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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第3章:再会、繋がる絆
  第58話「蘇る記憶と...」

 
前書き
結界のイメージはプリズマイリヤの鏡面界です。(景色全然違うけど)
つまり、全くの異空間的な扱いです。
 

 
















  ....手元からジュエルシードがいくつか消えた。

  シュラインも返事をしてくれない。一切喋らない。

  ...当然だよね。こんな主だもの。いつまでも仕える訳がない。

  ジュエルシードは誰か...管理局に見つかれば封印されるだろう。

  シュラインはきっと、私よりいい主を見つけるはず。

  ...そう。私は一人でいいんだ。

  一人で....。









   ―――■■て....












       =優輝side=









   ―――...一瞬、ソレを理解するのを拒絶した。







「――――――。」

  グチャリ、グチャリと、怪物の触手が抉るように何度もソレを突く。
  まるで、()()()()()()とでも言うかのように。

「っぁ――――。」

  肉を、骨を砕かれ、中身が溢れ出すように潰されたソレに、息はない。
  猟奇的なまでに残酷だった。スプラッタに慣れていないと吐いていただろう。
  ...前々世で死体に見慣れていたからこそ、僕も吐き気だけで済んでいる。

「っ...!“創造開始(シェプフング・アンファング)”!!」

  溢れ出す感情と共に剣を怪物の周りに創造。射出し、突き刺す。

「“呪黒剣”!!」

「“弓技・瞬矢”!!」

  さらに、地面から生えた黒い剣が、連続で放たれた神速の矢が突き刺さる。

「砕け散れ!!」

〈“Zerstörung(ツェアシュテールング)”〉

  そして、剣に込めた魔力を爆発させ、怪物を四散させた。

「....くそがっ...!」

「っ......。」

「.......。」

  無残に横たわる死体を前に、僕はただ悔しがる事しかできなかった。

「まさか...誰かが巻き込まれていたなんて...。」

  目の前まで来たのに、助けられなかった。
  それが、僕らの無念さに拍車をかける。

「....っ、やっぱり...。」

「優輝?」

  ふと、その死体を少し注視して、そう漏らす。

「...聖祥大附属小学校(うち)の制服だ...。」

「それって...。」

「...この場に巻き込まれた時点で、薄々わかっていた事だけどな...。」

  血に塗れているが、どう見てもそれは女子の制服だった。
  つまり、この少女は学校の....。

「....悔いても仕方ない。とにかく、結界を解除して....。」

  とりあえず警察に連絡して、死体の埋葬をしてもらおうとして...。





『いけません!罠です!!離れてください!!』





「「「っ―――!!」」」

  突然響いた念話で、咄嗟にその場から大きく飛び退く。

「何...!?」

  少しすると、死体に集まるように四散した怪物の破片が集まっていく。
  ...再生?いや、少女を中心としているから少し違う。

「依代?...いや、あれは....あの少女が、本体か...!?」

  感じられた魔力と、少女が中心になっている事から、そう推測する。
  ...よくよく考えれば、知覚すらしづらいこの結界に巻き込まれる訳がない。
  もしかしたらあり得る事かもしれないが、普通はありえない。

  ...いや、問題はそれだけじゃない...!

「今の念話...どういうことだよ...!」

「優輝?どうしたのよ?」

「...さっきの念話、...アレが発生源だ。...正しくは、アレの核である存在が..な。」

  そう。念話の発生源はあの少女だったモノ。
  何かが核として存在しているのだろう。そこから聞こえてきた。

「一体何が起こっているんだ...!」

  この謎の結界。そして謎の怪物。さらには念話。
  ...何が起きているのか、全く全容が掴めない...!

