| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

空気を読まない拳士達が幻想入り

作者:sibugaki
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第7話 激戦開幕! 幻想郷に安息の地はないのか!?

 
前書き
前回のあらすじ

 南斗聖拳のシンから受け取った賽銭を元に博麗神社の再建築を依頼した博麗霊夢は、生活に必要な家財道具一式を買う為ケンシロウを連れて人里まで足を運んでいた。
 だが、其処にはかつての誇りと職を失い泣き崩れる元紅魔館の門番である紅美鈴の姿があった。彼女が言うには自分がクビになったのは異変が原因だと言う事らしく、事の真相を確かめるべく霊夢とケンシロウは一路、紅魔館へと足を運ぶ事になった――― 

 
 北斗現れる所乱あり―――この言葉をご存じだろうか?
 その言葉が示す通り、北斗を司る者あるところ必ず災いが起こると言う何とも不吉な言葉である。
 そして、此処幻想郷に今、北斗を司る男達がやってきた。
 力なき人々を救う為にその力を使う者―――
 己の信念に従い覇道の道を突き進む者―――
 残り少ない命をただただ救いの為に費やす者―――
 男達は皆己が信じる道をただただ進み続けるだけだった。
 例え、その先にどのような困難が待ち受けていたとしても男達は止まる事は決してないだろう。
 ただ一つ言える事があるとすれば・・・




 物凄く『はた迷惑な奴ら』だと言う事だろう―――




     ***




 ケンシロウと霊夢の二人は、人里で知り合った美鈴と共に異変が起こったとされる場所、紅魔館へ向けて歩を進めていた。
 無論、その道中では凶悪な盗賊集団と出くわす事などなく、ましてや血に飢えた殺人鬼にすら会う事も無い為に本編であるような【あべし】や【ひでぶ】的な展開などは一切なくただただ歩き続ける場面が続く何とも小説的に退屈極まりない光景が展開されていた。
 ただし、その間ケンシロウはと言うと美鈴に紅魔館やその当主の事などについて詳しい話を聞いていたりケンシロウが野に咲く花を見る度に世紀末的な発言を繰り返して回りを困らせたりする等、一応イベントはあったりしていたりするのだが、正直そんな場面を書いて良いのかどうか悩む今日この頃だったりする。
 が、何も書かないでこうして地の文だけで進行出来る程これを書いてる私自身の文章力はないので退屈しない程度に見て行く事にするとしよう。

「にしても面倒臭いわねぇ・・・何時も飛んで移動してるからこうして歩くと足が痛くて溜まんないわ」
「何時も飛んでばかりだと体が鈍っちゃいますよ。それに歩く事だって健康には良いですし飛んでると普段気づかない事も気づけたりするじゃないですか」
「そうかもね、こうして地面を向いて歩いていれば落ちている小銭を見つけられるかも知れないし」
「霊夢さん、常に飢えてるんですね」

 因みに、何故飛べる霊夢と美鈴が歩いているのかと言うと、それはケンシロウが空を飛べない為だったりする。

「・・・・・・」

 霊夢と美鈴の二人が話をしている間、ケンシロウは一人無言のまま歩き続けていた。今、彼の胸中には巨大な戦慄が渦を巻いてうねり狂っていたのだ。
 ケンシロウは悟っていたのだ。今から向かう紅魔館にて激しい戦いが起こると言う事を。血で血を洗う壮絶な死闘が待っていると言う事を―――

「どうしたんですかケンシロウさん、さっきから暗い顔してますけど?」
「美鈴、さきの話が本当なら、これから向かう紅魔館とやらは恐ろしい場所なのだろうな」
「え? いや、私そんなに不安になるような事話しましたっけ?」
「あぁ、今思い出すだけでも背筋に悪寒が走る思いだ」

 ケンシロウは戦慄していた。これから向かう紅魔館と呼ばれる場所―――
 それは、かつて数多の人間たちを食らい貪り続けて来たとされる吸血鬼の住まう館だと言うそうだ。一度その館に入ったが最期、二度と外へは帰れないのだと言う。
 過去に幾度もこの館に挑んだ猛者達がいたが、いずれもその吸血鬼たちの手により帰らぬ人となった。
 その猛者たちや犠牲者達の亡骸は人知れず館内の庭に埋められ、今でも死者の魂が嘆き続けている音から別名【鬼の鳴く館】と命名された・・・って言う設定だったら良いのになぁ―――

