英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第109話
~ウルスラ病院~
ドノバンの病室の前に来たロイドは扉をノックした。
「あら、検温の時間かしら。」
「どうぞ、入ってくれ。」
「……失礼します。」
そしてロイド達は部屋の中に入って来た。
「おお、お前ら……支援課じゃねえか!」
ロイド達を見たドノバンは明るい表情で声を上げた。
「はは、お久しぶりですドノバン警部。」
「あれ、そちらの美人はどなただい?フフ、もしかして逢引きのお邪魔をしちゃったかな。」
ドノバンの言葉にロイドは口元に笑みを浮かべて答え、ドノバンの近くで椅子に座っている女性に気付いたワジは尋ねた後ある事に気付いて笑顔で言った。
「再会していきなり何を言いだしやがる……」
「ワジ、お前な……」
ワジの言葉を聞いたドノバンとロイドは呆れ
「こちらは警部の奥さんのファラさんです。少し前にお見舞いに来てからしばらく滞在しています。」
ティオが女性―――ファラの説明をした。
「うふふ、始めまして。いつも主人がお世話になっています。主人やティオさんから、ときどき話に聞いていたけど、とても面白い人達みたいね。」
「フフ、お褒めいただき光栄だよ。」
ファラの言葉を聞いたワジは口元に笑みを浮かべ
(多分褒めてるんじゃないと思うけど……)
ロイドは呆れた表情をしていた。
「ま、積もる話もあるだろうが……一度事情を説明しちゃくれねえか?」
「ええ、わかりました。」
そしてロイド達はドノバン達に事情を説明した。
「ふむ………思った以上に大変なことが起きてやがるな。それに、聞いた限りじゃここで会ったことも本部には報告しない方がよさそうだな?」
「はい、そうして頂けると助かります。」
「まあ、僕はどっちでもいいけどロイドとルファディエルさんは指名手配されてるだろうからね。」
「まあ……」
ワジの話を聞いたファラは驚きの表情でロイド達を見つめた。
「と、とにかく。……警部、クロスベル市内の状況はどうなっていますか?」
「ああ、俺も見舞いに来たレイモンドから聞いただけだが……クロスベル警察は、国防軍の下部組織として完全に取り込まれたそうだ。業務内容は変わっちゃいないが、今は市内での雑用ばかりに駆り出されているらしい。」
「やはり、そうですか……」
「まあ、現状を考えると仕方ないだろうけどね。」
ドノバンの話を聞いたティオとワジは溜息を吐き
「でも……そんな体制、さすがに反発があったのでは?ピエール副局長はともかく、セルゲイ課長やダドリーさんが黙って従っているとは……」
ロイドはある事に気付いて考え込んだ。
「ああ、ここだけの話だが……どうやらセルゲイやダドリー、レイモンドも含む警官達が密かに動いてるらしい。」
「課長達が……?」
「あくまで極秘裏にだがな。機を窺いつつ、なんとか現状を打開する方法を探しているって所なんだろう。……それに市民達の方も今のクロスベルの状況に不満や不安を感じているらしくてな……今では姿を消した局長達―――”六銃士”達によるクーデターが一日でも早く起こる事を期待して待っているそうだ。」
「誰も彼もが黙っているタマじゃないってことか。フフ、希望が見えてきたかな?」
ドノバンの話を聞いたワジは静かな笑みを浮かべ
「ああ、今のところコンタクトをとるのは難しそうだけど……市内の方は任せてよさそうだ。俺達は俺達なりに現状を打開する術を探っていったほうがいいだろう。」
「ヴァイスさん達――――”六銃士”にコンタクトできれば、現状を打開する術も見えてくるのですが………」
ロイドとティオは考え込んだ。
「それでこそ、お前らだ。実際かなり厳しいだろうが、なんとか気張ってみてくれ。俺も復帰したら、すぐにでもセルゲイたちと合流して……」
ロイド達の会話を聞いていたドノバンは頷いた後申し出たが
「まあ、あなたったら……今は彼らやレイモンド君達に任せて、ゆっくりと身体を治しなさいな。完治するまでは、私が絶対に無理なんかさせませんからね?」
「う、うむ……わかった。」
ファラに見つめられて冷や汗をかいた後頷いた。
(はは……言いたい事を言われちゃったか。)
(警部もこの奥さんには頭が上がらないみたいですね。)
(フフ、いい奥さんに恵まれて警部も幸せ者だねえ。)
その後病室を出たロイド達はイリアがいる病室に向かい、扉の前でノックをした。
「あら……?どちらさま?入っちゃっていいわよ。」
「……失礼します。」
イリアの返事を聞いたロイド達は病室の中に入り
「あら、ティオちゃんと……ええっ、弟君じゃない!?それにあなたは……たしかワジ君だったかしら。」
ロイド達を見たイリアは驚いた。
「ああ、ご無沙汰してるね。」
「イリアさん……本当にお久しぶりです。すみません、お見舞いなのに手ぶらで来てしまって……」