『...倒してください。この暴走体を!封印魔法をかければ...!』

「....その言葉、信じるぞ?」

  また聞こえた念話。どうやら目の前の少女だったモノを倒してほしいようだ。
  確かに、今やった方がいいのは封印魔法だろうし、言葉通り倒してやる。

「やるぞ、椿、葵。」

「...わかったわ。」

「りょーかい。」

  少女だったモノの姿が、変わる。
  黒いワンピースに黒い羽衣。まるで、闇に堕ちたかのような姿になる。

「(...どんな攻撃を仕掛けてくる...?)」

  相手の動きを探ろうとして、直感的なものが僕の頭を駆け巡る。
  ...曰く、武器として槍を使ってくると。

  瞬間、敵の手に槍が出現し、それを地面に突き刺した。

「っ....!飛べ!」

  地面から高エネルギーの魔力を感じ、二人にそう指示を飛ばして僕自身も飛ぶ。
  瞬間、辺り一面が爆発する。

「っ!」

  もちろん、攻撃はそれで終わりじゃない。
  敵はそのまま僕の方に飛んできて、槍を振るう。

「シッ!」

  薙ぎ払うように振るわれた槍を上に避け、反撃として一閃お見舞いする。
  その時、妙な感覚を覚えた。

「(...戦い方を...知っている?)」

  また振るわれ、そして突いてくる。
  しかし、それも躱し、逸らす事で回避し、さらに反撃を加える。
  ...対処がスムーズに行える。まるで、以前に何度も戦った事があるかのように。

     ギィイイン!!

「...どういう事だ...?」

  一度大きく弾いて間合いを離す。
  相手の動きがわかってしまう。...そのせいで逆に違和感が出てしまう。

「まぁ、今は...。」

  目の前の事に集中しよう。考えるのはその後でいい。
  そう思って敵を見れば、既に椿と葵に追い詰められていた。
  椿の放った矢に追従するように葵が接近し、連携攻撃で一気に追い詰めて行く。

「...させない。」

〈“Quick shooter(クイックシューター)”〉

  そこで、敵から高魔力が感じられたので、意識を逸らすために魔力弾を放つ。
  魔力弾は敵の後頭部へと迫り、それに気を取られて高魔力が霧散した。

「“一閃・封魔之呪(ふうまのじゅ)”!」

  そのまま椿の矢がダメージを与え、最後に葵の一閃で封印を完了させる。

「(...言われた通り、これで封印は完了した。一体...。)」

  何が起こるのかと、僕らは警戒しながら待つ。
  封印によって、敵の姿は変わっていき、一つの青い菱形の宝石になった。
  それと同時に、結界も解けたので、僕が張りなおす。
  魔法関係者以外に見られる訳にはいかないからな。

「これって...ジュエルシード!?」

〈形状と浮かび上がる“Ⅰ”という数字...間違いありません。〉

  そう、それは虚数空間に消えたはずのジュエルシードだった。
  ...やっぱり、改竄された記憶とは違ったんだな。

〈....ようやく、まともに話せますね。〉

「...え...?」

  ふと、リヒトでもシャルでもない声が聞こえる。
  発生源は、やはり目の前のジュエルシード。

「ジュエルシードって...喋ったっけ?」

〈少なくともそういう類のロストロギアではない事は確かなはずです。〉

  しかし、どう考えても声を発したのは目の前のジュエルシード。
  ...実は人格があったとか?

