英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
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第101話
~ノックス拘置所~
「………………………」
拘置所の一室ではロイドがベッドに座って悔しそうな表情で黙り込んでいた。
「―――支援課の他のメンバーは別の場所で保護しています。ロイドさん一人、こんな場所に拘留するのは申し訳ありませんが……」
「……俺のことはいいさ。でも”保護”っていうのはさすがにおかしな言い方だな?一体何から……保護してくれるっていうんだ?」
ノエルの話を聞いたロイドは溜息を吐いた後尋ねたが
「………………………」
ノエルは何も答えず黙り込んでいた。
「……君だってもうとっくに気付いているはずだ。クロスベル市の襲撃を企てた真の黒幕が誰かという事も。どうして君の妹が……フランが君を信じず、局長達を信じて、局長達と共に姿を消したのかも……………」
黙り込んでいるノエルを見たロイドは複雑そうな表情で尋ね
「それでも……!……それでもあたしは警備隊のメンバーですから!それが『国防軍』に名を変えた以上、軍人としての責務を果たすだけです!そうでないとクロスベルは………クロスベルは本当に3大国に滅ぼされてしまう!」
尋ねられたノエルは辛そうな表情で叫び、複雑そうな表情で言った。
「ノエル………」
(あ。こりゃ死亡フラグがとんでもなくある発言だな。)
(心の中に迷いがあるままでは決して長生きできないわね……)
ノエルの言葉を聞いたロイドは驚き、ギレゼルは呟き、ルファディエルは重々しい様子を纏って呟いた。
「キーアちゃんのことだって……このままで良いとは思えません!”結社”みたいな得体の知れない連中の力を借りることだって……!でも――――エレボニア軍は”本当に”あの恐ろしい列車砲を撃ったんです!命中したら何百人もの犠牲者が出たかもしれない大量破壊兵器を!………だったら……だったら仕方ないじゃないですか!」
「………………………」
そして辛そうな表情で叫んだノエルをロイドは複雑そうな表情で黙り込んだ。
「すみません……ロイドさんにこんな事、言えた義理はありませんよね……フランがあたしに幻滅して、局長達と共に姿を消したのも当然の結果ですよね……………――――拘留期間もそう長くは続かないと思います。クロスベルが危機を乗り越えたらきっと釈放されると思いますから……だからどうか……今は辛抱していてください。それと……できればルファディエルさんに今後国防軍に力を貸してもらいたいのですが。」
ノエルは申し訳なさそうな表情でロイドを見つめた後悲しそうな表情になり、そして気を取り直してロイドを見つめて言い
「なっ……!?」
ノエルの言葉を聞いたロイドは驚いた後
(……わかっているとは思うけど私は絶対に力を貸さないわよ。言い方は悪くなるけど私は別に貴方が無事なら、クロスベルの事はどうでもいいもの。それにガイ殺害に関わっている者達に力を貸すなんて絶対に嫌よ。)
「(ルファ姉………)……――――絶対に力を貸さないって言ってる。そもそもルファ姉にとってクロスベルは故郷じゃないから俺やノエル達みたいに愛郷心がない上、ルファ姉は兄貴の殺害に関わっている今のクロスベルには絶対に力を貸さない。いくら言っても無駄だ。」
ルファディエルの念話を聞いて複雑そうな表情をした後ノエルを見つめて言い
「…………そうですか……………」
ロイドの言葉を聞いたノエルは複雑そうな表情をした後去って行った。
ガイ・バニングスを―――兄貴を殺したのも貴方なのか?
ああ―――その通りだ。
ゴメンね。……今までありがとう。大好きだよ、みんな………
(……あの時……俺はロクな言葉を返せなかった。それだけじゃない……キーアが思いつめていたのだってぜんぜん気付かなかった……忙しさに翻弄されるだけで……本当に守るべきものも守れずに……キーアの素性にしても兄貴を殺した犯人にしても……ちゃんと突き止めるようと心に誓ったはずなのに……!)
