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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第3章:再会、繋がる絆
  第59話「偽物」

 
前書き
何気に今まで優輝が魔力量の割に規格外の相手と戦えたのは、導王流とそれに連なる高い戦闘技術があるからです。(魔力吸収も技術の内)
しかし、今回の相手はそんな優輝のコピー。おまけに優輝はリンカーコアが損傷しています。
...相性最悪の相手です。
 

 






       =優輝side=





「(戦力分析...!)」

  ...まず、僕が行ったのは、相手の強さの推測と、こちらの戦力の確認だ。

「(敵...リンカーコアを吸われる感覚があった所を見るに、おそらく僕をコピーしたのだろう。僕の魔法・戦闘技術も模倣し、おまけにジュエルシードが核だから僕よりも魔力が多い。...ただ、霊力が使えるかは不明。ジュエルシードが霊力を再現していたらお仕舞いだが。)」

  しかも既に剣を大量に創造して臨戦態勢だ。

「(...対して、僕はリンカーコアをほとんど...9割方吸われてしまって損傷している。...魔法は使い物にならないとみていい。という事は、霊力だけで自分自身に勝てって言っているみたいなものか...。しかも....。)」

  ちらりと後ろを見る。そこには、不安そうなアリシアがいる。

「(...こっちはアリシアを庇って戦わないといけない。...幸い、椿と葵は戦闘に何も支障はない。だとすれば...。)」

  椿たちもこちらを見、視線だけで合図をする。

「(僕はアリシアの護衛。二人がコピーを倒す!)」

「“弓技・火の矢雨”!!」

  椿が火を纏った矢の雨を放つと同時に、剣群がこちらへと飛んでくる。

「っ...!僕の後ろから動くなよ!」

「っ、う、うん...!」

  僕は御札に霊力を通して剣を二振り取り出す。
  これは御札に何かを仕舞っておくことができる術式を組んであり、この剣は事前に僕が入念に魔力を使って創っておいた剣だ。易々と折れる事はない。

「(魔力が使えなくとも...霊力はある!)」

     ギギギギギギギギギィイン!!

  霊力で身体強化を施し、双剣で剣群を弾く。
  リンカーコアは使ってないので、鈍痛はそのままだが、無事に全て捌き切る。

「(頼むぞ...椿、葵!)」

  椿と葵に、僕は最近勝てなくなっている。
  だけど、それは軽い模擬戦での話で、実戦となればどうなるかわからない。
  おまけに、魔力量もコピーの方が上なので、余計に厄介だろう。
  ...二人を信じるしか、他にあるまい。









       =out side=





「優ちゃんの偽物...厄介だねぇ...。」

「今優輝は護るのに精一杯...私たちで倒すしかないのよ。」

  同じく剣群を凌いだ椿と葵がそう呟く。

「...いつも通りの布陣で行くわよ...。」

「偽物とはいえ、優ちゃんのコピーだから、全力だね!」

  言うや否や、葵は地面を踏み出し、偽物へと迫る。

「は、ぁっ!!」

  息もつかせぬ高速の突きを葵は繰り出す。
  しかも、その突きは軌道が微妙に弧を描いており、生半可な対処では攻撃を逸らせないようになっている。...ついでに言えば椿の援護射撃もある。

「っ、く....!!」

「...甘いよ。」

  長い修練を重ねて会得した高い戦闘技術による連撃。
  しかしそれは、偽物と互角に渡り合うのが精一杯だった。

  ...優輝に出会うまでの間も、修練を怠っていなければこうはならなかっただろう。

「葵!」

「っ...驚いた...人格あるんだ。」

  攻撃を捌く際に喋った事に、葵は驚いていた。
  シュラインと違い、優輝をコピーしただけの存在が喋るとは思わなかったからだ。

「当然。僕はオリジナルをコピーしたんだ。人格もコピーしてあるに決まってるよ。」

「....なるほど...ね。」

  人格があるとすれば、並の戦術は読まれる。
  そう葵は思い、ますます厄介だと認識する。

「それより、その場にいてもいいのか?」

「....ああ、これら?」

  ほんの少しの思考の間に、偽物は剣を創造して葵を囲っていた。

「全く問題ない....ねっ!!」

   ―――“戦技・四竜烈斬”

「っ....!」

     ギギギギギィイン!ギギギギィイン!!