〈...やはり、私の事も忘れていますか...。〉

「忘れて...?...もしかして、天巫女の...?」

  夢の人物...天巫女のデバイスなのかと聞く。
  ちなみに、名前がわからないので、暫定的に“天巫女”と呼んでいる。

〈...記憶改竄を受け、認識されないようにしてきたのに、既にそこまでわかっているのですか...。流石、と言うべきですね。〉

「.........。」

  彼女(声色的に)が言った事は、概ね僕らが推測した事と同じだった。
  やっぱり、認識阻害だったのか...。

〈...私の名はシュライン・メイデン。マスター、聖奈司のデバイス...その人格です。〉

「シュライン...メイデン....。」

  何かが...何かが頭の中で繋がっていく。
  パズルのピースが次々とはまっていくように、何かを思い出していく。

「....思い...出した....!」

「...ようやくつっかえが取れたって感じね...。」

「すっきりするぐらい一気に思い出せたね。」

  思い出せなくて解けない問題が、小さなきっかけで一気に解けるように、改竄されて失っていた記憶が全て蘇った。

〈...やはり、記憶改竄により抹消されていた存在に会う事で、記憶が蘇りましたか。〉

「....司さん...。」

  シュラインが何か言っている横で、僕はそう呟く。
  ...どうして忘れていたのか...夢の人物...司さんの名前を...。

〈...皆様はこの事態をどこまで推測していますか?〉

「...記憶改竄によって、司さんとシュライン...それに関する記憶が都合よく抹消されている。その原因は司さんが負の感情を持ってジュエルシードを使ったから。...多分、“自分なんかいない方がいい”とか、そんな感じな事を思ったんだと思う。」

  記憶改竄がなくなったからか、思考もちゃんとできるようになる。
  僕が推測を述べると、シュラインは感心するようにチカチカと光る。

〈さすがです。...まさにその通り。マスターはジュエルシードを使い、自身の存在を抹消しました。“自分がいたら不幸になる。いなければ不幸にならない”...そう思い込んで。〉

「そう...なのか...。」

  しかし、どうしてそんな事に?

〈...マスターは、以前から思い詰めていました。そして、あのジュエルシードの暴走で、決定づけられてしまったのです。〉

「...以前から?」

〈はい。....転生した、その日からずっと。〉

「なっ...!?」

  そんな時から...!?全く、気づけなかった...!

「どうして...そんな事を...。」

〈....わかりません。聞かされていなかったので...。〉

  ...待て。以前にもこんな事があったような...。くそっ、思い出せない...!

「....司と貴女の不調は?」

〈あれも厳密にはマスターの“負の感情”が原因です。〉

  椿がシュラインに聞くと、そう答えが返ってくる。

〈...私の中にあったジュエルシードに、マスターの“負の感情”が蓄積していきました。そのせいで、私とマスターに悪影響を...。〉

「...ちょっと待ってくれ。シュラインは“異常なし”って言ってたんじゃないのか?」

  ふと、司さんがそう言っていた事を思い出す。

〈...はい。もし言ってしまえば、その時点でマスターは自分のせいだと思い、ジュエルシードが活性化してしまいますから。それと、実際私自身に異常はなかったので、敢えて言わなかったのです。〉

「でも、それでも言っておけばこんな事態には...。」

  多分、言った時点で暴走するのだろう。それでも、今よりはマシなはず...。

〈...気づいた時には、手遅れだったのです。言っていれば、今よりもひどい事態になり、マスターは壊れてしまいます。〉

「...25個よりもひどい状態?」

〈はい。...私は、マスターの“負の感情”を分散させましたから。〉

  “負の感情”を分散させた?いや、それでも...。

「...それでも25個の方が出力は上なんじゃ...。」

〈“出力は”...です。“負の感情”を一つのジュエルシードに集中させると、あっという間に皆様は“負の感情”に呑み込まれてしまいます。25個だったからこそ、あの程度で済んだのです。〉

  ...あれほどの脅威を、“あの程度”か....。

「...呑み込まれると、どうなるんだ...?」

〈...推測ですが、まず狂います。そして、全てを破壊しようとするか、自殺してしまいます。...どの道、助かる事はできません。〉

「なるほど...な...。」

  そりゃあ、分散させた方がまだ可能性はあるな。

〈...それに、私は貴方に賭けているのです。〉

「僕に?」

〈はい。貴方なら、マスターを助けられると。〉

  どうして僕に...?確かに助けるつもりではあるけど...。

〈...導きの王たる貴方なら、マスターを光へと導いてくれると、そう思いましたから。〉

「...待て、今、なんて言った....?」

  “導きの王”...?それはつまり、導王という事だ。
  ...おかしい。僕ら以外記憶を封印して覚えていないはず...!

「まさか、シュライン...。」

〈...覚えています。過去の...緋雪様の死の真実を。〉

「だったら!なおさら...!」

  どうして僕なんかに。そう言おうとして思い留まる。
  ...また、諦めて緋雪の二の舞にするつもりか?違うだろ?