ノエルやアリオス、キーアとの出来事を思い出したロイドは悔しそうな表情をし
(兄貴……ルファ姉………ゴメン………やっぱり俺……兄貴達に全然追い付けてなかったみたいだ………だってもう………俺はどうしたらいいか……それさえも………)
唇を噛みしめた。
(お前からは何も言わねぇのかよ?あんだけロイドを溺愛している癖に。)
ロイドの様子を見たギレゼルは尋ね
(…………私ではなくロイド自身の力で立ち上がらなくてはこの先、やっていけないわ。貴方こそお気に入りのロイドを慰めなくていいのかしら?)
尋ねられたルファディエルは静かな表情で答えてギレゼルに尋ね返し
(くかかかかかっ!何を言ってるんだ!?ここからが面白い所なのに、そこに水を差してはダメな事ぐらい、我輩でもちゃーんとわかっている!我輩は信じているぜ!?ロイドが再び立ち上がって、以前以上の面白い事を仕出かしまくることを!)
(………堕天使が誰かを信じるという行為自体がおかしいけど……………貴方の言葉も一理あるわね。)
ギレゼルの答えを聞いたルファディエルは苦笑していた。
「―――ザマぁねえな。俺達を追い詰めてパクり、あの”叡智”の愛弟子でもあるリーダーがその体たらくとは……こんな場所で半年以上、冷や飯を喰らっているのが馬鹿馬鹿しくなってくるぜ。」
するとその時同室にいる”ルバーチェ”のガルシアがロイドの状態を見て嘲笑した。
「……放っておいてくれ。あんたがこの場所にいるのはどう考えても自業自得だし……あんた達を逮捕できたのだって運が良かったのが重なっただけさ……そうだ……別に俺達は実力で”壁”を越えたわけじゃないんだ……」
ガルシアの言葉を聞いたロイドは肩を落として呟き
「ケッ、辛気臭ぇ小僧だな。」
ロイドの様子を見たガルシアは舌打ちをした。しかし
「………ま、無理もねぇか。噂を聞く限り、とんでもねぇ状況になってるみたいだしな。IBC総裁が全ての黒幕で今や独裁国家の大統領……赤い星座やら結社やら黒月やら、国防軍に風の剣聖までことごとく敵に回ってるわけだ。クク、トリプル役満どころの話じゃなさそうだなァ?いくら”六銃士”どもが反乱分子で手勢もいるとはいえ、戦力差があまりにも違う。いつまで耐えられるかねェ?」
ある事を思い出して呟き、口元に笑みを浮かべてロイドを見つめ
「………………………」
見つめられたロイドは黙り込んでいた。
「ま、今は嵐が通り過ぎるのを待ってるのが正解ってモンだぜ。この状況で抗おうなんて正真正銘の馬鹿しかいねぇだろ。―――てめぇの兄貴みてぇな、な。」
その時ガルシアはベッドに寝転がって呟いた後ロイドに視線を向けた。
「………ぁ……………そう言えば、うちの兄貴と面識があるんだったか……?」
ガルシアの言葉を聞いたロイドは驚いた後顔を上げてガルシアを見つめて尋ねた。
「フン、面識というほどぬるいモンじゃなかったがな。こちらが幾ら脅しつけても懲りもせずに嗅ぎ回ってくる……かと思えば、ハッタリ屋台で出くわした時に平気で一杯勧めてきやがる……厄介で忌々しい若造だったぜ。」
「はは……兄貴らしいな。」
「……ま、殺しても死ぬようなタマには見えなかったがアッサリ逝っちまったからな。世の中なんて、わからねぇものだぜ。」
「……………兄貴はずっと……抗い続けていたのか?」
「ああ、ウチ(ルバーチェ)以外にも首を突っ込んでたらしいからな。大物議員の汚職から両帝国と共和国の諜報活動、ヨアヒムの野郎の動きまで……呆れるくらい精力的だったのは間違いねぇだろう。」
「………そっか………」
ガルシアの話を聞いたロイドは疲れた表情で答えた。
「―――おい。カン違いしてるみてぇだが。ガイ・バニングスってのは別に”スゲエ男”じゃなかったぜ?」
