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=体力測定編= クラスセレクト
ひとまず。
俺が雄英高校の巨大な門をくぐってから最初にやったのは大声で「俺のアカデミアはここから始まるんだ!」とか主人公的なクサい台詞を吐くのではなく、記念撮影の為に写メを取るのでもなく、一直線にクラス割の名前を確認することだった。
「バタフライ効果によるクラスメンバーの変動は見た限りないな……人数は増えてっけど」
原作クラスメイト20人、プラス知らない子3人、プラス俺の計24人。B組も原作面子が全員いるかまでは流石に記憶力の関係でわからないが、4人増えてるくらいだから全員いそうだ。拳藤や鉄哲、物間、骨抜……あ、庄田二連撃もいる。こいつ名前のインパクト凄いよな。
じろじろ見ているとリストの下方あたりに恐怖のサイ男こと頼野猛角の名前を発見した。なんやかんやでB組に入ったみたいだな。あのサイ男とも長い付き合いになりそうだ。
(にしても、A組の追加メンバーが気になるな。「削岩磨輪里」、「砥爪来人」、ええと後もう一人は………「付母神つくも」?これまた凄い名前だな……)
名前から察するに1番目は回転か削岩の『個性』、二人目は爪が何かしら関係しているのだろう。3人目はちょっと分からないが、付喪神よろしく物質に意思を与えるとかかな?うーん………流石に入試を突破した逸材なだけあって『個性』が強そうなのは在り難いが、実際には敵連合のスパイの数が増えたとかそういう可能性も考慮しなきゃならないのが転生知識の辛いところだ。
(そういえばネットじゃ最初青山スパイ疑惑が流れてたけど、後で葉隠説が勢力強めてた……っけ?ま、もうこの件に関してはなるようにしかならんな。原作知識ったってワンフォーオールの逮捕あたりまでしか知らないもんな。犯人なんぞ本当にいるかさえ分からん)
この世が謎に満ちすぎて俺は草むらとか窓とかつついてひらめきコイン集めたい。英国紳士として。実際ひらめきコインって現実にあったら凄いアイテムだよな。あれさえあればこの世のだいたいの謎は解ける気がする。ときどきパズルゲームとかで詰むけど。
というかそもそも、俺はその謎が謎として浮上するまで学園にいられるのか?相澤先生に見込みなし判定受けたら退学して全部元の木阿弥だぞ。デクくんも危うく退学させられかけたここでこの先生きのこれるのだろうか。
「将来に不安しかねぇな」
「うわぁ、試験終了直後に爆睡した人がなんか言ってる……」
「え?………うおっ、透明少女!!」
「おはよう!受験以来だね、よだれ救世主!あの時は助けてくれてありがとっ!」
振り返るとそこには……怪奇!!宙を舞う女子の制服!!――などというボケをかましたくなる透明な少女の姿があった。いや、見えないけど。服があるから辛うじて存在を認識できるとかどことなく悪魔の証明的な雰囲気がある気がする。
「この場合は服が人の形で浮いているから逆説的にそこに人がいると判断できるわけで、服と人間を別に考えるとそこに人がいることの証明にはならない。触って存在が確認できたとして、肉眼での確認ができないのならばそこには何も物質が存在せず、従って人はそこにいないという判断にもなりうる。君は実に曖昧な存在だな」
「よだれ救世主の件を完全にスル―しただけに飽き足らず勝手に人の存在を曖昧でややこしいものにしないでくれるかな!?あとボケをスルーされると地味に辛いんだけど!?」
「はは、ごめんごめん。……ついでに聞くけどさ、ヨダレって何のこと?」
「覚えてないんだ、あんだけ私の素肌にねとねとの液体をふりかけて!どれだけ私の体を弄べば気が済むのよぅっ!!」
「人を変態さんか何かみたいに言わないでくれない!?」
自分の肩を抱いてキッ!とにらみつけてるっぽい雰囲気がある葉隠さんだが、明らかにこっちをからかっている。まぁよだれをかけてしまったのなら素直に謝るべきだろう。なにせ本気モードの葉隠さんはほぼ全裸に近いから、垂れたとしたら素肌に直接かかっている。誰だって他人のよだれがかかっては気分が悪いだろう。