「何ですか! 上の文章の下りは!? 私そんな説明してませんよ! ただ吸血鬼だけど綺麗なお嬢様とその妹様、更には病弱な大魔法使いさんとかが住んでる真っ赤なお屋敷、って言っただけじゃないですか! なんですか鬼の鳴く館って? 私そんな怖い場所で働きたくないですよ!」
「中国妖怪が何を言うか」
「妖怪だからって怖い物は嫌なんですよぉ!」

 霊夢の冷たいツッコミに涙目になりながら美鈴は訴えた。まぁ、確かにそんな喧しい館に住んでいたのではノイローゼになりそう・・・もしや、ケンシロウが戦慄を覚えていたのはこの事なのでは!?

「気を引き締めねば、此処から先は恐らく凄まじいまでの死闘が繰り広げられる事だろう」
「そんなに気を張り続けて肩とか凝らないの、ケン?」
「いや、別に問題はない」
「あっそ、とにかくさっさと用事を済ませて帰りましょうよ。何時までも遊んでられる時間はないんだしね」
「あれ? 霊夢さん四六時中暇な筈じゃ―――」

 美鈴の言葉が言い終わるよりも前に、彼女の顔面に霊夢の鉄拳パンチが突き刺さったのは言うに及ばずと言うそうだ。





     ***




 少々の経緯は省く事になってはしまった為に、ようやくケンシロウ達は真っ赤に染まった館こと紅魔館の門前に辿り着いていた。
 流石は名前の通り真っ赤な色の館にケンシロウは目を大きく見開いて見つめていた。

「これが紅魔館か・・・成程、話の通り禍々しい館だな」
「えぇ~、何処が禍々しいんですか? 一応少し前までは働いていた場所なんですからそんなラスボスが居るような城みたいな風に言わないで下さいよぉ」

 相変らず世紀末感まっしぐらなケンシロウの発言に真っ青な顔になりながら美鈴の必至なツッコミが入る。どうやら今回ツッコミ担当の魔理沙が居ないので代わりとして美鈴がツッコミを担当してくれてるようだ。これでツッコミをわざわざ用意しなくて済むので楽d・・・ゲフンゲフン。

「見た所あんたの代わりの門番は居ないみたいね」
「マジですか!? やっぱり紅魔館の門番は私以外有り得ないんですよね! だから代わりの門番を雇ってないんですよ!」

 滝の如く涙をながしながら美鈴が語る。それほどまでにこの館の門番をやってた事を誇りに思っていたのだろう。まぁ、ケンシロウや霊夢には余り関係がない事なのだが―――

「やれやれ、これじゃ魔理沙に本盗まれ放題じゃない。まぁ、あんたが居た所で結果は同じだろうけど」
「酷っ!! 幾ら毎回魔理沙に侵入されてるからってそんな言い方あんまりじゃないですか!?」
「毎回侵入されてる時点で門番としては失格じゃない。やっぱりあんたクビになって当然だったんじゃないの?」
「あんまりですよぉぉぉ~~~」

 無残にも突き付けられる霊夢の無情な発言の数々に心を砕かれる美鈴。そんな彼女の肩にケンシロウの手がそっと触れる。

「案ずるな美鈴よ。この荒んだ世の中、きっとお前の力が役に立つ日が来る。どんなに苦しい思いをしても悪魔に決して魂を売らなければ明日は必ず訪れるものなんだ」
「いや、一応私それっぽい人に使えてた身ですし、そもそも幻想郷ってそんなに荒んだ印象感じないんですけど」
「さぁ、俺達三人で不落の紅魔館伝説を破るとするか」
「何ですかその不落の紅魔館伝説って!? 私初耳なんですけど!?」

 この小説を読んでる読者には誤解を招かない為に敢えて言わせて貰うが、間違っても紅魔館とはどこぞの世紀末な世界にあった地獄の監獄とかではないので誤解しないように。
 
「ほら、二人して下らない漫才してないでさっさと用事済ませましょうよ。それと美鈴、これが異変じゃなかったら後であんたにも手伝ってもらうからね」
「あ、待って下さいよ霊夢さん!」

