英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
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外伝~二大国の落日~後篇(8章終了)
同日、13:00―――――
~バルフレイム宮・皇帝夫妻の寝室~
「……………まさか”貴族派”がここまで墜ちていたとはな…………」
ヴァイスはベッドに置かれてあるエレボニア皇帝、ユーゲント・ライゼ・アルノールの腐食した遺体を見つめて厳しい表情をし
「……セドリック皇子達を軟禁していたのは、恐らく自分達の親類をセドリック皇子とアルフィン皇女……それぞれと政略結婚させて自分達が後ろ盾となり、二人を操り人形にしてエレボニア帝国を支配しようとしていたのかもしれませんね…………」
「う……ううっ……!陛下…………!何とおいたわしい姿に……!私が不甲斐ないばかりに……!肝心な時にお守りする事ができぬとは…………!」
アルは静かな表情で呟き、ゼクス中将は遺体の近くで泣き崩れていた。するとその時扉が開かれ、オリヴァルト皇子とミュラー少佐が部屋に入って来た。
「!?陛下!!…………何という事だ…………!」
ユーゲント皇帝の遺体を見たミュラー少佐は厳しい表情をし
「…………………ヴァイス。まさかとは思うが父上に手をかけたのは君達ではないよね?師匠が側にいるのだから、そんな事は絶対に許さないだろうし………………」
オリヴァルト皇子は呆けた後真剣な表情で尋ねた。
「私達が部屋に踏み込んだ時点でこの状態でした。」
オリヴァルト皇子の問いにアルは答え
「幾ら侵略者たる俺でも約束を違えるような”皇”に相応しくない真似はせん。―――遺体をよく見てみろ。遺体の状態からしてどう考えても最近殺された状態ではないぞ。」
ヴァイスは厳しい表情で答えた後ユーゲント皇帝の遺体に視線を向け
「………………遺体の腐食の進み具合からして最近死んだ状態ではない………少なくても2週間は経っている…………という事は………………」
「内戦の最中に陛下は”貴族派”の手の者に殺害された……そうとしか考えられんっ!」
遺体に近づき、遺体の状態を調べたミュラー少佐は厳しい表情をし、ゼクス中将は怒りの表情で声を上げ
「もしくは宮殿が制圧された時点で殺害されていた可能性もあるね…………」
オリヴァルト皇子は目を伏せて呟いた。
「―――失礼します、ヴァイス様。」
その時リセルが一人の貴婦人を連れて部屋に入って来た。
「リセルか。その者は何者だ?見た所貴族の夫人のようだが。」
「ハッ。宮殿内にいる残存の敵兵達の殲滅戦の最中に見つけた客室にいた方で、事情を聞いたのですが…………どうやらこの方がユーゲント皇帝の殺害現場をたまたま見てしまった上、さらに他の者達には黙っていたようなのです。」
「何………?」
リセルの事情を聞いたヴァイスは目を細めて貴婦人を見つめた。
「貴女は…………」
「バリアハートの屋敷にはいなかったとヴァイス殿より聞いていたが…………まさかバルフレイム宮にいたとはな…………!」
「貴様は…………アルバレア公の夫人!」
オリヴァルト皇子とミュラー少佐は厳しい表情でアルバレア公爵夫人を睨み、ゼクス中将は怒りの表情で睨み
「オ、オリヴァルト殿下……それにヴァンダール家の方々まで…………」
睨まれたアルバレア公爵夫人は表情を青褪めさせていた。
「アルバレア公爵のだと?―――――言え。エレボニア皇帝を殺害した下手人は誰だ。口を割らなければこの場で命を落とすと思え。」
オリヴァルト皇子達の言葉を聞いたヴァイスは眉を顰めた後鞘から剣を抜いて剣の切っ先を夫人に向け、ヴァイスに続くようにアルやリセル、さらにはオリヴァルト皇子達もそれぞれの武器を夫人に向けた!