  葵はそんな剣群を無視し、四連撃を繰り出す。
  そんな葵に、偽物は剣を差し向け、四連撃を全て捌く。

  幾多もの金属がぶつかり合う音が響くが、どちらも無傷だった。

「...なるほど。」

「かやちゃんの弓、コピーした癖に忘れてない?」

「いや、ちゃんと分かっていたさ。」

  そう。葵を狙った剣群は全て椿が撃ち落としていた。
  ついでに()()()()()()()()()も撃ち落とした上で、だ。

「っ、く....!」

「こ、こっちも狙って...!?」

  ...そう。偽物は、葵だけでなく、椿も優輝達をも狙っていた。
  優輝もアリシアを庇いつつ全て捌いたが、やはりまだ体が痛むようだ。

「(僕らも視野に入れているのか...!コピーしただけあるな...!)」

  アリシアを庇い切った優輝は、つい偽物に対し感心してしまう。
  確かに優輝の能力ならばこの場にいる全員を相手取れるのだ。

  ...()()()()()()()()

「はは、ははは...さすがジュエルシードの魔力。これで僕の足りない所は全て補える!」

「っ、な....!?」

「こ、こんな数、見たことないわよ!?」

  ...偽物は、ジュエルシードを核としている。
  つまり、ジュエルシードの魔力がそのまま魔力量となっているのだ。
  そんな魔力で創造魔法を使えば、当然、埋め尽くすような武器群ができる。

「さて、これはどう凌ぐ?」

「っ....皆!あたしの後ろに!!」

  武器群は椿たち全員に矛先を向け、射出されようとしている。
  葵が咄嗟にそう叫び、その言葉通りに全員が葵の後ろに行く。

「かやちゃん、優ちゃん!サポート頼んだよ!」

「分かったわ!」

「任せろ!」

  武器群から目を離さず、葵は優輝と椿に指示を飛ばす。
  その指示通りに優輝と椿は御札を使い、葵の身体能力を底上げする。

「...行け。」

「防ぎ...きるっ!!」

   ―――“刀技・金剛の構え”
   ―――“刀技・挺身の構え”

  喧しいばかりに幾多もの金属を弾く音が鳴り響く。
  逸らし、切り払い、弾き、相殺し、武器群を一身で捌く葵。

  一人だけだったら既に蜂の巣だっただろう。
  今も凌げているのは、二人のサポートがあったからだ。

「は、ぁあっ!!」

  最後の武器を切り払い、なんとか凌ぎきる葵。
  しかし、偽物とはいえ優輝の攻撃がこれで終わりなはずがない。

「っ...!!」

     ギィイイン!!

「きゃっ!?」

「やっぱり...!後ろからアリシアを狙ったか...!」

「...さすがオリジナル。読んでいたか。」

  後ろからアリシアを狙った一閃を、優輝はなんとか防ぐ。

「優―――!」

「遊んでろ。」

「っ、くっ...!」

  優輝を援護しようと、椿が動こうとして、飛んできた剣に妨害される。

「さぁ、どこまで防げる...!」

「ぐっ....!」

  方や傷つき、既に満身創痍に近い優輝。
  方や偽物とはいえ、優輝のコピーで魔力も多い偽物。

  ただの近接戦だが、どちらが勝つかは明白だった。

「ぐ、ぁっ...!」

「...我ながら、厄介な技術だ。こうまで攻めづらいとはな。」

「くそ...!コピーしただけなのに何言ってるんだ...!」

  オリジナルに迫る完成度の導王流のコピー。
  既に戦闘がきつい優輝にとって、それだけでも脅威だった。

「ははっ、そのコピーに負けてるのはどこのオリジナルだ!?」

「ぐっ....く....!」

  繰り出される双剣の攻撃を、同じく双剣で凌ぐ。
  受け流し、力の流れを導き、最小限の動きで最大限の隙を作りだす。
  そんな導王流の技術を使う優輝だが、同じ技術相手では防戦一方だった。

「くっ...はぁっ!」

     パキィイン!