俺はそんなことを考えながら葉隠に素直に謝り、許してあげないと意地悪を言いながらも笑う葉隠と共にA組に歩き出した。なんやかんやで許してもらえそうで一安心だ。罰として焼き土下座とか要求されたらどうしようかと内心不安だったからな。
「ところで名前まだ聞いてなかったよね、葉隠透ちゃん?」
「名前を聞く雰囲気を出しながら先に名前言われた!?てかなんで知ってるの!?」
「いや、名前的に透明になりそうなの葉隠ちゃんしかいなかったからさ」
「???なにそれ、名前占い的なアレなの?」
……そういえばこの世界の住民は自分の名前や名字が『個性』を表してるという自覚がまるでないらしい。まぁマンガの世界だし、それで個性が即バレしていては話が進まなくなるもんなぁ。これはアテにし過ぎるとスパイ疑惑とか読心疑惑が持たれそうだから俺だけの秘密にしておこう。
「俺の名前占いは3割くらい『個性』が当たるべ。ちなみに次からは有料な!」
「わっ、急にクズっぽくなった。あーあ、助けてくれたときは格好いいかもって思ってたのにあなたアレだね。残念なイケメンってやつだね!」
「誠に残念なことにイケメンですらありませぬ。イケメンですらないクズとかただのクズじゃねーか生きている価値がない鬱だ死のう」
「いやいやそんなに落ち込まなくても………って何で無言で窓を全開にしてんの!?これからヒーローになる人の前でヒーロー志願が飛び降り自殺とか色々とシャレになんないから窓の縁から足を下ろそうよね!?」
「止めてくれるな!どうせ俺には未来を変える力なんてなかったんだ!!せいぜい華々しく散って墓場に一輪の花を添えられながら「お前の意志は俺たちが継ぐ!」とか言われるくらいが最高の輝きなんだ!!俺の命は死んでもミームは残る!それこそがタクヤ・オブ・ザ・パトリオット!!」
「意味わかんないしこのままだと誰も意志を継いでくれないっぽくない!?」
……この茶番のせいで二人が危うく入学初日から遅刻しそうになったことを、ここに追記しておく。
= 葉隠透と知り合いになった! =
さてはて学園入学最初の難関となりますのは、ザ・体力測定開始にござい。これでもわたくし剣道を始めそれなりの基礎トレーニングを積んでおりますのでさして悪い成績でもござらん。故に成績最下位は除籍という衝撃の俺ルールも凪のような心で受け流したんでござる。
(要するに偵察タイムだオラァ!!)
今回の偵察は同級生ももちろんだが原作にいなかった3人を重点的に観察することで効率的に情報を収集したい。まずは最初のターゲット、どことなく冷めた態度が焦凍くんに雰囲気だけ似てる茶髪イケメンからだ。イケメン滅ぶべし。理由はない。
彼の名は砥爪来人。
外見は人間だが、犬耳犬尻尾に加えてもっふもふの茶色い毛がイケメン度にかわいさを追加した獣人タイプの可愛い系イケメンである。名前からして爪とかめっちゃ伸びそう……と思っていたのだが、俺の想像はあっさり裏切られた。
「衝撃波の推進力で加速……原理は爆豪がさっきやってたのと同じで………!!」
小さな声でつぶやいた砥爪は、50m走開始と同時に自身の足先をギリッと踏ん張り――瞬間、バァァァンッ!!と大地を抉る凄まじい音を立てて弾丸のように加速した。目にもとまらぬ速度で砥爪はゴール。タイムウォッチを見た周囲が色めき立つ。
「2秒93!!飯田を抜いたぞ!!」
「マジか最速じゃね!?」
「あ、でも速度を殺しきれずにグラウンド端の壁に突っ込んだぞ?」
「ぐはぁッ!?うっ、ぐっ………し、出力調整をミスったか!!」
「マジか格好悪くね?」
「自分の『個性』をコントロール出来てないなんて……スマートじゃないよねっ☆」
どうやら彼も残念なイケメンらしい。デクくんに並んで自分の個性に振り回されている。
しかし、それを除いてもあの個性はかなり強力だ。彼が立っていたスタート地点はあの凄まじい加速の反動で大砲が着弾した後のように抉れている。手加減してこの威力、下手をしたら原作最強クラスの爆豪に迫るかもしれない。
――『個性』、『衝撃波』!!体の鋭角的な部分から衝撃波を放出するぞ!!
――威力が高い反面コントロールが難しく、一歩間違うと自分の体を傷つける諸刃の剣だ!!
