空気を読まない拳士達が幻想入り
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第8話 ついに動く次兄!俺の命は幻想郷の為に敢えて捨てよう
経絡秘孔―――
人の体にある708の部位・・・簡単に言えばツボっぽい奴の事である。
無敵の暗殺拳と呼ばれる北斗神拳はこの経絡秘孔に衝撃を与える事により相手を内部から破壊する事を極意としている。
また、その経絡秘孔に柔らかく押すように衝撃を与えれば逆に身体機能の促進を促す事も可能となる。
これを用いれば無敵の暗殺拳を人の命を救う道に使う事もまた可能と言われているのだそうだ。
因みに、現代医学であるツボマッサージ師と呼ばれる人々は、皆この北斗神拳を齧っていると言う都市伝説もあるそうだが、それについての真相は全くの謎だったりする。
***
北斗の拳士の朝は早い―――
彼らは皆夜明けよりも前に目を覚まし、己の腕を磨くべく鍛錬に勤しむのが彼ら北斗の拳士達の常識とも呼ばれている。
また、それは北斗の次兄ことトキもまた例外ではなかった。
彼は今、生い茂る竹林の中に身を置いていた。人間の背丈など軽く追い越してしまっている竹林群の中に座り、静かに周囲の気を感じ取っていた。
『迷いの森』だとか『迷いの竹林』と呼ばれるこの竹林に置いては、道案内なしで訪れたが最期、永遠にこの竹林を彷徨い歩く運命が待っている。
しかし、北斗の拳士が迷う事は決してない。ましてや北斗四兄弟の内最も華麗な技を持つトキからして見ればこの竹林の中を歩く事など気軽な散歩と何ら変わりがなかった。
「今日もまた平和な朝だ。人々の声が活気に満ち、生き物たちは皆生きる喜びの声を挙げている。まるで桃源郷の様な場所だな。此処は―――」
気を静めながら、トキは平和なこの地に喜びを感じていた。
まぁ、元の世界も平和と言えば平和だったのだろうが、生憎脳内世紀末な連中にとって見ればこの幻想郷の方が平和そのものに見えるのだろう。
突如、異様な気配を感じた。何かがトキ目掛けて向かって来ているのを察知した。
その存在を視認するよりも早く、トキは動いた。
両腕を挙げ、自分に向かって来る物をその手で掴んでみせた。
トキが両の手で掴んだのは鋭利に尖った矢じりであった。
「ふっ、相変わらず精が出るな」
「ちぇっ、また今回も引っかからなかったかぁ」
トキの目の前に現れたのは一人の少女らしき人物だった。
背丈的にはトキと大差ない位で、頭にはウサギの耳がついている。
だが、此処幻想郷に置いては外見=年齢とは違うので果たして彼女が少女なのかそうでないのかは分からないのだが。
「嫌、今回のてゐの罠は中々の物だったと思うぞ。私でなければ今頃頭を貫かれていただろうな」
「良く言うよ。どうせあんたのこったから余裕だったんだろう? 全く、自信失くしちゃうったらないっての」
不貞腐れながらも少女こと『因幡てゐ』分かっていた。この男には並大抵の罠など通用しないと言う事を。
最初に仕掛けたのは鉄板とも言える落とし穴を仕掛けてみた。
だが、トキはその落とし穴の位置を見事に歩く事なく目的地へと歩きぬけてしまった。
トキ曰く『北斗の拳士ならば罠の位置を知る事など造作もないkゴフッ!!』と言うらしい。
それからと言うもの、てゐとトキの間での罠の応酬はこの竹林での毎朝起こるイベントの一つとなっていた。
「そう言えば、あいつはどうしたんだ? あたいよりも先にお前を探しに来た筈だけどさぁ」
「いや、今日初めて会ったのは君が最初だが?」
「あ~あ、ってことはまたあれに引っかかってるんだろうなぁ」
「それはいかんなぁ。今の時間からすると―――」
二人は合図されたかの様に竹林の中にある場所へと向かった。
