英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
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断章~偽りの楽土を越えて~ 外伝~偽りの楽土~
―――この日より、クロスベル独立国は絶対不可侵の”力”を背景とした独自の外交戦略を展開した。
すなわち、クロスベルを盟主とした『ゼムリア大陸諸国連合』の提唱である。
全ての戦争を否定し、自由な経済活動を保障するというこの枠組みは、エレボニア・カルバードの圧力に苦しめられていた小国や自治州には魅力的に映り………
当初は強引すぎる手法に異議を唱えていたレミフェリア、アルテリア法国も次第に流れに逆らえない状況に陥ってゆく。
その一方経済の混乱をすぐに立て直したメンフィル帝国の反撃や制裁を恐れる小国や自治州も存在し、クロスベル独立国の提唱に応えず、メンフィル帝国に自国のメンフィル帝国領化を条件に保護や援助を求める小国や自治州もあった。なお、リベール王国のみはメンフィル帝国直々からの申し出によって援助を早い段階に受け、自国の経済を立て直すと同時に混乱を収める事ができ、メンフィル帝国が出してきた援助の際の条件の一つとして、未だクロスベル独立国に対して異議を唱えると同時にメンフィル帝国と逸早く連合を組む形となった
―――時を同じくして、カルバード共和国ではクロスベルに端を発した経済恐慌が発生し、反移民主義のテロ活動も激化し始め……
エレボニア帝国ではついに貴族派と革新派の大規模な内戦が勃発し、鉄血宰相が凶弾に倒れたとの一報も流れた。
唯一メンフィル帝国は自国に溜め込んである膨大な国家予算や皇家の財産で被害を受けた自国の領の民達に援助を始め、自国領の民達を安心させ、混乱を早期に収め、今回の件によって自国領の民達のメンフィル帝国への忠誠や信頼をより高める事となると共に大陸中にメンフィル帝国の国力の高さを知らしめる結果となった
そして結社”身喰らう蛇”と”赤い星座”もクロスベルへの”善意の協力者”としての立場を非公式に各国政府に表明し……
もはや―――ディーター大統領の野望を止められる勢力はメンフィル帝国のみとなり、クロスベル独立国を盟主とした連合とメンフィル帝国を盟主とした連合がぶつかり合う時は時間の問題かと噂され始めた。
~クロスベル独立国・クロスベル市・赤い星座所属・強襲揚陸艦”ベオウルフ号”~
「あーあ、こう呆気ないとさすがにタイクツだよねー。あのコたちに任せとけばシャーリィたちの出番もないし。国境侵犯してくる特殊部隊も最初のうちだけだったからなぁ。しかも肝心のメンフィル帝国も全然侵攻してきないし……一体いつになったら来るんだろう?」
”赤い星座”が所持する飛行艇の甲板ではシャーリィがつまらなさそうな表情で空を見上げていた。
「フフ……どうした、シャーリィ。」
その時シグムントがガレスを連れて近づいてきた。
「あ、パパ。………ねえねえ、そろそろ潮時なんじゃない?エレボニアが凄いことになってるし、あっちの方が楽しくないかなぁ?カルバードの方も色々と面白くなってるみたいだし。もう赤い星座は国際犯罪者扱いされないだろうし、いいんじゃない?」
「今回の仕事はまだ残っている。そんなにヒマなら小僧あたりとジャレ合ってきたらどうだ?」
「んー、魔人化してたらヴァルドも悪くないんだけどさ。やっぱり元のままだと弱っちくて話にならないし。それに、今日はどこかに出かけてるみたいなんだよねー。」
「だったら”結社”の連中あたりと仕合ってみたらどうだ?少なくとも退屈はしないだろう。」
「うーん、シャーリィとはなんか相性が悪そうなんだよね……あの凄そうなお姉さんには”絶対に”勝てなさそうな気がするし。」
「クク、さすがにわかるか。―――まあ、そう腐るな。どうやら”ヤツ”がマインツ方面で動き出したぞ。どうやら潜伏している”六銃士派”の一部の者達と合流したようだ。」
シャーリィの意見を聞いたシグムントは口元に笑みを浮かべた後、不敵な笑みを浮かべて言った。
「……へえ。あれだけ叩きのめされたのにまだ挑んでくるつもりなんだ?」
シグムントの言葉を聞いたシャーリィは好戦的な笑みを浮かべた後嬉しそうな表情をした。
「侮るな―――ヤツは強い。多分お前が見くびっているよりもな。」
「ふーん、そうは思わないけど。ま、いっか。そっちはパパに任せるよ。」
