストラぁッ!」
「あああぁアアァァぁあアァァぁあああぁあァァァぁぁぁッ!!」
大きな叫び声、眩くなる光。
近くで倒れる士も、二人の戦いを見ていた者達全員も。その光で視界が数瞬遮られる。
光が落ち着いていき、視界がしっかりし始めた頃には……
「―――…ウゥゥ…ッ」
肥大化した四肢、憎悪の炎を体現するかのように禍々しく歪んだ装甲。
先程よりも大きく突き出した仮面の板、口元には凶暴な歯を見せるような口が新たに出現していた。
「ガアアあぁアあぁアァぁァあアあァァぁぁぁぁッッ!!!」
野獣の如く吠えたその人は。
先程まで見られていた人間味は、完全に消え去り。
―――まさしく野獣のような何かを纏い、そこに立っていた。
後書き
てな訳で、こんな感じになりました。
ここまで時間をかけてこの短さ、ほんと最近文才のなさを感じます。殺陣なんか特に。
次回は暴走状態となったディエンドとの戦い。はてさて勝てるのか…乞うご期待!なんて(笑)
なるたけ早く、目一杯早く書き上げて投稿したいと思うので、待っていてください!
また次回、お会いしましょう! (^^)ノシ
ページ上へ戻る