英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
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第98話
~旧ルバーチェ商会・会長室~
「よ、ゴクローさん。どうやら国防軍の連中は引き連れてないみたいだな?」
会長室のソファーにもたれかかってくつろいでいるレクターは部屋に入ってきたロイド達を見て尋ねた。
「……だからといってあなたを捕まえるつもりがないと思わない方がいいですよ?」
「”赤い星座”の所業……貴方にも関係がないとは言わせません。」
「…………………………」
ロイドとエリィに睨まれたレクターは黙り込み
「単刀直入に聞くぜ。なんでクロスベルに現れた?それと叔父貴たち……”赤い星座”は何処に行った?」
「クライアントならもちろんご存知ですよね?」
ランディとティオは真剣な表情で尋ねた。
「んー、まず最初の質問に答えさせてもらおうか。オレが来たのは今日……帝都からの始発でな。もちろんギリアスのオッサンの指示によるものだ。」
「”鉄血宰相”の………」
「……どういう目的で?」
「その前に、アンタらに耳寄りな情報を教えてやろう。―――今日の午後くらいに帝国軍が侵攻してくるぞ。」
「!!!」
「な………!」
レクターの話を聞いたロイドとエリィは目を見開き
「………冗談きついです。」
ティオはジト目で呟き
「いや……この状況じゃ、本当だとしてもおかしくねぇ。もちろんベルガード門からだな?」
ランディは目を細めて尋ねた。
「ああ、既にガレリア要塞に機甲師団が集結している。ま、たかだか一個師団だが……最新の重戦車が揃ってるからクロスベルの装甲車くらいは余裕で蹴散らすだろうな。」
「くっ………」
「す、すぐに警備隊に――――ううん国防軍に伝えないと……」
レクターの話を聞いたロイドは唇を噛みしめ、エリィは慌てたが
「いや?とっくに伝わってるぜ。一応、事情の通達は自治州政府に行ってるしな。」
「!?」
レクターの説明を聞いたロイドは絶句した。
「なのにディーターのオッサンはIBCの資産凍結を撤回せず、大統領なんかに就任しやがった。侵攻してくる帝国軍を防ぐのが不可能なのはわかっているはずなのに。―――それがオレが改めてクロスベル入りした理由ってわけだ。」
レクターの説明を聞き終えたロイド達は黙り込んだ後それぞれの顔を見合した。
「おい……どういうことだ?その状況で、アリオスのオッサンを国防軍の長官に任命してどうなる?」
「………わからない。いくらアリオスさんでもリウイ陛下やセリカさん達みたいに生身で戦車相手に戦えるわけがないし。どう考えても、エリゼさんが言ってたように何か切り札があるとしか思えない判断だけど……」
「もしかして共和国と和解して両帝国軍への牽制を……?」
「ううん、もしそうだったら大統領演説で共和国の事まであんな風に非難するはずがないし、例え共和国軍が味方に回ったとしても本気になったメンフィル帝国軍には敵わないわ。あくまで3大国と対決するつもりなんだわ。」
「―――ええ、そうでしょうね。」
ロイド達が話し合っているとなんとキリカが部屋に入って来た!