「ああ、そうしておけ。―――お前にはお前の遊び相手がいるだろうからな。」
「え――――……カルバードの方に帰っちゃったんじゃないの?」
シグムントの話を聞いたシャーリィは目を見開いて尋ね
「――――アルモリカ方面で”ラギール商会”の動きも察知しました。どうやらクロスベル襲撃以降、”銀”と”六銃士派”に協力していると思われる者達共々潜伏していた模様です。」
「………!」
ガレスの話を聞いたシャーリィは驚きの表情をし
「フフ、チキのヤツも見た目のわりに存外にしぶとい……”六銃士”達を協力者にした事といい、なかなかの手腕だ。どうやらまだまだ楽しませてくれそうだ。」
シグムントは口元に笑みを浮かべて言った。
「ああもう、あんなチビガキや”六銃士”なんてどうでもいいって!うわああっ……!すっごくドキドキしてきた!結局、アルカンシェルじゃ決着はつけられなかったし……今度こそ徹底的にやり合って最高に愉しまなくっちゃ♪」
シグムントの言葉に続くようにシャーリィは立ち上がって興奮し
「クク……やれやれ。」
「さすがはシャーリィ様かと。」
シャーリィの様子を見たシグムントは苦笑し、ガレスは感心していた。
~旧市街~
旧市街ではヴァルドが破壊された建物などを見つめた後、サーベルバイパーが拠点にしている建物の前まで来た。
「……………………………クソ…………………」
自分が破壊したサーベルバイパーの建物の扉を見たヴァルドは襲撃の事を思い出し、舌打ちをした。
「………ヴァルド……さん……?」
するとその時サーベルバイパーの少年が建物から姿を現した。
「ディーノ……お前……」
「ヴァ、ヴァルドさん……本当にヴァルドさんだ!」
驚いているヴァルドを見た少年は嬉しそうな表情をした後ヴァルドにかけより
「今までどこに……!本当に心配したんですよ!?で、でもよく無事で……!ううううううっ……………」
必死の表情でヴァルドを見つめた後泣きはじめた。
「………………………」
「せ、先輩達はみんな大ケガを負って……退院できた人もいるのにぜんぜん戻って来てくれなくて……で、でも大丈夫です!ヴァルドさんがいればきっと……!」
そして少年が明るい表情をしたその時
「……っ………!」
「うあっ……!?」
ヴァルドは少年を吹っ飛ばした!
「ヴァルド……さん……?」
「………サーベルバイパーは解散だ。てめぇも2度と……俺のケツを追いかけるんじゃねえ。」
自分を信じられない表情で見つめる少年に背を向けたヴァルドは静かな口調で呟き
「……ウソ………ですよね………だって、ヴァルドさんは……………ヴァルドさんはいつだって……頼りになる最高のヘッドで……あの鬼が……みんなを滅茶苦茶にした化物がヴァルドさんなんてッ!そんなのウソですよねえええっ!?」
そして信じられない表情で叫ぶ少年を無視して、ヴァルドは去って行った。
「と、止まれ!」
ヴァルドがしばらく歩ていると青年の声が聞こえ、声が聞こえた方向にヴァルドは歩いて行った。するとそこには
「ヴァルド・ヴァレス!ま、まさか戻ってくるとは……」
「これ以上、旧市街をお前の好きには、させない……何としても止めさせてもらう……」
テスタメンツの青年達が武器を構えてヴァルドを睨んでいた。
「………………………」
一方睨まれたヴァルドは黙り込んでいた。
「……君は一体、何がしたかったんだ……!?あ、あんな化物になってこの旧市街を滅茶苦茶にして……」
「おまけに可愛がっていた手下たちをあんな風に……!」
「ひ、酷過ぎるよ……!」
「フン………―――そういえばワジとハゲ坊主はどうした?元々、ヨソ者みてぇだが……尻尾を巻いて逃げだしたかよ?」
テスタメンツの青年達に睨まれたヴァルドは鼻を鳴らした後不敵な笑みを浮かべて尋ねたが
「ば、馬鹿にするな………!」
「あの二人なら必ず戻ってくる……!」
「なにィ……?」
テスタメンツの青年達が叫んだ言葉を聞いて驚いた。
「じ、事情があるそうなんだ!果たすべき使命があるって!それで街は離れるけどいずれまた戻ってくるって!」
「何のことかわからないけど……僕達は二人を信じるだけだ!」
「……クク……ハハ………………ハハハハハハハハハッ!!」
そして青年達の言葉を聞いたヴァルドは大声を上げて笑いだし
「なるほど……”使命”ねぇ。どうやらあの時の続きが出来そうじゃねぇか……?―――そうだろう!?ワジイイイイイッ!!!」
空に向かって大声で叫んだ!