「っ、“創造(シェプフング)”。」

「ちっ....!」

  だが、さすがに武器の強度は優輝の方が上で、偽物の方の剣を破壊する。
  しかし、すぐに創造魔法で新しく作られ、無意味に終わる。

「ん?...っと。」

   ―――“呪黒剣”

「逃がさないわ!」

   ―――“弓技・瞬矢”

  そこへ再び襲ってきた剣を凌いだ葵が援護に入り、地面から剣を生やす。
  それを躱した所を、同じく凌いだ椿が追撃する。
  並の者だと反応できないスピードの矢を、偽物は...。

     キンッ!!

「...それは、導王流の恰好の的だ。」

「...無駄...ね。」

  鏃に少し当てるだけで軌道を逸らし、回避した。

「じゃあ、これはどうかしら?」

   ―――“三重矢(みえや)

  ならばと、椿は矢を放ち、それが三つに分裂して同時に襲う。
  導王流の弱点である同時攻撃。それに対し偽物は...。

「...なんのための創造魔法だと?」

  創造した三つの剣で相殺した。

「(くそ...手詰まりか...。)」

「(...あたしとかやちゃんだけなら倒そうと思えば倒せるけど...。)」

「(...優輝とアリシアが....。)」

  魔力量が多いとはいえ、所詮は優輝の偽物。椿と葵が本気を出せば倒せる相手だ。
  しかし、今は足手纏いの優輝とアリシアがいる。これでは倒せない。

「...シュライン...。」

〈...私にはどうにもできません。今人格を移してあるジュエルシードは未だに歪んでいます。マスターの下に導く事はできますが、それ以外は何も...。〉

  優輝は傍に漂うシュラインに尋ねるが、やはり何も手出しできなかった。

「ジュエルシードが喋った...?」

「...彼女はジュエルシードであってジュエルシードではない。...というか...。」

   ―――記憶...戻らないんだな。

  そんなシュラインに気づいたアリシアに、優輝は戦闘中でありながらついそう思った。

「...説明は後だ。今は目の前の事に集中しろ。」

「う、うん...。」

  とりあえず優輝はそう言っておき、目の前の事に集中する。

〈...しかし、些かおかしいです。あれは、暴走しているというより...。〉

「(...どう見ても、理性を持って独立している....よな。)」

  優輝の魔力で活性化したには、些かおかしいと優輝とシュラインは思う。

「(....ジュエルシードは感情でも活性化する。暴走とは違い、理性がある。そしてあれは僕のコピー...。...もしかして、僕の感情に影響された?)」

  暴走しない原理は分からないが、理性とかがある訳を優輝は推測する。

「...人格がある、思考もしっかりしている。...なら、なぜ私たちを攻撃するのかしら?」

「理性があるうえに、優ちゃんのコピーなら、攻撃する理由はないはずだけど?」

  それに気づいてた椿と葵も、偽物に対して問う。

「..はは、はははっ。それ、本気で言ってる?」

「何...?」

「...あぁ、そうか。オリジナルは意識してなかったな。それならわからないのも納得だ。」

  そこで優輝は気づく。...偽物の瞳が濁っている事に。
  ...そう、まるで緋雪(シュネー)の時のように、狂気が滲み出ているのだ。

「ほら!自分の胸に聞いてみなよ!それなら自ずと答えは見つかるさ!」

「お前....。」

「僕の目的のためには皆止めるだろう?だから、先に殺してしまえばいいんだよ!オリジナルに至っては、僕が殺せば僕が本物になる!そら、理由はこれで十分だろう!?」