「ヒッ……!しゅ、主人…………アルバレア公爵閣下とカイエン公爵閣下です…………!」
武器を向けられた夫人は悲鳴を上げた後答えた。
「なっ!?」
「おのれっ!エレボニア貴族であるにも関わらず皇族……それも陛下をその手にかけただと!?」
夫人の言葉を聞いたミュラー少佐は驚き、ゼクス中将は怒りの表情で声を上げ
「……何故そのような事になったのかこの場で話してくれないかい?」
オリヴァルト皇子は真剣な表情で尋ねた。そして夫人はその場にいる全員にエレボニア皇帝が殺害された理由―――――アルバレア公爵とカイエン公爵にそれぞれの親類とアルフィン皇女とセドリック皇子の政略結婚の許可を迫り、固く拒否続け、オズボーン宰相を庇うと共に内戦を止めるように説得し続けるエレボニア皇帝に業を煮やした2人が同時に銃を撃ってエレボニア皇帝を殺害した事を説明し、たまたまその場に居合わせてしまった自分はアルバレア公爵達に黙っている事を厳命された事を説明した。
「クッ……!そこまでして”貴族”によるエレボニア帝国を作りたかったのか……!」
「権力に溺れた愚か者共が……!」
説明を聞き終えたミュラー少佐とゼクス中将は怒りの表情で声を上げてそれぞれ壁や地面を拳で殴りつけ
「………………オリビエ、その女はどうする。お前やアルフィン達の仇は俺とゼクス中将が討ってしまったが……その女は仇の妻であり、事情も知っている上、皇帝を殺されたというのに黙りつづけたという事はアルバレア公爵達と同じ輩だ。お前にはその女を殺す権利はある。その女の処遇についてはお前に任せる。」
「…………………………」
ヴァイスに尋ねられたオリヴァルト皇子は目を伏せて黙り込み
「ど、どうかお慈悲を、殿下……!」
夫人は表情を青褪めさせて叫んだ。
「………………牢屋に閉じ込めておいてくれないかい?彼女の処遇についてはセドリック達と相談してから決めるべきだ。」
「わかった。リセル、連れて行け。」
そして怒気を纏っていながらも静かな表情で答えたオリヴァルト皇子の答えを聞いたヴァイスは頷いた後リセルに視線を向け
「ハッ。」
「そんな……!どうかお許しを……!オリヴァルト殿下…………!ルーファス!私を助けて!」
「幾ら助けを呼んでも無駄ですよ。無駄な抵抗は止めて下さい。」
「クッ……!私を誰だと思っているのよ……!離して!離して―――!」
リセルは喚く夫人の両手を拘束した後、喚いて暴れ続ける夫人を連れて部屋から出て行った。
「ヴァイス…………できれば父上の埋葬はボク達の手でやらせてくれないかな?」
「……ああ。それと俺達が討ち取ったアルバレア公爵とカイエン公爵の死体はどうする?全て終わった後、エレボニア皇帝の件をエレボニア全土に住まう民達に知らせて、カイエン公爵とアルバレア公爵を晒し首にするか?」
「…………いや。父上は病死した事にしてくれ。―――――内戦が長い事続いた事や、内戦を起こしてしまった事に責任を感じて心労が祟ったと。必要ならボクやアルフィン達も証言しよう。」
ヴァイスに尋ねられたオリヴァルト皇子は静かな表情で答え
「殿下!?」
「………………」
オリヴァルト皇子の答えを聞いたゼクス中将は驚き、ミュラー少佐は真剣な表情でオリヴァルト皇子を見つめていた。
「…………エレボニアの民達には新たな未来が待っているんだ。それなのに憎しみを抱えたままでは先に進めないし、きっと明るい未来を手に入れる事はできない。それに何も知らないユーシス君を含めたアルバレア家、カイエン家の親族達には何の罪もないのに、エレボニアの民達から蔑まれ、憎まれる事になるからね。……これ以上憎しみを生み出してはいけないんだよ。”クロスベル問題”や”百日戦役”…………そして宰相殿が行った改革のように。」
「殿下…………」
「………………」
決意の表情で語ったオリヴァルト皇子の答えを聞いたゼクス中将とミュラー少佐はそれぞれ辛そうな表情をし
「お前がそちらを希望するのならば、その形になるように手配しよう。…………ん?―――俺だ。エイフェリアか。…………」
ヴァイスは目を伏せて頷いた後、鳴り始めたエニグマに気付いて通信を開始した。
「…………わかった。離宮の完全制圧が終われば連絡してくれ。なお、皇妃の警護は厳重にしてくれ。――――先程離宮の制圧に当たっていたエイフェリアから連絡があった。プリシラ皇妃を離宮内で保護したそうだ。幸い傷つけられた様子はなく、長い間監禁されていた影響か、衰弱しているが命に別状はないそうだ。」
「おお…………!」
「……皇妃はご無事だったか…………!」
「不幸中の幸いですね…………」
「………………血が繋がっていない母親とはいえ、生きていてよかったよ……アルフィンとセドリックにとっては大切な母親だしね………………”空の女神”……いや、エステル君に感謝かな…………」
通信を終えたヴァイスの報告を聞いたゼクス中将とミュラー少佐は明るい表情をし、アルは静かな表情で呟き、オリヴァルト皇子は安堵の溜息を吐いた。
こうして…………エレボニア帝国は滅び…………西ゼムリア大陸の二大国は同じ日に滅びを迎えた…………後にこの日は”二大国の落日”として歴史に名を残す事になる…………………
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