するとその時ガルシアは起き上がってロイドを見つめて言った。
「え……………?」
「キレと凄みで言うならマクレインの方が上だし、搦め手と根回しだったらセルゲイの方だろうしな。合理的な判断と処理能力なら一課のダドリーの方が上……そしてそれら全てを兼ね備えたルファディエルには今上げた名前の奴等の誰もが敵わねぇ…………つまりはその程度ってわけだ。」
「……それは………(……考えてみれば確かにそうかもしれない。)」
ガルシアの話を聞いたロイドは驚いた後考え込み
「ヤツに抜きんでてたところがあったとしたら……せいぜい”諦めない”ことくらいだろうぜ。」
「あ………」
ガルシアの言葉を聞いて呆けた。
「それが多分、ハンパねぇ行動力に繋がったんだろうし………大物相手にも食い下がる原動力になってたんだろう。それでいて、周りが見えてない空気の読めなさも無かったし……何なんだこの若造はって、当時は思ったモンだぜ。」
「……………………………」
ガルシアの話を聞いたロイドはガイとの思い出を思い出し
―――いいか、ロイド。男だったら、目の前のものに体当たりでぶつかってみろ。てめえの心で、てめえだけの真実を掴み取ってやるんだよ。そうすりゃ、てめえが何をしたいか見えてくるはずだ。
そして今も心に残るガイの言葉を思い出した。
「……多分、兄貴の諦めの悪さは大切なものを守る為だったと思う。それも身内だけじゃなくて、クロスベルという街そのもの……その意味では、あんたたちルバーチェですら守る対象だったのかもしれないな。」
「なにィ……?」
ロイドの推理を聞いたガルシアは驚き
「ハハ、守るっていうとおこがましいかもしれないけど………多分、兄貴は体当たりで今のクロスベルを作ってきた流れを見極めようとしてたんだと思う。その上で、クロスベルそのものを自分なりに守ろうと足掻いていた……」
「……そいつは……馬鹿以上のとんでもねぇ大馬鹿じゃねえか。」
ロイドの話を聞いて唇を噛みしめた。
「ああ……俺は到底そこまで馬鹿にはなれない……――――でも兄弟だけあって似ている部分もあるみたいだ。」
「なに……………」
そして口元に笑みを浮かべたロイドを見たガルシアが驚いたその時、ロイドは立ち上がって周囲を見回し、閉じられた出入り口に近づいて調べていた。
(おっ!?これはまさか………まさかの……!)
(フフ、ついに立ち上がったわね。)
ロイドの行動にギレゼルは興奮し、ルファディエルは微笑み
「……てめぇ、まさか。ここから逃げ出すつもりか?」
ガルシアは目を細めて尋ねた。
「逃げ出すんじゃない。真実を見極めに行くつもりだ。クロスベル警察、特務支援課に所属する捜査官として……囚われたみんなを解放して、キーアを取り戻すためにも。」
「クク……ハハ……てめぇも十分、大馬鹿野郎だろうが。」
真剣な表情で言ったロイドの答えを聞いたガルシアは口元に笑みを浮かべた後立ち上がり
「ガルシア……?」
ガルシアの行動を見たロイドは呆け
「―――見せてみろ、小僧。この状況で、てめぇという男にどんなことができるのか……覚悟と決意の程をな。」
ガルシアは不敵な笑みを浮かべてロイドを見つめて言った。
「なんだ……?」
「奥からみたいだが……」
見回りをしていた国防軍の兵士達はロイドとガルシアが収監されている部屋から聞こえてくる何かの音に気付いて部屋に近づいた。するとその時
「オラああああッ!その程度のガキがあああッ!」
「……ぐ……ゲホゲホッ………」
ガルシアの怒鳴り声とロイドの呻き声が聞こえてきた!
「喧嘩……いや、リンチか?」
声を聞いた兵士の一人は驚き
「おい、止めろ!何をやっている!」
兵士の一人は扉についてある窓を開けて怒鳴った!