其処はトキが起きてすぐに通り過ぎた場所だった。
その場所の中にぽっかりと大きな穴が一つ空いている。
言うまでもなく、てゐが対トキ用に仕掛けた落とし穴だった。
そして、その落とし穴のカモフラージュが破られてると言う事はトキ以外の誰かが引っ掛かった、と言う事になる。
「お~い、生きてるかぁ? うどんげぇ」
「うどんで言うなぁぁぁ! ってか、何でここら一体こんなに落とし穴あるのよぉぉぉ!」
空いた穴の中から悲痛な女性の叫び声が響く。どうやらトキを探しにやってきた際に見事に落とし穴に引っ掛かってしまったようだ。
「大丈夫か? 鈴仙よ」
「あ、トキさぁん! 助けて下さぁい!」
トキとてゐの目の前には見事に落とし穴に嵌り身動きの取れない女性の姿があった。
自分ではどうにも脱出出来ず、必至によじ登ろうとしていたのか、彼女の両手は土で汚れきっている。
彼女、『鈴仙・優曇華院・イナバ』が毎朝てゐの仕掛けた罠に見事引っ掛かってしまうのもまた毎朝恒例の行事とも言えた。
「ったく、何でうどんげは引っ掛かるのにトキには引っ掛からないんだろうなぁ」
「だからうどんげ言うな! それにあんた、一体此処に幾つ落とし穴掘ったのよ!」
「べ、別にそんなに掘ってないけどぉ・・・ほんの100個位?」
「あんたそんだけ罠作って何考えてるのよ!」
「だぁってさぁ・・・これだけ作ってもトキは罠に引っ掛からないんだからさぁ。そりゃあたいだって本気で罠作っちゃうのも仕方ないうさよぉ」
「だからって100個は作りすぎでしょうが! しかもこんなに深く掘ったせいで抜け出せなかったんだからねぇ!」
「めんごめんご!」
謝罪はしているようだが悪びれた様子は全く見られない。まぁ、てゐが罠を仕掛けてそれに鈴仙が引っ掛かるのは此処迷いの竹林の名物と囁かれているらしい。
「それで、鈴仙よ。私を探しに来たようだが一体何用かな?」
「あぁ、そうそう。朝食の準備が出来たんで呼びに来たんですよ。それで、その後にまた人里に薬を売りに行って欲しいって師匠から言われているんですよ」
「そうか、では行くとしようか。師匠や姫様達を待たせてしまってはわるいkゴフッ―――」
言い終わるよりも前にトキの口から盛大に血が噴き出る。そして地に倒れ伏す。
まぁ、北斗の次兄ことトキが吐血するのは元の世界でも日常的に有り得たことなのであまり驚く事じゃないのだが。
「いやああぁぁ! トキさああぁぁん! しっかりしてくださいよぉぉお!」
だが、此処に居る鈴仙だけは例外だった。トキが吐血し倒れた瞬間真っ青な顔になって悲鳴を上げてしまう。
そして、そんな鈴仙を見て呆れた顔になるてゐ。
「うどんげさぁ。トキが吐血するのなんて何時もの事じゃん。いい加減なれたら?」
「だからうどんげ言うなぁぁ! じゃなくて、トキさん! トキさんですよぉ! 早く何とかしないと死んじゃうからぁぁぁ!」
「大袈裟だなぁ。大丈夫だって、少ししたらすぐに起き上がるだろうから放っておけば良いうさ」
完全にパニックに陥ってる鈴仙に対しクールにドライなてゐ。
だが、そんな二人の元へ猛スピードで駆け寄ってくる何かがあった。
「死んだ!? ついに死んだのね!? さぁ、解剖! 解剖するわよ! うどんげ、早くこの男を治療室へ運びなさい!」
「し、師匠! 何物騒な事言ってるんですかぁ!?」
鈴仙が師匠と仰ぐ女性。何処かのロボットアニメに出て来る男女が着そうな柄の服を着た銀髪の女性。
彼女が鈴仙の師であり、またトキが師と仰ぐ女性『八意永琳』その人であった。
「だ、大丈夫だ。まだ私は死んではいない」
「チッ)そう、なら良かったわ。てっきり死んでしまったかと心配したのよ」
