英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
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第61話
~夜・ミシュラム~
「あら、ロイド。」
「グルル……ウォン。」
「セシル姉、それにツァイト。こんなところにいたのか。」
「珍しい組み合わせですよね。迎賓館にはまだ行かないんですか?」
「ええ、さっきツァイト君がここに連れてきてくれてね。テーマパークから離れて静かだし、ちょっと涼んでいこうと思って。………」
エリィの疑問に答えたセシルは黙り込んでいた。
「セシル姉……何か悩み事でもあるのか?」
「……ふふ、いいえ。そういうわけじゃないんだけど……そうね、ロイドたちには話したほうがいいかもしれないわね。」
真剣な表情で言ったセシルの言葉を聞いたロイドとエリィは首を傾げた。
「実は今度、シズクちゃんが手術を受ける事になったの。セイランド教授による、視力完全回復をかけた手術をね。」
「シズクちゃんが……」
「もともと、シズクちゃんは今までも何度か視力回復のために手術を受けていたんだけど……彼女の症状は内科と外科、神経科の問題が複雑に絡んでいて、完治が難しかったの。」
「で、でもティア様が完全でないとはいえ、シズクちゃんの視力を回復させましたよね?眼鏡をかけていれば、日常生活にも支障はでないのでしょう?それにシズクちゃん自身もティア様の治療に心から感謝していましたし………」
セシルの説明を聞いたエリィは戸惑いの表情で尋ねた。
「ええ………ただ、困った事に………アリオスさんはシズクちゃんの視力の完全回復を希望していて、未だシズクちゃんは視力を完全回復させる為に入院しているの。…………そこで、セイランド教授が前々から研究していた新しい術式を試してみることになったらしいわ。」
「新しい術式、ですか?」
「私もそこまで詳しくはないけど……神経科の権威で、外科手術の心得もある教授だからこそとれる術式らしくてね。万全の準備が必要らしくて、この間もレミフェリアから最新式の医療機器を取り寄せていたみたい。………セイランド教授によれば、それでも確率は五分五分だろうという話だったけれど。」
「そこまでしても五分五分なのか……」
「……それは心配ですね。」
セシルの説明を聞いたロイドは重々しい様子を纏い、エリィは心配そうな表情をした。
「今までの失敗を考えるとかなり希望があるのには間違いないらしいんだけどね。……ただ、イーリュンの治療術を知る私の心配としてはティアが治療した部分を変に触って、またシズクちゃんの視力が失うような事になることを一番心配しているの……無事、成功してくれるのなら、それでいいのだけど……」
「確かにそうですね………治癒魔術と手術は全く正反対といってもおかしくない治療法ですからね……しかもシズクちゃんの眼を確実に治せるティア様やペテレーネ様もそう頻繁にクロスベルに来れるような立場でもないですし……………」
セシルの言葉にエリィは心配そうな表情で頷き
「そうだな……アリオスさんにも随分とお世話になっているし。俺達も、手術の成功を女神達に祈っているよ。」
「ふふ、ありがとう。シズクちゃんにも伝えておくわね。あ、でも”空の女神”に祈る時、”空の女神”の末裔であるエステルさんを思い浮かべたら駄目よ?ちなみにフェミリンスさんなら別にいいわよ?あの人は本物の”女神”だし。」
「ハハ………」
「そう言えば、”影の国”を体験したセシルさんはエステルさんやフェミリンス様の正体を知っているんでしたね……」
セシルに微笑まれたロイドは苦笑し、エリィは苦笑しながら言った。
「ええ…………………………」
エリィの言葉にセシルは微笑みながら頷いた後陰りのある表情で黙り込んだ。
「セシル姉?シズクちゃんの件以外でまだ何か心配事があるのか?」
セシルの様子を見たロイドは尋ねた。
「あ、うん……………ほら、この間のディーター市長の『独立宣言』の件でちょっと……ね。」
「へ……………」
セシルの答えを聞いたロイドは呆け
「セシルさんは独立に反対なのですか?」
エリィは意外そうな表情で尋ねた。
「あ、ううん。私は賛成かな。クロスベルの状況は知っているし…………でも、クロスベルが本当に独立したら私はクロスベルから離れなければならないかもしれないの。」