で、二人目。
「いくぞ必殺のぉぉっ!!驚天断世究極螺旋滅・臨・弾~~~~~~んッ!!」
最早何が言いたいのかさっぱりわからない叫び声をあげる褐色の少女の掌が信じられない速度で『回転』し、まるで彗星のような速度で空を切り裂く。投げ飛ばした少女は「お~~!」と自分のボール投げの結果に満足そうだったが、想像以上に球の減速が早かったのか次第に不満げな表情に変化していく。
「飛距離、343メートル!!」
「む~!ミスター爆豪に全然届いてないし~!!まだ私のジャイロは完成してないということか!」
などと言っているが、実際には彼女は肩『そのもの』を回転させながら手首『そのもの』を一緒に高速回転し、更には推測も混じるが指も回転させてボールをブン投げた。体格は細めだというのにその無限の回転速度から生み出される投擲は、メジャーにも通用する世界最強のジャイロボールだ。
――『個性』、『回転』!!全身の関節に切れ目があり、そこ起点にドリルのように凄く回る!!
――使い過ぎると体が熱を持ったり回転の反動で大変だ!油分をたくさん取ると回転が良くなるぞ!
削岩磨輪里。
由緒正しきこんがり日焼けの褐色ガールである。背丈は他の女子と変わりないが、黄色と黒の警戒色ヘアーと鼻先の絆創膏がチャーミング。どうやら削岩工事のプロらしく、かなりお転婆らしい。周囲に『ミスター○○』、『ミス××』という独特の渾名をつけている。テンションの高さは葉隠さんに似てる、かな?
「全身回転の個性……ピッチングマシーンみてぇ」
「お、ミスター水落石!今は寝てないんだね!」
「俺だって寝ない時もあるからね?というかヒュノプスって何?」
試験終了直後に爆睡したという葉隠の証言を聞いて以来この子は俺のことを執拗にヒュノプス呼ばわりしてくるが、本当にヒュノプスって何なんだろうか。割と本気で気になるのだが、残念なことに目の前の少女はパワフルかつマイペースなので俺の話を聞いてくれない。世界はいつだって俺に辛く当たる。
「すごいでしょ、回転!でもね、回し過ぎるとジャイロ効果を相殺しきれなくなったりして使いこなすの大変なんだー!バランスを取るために反対の手を回したりもするし!」
「初期のダイ・ガードみたいな悩み抱えてんのね………時にドリル少女よ、ヒュノプスって何?」
「でさー!能力を鍛える意味も込めて熱中したのが人力ドリル回転!!これで裏山の岩盤を抉りに抉りまくって崩落が起きて警察に怒られちゃった!テヘっ♪」
「大事件!?………あと磨輪里さん、ヒュノプスってな……」
「ああーっ!?ミス麗日が飛距離∞出したぁ!?」
自分の記録を塗り替えた麗日さんの元へ磨輪里はダッシュで駆け抜けていった。……個性の回転を生かすために膝から下の脚を回転させる電童的な姿勢で。あの子は将来的に目の中がグルグルになりそうで怖い。
………っていうか結局ヒュノプスって何なんだよ!おせーてくれよ!それとも俺なんか悪いことしたか!?
「ヒュノプス……ギリシャ神話に登場する、夜の眠りを与える神だ」
「ぅおう、常闇!?いつの間に後ろに!っていうか物知りだな!」
「お前が猛烈に教えてほしそうだったからな……しかし、俺としては削岩がギリシャ神話を知っている方が意外だ」
「おお、それは確かに……むしろショベルカーとかダンプカーの種類山ほど知ってそうなタイプだもんな……」
とりあえず、常闇とちょっとだけ仲良くなる切っ掛けを手に入れた俺だった。
さて、気を取り直して最後の一人に行きたかったのだが………ラストワンの付母神つくもさんは残念ながら病欠である。
「入学初日にインフルエンザに感染してグロッキーとは哀れな……いや、体力テストを潜り抜けてるからある意味幸運か?」
「相澤先生ならば恐らく復帰後に個別で体力測定をやらせるのではないか?合理性を主義としているようだが、不平等な真似を己に許す御仁には見えぬ」
「それもそーか……おっ、緑谷が特大記録叩きだしたな」
常闇と喋っている間に、デクくんが700メートル越えのボール投擲を見せた。あれでデコピンとかされたら頭が消し飛ぶなぁ、と思いつつも俺は考える。
夢で見たあの時のデクくんは、多分……いや、確実に死んでいたと思う。後で奇跡の大復活とか無しに、明確に死んでいた。俺の個性で見た未来は、そういうイメージは明確に伝わってくるから間違いない。しかし、原因はまるで分らない。少なくとも俺の読んでいる範囲では、原作にそんなシーンはなかった。ともすれば未来のことかもしれないが……流石に公式でデクくん死亡ENDはないだろう。