「え………」
「あなたは……」
「キリカさんじゃないッスか!?」
「―――お久しぶり。通商会議ではまんまと出し抜かれたわ。アランドール大尉、遅れてすまなかったわね。」
驚いているロイド達にキリカは口元に笑みを浮かべて見つめて言った後、レクターに視線を向けた。
「ま、オレも来たばかりだし気にしないでくれ。そっちの様子はどうよ?」
「おおむね予想通りの進行ね。現在、アルタイル市の郊外に空挺機甲師団が展開しているわ。」
「!!!?」
「きょ、共和国軍も……!?」
そしてレクターの質問に答えたキリカの答えを聞いたロイドは唇を噛みしめ、エリィは表情を青褪めさせ
「空挺機甲師団ってことは……戦車と飛行艇の混成部隊かよ!?」
ランディは厳しい表情でキリカを睨んで尋ねた。
「ええ、機動力のある新型戦車と軍用艇の組み合わせね。カルバード軍の中でも最高の機動力を誇っているわ。」
「そんな………」
「挟み撃ち……という事ですか?」
「ええ、貴方達にとっては不本意な事態でしょうけど。―――でも、この状況になるのは少し考えればわかるはずよ。むしろ”聖皇妃”を含め、徹底的に侮辱されたメンフィルが私達と違ってまだ動いていない事が不思議なくらいよ。にもかかわらずディーター・クロイスは一切の妥協なく強硬姿勢に出た。これは一体、どういう事かしら?」
そして不敵な笑みを浮かべて尋ねられたキリカにロイド達は答えられず黙り込んだ。
「それともう一つ………2番目の質問について大サービスで答えてやろう。」
「2番目……」
「……”赤い星座”の行方か?」
「ああ、答えはカンタン。帝国政府だって全然知らないんだな、これが。」
「そ、そんな……!」
「ここまでぶっちゃけておいてそれはないのでは……?」
「ハッ、クロスベルで暴れた後、契約は終了したってことか!?」
レクターの答えを聞いたエリィは声を上げ、ティオはジト目でレクターを睨み、ランディは鼻を鳴らした後厳しい表情でレクターを睨んだ。
「い、いや―――待ってくれ。”赤い星座”は、通商会議の時、帝国政府と契約を結んでいた………契約内容は、宰相の命を狙うテロリストたちの殲滅……それは間違いないですね?」
その時ロイドは制止の声を上げた後、真剣な表情でレクターに尋ねた。
「ああ、お前達が押収した契約書にも書いてあったろ?」
「………でも、ひょっとして……帝国政府との契約は”その時に”切れていたんですか?」
「え―――」
「それって……」
「……まさか……」
そしてロイドの推理を聞いたエリィとティオは呆け、ランディは目を細め
「……クックック。ロイド、やっぱりアンタ、わりと諜報に向いてるかもなァ。さすがはギリアスのオッサンやカルバードの大統領を遥かに超える狡猾な手で俺達を嵌めた”叡智”の愛弟子だけはあるな。」
レクターは口元に笑みを浮かべて笑った後笑顔でロイドを見つめた。
「そ、それじゃあ……!」
「―――答えはイエスだ。通商会議以降、帝国政府は”赤い星座”と関わりは無い。にも関わらず、連中がクロスベルから追放後もクロスベル郊外に潜伏していたことにはこちらも妙だと思っていたが………まさかあんなことをいきなりブチかますとはなぁ。」
「そんな………」
レクターの答えを聞いたエリィは信じられない表情をし
「じゃあ、どうして叔父貴たちはあんな真似を……」
「……局長達への復讐の為にしては”赤の戦鬼”や”血染めの(ブラッディ)シャーリィ”が局長達の前に姿を現さなかった事はおかしいし………」
ランディとロイドは考え込み
「……まさか”結社”と新たな契約を結んだとか?」
ティオは真剣な表情で言った。
「いえ、それもおかしな話ね。かつてリベールの異変では彼らは『強化猟兵』という独自の戦闘部隊を運用していた。確かにクロスベル襲撃の時にもその部隊の姿はあったそうだけど……連携して動いている様子はなかったそうだから違うでしょうね。」
「……なるほど。」
「わざわざ外部の猟兵団を雇う必要はないわけですか……」