 下らない言い合いを続けているケンシロウと美鈴を尻目に霊夢が門へと近づいて行く。急ぎその後を追おうとした二人であったが、ケンシロウはふと違和感を感じた。
 視線を感じたのだ。門の近くに人の気配はない筈なのに自分達を見つめる不気味な視線を感じるのだ。
 
「待て二人とも! 門に近づくな!!」
「はぁ? 一体どうしたのよ」
「何か見つけたんですか?」

 ケンシロウの叫びに足を止める二人。

「門の近くに人の気配を感じる。誰かがいるぞ!」
「えぇっ!! 私の他にこの館の門番になれる人なんて居るんですか?」
「良かったわね、美鈴。これであんた晴れて紅魔館の門番永久免除ね」
「いやですよぉぉぉ! 私は何時までも紅魔館の門番で居たいんですよぉぉぉ!」

 またしても霊夢の心に突き刺さる一言が美鈴の心を抉って行く。一体何度人の心を抉れば気が済むのだろうかこの貧乏巫女は。

「立ち去れ、立ち去るのだ―――」
「何人たりとも、この館に近づく事はまかりならぬ―――」

 突如として、三人に向かい声が響いてきた。明らかにこの場に居る三人の声ではない。全く別の人物の声であった。野太い男の声だった。

「あら、あんたの代わりの門番って男だったのね。やっぱりあんたの代わりの門番居たんじゃない」
「だ、誰ですか! 私以外にこの館の門番なんて務まる筈がないんです! 一体何処に居るんですか? 姿を見せて下さい!」

 声を聞こえど姿は見えず。しかし、そんな声に対しても霊夢は相変らず落ち着いた感じで人の心を抉る言葉を放ち、美鈴は逆に慌てふためいてあちこち見回しながら自分の後任の門番を血眼になって探し回っていた。

「立ち去れ、さもなくば―――」
「貴様ら全員、死あるのみ―――」

 再度声が響き渡る。それとほぼ同時に、門の前から突如として二人の大男が姿を現した。褐色の良い肌に筋骨隆々の体つきに鋭い眼光を放ち、腰にブーメランパンツのみを履いた明らかにこの幻想郷の世界観からかけ離れた姿をした二人の大男が其処に立っていた。

「何者だ、お前達は?」
「我らこそは、紅魔館最強の戦士ライガ―――」
「そして同じく、フウガ―――」
「「我らが守護するこの館、何人たりとも入る事まかりならぬ! 直ちに立ち去るが良い」」

 声も同じ、姿もほぼ同じな大男二人の見事なはもりが木霊する。ケンシロウも相当幻想郷からかけ離れた存在であろうがこの二人の比ではない。

「へぇ、見た感じ美鈴よりいい仕事しそうじゃない。良かったわね美鈴。あんたの後任立派に門番やってるじゃん」
「全然良くありませんよ! これじゃ私の職奪われたままじゃないですか! そんなの嫌ですよ!」
「うだうだ言ってもしょうがないでしょ。クビになったものはしょうがないんだし、あんたも諦めて再就職先でも探したら?」
「ひ、酷い・・・幾ら他人事だとは言え、あんまりですよ霊夢さん・・・はっ、そうだ!」

 突如何か閃いたのかすっと美鈴は立ち上がる。さっきまで虚ろになりかけていた瞳には光が戻り体中から闘志が湧き上がってくるのが感じられる。

「私がこの門番と勝負して勝てばまた此処の門番として返り咲けるじゃないですか!」
「はぁっ? あんた本気でそんな面倒くさい事するって言うの?」
「当然です! これは、私の紅魔館の門番としての誇りを掛けた戦いです! この誇りに掛けて、この戦いを逃げる訳にはいきません!」
「うっわぁ、心底面倒臭い事になってきたわねぇ。正直あんたの誇りだの紅魔館の門番に返り咲くだのどうでも良いからさっさと終わらせたいんだけど」

 全くやる気のない霊夢に対し、美鈴はやる気満々なようで―――
 そんな彼女のやる気を感じ取ったのか、現在紅魔館の門番をしているライガとフウガの二人も構えを取る。

「どうしても立ち去らぬと言うか―――」
「ならば仕方ない。その身をもって知ってもらうとしよう―――」
「望むところです! どちらが紅魔館の門番に相応しいのか互いの拳で問う事としましょう」
「ならばその勝負、この俺が見届けよう」

