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豹頭王異伝

作者:fw187
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旋風
  新たな潮流

 アルド・ナリスが側近と密談を終えた直後、パロ魔道師ギルド総帥の遠隔心話が届いた。
 カロン大導師は竜の門と直接対決を避け、サラミスに魔道師の塔を移転した選択を釈明。
 キタイの黒魔道に対処する能力の欠如を認め、ヴァレリウスに実働部隊の指揮権を委任。
 ナリスの要請で漸く聖王家の一員リンダ、アル・ディーンの護衛に微力を尽くす旨を表明。
 次席ギルド長ミール等の下級導師達も高齢、体調不良の為に参戦を辞退している。
 厄介事を押し付けられた格好の苦労人、ヴァレリウスは深い溜息を吐いた。

 パロ魔道師軍団の総指揮官は、古代機械の周囲に展開した結界を解除。
 下級魔道師50名で各5名の班10個を編成、上級魔道師1名を配属。
 五芒星の魔法陣を組み、魔力を増幅して竜の門に対抗を試みる。
 アルド・ナリスの護衛を上級魔道師ミード、ロルカ、ディラン指揮の班が担当。
 当直、魔力回復の為に睡眠、休憩の三交代制を敷き魔法陣と結界を維持。

 カラヴィア公アドロン、カレニア伯ローリウス、聖騎士侯ルナン、ワリス、ダルカン。
 神聖パロ側の武将が率いる軍勢は陶業、パロ解放軍と称し魔道師3班が奇襲を警戒。
 ケイロニア軍の別動隊と合流する為、エルファに移動を開始。
 上記5名の指揮官に見習い魔道師1名を配属、心話の連絡や偵察の役割を担う。

 グイン直率の部隊にも上級魔道師ギールに加え、3班18名の魔道師を派遣。
 下級魔道師4名、見習い魔道師5名も加え総勢28名が豹頭王の指揮下に入る。
 上級魔道師アイラス指揮の班は緊急事態に備え、予備兵力として控置。
 下級魔道師4名、見習い魔道師も含め約40名が解放軍の総帥アルド・ナリスに同行。

 国王の留守を預かる宰相ランゴバルト侯ハゾスの許に、飛燕騎士団の伝令を派遣。
 下級魔道師ディノスが閉じた空間の術を操り、サイロンの黒曜宮に姿を現す。
 ケイロニアの騎士から口頭で最新の情勢が伝達され、花押の捺された密書を提出。
 パロ聖王を操る黒魔道師を討ち、中原の安定を図る旨が大帝に報告された。

 イシュトヴァーンの留守を預かる宰相カメロンの許には、下級魔道師コームを派遣。
 カレニア政府の首席アルド・ナリス、ケイロニア王グイン署名の密書を提出。
 ゴーラの新都イシュタールで気を揉む英雄の為、情勢を詳細に記し協力を要請。
 イシュトヴァーンとの行き違い、小競り合いは催眠術に操られた結果であり責任は問わぬ。
 ゴーラ軍にも中原の盟友として遇し、キタイ勢力の排除に賛同を促す意志を表明。

 沿海州と草原地方への密書は魔道師を使わず、騎馬の使者が赤い街道を疾走。
 アグラーヤ王ボルゴ・ヴァレンの愛娘アルミナ、娘婿レムスの御心配は無用。
 ケイロニア軍の支援を得て聖王夫妻の身柄を確保、黒魔道師の呪縛から解放する。
 聖王レムス統治の体制は不変、有能な補佐役の派遣を要請する。
 アルド・ナリスは魔道師軍団を率い、キタイ遠征に赴く旨が記されていた。
 前パロ聖王アルドロス三世の末妹、アルゴス王スタックの妻にも密書が到着。
 スカールの無断出奔を弁護、恩赦を願うと記されている。

 リンダは士気高揚の為、マルガ離宮で顔見せ後サラミスへの移動を承認。
 ナリスと共に軍の先頭に立つ、と熱弁するが最愛の夫に説得され撤回している。
 パロ全土を震撼させた歌い手マリウス、アル・ディーンも鍵を握る重要人物。
 リンダ同様に魔道師ギルド、移転した魔道師の塔が護衛を担当する旨を誓った。
 アルド・ナリスが死を免れる時、世界は新たな分岐に向けて動き出すかもしれぬ。
 嘗て大導師アグリッパの結界で語られた言葉が、ヴァレリウスの脳裏に甦る。

 レムス即位の際に聖双生児の姉、予知者リンダの視た凄惨な悪夢。
 中原の真珠パロを襲う膨大な濁流、赤い鮮血の大河を覆す希望の光。
 北の王が齎す白い血の効果を極限まで高める触媒、パロ聖王家の青い血。
 白光を放つ星々のエネルギー、種族の遺伝記憶が秘める叡智の相乗効果。
 リリア湖の小島に誕生した新たな潮流、キレノア大陸を席捲する青い嵐の萌芽。
 北の星と暁の星が瞬き、青白い極光の渦が虚空を駆け抜けた。


 カレニア政府の首脳は外交面で手を打ち、マルガ離宮に諸将を召集。
 ケイロニア軍の参戦後は待機を命じられ、手持無沙汰の騎士達が一室に集合。
 パロ聖騎士侯ルナン・ダルカス・ワリス、聖騎士伯リギア。
 市民義勇軍の代表カラヴィアのラン、カレニア伯ローニウス。
 心を躍らせ顔を揃えた勇将達の前で、アルド・ナリスが語り始めた。