  “狂っている”。偽物の言葉を聞いた皆はそう思った。

「(...僕も、間違えればああなっていたのか...。)」

  目的は分からないが、もし緋雪の時に立ち直れていなかったああなっていたのかと、優輝は身震いする。...それほどまでに、偽物は狂っていた。

「それよりも....会話してていいの?」

「っ....!」

  瞬間、そこらじゅうに現れる剣群。

「(囲まれた...!)」

「しまった...!偽物の方は優ちゃんよりも魔力が多かった...!」

  包囲するように展開された剣群に、優輝と葵は戦慄する。

  ...元より、偽物は本物に似て気づかれないように魔法を運用するのが上手い。
  それに気づけるのは本物である優輝か、優輝の魔法に慣れた葵ぐらいだった。
  しかし、優輝は手負いで、葵は一瞬の油断で気づくことができなかった。

「っ...椿!アリシアを頼む!葵は二人の援護を!...駆け抜けるぞ!」

  瞬時にどう動くか考え、優輝は二人に指示を飛ばす。

「優輝は!?」

「...足止めぐらいなら...!」

  自身の偽物だからこそ、これを凌ぐだけでは追撃を受けると優輝は悟る。
  自分ではアリシアを守り切れない事から、優輝は足止めを買って出た。

「....っ、時間がないわね。死なないでよ!アリシア、捕まって。」

「活路は任せて!」

  剣群はすぐ傍まで迫ってきている。
  他の手段はないと確信し、それぞれ動き出す。

「...っ、やはり来たか...!」

「させないっ!」

  剣群を駆け抜け、追撃に使う術式を組んでいた偽物に斬りかかる優輝。
  それを偽物も予想していたのか、互いの双剣が鍔迫り合う。

「(今の僕はリンカーコアの損傷で碌に魔法が使えない!魔力感知はリヒトとシャルに任せるが、それ以外は全て霊術で補う!)」

  優輝は剣に霊力を纏わせる。
  霊力は魔力に有利なため、すぐに偽物の剣を破壊する。

「っ...舐めるなオリジナル!!」

「くっ...!」

  しかし、すぐさま創造魔法で剣を補給し、高密度の魔力を纏わせて振るってくる。
  それに吹き飛ばされ、地面をこすりながらも何とか着地する。

「(だけど、これで時間は稼いだ...!)」

「....喰らいなさい。」

   ―――“弓奥義・朱雀落”

  優輝はさらに後退し、椿とアリシアの所まで行く。
  同時に、椿が朱い矢を放つ。

「この程度...。」

「なら、もう一手間加えようか!」

   ―――“呪黒剣”

「っ....!」

  単発だけでは、導王流で簡単に逸らされる。
  だからこそ、葵は着弾と同時になるように地面から剣を生やす。

「避けさせはしない!」

   ―――“霊縛呪(れいばくじゅ)

  そこへ、さらに優輝が避けさせまいと霊力によるバインドを仕掛ける。

「....ジュエルシードを舐めるなよ?」

「っ....!!皆!防御を...!」

  避ける事も、逸らす事も封じた。...それでも、無駄だった。
  偽物から膨大な魔力が溢れた瞬間、創られた剣が優輝の霊術を破った。
  同時に椿と葵の攻撃を紙一重で避け、創造した剣群で攻撃した。

「ぐ...くっ...危、ねぇ....!」

「ゆ、優輝...?」

「...どうってことない。無事か?」

  その剣群に対し、椿と葵と優輝だけなら大丈夫だった。
  しかし、アリシアもいたため、優輝は剣に掠りながらも防ぐしかなかった。

「な、なんとか...。」

「...脱出させてやりたいが....っ!」

     ギィイン!