 ついにはケンシロウまでもがすっかりその気になってしまい美鈴達の勝負の見届け役を買って出る羽目にまでなってしまった。

「駄目だこりゃ、こうなったら手早くちゃっちゃと終わらせなさいよね。私は近くで休んでるから」

 そんな彼らの盛り上がりとは裏腹に霊夢は全く興味なしかの如く戦いの巻き添えを食らわない程度の位置で座り事が終わるのを待つとしていた。

「いざ、尋常に―――」
「「勝負!!」」

 互いに戦闘開始のゴングを叫び、両者が拳を握り締めて殴り掛かろうと飛び込んでいく。
 尚、ライガとフウガが二人掛かりで美鈴に挑むのは反則じゃないのか? って言うツッコミはナッシングの方向で頼んますばい。

「あらあら、随分と楽しそうねぇ・・・三人とも?」
「「「ギクゥッ!!!」」」

 折角この小説初のガチバトルに突入しそうになっていたのを、突如としてその一声が遮って来た。
 その声を聴いた途端美鈴はおろか、ライガとフウガまでもがその場で硬直してしまったのだ。
 三人の体からは滝の様に汗が流れだしているのがケンシロウの目から見ても明らかに分かる。

「大事な門番の仕事を放棄して三人で何をしているのかしら?」
「い、いや・・・我々は決してサボってなど―――」
「そ、そうだ! 決してサボってなどはいない―――」
「えと・・・あの・・・その・・・・」

 声の主が門を開き姿を現せた。三人の視線が一斉に門から現れて来るであろう声の主へと向けられる。
 其処から出て来たのは一人の女性であった。銀色の髪に凛とした顔だちとは裏腹に鋭い眼光を持ったメイド服を着た女性が現れたのだ。
 そんな女性を見た途端、三人はまるで蛇に睨まれた蛙の如くガチガチと震えて動かなくなってしまった。

「どうした? 勝負はしないのか?」
「い、今はそれどころではない―――」
「そうだ、我らにとっては死活問題なのだ―――」
「さ、咲夜さん・・・」

 美鈴が女性の名を呼ぶ。その刹那の事だった。瞬きする間もなく、美鈴、ライガ、フウガの三名の額には一本のナイフが突き刺さり、三人は全く同じタイミングで仰向けに倒れ込んでしまった。

「全く、あんた達は何をやってるのよ! まずはライガとフウガ!」
「「は、はい!!」」

 咲夜の号令に二人の大男は即座に反応し立ち上がった。

「何度も言ってるでしょう! 此処で門番をするにしても紅魔館の者として恥じない服装をしなさいと口が酸っぱくなるほど言った筈よ!」
「で、ですから我らはこうして恥じのない服装を―――」
「上半身素っ裸な上にパン一の何処が恥じの無い服装よ! そんな服装でこの門の前に立ってたら誰も寄り付かなくなるわよ!」
「し、しかし咲夜様、我ら兄弟はこの服装の方が動きやすく、戦いやすいのです―――」
「言い訳無用! すぐに着替えて来なさい!」
「す、すぐに・・・ですか?」
「しかし、我らはまだ戦いの真っ最中で―――」
「まだナイフを食らいたいの?」

 そう言うなり両手にナイフを装備してキラリと光らせる咲夜の姿に完全にビビったのか、二人の大男は大急ぎで着替えに館の中へと突っ走って行ってしまった。
 どうやら彼女は相当恐れられているようだ。あの二人にも、そして美鈴にも―――

「さてと、それじゃ美鈴」
「は、はいぃぃ!!」
「一体今まで何処で油を売っていたのかきっちり説明して貰いましょうか?」
「はひぃぃぃぃぃ!」

 完全に咲夜に対してビビりまくってしまい会話にすらならなそうな展開になっている。そしてそんな展開に完全に置いてけぼりを食らってしまったケンシロウは―――

「待たれよ、美鈴は己の誇りと紅魔館の門番の地位を掛けての死闘を行おうとしていた所だったのだ。俺は同じ拳法家としてその戦いの行く末を見守らねばならないのだ」
「・・・・・・貴方、誰?」

 初対面ならではの反応有難う御座います。

「あ、えぇと・・・ケンシロウさん。この人は十六夜咲夜さんって言ってこの紅魔館のメイド長を務めている―――」
「貴方は黙ってなさい美鈴」
「は、はいぃ!」
「で、さっき美鈴から聞いたけど、貴方の名前はケンシロウと言うのかしら?」
「そうだ、北斗神拳第64代伝承者で今は香霖堂で働いている」
「すると、貴方があのゴシップ新聞に書かれていた亜人で間違いないようね」