「ルナン、ダルカス、ワリス、ローニウス、ラン、リギア、親愛なる戦友諸君。
 そう呼ばせて貰っても良いだろうね、もう大丈夫だよ。
 今まで散々辛い目に遭わせてしまったが、私は死の淵から帰って来た。
 心配は無用だ、大船に乗った気で安心してくれ給え。

 ランズベール侯爵を始め、貴い生命を捧げてくれた人々のお陰だ。
 絶望的な状況でも希望を棄てず戦い抜いた彼等が、私に新たな生命を与えてくれた。
 現在の私は筋肉が衰え歩行訓練の必要な状態だが、少しだけ時間を貰いたい。
 出来るだけ早く馬に乗れる状態まで回復させ、私も最前線に立ち共に戦うからね」

「何を仰いますか、ナリス様が御元気になられただけで充分です!
 リュイス達も草葉の陰で喜んでおる事でしょう、戦いは我等にお任せ下さい!!
 心配など為さらず御体の治療に御専念ください、御懸念には及びませんぞ!
 自ら先頭に立たれずとも、御尊顔を披露頂ければ充分です!!

 ナリス様の御帰還は兵達に知れ渡り、大いに戦意が上がっております!
 戦場の事は我等に御任せあれ、安心して御体の訓練に専念して下され!!」
 ルナンが年甲斐も無く拳を震わせ、滂沱と溢れる涙を拭いもせず声を張り挙げる。
 白髪のダルカスと温厚なワリスも眼を潤ませ、ローニウスの紅潮した顔も輝いた。

「困難な戦いに弱音を吐かず良く従いて来てくれた、心の底から感謝しているよ。
 戦いに身を投じてくれた全員に直接、礼を言いたい所だが魔道師が足りない。
 ケイロニア軍の参戦で今後の見通しは明るい、今までの苦闘に感謝すると伝えたい。
 残念だが已むを得ない、広場に集合して貰い語り掛ける形で勘弁して欲しい」

「何よりの御言葉です、ナリス様!
 皆、どんなに喜びます事でしょうか!!」
「そう言ってもらえると助かるな、皆を広場へ移動させてくれないか?
 整列など必要ないし市民達も一緒で構わない、共に喜びを分かち合って貰いたい。
 マルガの民達から直接、感謝の言葉を聞ける方が良いと思うのだが。
 戦っていない者達と同じ扱いは不当だと、不満に思われるだろうか?」

「そんな事はありません、そのような不心得者は1人もおりません!
 御心遣いに感謝致します、部下達も市民と共に喜びを爆発させる事になりましょう!!」
「重ねて感謝するよ、親愛なる戦友諸君。
 全ての戦友達や市民達と共に、私の挨拶を受けておくれ」
 ナリスが光り輝く微笑を見せ、各々に視線を走らせ早速行動に移る様にと指示。
 武将達は喜び勇んで、一刻も早く兵達を移動させんと部屋を駆け出して行った。

 マルガ離宮の瀟洒な建物に面する広場には、興奮気味の市民達が集い立錐の余地も見当たらぬ。
 天にも届くかと思われる熱気と興奮が渦巻き、眼に見えぬ不可視の陽炎と化し頭上へ昇華。
 古代機械内部で未知の治療を受け生命力を回復、生還後は初めて公の場に登場する指導者。
 アルド・ナリスは身体を支え切れぬ両脚、覚束無い平衡感覚を訴え左右2人の補助を要求。
 聖王家の著名人を左右から支える大役を、ヴァレリウスから取り上げると宣言。
 ヴァラキアの学究ヨナに一方を割り振り、参謀長の影響力を一気に拡大する術策を解説。

「どうして反対するのだね、絶好の機会じゃないか!
 パロの民から敬愛され信望を一身に集める聖王家の象徴、リンダは当然として。
 愛妻と並ぶ最大の側近は誰もが元宰相、ヴァレリウスと予想するだろうけれど。
 それでは面白味に欠け演出家として落第だね、隠し玉が無いと衝撃も僅少だよ。
 誰もが知る最強の魔道師を差し置いて、私の身体を支える謎の人物が初めて公の場に登場する。
 誰も知らぬ怪しい若者の正体を巡り、疑問が大爆発するのは当然だろうね。

 パロ聖王家の美男美女と並び、最大の危機に立ち向かう若造は一体何者だ?
 マルガ離宮前の広場に集う人々に強烈な印象を残し、好奇心を最大限に刺激する事が可能だ。
 沿海州ヴァラキア出身のヨナ・ハンゼ参謀長、アルド・ナリスが最も信任する側近中の側近。
 パロ解放軍の誇る参謀長、ヨナ・ハンゼ博士の御披露目には最高の舞台と思わないかな?
 今後パロ国内では頭脳明晰なる賢者、ヨナ・ハンゼ博士の名を知らぬ者は皆無だろうね。
 沿海州や草原地方を含む全中原、ノスフェラスだって大きな顔をして歩ける様になるよ!」

「駄目ですよ、ナリス様。
 私は目立ちたいと思いませんし、参謀長として影響力を行使する必要性も認めません。
 ナリス様も仰々しい聖王の座に就き、雁字搦めの因習に縛られるのは嫌だと仰った筈。
 魔道を用いて桧舞台に立たせるとあれば、お暇を頂戴してミロク教の聖都ヤガへ参ります」
 嬉々として喋り捲る『守り、遮る者』ナリスの提案は残念な事に当の本人が固辞。
 ヨナが断固として却下、再考の余地無く徹底抗戦の構えで拒絶され日の目を見ずに終わった。 
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