「...この攻撃の雨だ。悪いが、我慢してくれ...!」

  再び飛んできた剣を弾いて、優輝はそういう。
  その間にも、椿と葵は偽物に挑みかかる。

「(...どうして、私は彼を疑ってたの...?)」

  庇われ、助けられ、そんな中でアリシアはそう思った。
  魅了の効果が比較的弱いため、そんな疑念を抱いたのだ。

  なぜ、神夜の言う事を真に受けていたのか。
  なぜ、一つも自分で探る事なく優輝を疑っていたのか。

  ...戦闘中でありながらも、アリシアはそう思わざるを得ない程、違和感を抱いた。

「ぐ、ぁあっ!?」

「っ、優輝!」

  そんな時、現実に引き戻すかのように優輝の叫びが耳に入る。
  見れば、何度も剣を防いでいた優輝がさらに傷ついていた。

「大...丈夫...だ...。」

「そんな訳っ...!」

  非殺傷設定なんて存在しない偽物の攻撃は、容赦なく優輝を傷つけていく。
  普通に戦えて、経験豊富な椿たちでさえ、だいぶダメージを負っていた。

「きゃぁあっ!?」

「ぁああああっ!?」

「っ...椿...!葵...!」

  魔力の鎖や、創り出した剣、そして導王流と、多彩な攻撃を魔力の心配もなく繰り出す偽物に、ついに椿や葵が倒されてしまう。

「く....ぅう....!」

「かはっ....優...ちゃん...!」

  ボロボロに打ちのめされた椿と葵。...しばらくは戦闘に復帰できないだろう。

「はは、ははははは!!そろそろこの魔力も馴染んできた所だ!ようやく全開で魔法を行使できる!」

「く....今まで、全力じゃなかったのかよ...。」

  薄々わかっていた事とはいえ、優輝はその事実に悪態をつく。
  ...しかし、それでも偽物の手は緩まない。

「...シャル、リンカーコアの保護及び、痛覚を後遺症が残らない程度に遮断してくれ。」

〈マスター!?それは...!〉

  優輝の指示にリヒトが反対しようとする。
  当然だ。損傷しているリンカーコアを無理矢理使おうとしているのだから。

〈...Jawohl(ヤヴォール)、マイスター。〉

〈シャルラッハロート!?〉

「...このままだとやられるだけだ。わかってくれ、リヒト。」

〈それはっ...!...そう、ですけど...!〉

  そうでもしないと無事では済まない。それはリヒトにもわかっていた。
  それでも無茶をしてほしくないと、優輝を思うが故に反対していたのだ。

「それにさ....。」

     ッギィイイン!!

「...悠長に悩む時間もない。」

  斬りかかってきた偽物を優輝は受け止める。

「(...っ、重い...!身体強化に込めた魔力はこちらの霊力の効果を上回るか...!)」

  受け止めた体勢から徐々に押される優輝。
  しかし、背後にはアリシアがいるので、このまま押される訳には行かない。

「くっ...術式!」

「っ!」

「“風車”!」

  そこで優輝は椿と葵に教えてもらった霊術を使い、一瞬だけ間合いを離す。

「....“扇技・護法障壁(ごほうしょうへき)”!!」

「え、ええっ!?」

「...そこから動くなよ!」

  その隙に御札を十枚使い、五枚ずつで五行の陣を組んで術式を組み立てる。
  そして扇を御札から取り出し、それを起点に障壁を張る。

「(無茶して魔法を使うが、リンカーコアが損傷してるから自分の魔力を使う事はできない。...できるとすれば、外部の魔力を操る事だけ!)」

  偽物の魔力によって空気中に魔力が散らばっている。
  それを利用して、優輝は大量の剣を創造する。

「....リンカーコアを損傷したお前如きに追いつけるか?」

「っ....言ってろ....!」

  同じく偽物も大量の剣を創造する。
  リンカーコアを酷使しているのを体で感じながら、優輝は偽物の攻撃を相殺する。

「(最優先事項はアリシアを結界外に逃がす事!そのためには、奴を足止めする事が必要!...いや、それ以前に....!)」

  剣と剣がぶつかり合う中、優輝は思考を巡らす。
  アリシアを庇う必要がなくなれば、こちらにも勝機はあるのだ。
  しかし、そのための隙がなかなか作れないうえに、結界は既に乗っ取られていた。

     ギィン!ギギィイン!