「……そうなると……他の候補は絞られてくる。いかにも帝国政府が黒幕と思われるような状況で………クロスベル市を襲撃させて何らかの”得”をした勢力……そして最高ランクの猟兵団と長期契約を結べるほどの莫大な資金力を持っている勢力………――――え。」
キリカの説明を聞いて仲間達が困惑したり考え込んでいる中、ある推理をしてある人物が浮かび上がったロイドは信じられない表情で声を上げ
(……………どうやらロイドも気付いたようね。今回の黒幕が”彼”である事が。)
ロイドの様子を見たルファディエルは目を細め
「ま、そう言う事かね?」
「……信じがたい可能性にこそ往々にして真実は潜むものよ。」
レクターは静かな笑みを浮かべ、キリカは真剣な表情で言った。
「ちょ、ちょっと待って!」
「い、今の話の流れだと……」
「該当しそうなのは一つしかねえだろうが!?」
一方エリィ達は信じられない表情で声を上げた。
「い、いや……さすがに決めつけはまずい。―――レクター大尉、キリカさん。情報提供には感謝しますがあなた方の立場も立場です。ここから先は、自分達で―――」
そしてロイドがレクターとキリカを見回して言いかけたその時、ロイドのエニグマが鳴り、ロイドは通信を始めた。
「はい!特務支援課、バニングスで―――」
「よ、よかった!ちゃんと繋がって………ロイド、セシルよ!」
「セシル姉?そんな慌てて……何かあったのか?」
「そ、それが……さっき、アリオスさんがこのビルにやってきたの。」
「アリオスさんが!?」
「そ、それで………キーアちゃんを連れてそのまま出ていってしまって………」
「!?」
「私もエクリアさんとセリカさんにお願いして一緒に止めようとしたんだけどキーアちゃんが……」
「セリカさんが!?帰国したという話なのにどうして………」
「とにかく戻ってこれる?詳しい状況を説明するから!」
「わ、わかった!そのまま待っててくれ!」
「ど、どうしたの?」
「お前、スゲェ血相だな?」
「今、セリカさんの名前が出ましたが………」
通信を終えたロイドを見たエリィ達は戸惑った表情でロイドを見つめていたが
「アリオスさんが支援課に来てキーアを連れて行った……!」
「!?」
「なんだとッ!?」
「一体どうして……」
ロイドの話を聞いてエリィ達は驚いた!
「とにかく支援課に戻ろう!キリカさん、レクターさん!俺達はこれで失礼します!」
「ええ、気を付けて。」
「ま、頑張れよな~。」
そしてロイド達は急いで部屋を出て行った。
「やっぱりあの嬢ちゃんが全ての”鍵”だったか。なあ、間に合うと思うか?」
ロイド達が出て行くとレクターは溜息を吐いてキリカに尋ね
「そうね………―――多分、難しいでしょう。」
尋ねられたキリカは考え込んだ後重々しい様子を纏って答えた。
~特務支援課~
ビル内ではセリカとエクリアが静かな表情でソファーに座っており、セシルは心配そうな表情でビル内の出入り口付近を歩き回っていた。すると
「セシル姉!」
ロイド達がビル内に入って来た!
「ロイド……!」
ロイド達を見たセシルは真剣な表情になり
「セリカさん!?」
「オイオイオイ………!どういうことだよ!?アンタ達、自分達の国に帰ったんじゃなかったのか!?それにエオリアさんはどこにいるんだ!?エオリアさんがいなくなった理由がアンタ達に関係している事はもうとっくにわかっているぞ!!」
セリカを見たティオは驚き、ランディは目を細めてセリカを睨み
「……今お前達が知りたい優先すべき情報は俺達や俺の”使徒”になったエオリアの事ではないだろう。」
「!!じゃ、じゃあ……!」
「エオリアさんがセリカさんの”使徒”に………」
セリカの答えを聞いたエリィは目を見開き、ティオは信じられない表情で呟いた。
「それで、キーアは!?」
セリカの答えを聞き終えたロイドは真剣な表情でセシルに尋ね
「アリオスさんに連れて行かれたそうですが……」
ロイドの言葉に続くようにエリィは尋ねた。
「ええ、あの白い制服を着たアリオスさんが一人で来て………『迎えに来た』って声をかけたらキーアちゃんも頷いて………」