「ああもう!そんなの気にしないでってば!ホラホラ、3人共。こっちにいらっしゃいな。あ、ファンからのお菓子とか勝手に食べちゃってもいーわよ?クッキーとかだったらまだ賞味期限内だと思うし。」
「はは……」
「それでは失礼します。」
自分達を見つめて嬉しそうな表情で言うイリアの様子にロイド達は苦笑した後イリアに近づいて事情を説明した。
「そっか……君達も色々大変そうね。クロスベルそのものがとんでもない事になってるのは色々聞いてはいるんだけど。しかもセシルってあの”英雄王”の側室の一人なんでしょう?それでセシルって、運よく逃げられたのよね?話に聞くところ、大統領初任演説の数日後に国防軍がセシルを探しに来たけど、結局セシルは見つからなくて引きあげたって聞いたし。」
「はい……(やっぱりセシル姉にも手を出してきたのか……)」
「導力ネットで空港の乗客名簿にハッキングして調べた所、リベール行きの飛行船にセシルさんの名前がありましたから、無事メンフィル大使館に避難できたかと。」
「ま、確かにとんでもないとしか表現できない事態だよね。」
真剣な表情で尋ねてきたイリアの言葉にロイド達はそれぞれ重々しい様子を纏って答えた。
「うーん、足が動かないのがもどかしくて仕方ないわね……アルカンシェルの様子やセシルの様子とかこの目で確かめたいんだけど。」
「その、イリアさん……身体の方は、えっと……」
悔しそうな表情で呟くイリアにロイドは言い辛そうな表情で見つめ
「ああ、うん。セイランド先生は、歩けるようになるかどうかどころか、足が治るのも現時点ではわからないだって。まあ、100%無理って断言されたわけじゃないけど。」
「……………そう………ですか……………」
「…………………」
イリアの答えを聞いたロイドは疲れた表情で溜息を吐き、ワジは黙り込んだ。
「ああもう、そんな顔をされたらこっちまで暗くなるじゃないの。あのね―――駄目って思い込んだらそれだけで可能性はなくなるのよ?」
「え………」
「舞台にしてもそうだけど……どこかに必ず”答え”はあるの。どんなに苦しくても、絶望的でも、一筋の光明は”絶対”にあるわ。諦めない限り、きっとね。」
「…………………………」
笑顔で言ったイリアの励ましの言葉にロイドは呆け
「ふふっ……………」
「……凄いね、貴女は。」
ティオは微笑み、ワジは感心した。
「うーん、別に凄いとか言われるほどのものかしら。第一ねぇ、話を聞く限りあなた達の方が大変じゃないの?」
「それは……」
「……確かに、普通に考えれば恐ろしく困難な道のりかと。」
「同じよ、同じ。人って大切なモノのためならどこまでも頑張れる生き物だしね。程度の差あれ……それが人の強さなんだと思う。」
「人という生き物の強さ……」
(そう………そしてその強さを元に”英雄”が生まれていく………)
イリアの言葉にロイドは明るい表情をし、ルファディエルは静かな笑みを浮かべ
「……なるほど。」
ワジは口元に笑みを浮かべて頷いた。
「まあ、あたしはその中でもかなり欲張りな方だと思うけど。それでも本質的なところは他の人達だって同じだと思うわ。うちの劇団員たちも――――もちろんリーシャもね。」
「イリアさん……」
そして微笑みながら言ったイリアの言葉を聞いたロイドは真剣な表情をし
「フフ、あの子に会えたら伝えておいてもらえない?『―――あんたにとって、一番大切なものはなに?その大切なものを前にして頑張らずにいられるの?って。」
「……わかりました。リーシャに会う事ができたら必ずその言葉を伝えます。」
「ええ、頼んだわよ!」
イリアの伝言に力強く頷いた。その後ロイド達は病室を出た。
「はは……ホント、とんでもないね。さすが”炎の舞姫”なんて呼ばれてるだけはあるな。」
病室を出たワジは口元に笑みを浮かべ
「……むしろ舞台の”太陽の姫”そのものかと。わたしもここに連れてこられて、何度か話しているんですけど………すごく元気付けて貰いました。」
ティオは静かな笑みを浮かべて言った。
「そっか……本当に、何とかリーシャを見つけて接触できればいいんだけどな。」
二人の言葉を聞いたロイドは頷いた後考え込み
「まあ、そればっかりは女神の巡り合わせだろうね。」
「リタさんやエオリアさんの話によるとリーシャさんを再び雇った”ラギール商会”はヴァイスさん達と一緒にアルモリカ方面に潜伏していますから、そちらに行けるようになったら探すしかありませんね……」
ワジとティオはそれぞれ疲れた表情で言った。
その後リタ達と合流したロイド達は帰り際、ワジが病院前に七耀脈の力場の”隙間”を見つけ―――”法陣”で固定することで”メルカバ”に迎えに来てもらう事が可能になるのだった。そしてメルカバに乗り込んだロイド達はアッバス達が見つけた新たな”力場”の”隙間”―――アルモリカ村に向かい、地上に降り立った後ワジが法陣を固定した……
ページ上へ戻る