「...っ、この際、覚えているのはいい。でも、どうすればいい?」

〈...貴方なら止めれると思った理由は、もう一つあります。それは、マスターは貴方の前世の事をよく知っているからです。同じく、貴方もマスターの前世を知っている。互いによく知っているからこそ、最も助けられる可能性が高いと、そう思ったからです。〉

「前世...だと...?」

  前世..というか、転生云々の話が出てくるのはおかしくない。
  以前、翠屋で司さんと緋雪に転生者ってばれた時、シュラインも聞いていただろうし。

「(...前世で互いによく知っている...?)」

  そして、“自分なんていなければいい”なんて転生した時から思う...。
  つまり、それは前世で死ぬまでにそう思うような出来事があったからだ。
  自分のせいで他人を不幸にした、危険な事に巻き込んだ。そのような出来事があれば、そう思うのも仕方がないだろう。

  ...そして、その条件に合う僕の知り合いと言ったら...!

「(っ...!そういう...事か...。)」

  そんな人物は、一人しかいない。
  だけど、あんなの一番の被害者なのは本人だろうが...!

「...理解した。シュラインがそこまで知っていたのには驚きだが。」

〈理解していただけで何よりです。〉

「...二人も協力してくれるか?」

「....例え一人ででも行くつもりでしょう?付き合うわよ。」

「司ちゃんを助けないとだしね。」

  椿と葵も、しっかり協力してくれるみたいだ。

〈...マスターを助けるには、マスターの心を救わなければなりません。〉

「...ああ。自分のせいで不幸になったと思い込んで、あそこまでの“負の感情”を溜め込んでいるんだからな...。」

  普通に助け出しても、自殺しかねない。

「司さんがいてくれたおかげで助けられた事、不幸から救われた人がいるっていう事を、しっかり伝えないとな...。」

「司は卑屈になりすぎなのよね...。」

  今思えば、司さんは常に一線引いた所から皆を見ていた。
  あれも、そういう卑屈な考えから来ていたのだろう...。
  司さんに助けられた人は学校にもたくさんいるというのに...。

「....ところで、どうしてシュラインはジュエルシードに?」

〈...本体はマスターの所にいます。私とて、天巫女に使われるデバイス。ジュエルシードに干渉する事ができます。それにより、人格をジュエルシードに移す事に成功しました。〉

  なるほど。これでジュエルシードになっているのは説明つくけど...。

〈...私の経緯を説明するべきですね。〉

「頼む。」

  色々と気になる所があるので、シュラインの話を聞く。
  どうやら、プリエールに向かう時には既に僕に可能性を賭けるのを決めていたらしい。
  そして、今までずっとジュエルシードに干渉し続け、ようやく人格を移す事に成功し、ジュエルシードの魔力を利用してここまで転移してきた...という事らしい。

〈大体はこんな所です。〉

「...改めて天巫女関連の異常さに驚いたわ...。」

「デバイスだけでも干渉できるなんてねー。」

  話を一通り聞き終えた感想が、それだった。
  さすがにリヒトでもそこまでは無理だろう。...自己進化してるからわからんが。

〈しかし、ジュエルシードの“歪み”はそのままです。転移は上手くいきましたが、それ以上私がどうにかする事はできないです。〉

「...願いを歪めて叶えるのはそのままか...。」

〈はい。暴走する事は私がいるのでありえませんが、ジュエルシードとして使おうとすると、さすがに....。〉

  使用しなければ暴走しないのか...なら...。

「僕が解析してその“歪み”を直す事は?」

〈....相当気の遠くなる作業になるかもしれませんが...危険性は少ないです。〉

「なるほど。」

  なら、できれば僕が直してしまうか。

〈...もう一つ気になる事が。〉

「今度はなんだ?」

〈...私の他にも、いくつかジュエルシードが転移してきています。私は自身のみだったので、マスターが転移させたのかと思いますが...。〉

  ...なんのために地球に転移させたかわからない...って事か。

〈マスターの記憶改竄にはジュエルシードの魔力が必要です。それと、生命維持にも。今回、転移してきたのはそのどちらにも大した影響は与えないのですが...。〉

「転移させた意図が気になると...。」

〈はい。マスターは私の転移に気づいていなかったので、私とは関係ないはずです。〉

  司さん自身が望んでジュエルシードを地球へ転移させた...?