 どうやら射命丸の新聞は幻想郷に広く知れ渡っているようである。ゴシップ新聞として―――

「にしても・・・にわかには信じられないわねぇ、あんたみたいなのがあの魔理沙を追い返したり博麗神社を破壊したり人里を壊滅させたりしたなんて。どう見ても二頭身の変な奴って言う風にしか見えないわよ」
「仕方あるまい。これも北斗の運命なのだ。俺は生まれた時から暗殺者の道を歩む事を運命づけられていた身だ」
「は?」
「だが、微塵の悔いもない。俺はこの拳と北斗神拳二千年の歴史を背負ってこの幻想郷で生きて行くつもりだ」
「えと・・・あっそう・・・大変ねぇ」

 すっかり論点がずれてしまい咲夜自身もどう対応したら良いのか困り果てる始末になってしまった。だが、ケンシロウ本人はそんな事微塵も気にしてる様子はなく、寧ろ言ってやったかの様に満ち足りた顔をしていた。
 本当に満ち足りた顔をしていましたとも。

「ちょっと、いい加減にしてくんない? こっちだって暇じゃないのよ。さっさと終わらせてよね」
「あら、霊夢も居たのね。でも何でまた貴方まで来たの?」
「其処の元門番が泣きついてきたのよ。自分が紅魔館の門番をクビになったのはきっと異変のせいだぁってね」
「何よそれ? 大体美鈴はクビになんかしてないわよ」
「はぁ!? どう言う事よ」

 霊夢は驚いた。無論隣に居た美鈴やケンシロウも勿論驚きの顔を浮かべていたりする。まぁ、今回の騒ぎの原因だしそれは驚くだろうねぇ。

「え? あの、どう言う事ですか? 咲夜さん」
「どうもこうもないわよ。たまには休みが欲しいって言うから私が何とか休みを作ってあげたのに貴方それを聞いた途端紅魔館を飛び出して何処かへ行ってしまったんだもの。あの後大変だったんだからね」
「へ!? じゃ、じゃぁ・・・さっきまで門を守ってたあの大男二人は誰なんですか?」
「あれは貴方が休みの時の交代用に雇った臨時のバイトよ。門番以外にも庭の手入れや館内の雑用とかもやってもらってるわ。まぁメイド妖精と同じ感覚で見てればいいでしょうね」
「そ、それじゃ・・・私・・・紅魔館の門番でいられるんですね?」
「居られるも何も貴方は今でも門番でしょう? 何言ってるのよ」
「う、うおおぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――――!!!」

 突如として、美鈴は号泣しだした。そして、あわよくば咲夜に抱き付こうとしたがそうはさせまいとばかりに再度額にナイフを刺されてしまいまたしても仰向けに倒れてしまう美鈴でもあった。

「良くは分からないのだが、要するに美鈴はこの館の門番に返り咲けたと言うのか?」
「返り咲けたも何も今でも美鈴は此処の門番で間違いないわよ。もしかして、貴方や霊夢の二人は揃って美鈴の勘違いで此処まで連れ回されたって事で良いのかしら?」
「そ、そうなのか!? 俺は・・・俺はとんでもない思い違いをしてしまっていたと言うのか!?」

 今の今まで一連の事が全て異変だとばかり思っていただけにケンシロウのショックは相当大きかったようで。一人真っ白になって紅魔館の壁にそっと手を添えて項垂れてしまった。

「あの・・・すみませんでした、ケンシロウさん・・・えっと、元気出してください。今の私にはこれくらいしか言えないんですけど、あのぉ―――」

 必至に慰めようとするのだがそこから先の言葉が見つからずしどろもどろしだす美鈴。そしてそんな二人のやり取りなどどうでも良いと言った面持で見守る霊夢と咲夜の二人。

「・・・・・・聞こえる」

 ふと、ケンシロウが小声でつぶやき始めた。

「俺には・・・まだ、鬼の泣く声が聞こえる」
「あのぉ、だから別に鬼が泣くとかないですから。そんなに怖い館じゃありませんから此処」
「どうでも良いけど、美鈴。貴方暫くサボってた分キッチリ給料から差っ引くからね」
「ま、マジっすか!?」