「ちっ...!」

「僕に隙を作ろうってか?そう簡単に行くと思うなよ!」

  導王流での防御は捨て、攻撃用に新たに編み出した“二ノ型”で攻撃する。
  互いに“軌道を導く”ので、掠りはすれども直撃はしない。
  その間も、互いに創造した武器がぶつかり合う。

「(っ...ダメだ!ジリ貧どころか、押されている!)」

  しかし、徐々に防戦一方になるのを否が応でも感じ取ってしまう。

「(椿と葵はまだ立て直しに時間がかかる。このままだと...っ!!)」

     ギィイイン!!

  大きく弾かれ、アリシアの所まで後退してしまう優輝。
  さらに、そこにバインドが加わり、一時的とはいえ身動きができなくなる。

「ぐっ....!」

「....さぁ、これを防いでみろよ...!」

「っ....!」

  輝くは黄金の剣。...偽物が創造したその剣は、優輝の切り札と同じだった。

「っ、ぁああっ!」

  霊力で無理矢理バインドを破壊し、魔力結晶を取り出し、優輝も構える。

「(既に発射可能まで溜められている。避ければアリシアに直撃...!なら、相殺するしか...!)」

  止めに動いた瞬間、偽物は極光を放つだろう。
  それが予想できたため、優輝もリヒトを剣に変え、魔力を手繰る。

「...なぜ、そいつを庇う?」

「....は...?」

  突然、語りかけてきた偽物に、思わずそう返す。

「そいつはあの男の言いなりで、あの男と共にお前を敵視している。...そんな奴を庇う必要があるのか?」

「え.....?」

「...いきなり何を言ってやがる...!」

  “アリシアを見捨てないのか”と聞いてくる偽物に、優輝は呆れる。

「...必要はあるさ。魅了されてる?ああ、確かに魅了されて妄信的になっているだろう。...だからなんだ?彼女は悪くない。ましてや、ただの被害者だ。....それにな...。」

  言葉に一区切りをつけた瞬間、優輝の剣が一際輝く。

「守るべき者を守るのに、何か理由が必要かっ!!!」

「優、輝...っ!」

   ―――“勝利へ導きし王の剣(エクスカリバー・ケーニヒ)

  確かな“意志”を込め、優輝は黄金の極光を放つ。

「はっ....!...そうかよっ!!」

   ―――“敗北へ叩き落す王の剣(エクスカリバー・ケーニヒ)

  対して、偽物も黄金の...それでいて闇を秘めた極光を放った。



     カッ――――!!!













       =優輝side=





「が....ぁ....!」

  ...一瞬、意識が飛んでいた。
  極光同士がぶつかり合った瞬間、少しの拮抗の後、僕とアリシアは吹き飛ばされた。
  極光同士の決着は相殺。しかし、反動のダメージがひどかった。

「優輝...!しっかり...しっかりして...!」

「く、っ....!」

  僕が庇ったため傷があまりないアリシアが呼びかけてくる。
  その言葉に応じて、痛む体を何とか起こす。

「私のせいで...私が、優輝を疑って追いかけなかったら...。」

「...その先は、言うな...。」

  アリシアが自分を責めようとしたので、遮りながら立ち上がる。

「...“自分のせい”だと、閉じこもられるのはもう勘弁だ。....守るのに理由なんて必要ない。まだ...行ける....!」

  体は痛む、魔法はほとんど使えない。...だけど、霊力はまだ使える。
  結界は奴に乗っ取られたが、霊術なら突破は可能だ。
  ...それに...。

「優輝...。その....。」

   ―――...今までごめんなさい...。

  ...そんな、織崎神夜(あいつ)を映さなくなり、濁りをなくした(魅了が解けた)瞳で言われたからには、守るしかないだろう...!