「師匠。今さっき舌打ちしませんでした?」
永琳の舌打ちを鈴仙は聞き逃さなかったようだ。だが、そのせいで永琳に睨まれた上「今日の晩御飯はウサギ鍋にでおしましょうか?」と脅され再度真っ青になってしまったのはご愁傷様と言うしかないのだろう。
「安心してくれ。私はまだ死ぬつもりはない。例え年内に死ぬ命だとしても、まだ死ぬ訳にはいかないのだからな」
「にしてもトキの病って何なんだろうなぁ。全く分からないなんて幻想郷始まって以来なんじゃないのぉ?」
「全くもってその通りよ。この八意永琳ともあろう私に治せない病が存在するなんて! こうなったらもう手段は選ばないわ! この際だからトキ。貴方私に解剖されなさい! そして貴方を蝕んでいる病を突き止めて見せるわ! 大丈夫、貴方は死ぬかも知れないけど貴方の命一つで謎の病が判明する! これは医学の発展を促す貴重な第一歩なのよ!」
狂ったような発言をする永琳。彼女にとって治せない病があると言うのが納得いかないのだろう。仕切りにトキを解剖したがったりしている。
「駄目です師匠! 幾らなんでもそれはあんまりじゃないですか!」
「どきなさいうどんげ! 貴方も医学を志す者なら分かるでしょ! 治せない病なんてあるだけでも虫唾が走るのよ! そんな病なんて、この私が全て駆逐してやるわ!」
「だからってトキさんを解剖するのは反対です! 大反対ですからねぇ!」
と、これら一連の流れが此処迷いの竹林こと永遠亭内で毎朝行われる行事でもあった。
毎朝トキが竹林内で鍛錬をし、そのトキに向かいてゐが罠を仕掛け、その罠にうどんげが引っ掛かり、それに対しうどんげがてゐに抗議をし、その直後にトキが吐血し、更に永琳がやってきて仕切りにトキを解剖したがる。
そんな感じの濃いイベントが毎回行われているのだから、常人ではとてもついていけないだろう。
朝から疲れる事間違いなしだし。
***
人ならざる者達が住む幻想郷。
その幻想郷内には必ず守らねばならないルールがある。それは、人里内に居る人間を襲ったり食べたりしてはいけないと言うルールだ。
これは、幻想郷に住む妖怪達が見境なく人間を襲わないように定めたルールだとか、はたまた血生臭い世界にしたくない為の救済処置だったとか、色々と考えられる点は多かれど、とりあえず人里内に居れば安全と言うのは明白の事だったりする。
その為、必然的に幻想郷内の人里には人が多く行き交う事になりそこから情報や物の流通が行われる事となる。
「はぁ・・・今日も朝から疲れたなぁ」
そんな人里の道を行商用の籠を背負いながら鈴仙は愚痴っていた。
その隣では同様にトキもまた行商用の薬籠を背負っている。
「どうしたのだ鈴仙よ。何時になく気分が優れないようだが?」
「トキさんに言われたらおしまいな気がするんですけど。まぁ、毎朝毎朝あんな濃厚なイベントばっかだから流石に対応するのも疲れちゃって」
実際鈴仙が今朝のイベントを経験したのは少なくはない。具体的に言えばトキがこの幻想郷に流れ着いた時点から始まったと言って良い。
「ほんと、トキさんも災難ですねぇ。寄りにもよって家の近くで発見されちゃたんですから」
「いや、そうでもない。鈴仙や師匠達と出会えた事で私が果たしたい目的が見つかったのだ。寧ろ感謝すらしているさ」
感謝の意を述べながらも、トキはこの幻想郷に初めて訪れた頃を思い出す。
今までの様に職を探しあちこちを転々としていたのだが、病弱な体が故にまともに職にも就けず、結局何の収穫もないまま兄弟達とクラスアパートへと帰り、床に着いたまでの事は覚えている。
それから目を覚ました時、目に飛び込んできたのは一面竹林しかない場所だった。