 クビにならないだけマシだろう。

「お、お待たせしました―――」
「き、着替えが終わりました―――」

 そうこうしている内にライガとフウガが着替えて戻って来たようだ。二人とも揃って同じ柄のピッチピチなメイド服を着た姿で。

「ねぇ、咲夜」
「何よ?」
「この恰好だと、余計に人来なくならないかしら?」
「・・・・・・変かしら?」

 正直男がメイド服を着てたら一生もののトラウマを抱えそうだ。それも筋骨隆々で褐色肌でたらこ唇な大男が二人ともなれば常人なれば泡を吹いて卒倒する事確実であろう。

「それがこの館での服装なのか?」
「えぇ、まぁ―――」
「少しでも動くと服が破れてしまって―――」

 明らかにサイズが小さすぎるようだ。

「ねぇ、男用のタキシードとか置いてないの?」
「家は皆メイドだからタキシードなんて誰も着ないから置いてないわよ。それにあったとしてもあの二人用のサイズなんてある訳ないじゃない」

 ごもっともな事で―――

「つまり、今回の美鈴の件は異変じゃなかったって事ね」
「当たり前でしょ。美鈴が紅魔館の門番をクビになるってだけで異変になってたら毎日異変続きになる筈じゃない」
「それもそうね」

 霊夢に続き咲夜の毒舌が適格に美鈴のガラスのハートを打ち抜いて行く。二人の横で美鈴が膝が折れて愕然としている状態なのだがこの二人は全く気にしていない。

「それよりも貴方達、良く覚えておきなさい。此処に居るのが貴方達の先輩でもある紅美鈴よ」
「よ、宜しくお願いします―――」
「お互い頑張っていきましょう―――」
「あ、はい。こちらこそよろしく」

 何ともよそよそしく互いに了解しあう門番の三人。これにて今回の事件は無事解決しただろう。誰もがそう確信を持っていた。
 背後に見える真っ赤な館の方から盛大な爆発音が響く寸前まではの話だが―――

「何だ、今の爆発は!?」
「あの方向は、大図書館のある方角では―――」
「いかん、急ぐぞフウガ!!」

 爆発に危機感を感じたケンシロウ、ライガ、フウガの三名は急ぎ館の中へと走り出した。まさか、これが異変なのでは?
 一末の不安を胸にケンシロウ達は走る。平和なこの幻想郷を守る為にただひたすら走り続けた。
 
「ねぇ、今の爆発って・・・」
「大方何時ものでしょうね。全く、何時の間に忍び込んだのやら」
「全く、凝りませんねぇ”魔理沙さん”も」

 そんなケンシロウ達とは裏腹に霊夢ら三人は落ち着いた様子で居たと言う。




     ***




 辺り一面本で埋め尽くされた広大な空間。世間で言う大図書館と呼ばれるこの場所で例の爆発は発生していた。
 そして、その爆発を行った張本人もまたその場に居合わせていた。

「へへん、どうやら私の勝ちみたいだな」

 勝ち誇った顔で背中に大きな風呂敷袋を背負いながらも、久々の登場の魔理沙は大変ご機嫌状態であった。
 そんな魔理沙の眼前には無残にも打ち捨てられたかのようにボロボロになった女性の姿があった。

「うぅぅ・・・申し訳ありません。パチュリー様~~~」
「また、また魔理沙に負けるなんて・・・」
「まぁ、そう悲しい顔すんなって、ちょっとこいつらを死ぬまで借りるだけなんだからさ」

 言い方も物騒だが背負ってる本の量もかなり物騒だと言える。完全に窃盗レベルの事をしでかしているのに悪びれる様子が全くない。
 魔理沙にとってはこれが日常茶飯事なのであろう。

(いやぁ、最近ケン達に会わないから平和で良いぜ。しかもまたパチュリーが新しい本仕入れたって言うからこうして無事に借りる事も出来たし、後で家に帰ってゆっくり読むとするか)

 しめしめと笑みを浮かべる。久々の登場が其処まで嬉しいとはこれを書いてる私自身も驚きだ。
 そんな驚きなど露知らずな魔理沙は得物を獲得し、ほくほく状態でこの大図書館を後にしようとしている。