「っ、ぁあああああああ!!!」

  再びアリシアを守る障壁を張り、雄叫びを上げながら特攻する。

「っ...!さすがはオリジナル!こんな状況でも諦めないか!なら...これはどうだ!」

  偽物は高密度の魔力弾で弾幕を張る。
  だが...。

「まだだ!!」

  全て霊力を込めたリヒトで切り裂く。

「(やはり...!奴は()()()使()()()()!霊力を使えばこの程度の弾幕...!)」

  そう。ミッドやベルカの魔力は地球の魔力と霊力に打ち消されやすい。
  だから、僕の霊力を込めた攻撃は魔力を込めて防ぐのは得策じゃないはず。
  なのに、奴は魔力を使った。魔力に余裕があっても、“僕”ならばそれはありえない。
  つまり、偽物は霊力まではコピーしていないという事だ。

「これ...なら....っ...!?」

「...霊力が使えない。...それぐらい分かってるぞ?」

  ガクンと、体が重くなる。
  痛覚をシャルによってだいぶ遮断しているのに、苦しい。

「そら、立ち止まっていいのか?」

「っ、がっ...!?」

  それに動揺し、また吹き飛ばされる。

「ぁ..ぅ...これって....。」

「...魔力濃度が高まっている...まさか...!」

  アリシアも苦しんでいるようで、見れば遠くにいる椿と葵も苦しんでいた。

「その通り!オリジナルが斬った弾幕に込めた魔力が充満しているのさ!空気中の魔力濃度が増せば、一酸化炭素中毒のように結界内にいる者は最悪死に至る!...ジュエルシードが核の僕を除いてな!」

「くそ...!」

  その間も魔力弾は次々と打ち出される。
  切り裂いても避けてもその魔力は辺りに充満する。なら、何か打開しなければ...!

「(空気中に魔力が充満するのは、その魔力に指向性を持たせていないから...なら、この魔力を利用して魔法を行使すれば...!)」

〈マスター!!〉

  魔力中毒は避けれる。そう判断したところでリヒトが叫ぶ。

〈何を考えているのは予想がついています!ですが、それは...それは...!!〉

「...最悪、リンカーコアが全損するほどの負担がかかる...だろう?」

  これほどの濃さの魔力を今の僕が扱えば、最悪そうなるだろう。
  ...でも...。

「...シャル、痛覚遮断は解いていい。代わりに、リヒトと共に魔力の制御を頼む。」

〈なっ...!?〉

「...リヒトとシャルが魔力操作を請け負えば、大丈夫だ。」

  それ以外に方法はない。
  リヒトの返答を聞く前に僕は魔力を集める。

「...素直にそれをさせるとでも?」

「思ってないさ。....だが...。」

   ―――式姫のしぶとさ、甘く見るなよ?

  僕に向かってさらに魔力弾を撃とうとして、飛んできた矢に阻まれる。
  飛んできた方向を見れば、そこにはボロボロながらにも矢を番える椿の姿が。

「“刀奥義......一閃”!!」

「っ....!」

     ギィイイン!!

  さらに、追撃としてこれまたボロボロな葵が一閃を放つ。

「二人の強さは、僕をコピーしたお前にもわかるだろう?」

「っ...そうだった...な...!」

  満身創痍だとは思えない二人の力強さに偽物は動揺する。
  その間に、僕はグリモワールを取り出し、あるページを開く。

「(...司さんの認識阻害を解くために漁った際にあった術式.....魔力消費がとんでもなく大きいが、これがあれば織崎の魅了も防げる...。)」

  人ではない身である椿と葵はまだ大丈夫だ。
  だが、リンカーコアを損傷している僕と、魔力がほぼないアリシアは時間がない。
  ...だからこそ、今から行う魔法はうってつけだ。
  魔力消費が無駄に多く、ありとあらゆる()()()()を無効化する魔法...!

