英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
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第62話
~夜・ミシュラム・迎賓館~
「いやいや、本当に遅れて申し訳なかった。招待した側が遅れるなど本来あってはならないんだが。」
「いえ、市長がお忙しいのはさすがにわかってますし。」
「どうもお疲れ様です。」
「まあ、お父様の場合、忙しいのは自業自得ですけど。」
「ハッハッハッ。まさにその通りなんだがね。」
マリアベルの言葉を聞いたディーターは笑顔で言い
「もう、ベルったら……」
エリィは溜息を吐いた。
「しかし練習と公演ばかりで詳しくは知らないんですけど……またずいぶんと思い切った提案をなさったみたいね?」
「そうね♪もしかしてヴァイス達の作戦が成功した波に乗る為かしら?」
「ハハ、実は就任当初から考えていたアイデアでね。本当はあのタイミングで出すつもりはなかったが……そうも言ってられなくなった。なので思い切ってサイを投げさせてもらったよ。」
イリアとカーリアンの疑問を聞いたディーターは苦笑した後口元に笑みを浮かべて言った。
「フフ、なるほど。そして幕が上がったステージは最後まで踊り続ける必要がある……」
「その通り。聞けばアルカンシェルは『金の太陽、銀の月』のリニューアルに挑戦するとか。実は、その初公演の翌週に国家独立の是非を問う住民投票を実施することが決定してね。それで、これも縁かと思い、招待させていただいた次第だ。」
「そうだったんですか……」
ディーターの説明を聞いたロイドは驚き
「ふふっ、おかげさまで楽しい休暇が過ごせたわ。」
「どうもありがとうございます。」
「……ども。」
イリアとリーシャは笑顔で、シュリは軽く頭を下げて感謝の言葉を言った。
「ふふ、私は部外者なので申し訳ないくらいですけど……」
するとその時セシルは苦笑し
「いやいや、とんでもない。ウルスラ病院の関係者から貴女の噂は常々聞いている。何でも聖女ウルスラの再来と言われてるくらいの働き者だとか。お会いできて光栄だよ。」
「さ、さすがにそれは大げさかと思いますけど……そう言って頂けると光栄です。」
ディーターの言葉を聞いて謙遜した後口元に笑みを浮かべた。
「……ま、部外者で言ったら私やセリカ達の方がそうでしょ?私達は自由気ままにクロスベルに滞在しているだけだし。」
「……別に俺達は自由に過ごしているつもりはないが。」
「全くじゃぞ!ミシェルに結構こき使われているのだからな!」
「うむ、そうだの。あの受付、一切遠慮をしておらんだの。」
「フフ……私はエステル達と一緒に旅をしていた頃を思い出しますから、楽しいですよ?」
カーリアンの言葉を聞いたセリカは静かな表情で呟き、レシェンテは指摘し、ハイシェラはレシェンテの指摘に頷き、リタは微笑んでいた。
「いやいや………カーリアン様やセリカさん達には通商会議の件でとてもお世話になりましたし、教団の件でもクロスベルを守っていただいたのですから。いつか個人的にもお礼をしようと思っていたのですから、丁度いい機会でした。……そういう意味ではヴァイスハイト局長やギュランドロス司令――――”六銃士”の方達には感謝してもしきれないよ。教団や通商会議の件でお世話になるどころか、君達がいるおかげでクロスベルの防衛力は格段と上がったのだから。」
一方ディーターは謙遜した後笑顔を浮かべて言い、そしてヴァイス達に視線を向けた。
「フム……俺達としてはまだまだ納得できない防衛力だが、市長が満足してくれて何よりだ。」
「ま、それは今後の課題だな。」
「そうそう!今はそんな事よりせっかくのご馳走を楽しもうよ♪」
「……はしたないですよ、パティ。というかユン・ガソルにいた頃も今と同じくらいの料理は食べた事があるでしょう?」
「フフ……でも、こんなにも大勢で仲良く食べる事はなかったじゃない♪」
「……今回はお招きいただき、ありがとうございました。」
視線を向けられたヴァイスとギュランドロスは静かな笑みを浮かべ、嬉しそうな表情で言ったパティルナの言葉にエルミナは呆れ、ルイーネは微笑み、アルは会釈をした。
「フフ……それにしても、まさか私やメヒーシャ達の分まで用意して頂けるとは思いませんでした。」
「ハッハッハッ!何を仰る。ルファディエル警部達には特務支援課をいつも陰ながら支えてくれてる功労者で、特にルファディエル警部は教団や通商会議の件どころか、特務支援課ができる前からクロスベルのさまざまな難事件を解決へと導いた功労者。これくらいでは足りないぐらいだよ。」
微笑みながら言ったルファディエルの言葉を聞いたディーターは笑った後静かな笑みを浮かべて言い
「フフ……お褒め頂き光栄です。」
「くかかかっ!俺達悪魔にまでご馳走を振るうなんて、変わった人間だぜ!」
「全くだね。」
「全く………貴様ら悪魔は感謝もできんのか………」
「……………まあ、”死神”が感謝する場面等、天地がひっくり返ってもありえんがな……」
ディーターの言葉を聞いたルファディエルは微笑み、ギレゼルは陽気に笑い、エルンストは口元に笑みを浮かべて頷き、メヒーシャは呆れた後ギレゼルとエルンストを睨み、ラグタスは静かに呟いた。
「けど、いくら支援課のメンバーとはいえ、私達まで招待してもらってもよかったのでしょうか?」