「………私とセリカ様でキーアさんを連れて行こうとする”風の剣聖”を撃退しようとしたのですが……キーアさんが自分の意志で行くので、”風の剣聖”と争わないでとおっしゃり、強く希望されたので………申し訳ございません。」
「え………」
セシルとエクリアの答えを聞いたロイドは呆け
「そんじゃキー坊は自分からついてったんスか?」
ランディは目を丸くして尋ねた。
「ええ……私達にはそう見えたわ。でも、あなたたちに無断でというのも変だったから止めようとしたんだけど……『大丈夫だから』ってキーアちゃんに言われて………それで警戒してたツァイト君も大人しくなっちゃって………」
「そういえば……ツァイトがどこにもいません。」
セシルの話を聞いたティオは周囲を見回して不安そうな表情をした。
「2人がいなくなってからフラリと出ていっちゃったの。ひょっとしたら2人を追いかけたのかもしれないけど……」
セシルの説明を聞き終えたロイド達は黙り込み
「……どういうことだ?」
「シズクちゃんのことで約束でもあったのかしら……?」
それぞれの顔を見合わせた。
「私もそう思ったんだけどどうもそうじゃないみたいで………ミシュラムに行くような事をアリオスさんが言っていたし。」
「ミシュラム……?」
「ええ、ボートの用意はできているって……つまりミシュラムに行くということよね?」
不思議そうな表情をしているロイドにセシルは頷いた後真剣な表情で尋ねた。
「……ここ数日、ミシュラム方面は完全に営業停止しているはずだわ。そんな所にわざわざ……?」
「チッ……やっぱ普通じゃねえぞ。」
「追いかけましょう、ロイドさん。」
「ああ……何とかボートを調達しよう。セシル姉、ゴメン!とにかく追いかけてみるよ。」
「ええ、気を付けて。……アリオスさんもキーアちゃんもいつになく真剣な目をしていたわ。多分、よほどの事情があると思う。」
「わかった……!」
「とにかく追いついてその事情を聞かないと………!」
セシルの言葉にロイドは頷き、エリィは真剣な表情で呟いた。
「――――セシルさん。そろそろ時間です。今の内に別れの挨拶をしておいた方がいいと思いますが。」
「え………」
そしてエクリアがセシルに言った言葉を聞いたロイドは呆け
「………リベールに行く飛行船が出る時間が来たんですね。」
エリィは複雑そうな表情で言った。
「ごめんね、みんな………こんな大事な時期にクロスベルから離れる事になってしまって…………」
「いやいやいや……!セシルさんが謝る必要はないッスよ!むしろセシルさんが今の状況のクロスベルから離れて、ゼムリア大陸で最も安全な場所に避難する事を知って、安心したくらいッスよ!」
「リウイお義兄様達なら必ずセシルさんの事を大切にすると共に守り、幸せにしてくれるはずです。……私達の事は気にせず、セシルさんは自分が幸せになる事を考えて下さい。」
「……セシル姉こそ、元気で。クロスベルの状況が落ち着いてからでいいから連絡をしてきてくれ。」
「……どうかお幸せに。」
申し訳なさそうな表情をしているセシルを見たランディは謙遜し、エリィは静かな表情でセシルを見つめ、ロイドは口元に笑みを浮かべて答え、ティオは軽く会釈をし
「ロイド………みんな………」
ロイド達の言葉を聞いたセシルは驚いた後、ロイドを抱きしめた。
「ちょっ、セシル姉……!」
抱きしめられたロイドは慌てたが
「………必ずクロスベルに戻ってくるわ。だからその時にはキーアちゃんと一緒に笑っている姿を見せて……!」
「ああ……!」
自分から離れ、真剣な表情で自分を見つめて言ったセシルの言葉にロイドは頷き
「―――ルファディエル。ロイドの事、どうかお願いね。」
(ええ、任せて。)
さらにロイドを見つめて言ったセシルの言葉にルファディエルは頷いた。
その後ロイド達はボートを手配した後、ランディの運転によってミシュラムに向かった……………
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