見知らぬ場所で目を覚まし、宛も無く彷徨っていたトキは、数歩歩いた時点で吐血し、地に倒れ伏してしまった。
此処で果てるのだろうか? 悔いがないのかと言えば少しはある。
職に就けなかった事や愛するユリアへの想いを伝えてなかった事やその他にもあると言えばある。
だが、人間死ぬ時は呆気なく、そして一人ひっそりと死ぬものだ。
ならば、これも天命であろう。もしそうならば天命を受け入れ静かに己が生涯を閉じるべきか。
「だ、だだだ! 大丈夫・・・・ですか!?」
そんなトキに声が掛けられた。
声色からして女性と思われた。酷く驚いていたようで、仕切りにトキの背を揺らし安否を確認していた。
「あ、あぁ・・・大丈夫だ。どうやら天命はまだ私に生きろと言っているようだな」
「は??? あの・・・言っている事の意味が分からないんですけど」
「だが、救って貰った恩義には報わねばならない。それが我ら北斗の掟。ところで、此処は何処か分からないか?」
とまぁ、これが鈴仙とトキが初めて出会った経緯だったりする。その後、行く宛がないって事で仕方なく彼女が奉公している永遠亭に連れて行き、其処で医学の勉強をすると同時に彼が使える北斗神拳を医学の道へ使う事を目指し始めたのだったりする。
「でも、トキさんのツボ治療はすごいですねぇ。師匠もある程度はツボ治療出来ますけどトキさんのは師匠以上ですからね」
「北斗神拳は元来経絡秘孔を突いて相手を内部から破壊する拳法。だが、逆に柔らかく押せば肉体の本来持つ自然治癒能力を促進させる事が出来る。私の体ではもう伝承者になる事は叶わない。だからこそ、この残り少ない命を私の持つ腕と経験を活かし、一人でも多くの幻想郷に住む人々を救っていきたいnゴフッ―――」
良い話だったのに途中でまた吐血してしまった。そして、そんなトキの吐血を見てこれまた盛大に慌てふためく鈴仙。
そして、そんな二人を遠目から眺める人里の人たち。これが幻想郷の日常風景とも呼べたそうな。
だが、北斗の拳士達は勿論、幻想郷に住む者達の誰もがまだ理解していなかった。
この幻想郷に迫る黒く巨大な何かが居る事を―――
***
「おい、お前! 俺の名を言ってみろ!!」
「はぁ? あんだってぇ??」
その頃、密かに幻想郷支配を目論んでいた北斗神拳伝承者ケンシロウ(偽)は、目の前の老人相手に四苦八苦し続けているのであったそうな。
「だぁかぁらぁ、俺は北斗神拳伝承者のケンシロウだって何度言えば分かんだよクソジジイ!!」
「何じゃ、新聞の押し売りか? わしゃ字が読めんからいらん。帰っとくれ!」
「ちっがぁぁう! 新聞屋じゃねぇ!」
哀れ、と言うべきだろうか。
彼が幻想郷に名を挙げるのは何時の日になる事やら。
【文々。新聞 第3号】
『幻想郷に不審者現る!? 口癖は「俺の名を言ってみろ!」』
最近になって幻想郷各所にて不審な人物の目撃が多発しているとの報せが多数届いている。
目撃者の証言によると、その不審者は黒い仮面で顔を隠し、青い服に身を固め、わざとはだけさせた胸には七つの傷がついているとの事。
そして、この不審者は通り掛かる人に対し『俺の名を言ってみろ!』と意味不明な質問を投げ掛けるとの事。
この不審者もまた過去に記載した亜人と何か関係があるのだろうか。
今後もこの不審者の動向に注意が必要だと思われる。
書記 射命丸 文
第8話 終
後書き
次回予告
博麗神社立て直しに協力する事になったケンシロウ。其処で、ケンシロウは思わぬ人物と出会う事となる。
次回、空気を読まない拳士達が幻想入り
第9話『建築の覇王現る!?お前を倒すのは俺の弾幕だ!!』
お前はもう、死んでいる
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