〈...実際、ジュエルシードがいくつかあればマスターの方のジュエルシードに対抗しやすくて便利なんですけどね...。〉

「シュライン...もしジュエルシードがなかったら、どうするつもりだ...った.....っ!」

  まさか...!?いや、でも...しかし、こじつけにしか...。

「どうしたのよ?」

「...司さんは、無意識に助けを求めているんじゃないか?」

〈...はい?〉

  全く違う理由な可能性の方が高いが、都合よく考えればその可能性もある。

「...“自分なんていなくなればいい”とか、そう思っていても心のどこかではそれでも救われたいと思ったりする場合があるんだ。」

「...そうね。無意識の内に助けを求めるなんて、よくある事だわ。」

  俺の言葉に、椿が同意する。
  ...神様として経験でもあったのか?

「ましてや、司さんの場合は...。」

  司さんの前世が前世だとすれば、例え“負の感情”を抱いても、助けてほしいと、救われたいと願ってもおかしくはない。

  ...それに、司さんは今まで頼られてばかりだった。
  自分から頼る事などなく、誰かに何かを望まれて、それを実行していた。
  そんな司さんが、もし自分から望むのだとしたら...?

〈....私にはマスターの真意が全てわかる訳ではありません。〉

「...人の心なんて本人にしかわからないものだ。どんなに仲が良くても、それが家族でも、双子でも、実際の所本人にしかわからないからな。」

  他人にできるのは、そんな本人から本当の気持ちを言ってもらうだけだ。
  緋雪の...シュネーの時だって、僕は全てわかっていた訳じゃない。

「...司さんはジュエルシードを地球に転移させる事で、僕らに気づいてもらい、そのジュエルシードを使って救ってほしいと無意識の内に考えている。...そう思うのは都合がよすぎるかな?」

「...希望が持てるだけ十分よ。私も、そう思いたいし。」

「そうだよねー。マイナスに考えるより、プラスに考えた方がいいしね。」

〈私もその考えを推したいです。〉

  都合のいい解釈なのには変わりないけど...まぁ、この考えで行くか。

〈....何はともあれ、他のジュエルシードを放置する訳にはいきません。私とて、転移した際、先程のような結界を展開し、暴走体が出現していたのですから。〉

「暴走...さっきのあれか?」

  今思えば、色が違うとはいえ、あれは天巫女としての司さんの姿だった。

〈なぜマスターの姿を取ったのかは分かりません。...もしかすれば、他のジュエルシードも同じように、マスターの姿を取っているかもしれません。〉

「そうか...。」

  シュラインにもなぜかは分からないらしい。

〈...ただ...。〉

「...?」

〈ただ、あの場所はマスターと私が出会った場所です。皆様が結界内で見たあの出来事は、もし私が会わなければ、起きていた事かもしれません。〉

「それって...。」

  以前、何気なく司さんに魔法を使うようになった切っ掛けを聞いた事がある。
  確か、その話でも場所は学校だったような...。

「...司さんの記憶を再現しているとか...?それで、“自分さえ~”なんて考えを抱いてたから、あんな死ぬような場面に...。」

〈...可能性としてはありえます。...だとすればますます他のジュエルシードも...。〉

「再現されるモノによっては、面倒だな...。」

  ...どの道、ジュエルシードは危険だから回収しないとな。
  クロノにも連絡して、協力してもらうか。...説明が面倒だが。

〈....マスター....。〉

「...?どうしたリヒト?」

  聞くことは大体聞いたところで、リヒトが弱々しく話しかけてくる。

〈.....すみません。認識阻害が解けたと同時に気が付いたのですが...手遅れ...でした...。〉

「リヒト...?おい、どうしたリヒト!?」

  手遅れ?気づいた?一体、なんの事だ...!?