「この後来るとしたらどうせ咲夜位だろうな。さっき門を見たら美鈴も居なかったし、今回は楽が出来てラッキーだな」

 気分上々、すっかりほくほく気分で帰り道をるんるん気分で行く。今彼女の目の前は赤いじゅうたんにバラの花びらが舞い散る幸せ絶頂の道を歩いていると言うようなイメージが浮かび上がってる事だろう。

「どうした!? 今の爆発は何だ!?」

 ケンシロウが大図書館に到着する前まではの話だが―――

「ぎゃあああああああああああああ! ででで、出たああああああああああああああ!!!」

 ケンシロウを見るなりさっきまでのルンルン顔から一変、顔面蒼白状態になりそのまま来た道を転がり落ちるかの様に戻っていく魔理沙。其処までケンの事が怖いのは最早病気と言わざるを得ないだろう。

「む、魔理沙か。こんな所で会うとは奇遇だな」
「ななな、なんでお前は何時も何時も私の行く先々に現れるんだよぉぉぉ!」
「そんな事知らん。俺はただ異変を解決する為に此処に来ただけだ」
「はぁっ!? 異変! 何だよそれ、私はただ本を借りに来ただけだっての!?」

 あくまで窃盗とレンタルを同義語扱いする魔理沙。これを読んでる読者の方々は間違っても彼女の様な事をすると即座に御用となるので決して真似しないように。

「だ、騙されないで下さい! そいつは借りると言いながらパチュリー様の大事な本を奪い取って行く奴なんです!」
「ちょっ、小悪魔、お前何言って・・・はっ!!」

 小悪魔と呼ばれる女性のその一言が決め手となっていた。恐る恐る魔理沙がケンシロウの方を向くと、其処には予想通りと言わんばかりに怒りモードマックスなケンシロウが魔理沙の目の前に立っていた。
 その怒り様は凄まじく、普段は二頭身な筈のケンシロウが突然八頭身に見えてしまう位なまでに―――

「貴様、罪なき人々を苦しめるだけで飽き足らず。明日を生きるその糧すらも奪い去る悪党振り・・・貴様の血は何色だああ―――!!!」

 渾身の雄叫びと共に上着を気合いで破り捨てる。体中の筋肉がモリモリと盛り上がり、全身から凄まじいまでのオーラが漂いだす。胸に刻まれた七つの傷が光り輝き、それがあたかも見た者への死刑宣告を告げるかのように魔理沙の前に輝いていた。

「ま、またこの展開かよぉぉぉぉ!」
「今度は逃がさん! 弱き人々を苦しめる外道め、貴様を砕くのはこの俺の拳だぁぁ!」
「砕かれて溜まるかぁ! こうなりゃ破れかぶれだぜぇ!」

 此処まで来て折角得た得物(本)を失う訳にはいかない。決意を胸に魔理沙は戦う決心を固めたようだ。
 相手は外から来た外来人。つまり空を飛ぶ事は出来ない。つまり上空から弾幕攻撃を行えば勝機はある筈。
 屋内とは言え此処大図書館は弾幕ごっこをする位のスペースはある。即座に上空へと舞い上がりケンシロウ目掛けて無数の弾幕を飛ばす。
 普通の弾幕ごっこであれば避けるなりするのがセオリーなのだろうが、生憎北斗神拳伝承者にその手の常識などは通用する筈がなかった。

「そちらが弾幕ならばこちらも弾幕だぁぁぁ!」

 敢えて相手の勝負を受ける姿勢を見せ、ケンシロウが放ったのは無数の弾幕・・・に見せかけた無数の拳の連打であった。しかも凄まじいまでの数の拳は向かってくる弾幕全てを殴り消し去って行く。

「あのぉ・・・パチュリー様・・・あれ、弾幕ですか?」
「さ、さぁ・・・本人がそう言ってるんだから・・・弾幕なんじゃない?」
「あんな弾幕あるかあああ――――!!!」

 間違ってもこんな弾幕など認める訳にはいかない。認めたらこれから先の弾幕ごっこは弾幕ごっことは名ばかりの殴り合いになってしまうからだ。流石にそれを認めたらそれこそ幻想郷の崩壊に繋がってしまう。
 それだけは認める訳にはいかなかった。ぶっちゃけそれを認めたら以降の弾幕ごっこが男臭い感じになってしまうので流石にそれは不味いだろう。