「...其れは全ての害意、全ての禍を防ぐ我らが魂の城....我らの意志は、何人たりとも侵させぬ....!」

「えっ....?」

  僕の足元に魔法陣が広がる。...その対象は、アリシア。
  それをさせまいと、偽物は動こうとするが...。

「行かせ...ない....!」

「くそっ...お前ら....!」

  椿と葵が喰らいつく。
  どちらも切り傷のように剣などで傷ついており、葵に至っては腕がちぎれかけている。
  ...それでも、僕の魔法行使まで必死に時間を稼いでくれる。

「っ....ごふっ....っ...!」

〈マスター!!〉

  ...もちろん、僕の体も無事じゃない。口から血がこぼれる
  無理矢理な魔法行使に加え、体に害を起こすほどの空気中の魔力を操っているんだ。
  負担がかからない訳がない。

「(だが....!)」

  それでも倒れぬよう、足にしっかりと力を込める。
  視界が霞み、体は今にも倒れそう。...だが、それでも僕は立つ。

   ―――さぁ、行くぞ...!

「...顕現せよ...!“魂守護せし白亜の城(ゼーレ・キャメロット)”!!」

  空気中に充満した魔力は一気に消費され、苦しさがなくなる。
  ...だが、これで終わりではない。まだ空気中に魔力はある。これで...!

「っ――――!」

「....吹き飛べ。」

  だが、それをも見越していたかのように、偽物は魔力の衝撃波を放った。





「....ちっ。」

「ぐ....ぁぁ....!」

  血が滲む脇腹を抑えながら、偽物は舌打ちする。
  ...どうやら、椿と葵が一矢報いていたらしい。

「(でも、これじゃあ....。)」

  今の衝撃波で、正真正銘僕らは戦闘不能だ。アリシアも傷を負って気絶している。

「くそっ....!」

「っ...。」

「まだ....!」

  剣を、弓を、レイピアを支えに僕らは立ち上がる。
  だが....。

「うざったい!!」

  唐突にアリシア以外...つまり僕らの足元に現れる魔法陣。
  満身創痍な僕らに、当然それが躱せるはずもなく―――











   ―――僕らは、その結界から消えた。













 
 

 
後書き
刀技・金剛の構え…かくりよの門では、敵視を大幅に下げる代わりに、一定時間無属性or毒以外の全てのダメージを無効化するという技。ちなみにMP消費も大きい。
  この小説では、攻撃や他の事への気配りを一切捨て、防御に専念する構え。

刀技・挺身の構え…かくりよの門では、一定時間全てのダメージを引き受ける技。
  この小説では、仲間を背後に庇い、全ての攻撃を自分が受ける構え。
  ゲームでも小説でも上記の金剛の構えと併用する場合が多い。

三重矢…霊力の矢を放ち、それを三つに分裂させて同時に攻撃する技。
  模擬戦で優輝の導王流を破るために使うようになった攻撃方法である。

霊縛呪…本文にもあった通り、霊力によるバインドのようなもの。

扇技・護法障壁…かくりよの門では一定ダメージカットをパーティに付与する技。
  この小説では、扇を起点に障壁を張る技で、五行の陣で強化可能。

勝利へ導きし王の剣(エクスカリバー・ケーニヒ)…第40話でも使った優輝の切り札の魔法の一つ。
  モチーフはfateのエクスカリバーで、字の通り勝利へと導く極光を放つ。
  極光の威力は優輝の意志の強さに影響し、圧倒された状態からも相殺に持ち込める。
  また、その光を見た者を正しい志へと導く効果もある。

敗北へ叩き落す王の剣(エクスカリバー・ケーニヒ)…偽物だからちょっと反転させた字にしただけで、オリジナルと大差ない。負のイメージを持つ字なのは偽物の正体に関係あるから。

魂守護せし白亜の城(ゼーレ・キャメロット)…かつてベルカ時代、とある城の聖女が使った魔法。(意味のない設定)
  字の通り、魂...精神に干渉するもの全てを防ぐ事ができる魔法である。
  元ネタはもちろんFateから。

色々と駆け足気味でわかりにくい描写ですが、優輝達は何気に今までで一番傷ついてます。
結界が乗っ取られているので、無理矢理アリシアを脱出させようにも、その一瞬の隙で偽物は優輝達を全滅させます。だから、こんな結果になりました。
ちなみに、最後の優輝の魔法行使は偽物を倒す訳でも脱出するためでもありません。
ただ、充満した魔力を使用する事で魔力中毒で死なないようにしただけです。 
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