〈...ジュエル...シード...最後の一つ.....。〉

「ジュエルシード....っ!!そうだ!リヒトの中に一つ...!」

  やけに弱々しいのは、あの時我武者羅に掴んだジュエルシードが原因か!
  封印して収納していたが、まさか封印が解けて....!







   ―――...その時、慌てて出したのが間違いだったかもしれない。









「―――っ!?がぁあああああっ!!?」

  ジュエルシードを取り出した瞬間、そのジュエルシードから黒い魔力の波動が迸る。
  まるで“負”をイメージしたそれは、何かの形になろうとする。
  それと同時に、僕の胸に激痛が走る。

「優輝!?」

「優ちゃん!!」

「(これ...は...リンカーコアが....!?)」

  その激痛は、リンカーコアの魔力が無理矢理奪われたものだった。
  まるでリンカーコアそのものが吸い取られるような感覚に、僕は叫ぶ。

〈そんな...!“負の感情”が...蓄積されている!?〉

〈マスター!?しっかりしてください!マスター!〉

  皆の呼びかけに、何とか意識を保つ。
  そうしている間に、黒い魔力がジュエルシードを核に形を作っていく。
  あれは....!

〈...マイスター...?〉

「僕...だと....?」

  その姿は、まさに僕そのものだった。
  司さんの偽物と違い、防護服の色も全て同じだった。
  ...違うところといえば、ソレから感じられる魔力量と...邪気。

「ぐっ....。」

「優ちゃん、無事?」

「....ギリギリだ。正直きつい...。」

  まるで、リンカーコアがほとんど持っていかれたようだ...。

「(まずいな...この状況で僕の偽物か...。司さんの偽物はほんの一端だけだったけど、祈りの力を使っていた。...なら、あいつも....。)」

  ソレは、掌を閉じたり開いたりと、調子を確かめた後、こちらを向く。




   ―――その瞬間、僕らは魔力の衝撃波に吹き飛ばされた。





「っ、ぁああああっ!?」

「きゃぁあっ!?」

  痛む胸を抑えながら、何とか体勢を立て直して着地する。
  ....って、今誰かいなかったか?

「っ、アリシア!?」

「あっ、やば...。」

  今までいたのは学校の右側面の方。
  そこから吹き飛ばされ、正面側の角の陰に隠れるようにアリシアがそこにいた。

「どうしてここに!?...って言ってる場合でもないか...!」

  すぐさまアリシアを庇うように立つ。

「い、一体何が...。」

「説明してる暇はない!」

  見れば、そこには大量に浮かぶ剣の数々。...創造魔法で創り出したのだろう。
  その中心には、僕の偽物。

「....これは...まずいな....。」

  今僕に扱えるのは、主に霊力だけと言っていい。
  魔力を扱う事はできるが、それはほんの少しだけだ。リンカーコアが痛い。

  ...対して、奴さんは膨大なジュエルシードの魔力を持っている。
  リンカーコアが吸われた事を見るに、色々コピーされているだろう。

「...下がってろアリシア。...庇う余裕すらないかもしれない。」

「えっ....。」

  見れば、椿と葵も臨戦態勢に入っている。
  その顔は真剣そのもの。...当たり前だ。敵が敵なのだから。

「...ああもう。なんでこんな面倒な事に....。」

  痛みを我慢しながらリヒトを構える。
  ...やるしか、ないか...。











 
 

 
後書き
Quick shooter(クイックシューター)…優輝が習得しておいたなんの変哲もないミッド式の射撃魔法。誘導性・弾速・速射性全てにおいて優れているが、一斉操作ができない。

一閃・封魔之呪…刀奥義・一閃に魔力で封印属性を持たせた技。今は葵しか使えない。

優輝は過去で司の闇の欠片とのやり取りを忘れています。記憶を封印しましたから。 
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