「そうだよね?あたし達、通商会議の件では何もしなかったし。」
「……それに今日帰って来たところなのに急遽部屋等、その他色々の手配などもして頂き、本当に申し訳ないです。」
その時セティとシャマーラは不思議そうな表情をし、エリナは静かな表情で言った。
「いやいや、とんでもない。同じ支援課のメンバーである君達を招待するのは当然の事だし、君達が故郷に戻るまで教団の件以降の復興や解毒薬の件でクロスベルの民達がとてもお世話になった。何でも話に聞くところによるとエルファティシアさんの力がなければ、解毒薬の完成は厳しかったという。……本当にありがとう。」
セティ達の言葉にディーターは謙遜しながら答えた後笑顔で言い
「……ま、クロスベルに居たおかげでヴァイスハイト達と再会できたし、一応恩返しができて何よりよ。」
「フフ、お役に立てて幸いです。」
「えへへ……あたし達もお父さんみたいに”工匠”としてみんなの役に立ったね!」
「……そうですね。ですが、今の成果に奢る事なく、常に研鑽していきましょう。」
エルファティシアは口元に笑みを浮かべて言い、セティは微笑み、シャマーラは嬉しそうな表情で言い、エリナは静かな笑みを浮かべて言った。
「もう、お父様ったら。先程からロイドさん達以外ばかり誉めそやして……少しはロイドさん達も労ってはいかがですか?」
するとその時マリアベルは溜息を吐いた後指摘した。
「おっと、これは失礼。いやはや、こんな豪華なメンバーばかりで年甲斐もなく舞い上がっているようだ。」
マリアベルの指摘を聞いて気付いたディーターは笑顔で言った。
「はは……」
「ま、でも招待してくれて本当に有り難かったッスよ。」
「そうだね。いい気分転換になったし。」
「ああ。それにミシュラムのリゾート気分を存分に味わえるという、滅多にできない体験もできたしな。」
「市長、有難うございました。」
「すっごく楽しかったです!」
「キーアも楽しかったー。」
そしてロイド達はそれぞれ感想を言った。
「はは、それは何よりだ。―――蒸し返すようで悪いがあれは本当に不幸な事件となる所だった。ヴァイスハイト局長達の活躍がなければ、タワーの爆破までしようとした犯罪者とはいえ……命を落とす所になることだったよ。例えテロリストとはいえ、そんな罪深い存在だとは私は思っていない。今後は二度と、あんな事件が起きないよう尽力するつもりだ。この世に”正義”が実在すると皆に信じてもらうためにもね。」
(フン、”正義”か………)
(くっだらねぇ……そんなの自分の行動を正当化するただの言い訳だ。)
(俺達には全く縁のない言葉だな。)
(クク……我等はその”正義”の”最大の敵”だからの。)
真剣な表情で言ったディーターの言葉を聞いたヴァイスとギュランドロスは内心嘲笑したり、不愉快な気分になり、セリカは静かな表情でハイシェラに念話を送り、セリカの念話にハイシェラは口元に笑みを浮かべていた。
「あ………」
「ディーター市長……」
「……そう言っていただけると胸のつかえが取れた気がします。」
一方ノエルは不安そうな表情で声を上げ、ロイドは複雑そうな表情でディーターを見つめ、エリィは静かな笑みを浮かべて言った。
「しかし、その独立の是非を問う住民投票ですが……もし賛成が上回った場合、本当に独立できるものなんですか?」
するとその時ティオは疑問に思った事を口にした。
「いや、住民投票自体に独立を可能にする決定力はない。ただ、その結果は必ずや諸外国への意思表示となるはずだ。そうして徐々に国際世論を形成し、3大国から何とかして『独立』をもぎ取っていく……それが私のシナリオだよ。」
「なるほどねぇ……」
「こう言っちゃなんだけど相当、険しい道のりだよね?」
ディーターの話を聞いたランディは目を閉じて頷き、ワジは口元に笑みを浮かべて尋ね
「ワ、ワジ君……!」
ワジの言葉を聞いたノエルはワジを睨んだ。
「いや、君の指摘通りだ。地政学的な観点から言ってもクロスベルの国家独立というのはかなり困難な状況にある……だが、人間というのはただ情勢に流されるだけの生き物ではないと思うのだ。苦境にあっても理想を追求し、誇り高くあらんと指向する………そんな力と可能性を秘めているように思えるのだよ。」
「……おじさま………」
「誇り高くあるための力と可能性、ですか………」
ワジの指摘に頷いた後答えたディーターの話を聞いたエリィは口元に笑みを浮かべ、ロイドは目を閉じて考え込み
「………………………」
「ふむ……なるほどね。」
リーシャは複雑そうな表情で黙り込み、イリアは納得した様子で頷いた。
「今後、クロスベルが歩く道は困難なものになるだろう……むろん我々大人たちは粉骨砕身の覚悟と努力でその道を切り拓くつもりだ。だが、それに続いて高みを目指していくのは君達若者の役目だと思うのだ。」
ディーターは席を見渡して深々と頭を下げ
「どうか君達も――――君達ならではのやり方でクロスベルの明日に尽くして欲しい。」
静かな笑みを浮かべて言った。
その後、晩餐会が終わり、ホテルの3Fまで戻った後……不思議な高揚感に包まれながらも遊び疲れていたロイド達はそれぞれ早めに休むことにした。そして…………………
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