「パチュリー様、ご無事ですか―――」
「我ら紅魔館最強の戦士が助太刀致しますぞ―――」

 それから少し遅れてライガとフウガもやってきた。ピッチリメイド服のままで―――

「うぎゃあああああ! へへへ、変質者あああああ!」

 他人から見たら明らかに今のライガとフウガの姿は変質者と思われても仕方ないだろう。そう思われても仕方ない姿をしているのだからまぁ文句は言えないだろう。

「なにぃ、我らが変質者だとぉ!!」
「馬鹿な、我らは何処からどう見ても紅魔館最強の戦士の筈? それが一体何故―――」
「男がメイド服着てたらそりゃ変質者扱いされても仕方ないだろうがぁぁぁ!」
「「そ、そうだったのかあああ――――!!!!」」

 今更なショックを受ける紅魔館最強の戦士二人。

「お、俺達は・・・道を間違えたのかも知れない―――」
「無念だ、俺達のこの体は・・・メイド服を着るには血で汚れ過ぎていたのだ―――」
「悲しき戦士達よ・・・だが、その涙はお前達が人である事の証。その涙を忘れぬ限り、お前達はこの館の最強の戦士である事に変わりはない筈だ」
「け、ケンシロウ・・・俺達の苦しみを分かってくれるのか?」
「俺達は、あんたを待ち望んでいたのかも知れない。俺達の苦しみを分かち合ってくれる存在を」
「ライガ、フウガ―――」

 男達の熱い友情の芽生えた瞬間だった。ライガとフウガ、そしてケンシロウの三名が硬く手を握り合い互いの辛さ、苦しさをその胸に刻み込んでいた。
 かたやメイド服、かたや上半身素っ裸の状態で―――

「なぁ、これのツッコミを入れるのも・・・もしかして私の仕事なのか?」

 そりゃそうでしょ。




     ***




 とにもかくにも美鈴の紅魔館の門番クビ騒動はこうして幕を閉じる事となった。
 美鈴は勘違いをしていたが為に門番の仕事を長い間サボっていた罰として数か月間の減給と休日の返上、更には新人兼アルバイトでもあるライガとフウガの教育を任される代わりとして紅魔館の門番の地位へと返り咲く事となれた。
 彼女自身後輩が出来て嬉しい反面今まで仕事をさぼって居眠りしていたのがこれからはやり難くなってしまったと少しぼやく日々が続いているようだが、それでも彼女は元気にやっているようだ。

 門番不在なのを良い事に大図書館に堂々と盗みに入った霧雨魔理沙はケンシロウの突然の襲撃に加え、ライガとフウガのピッチリメイド姿を目にしてしまったが為にそれがトラウマとなってしまったのか暫くの間本と向き合えなくなる日々が続いたとか続かなかったとか。

 そして、一応事件を解決してくれた謝礼として、それから数日の後、霊夢が居候している香霖堂に家財道具一式が咲夜の手回しで届けられたと言うのは記憶に新しい話だったりする。

「これで家具代が浮いたわ!」
「それは良かったね。だけど―――」

 ただ、一つ難点を言うとするならば、狭い香霖堂の中に家財道具一式を納めてしまったが為に店内に入る事が出来ず、結果としてケンシロウ、霊夢、霖之助の三人は揃って店の外でキャンプ生活を余儀なくされてしまった事位であろう。




【文々。新聞 第2号】

『新たに二人の亜人が出現!紅魔館いよいよ幻想郷侵略へ乗り出すのか!?』

 昨今、幻想郷を騒がせている亜人達に加え、新たな亜人が出現したとの情報が寄せられた。
 当新聞はその情報を頼りに調査した結果、驚くべき事実が明らかとなった。
 新たに現れたのは二人の亜人であり、何とその亜人達はあの紅魔館のお抱え門番として働いていたようだ。
 亜人を従えた紅魔館は遂に幻想郷支配に乗り出すのであろうか?
 幻想郷の未来は正に風前の灯と言った所だと思われる。


 書記 射命丸 文





     第7話 終




 
 

 
後書き
次回予告


 奇跡の秘術にて幻想郷を救わんとする北斗の次兄トキ。幻想郷へ迫る危機についに北斗の次兄も立ち上がる。

次回、空気を読まない拳士達が幻想入り

第8話「ついに動く次兄。俺の命は幻想郷の為に敢えて捨てよう」

 お前はもう、死んでいる 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