「てめぇのせいで俺達は冷や飯を喰らうことになったんだ!このままブチ殺してやらああっ!」
「……ガ……ぐっ……」
しかし部屋からはガルシアの怒鳴り声とロイドの呻き声が聞こえつづけていた。
「………駄目だ。聞いちゃいない。仕方ない、踏み込むぞ!」
「ああ、警戒を怠るな!」
そして国防軍の兵士達は扉を開けて部屋の中に突撃した!
兵士達が部屋に踏み込むとガルシアがロイドを片腕で持ち上げていた!
「やめろ、ガルシア!」
「それ以上やると撃つぞ!」
ガルシアの行動を見た兵士達は警告し、警告を聞いたガルシアはロイドを地面に下ろした。
「クク……ハハ………俺としたことがつい、熱くなりすぎちまったようだぜ。」
「貴様……」
「ここに入ってからずっと大人しくしていたと思えば……いいから下がって両手を上げろ!」
「フン………」
兵士達の警告を聞いたガルシアはロイドから離れて両手を上げた。
「いくら人手が足りないとはいえ、同室にするべきじゃなかったか……―――おい、大丈夫か?」
そして兵士の一人はガルシアに銃を突きつけ、もう一人の兵士はロイドにかけよって尋ねた。
「……ぅ………ぁ……かはッ…………ゴホゴホ!」
するとその時ロイドは口から血を吐いて咳き込んだ!
「くっ……内臓が破裂したのかもしれん。とにかく医者を――――」
ロイドの様子を見た兵士が唇を噛みしめたその時
「―――いや、必要ない。」
ロイドは首を横に振って呟いて、一瞬で兵士を殴り飛ばした!
「ごふっ………」
殴り飛ばされた兵士は気絶し
「貴様―――」
それを見たもう一人の兵士は銃を構えたが
「らああっ!」
「がはっ……!」
その隙を狙ったガルシアの蹴りを受けて吹っ飛んで気絶した!
「はぁ………気が咎めるな。」
「クク、今更か?『俺を殴ってくれ』とか言い出しやがった時はトチ狂ったかと思ったが……なかなかの策士じゃねぇか。さすがは”叡智”の愛弟子だけはあるな?」
溜息を吐いて言ったロイドにガルシアは口元に笑みを浮かべ、そして不敵な笑みを浮かべてロイドを見つめた。
「さすがの私でもこんな事まで教えた覚えはないわよ。―――癒しの息吹。」
その時ルファディエルがロイドの側に現れて呆れた表情で答え、ロイドに治癒魔術をかけ始め
「くかかかかかかっ!さすがはロイドだ!いきなり面白い事を仕出かしてくれたじゃねえか!」
さらにギレゼルが陽気に笑いながらロイドの側に現れた!
「あんたこそ、迫真の演技だったよ。つッ……本当に奥歯を折られるとは思わなかったけどな……」
そしてルファディエルに治癒魔術をかけられているロイドは呆れた表情でガルシアを見つめた後、表情をしかめた。
「フン、おかげでそれっぽくなっただろうが。………約束通り、ここから出るまでは協力してやろう。で、どうするつもりだ?」
「ここは拘置所の3階………つめている兵士も少ないはずだ。何とか巡回を突破して1階の出口から脱出しよう!」
「クク、いいだろう!久々に俺も……暴れさせてもらうとするか!」
「くかかかかかっ!我輩とて負けないぜ!」
「後方からの援護や回復は私に任せて、貴方達は好き放題に暴れなさい!」
ロイドの言葉にガルシアは不敵な笑みを浮かべ、ギレゼルは陽気に笑い、ルファディエルは真剣な表情でロイド達を見つめて言い
「クク、”キリングベア”と”叡智”の共同戦線……楽しませてもらうぜっ!」
ルファディエルの言葉を聞いたガルシアは不敵な笑みを浮かべて叫んだ!
こうしてロイド達の脱出劇が始まった……………!
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