ということは、俺が転生者として存在するようにこの世界に原作との差異があると考えるのが妥当だろう。少なくともあの傷跡は死柄木の「崩す個性」やトガヒミコの殺し方ではないように思える。原作で最もデクくんを追い詰めた筋肉超人「血狂いマスキュラー」のやり方でもない。もっと性質の異なる何かを受けた傷だった。
「先生……まだ動けます!!」
「こいつ……!」
オールマイトが草葉の陰からこっそり観察する中、かっこいいヒーロー候補は痛みを堪えて笑って見せる。
ああやって痛いことやつらい事を口に出さずに堪えてみせるデクくんは格好いい。ビジュアルがとかそう言う事ではなく、その生き方がね。………っていうか改めて見るとオールマイト画風違い過ぎて存在感ヤベェ。市原悦子スタイルってレベルじゃねーぞ這い寄る混沌並みだぞ。
さぁて、ここまでは原作通り。この先も100%ではないが、俺も割と必死で頑張ったので最下位ではない筈。何より相澤先生の気が変わったので除籍の話は無しになるだろう。最低でも今日は。
問題はここからだ。俺の能力が殆ど戦闘でアドバンテージがないこともそうだが……第一の難関「USJ襲撃事件」という不確定要素の多い危機を、俺も乗り越えなければいけない。
(俺のクラス編入で未来には必ず差異が生じている……つまり、『なくなる』、『遅まる』は勿論、『早まる』可能性だって産まれるってことだ。更に残念なことを言うと………簡単に変わってくれねぇんだよなぁ、デカい未来は)
運命力か、或いは俺の観測によってそうなるのか、未来には二種類ある。『変えられる未来』と『備えられる未来』だ。『変えられる未来』は比較的小さなアクションで結果が真逆に変わることが多いが、『備える未来』は一個人の力でどうにかできるものではない。
簡単な例えをしよう。
第一話でデクくんがヘドロに捕まる未来を俺が見たとしたら、その未来は簡単に変えられる。
デクくんをヘドロのいない所に誘導するか、出現タイミングをズラせばいいだけだからだ。互いに意識し合った存在でもないし、すれ違わなければ万事解決だ。これが『変えられる未来』。
しかし、ヘドロがオールマイトに捕まる未来を見た場合、状況はまるで変わってくる。
オールマイトはヘドロを追っている。そして正義感も行動力も強力過ぎるオールマイトの正義パワーは、俺みたいな非力な一般人がどんなに頑張って止めようとしても止まらないだろう。一個人では抗いようのない運命の方向性――しかし、ヘドロとオールマイトの逃避行に巻きこまれないように避難することは出来る。変えられない未来……と言うとネガティブになっちゃうので俺は『備えられる未来』と呼んでいる。
で、それを踏まえてデクくん死亡エンドがどっちに分類されるか考えてみよう。
原作より未来のデクくんってことはフルカウルより更に強くなっている訳で、そんなデクくんを即死させるような未来の運命が軽い訳がない。必然的に――EXハードモード!!
もっと将来が明るくなるニュースが欲しい。切実に。
……ちなみに体力測定の結果、俺はなんと峰田以上葉隠以下という非常に底辺の結果に収まった。まぁ、こんなもんだよね………こればっかりはマジで、ね。悔しくねぇし。泣いてねぇし。これは目から汗が出てるだけだし。
「つーか葉隠さんってどうやって入試突破したのか滅茶苦茶謎なんだけど。『透明人間』って戦闘力そのものは普通の人間レベルだよね?そこんとこどうなん?」
「んーとねぇ………途中までロボの破片で殴って倒したりしてたんだけど途中からバテちゃって、後はロボに対抗手段がない子たちの避難手伝ってたら戦闘の巻き添えで倒れて、いつの間にかギリ受かってた!」
「……次は巻き添え喰らわないように気ぃ付けなよ?」
ちなみにその試験会場には砥爪もいたが、あいつも途中でバテて途中まで葉隠さんと一緒に救助活動してたらしい。レスキューPを稼いでの合格なんだろうが、思わぬ謎が解けた瞬間だった。
後書き
だいたい前に書いた分と同じ内容になりました。
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