~オルキスタワー~
「さてと、既に『幻焔計画』はエレボニアの方に舞台を移したし………ここからは予定通り、しばらく様子見ってわけかい?」
オルキスタワーの屋上ではカンパネルラが外を見つめているアリアンロードに尋ねた。
「ええ、そうなりますね。エレボニア方面の段階が進むまでは付きあわせてもらいましょう。」
「フフ、現時点で”零の至宝”の力は消えた”幻の至宝”に匹敵している。更にオリジナルが持っていなかった潜在能力すら垣間見せつつある……クク、どこまで進化させられるか、クロイス家のお手並みを拝見しようか。」
「ウフフ……博士、ノリノリだねぇ。そういえば”彼ら”の方もやっと動き出したみたいだけど?」
嬉しそうな表情で言ったノバルティスの言葉を聞いたカンパネルラは苦笑した後アリアンロードに尋ね
「むしろ好機でありましょう。我らとの立ち位置の違い……今後のためにも明確にすべきかと。」
「フフ、それは君達に任せるよ。私はここで、”零の至宝”のデータを取り続けさせてもらう……―――人と神を繋ぐ究極のインターフェイスたり得るかをね!」
アリアンロードの言葉を聞いたノバルティスは口元に笑みを浮かべた後、興味深そうな表情で叫んだ。
「………それでそれぞれの返事はどうだったんだ?」
一方ディーター大統領は執務室で厳しい表情で国防軍の兵士達に尋ね
「そ、それが………『メンフィル帝国に保護を求め、要求に応えてもらえたので我が国はメンフィル領であり、敵国である貴国の施しは受けない。いずれ始まる”我が国”の制裁に怯えているといい……と』」
尋ねられた兵士は表情を青褪めさせて答え
「おのれ……!まさかメンフィルにIBCと並ぶほどの財力があるとはっ!!”六銃士”達の捜索はどうなっている!?」
兵士の答えを聞いたディーター大統領は怒りの表情で拳で机を叩いた後声を上げ、他の兵士に尋ね
「そ、それが………そちらも難航しておりまして……………捜索に出た者達の一部は帰って来ない者達も存在し………恐らくは”六銃士”達によって始末されたか……あるいは……………」
「………消えた元警備隊員や警官達のように”六銃士派”に鞍替えした可能性がある……という事だな?おのれ……!まさか”六銃士”達がここまで支持されているとは!市民達といい、何故二大国の脅威から退けた私ではなく未だ姿を現さない”六銃士”達を信じるんだ!?唯一居場所が判明している”叡智”も”彼”に手を出して御子殿の怒りを買う訳にもいかぬし、手を出せん!挙句の果てには”嵐の剣神”達すらも一向に見つからん!クソッ!」
他の兵士の報告を聞いたディーター大統領は不愉快そうな表情で呟いた後再び怒りの表情で声を上げ、悔しそうな表情で叫んだ。
「………………………」
ディーター大統領が兵士達の報告を受けている一方、キーアは哀しそうな表情で外を見つめていた。
「キーアちゃん………」
その時シズクがキーアに近づいてきた。
「あ、シズク……もう目の調子はいいのー?」
「うん……もう眩暈もしないし、色も見えるようになったし……全部……キーアちゃんのおかげだよ。………本当にありがとう。」
キーアに尋ねられた”目に光が宿っている”シズクは微笑みながら答えた。
「えへへ……よかった。でも、シズクと病院の人達がずっと頑張ってきたからだよ?キーアはあくまで最後の一押しをしただけだし。」
「そうなんだ……」
「それにせっかくの”力”は有効活用しないと勿体ないし。えへへ、シズクの目が治せたならこうなった甲斐があったなって―――」
キーアが寂しげな笑みを浮かべてシズクを見つめて言いかけたその時
「―――でも!……わ、わたしは嬉しいよ……?また目が見えなくて不安で……お父さんのお荷物になってて……一度治してくれたティア様にも申し訳なくて……………キーアちゃんと友達になれたのに、顔が見れなくなって……!こうしてまた顔が見られるのは涙が出るほど嬉しいけど……っ!でも……キーアちゃんは本当にこのままでいいの!?ロイドさんたちと別れて大変なことをさせられて……!わたし……こんなの絶対に間違っていると思う!マリアベルさんも、ディーターさんも!……それに……お父さんも……っ!」
シズクが叫び、涙を流しながら呟き、悲しそうな表情をした。
「シズク………」
シズクの表情を見たキーアは複雑そうな表情をした後、シズクを抱きしめ
「ありがとう……大好きだよ、シズク。でも……大丈夫だから……ぜんぶわかった上で自分で決めたことだから……だからね……?そんなに心配しないで―――」
哀しそうな表情で笑いながらシズクを見つめて呟いた……………
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