「なっ!?」
「ど、どうしてですか!?」
セシルの答えを聞いたロイドは驚き、エリィは信じられない表情で尋ねた。
「ほら、私ってリウイさんの側室の一人だからメンフィル皇家の一員じゃない。もし、独立した”国家”に他国の皇族がいるとわかってしまったら、どうなるかわかるでしょう?」
「!!!……………メンフィルに対する人質にされる可能性か…………………………」
寂しげな笑みを浮かべて言ったセシルの言葉を聞いたロイドは目を見開いた後、複雑そうな表情をし
「そ、そんな!おじさまやおじいさまは絶対にそんな事はしません!!」
エリィは真剣な表情で叫んだ。
「マクダエル議長に関してはリウイさんも信用しているわ。………でも、ディーター市長に関してはリウイさんは一切信用していなく、逆に危うい存在だと思っているの。」
「ど、どうしてですか……?」
セシルの話を聞いたエリィは戸惑いの表情で尋ねた。
「それはディーター市長が”正義”を強く主張している事……ね。」
「”正義”………何でそれが理由なんだ?」
セシルの説明を聞いたロイドは考え込んだ後尋ねた。
「………リウイさん達―――”闇夜の眷属”やメンフィル帝国にとって”正義”は最も忌み嫌う言葉で、一番信用できない言葉なの。」
「ど、どうしてなんだ!?」
「あ…………………」
複雑そうな表情で答えたセシルの話を聞いたロイドは信じられない表情で声を上げ、ある事に気付いたエリィは声を上げた。
「エリィ?理由を知っているのか?」
「うん………異世界では光の陣営の神殿勢力や国が”正義”を謳い文句に問答無用で”闇夜の眷属”……というか闇の陣営に属する種族や彼らと共に生きる人間達、挙句の果てには天使族やルーンエルフ族を除いた人間以外の異種族も迫害や殺害をしているって、メンフィル帝国で留学していた時に学んだ事があるの。リウイお義兄様のご両親――――母親である人間のアリア様は魔神と結ばれた穢れた人間として”正義”の名の下強姦、そして殺害され……父親である魔神のグラザ様は周辺に住む人間達に何の危害も加えていないのに、”魔神だから”という理由で”正義”の名の下、討伐されたそうなの。」
「なっ!?」
複雑そうな表情で言ったエリィの言葉を聞いたロイドは怒りの表情で声を上げ
「………そして今も”正義”の下、光の陣営の人達は闇夜の眷属や異種族達を迫害している上……時にはメンフィルに戦争を仕掛けているのよ。」
「なんで……………なんでそれが”正義”なんだ!?そんなの”正義”を謳い文句にして、自分達の歪んだ行動を正当化しているだけじゃないかっ!!それこそあの”D∴G教団”と変わらないっ!!」
そして辛そうな表情で語ったセシルの説明を聞いたロイドは怒りの表情で叫んだ。
「――――それが”癒しの女神”を除いた光の陣営の”神々”の意向だからよ。」
「っ!!」
「……………………………」
真剣な表情で言ったセシルの言葉を聞いたロイドは目を見開いて息を呑み、エリィは複雑そうな表情をし
「そして……これは貴方達にとって辛い話になるかもしれないけど……誰かが”正義”と思っても誰かにとって”正義”は”悪”となるの。………例えばルバーチェを検挙したクロスベル警察や警備隊だけど…………ルバーチェやその家族の目から見たら、貴方達はどう映るのかしら?」
「それは……………………………」
「……………じゃあ……民を守る皇族の務めも”正義”でもないのか?」
辛そうな表情で言ったセシルの言葉を聞いたエリィは複雑そうな表情をし、ロイドは辛そうな表情で尋ねた。
「リウイさん達が民を守るのは……この世に生きる生きとし、生ける者達が種族問わずに共に平和に生きて行けるようにするという”覇道”……そして”信念”よ。だからリウイさん達は決して”正義”という言葉を口にしないし、自分達の事を”英雄”や”勇者”だなんて思っていないわ。……まあ、闇夜の眷属や迫害されてきた異種族の人達にとっては自分達が穏やかに過ごせる国を作り、守ってくれるからリウイさん達を自分達の”正義”である事を信じると同時に”英雄”として慕っているけどね……」
「……だからこそメンフィルの国民達は”闇の英雄”であるメンフィル帝国の皇族や将達を心から慕っているのですね……………………そしてメンフィルの礎を作ったリウイお義兄様とお姉様―――イリーナ皇妃は国民達にとっては”神”のような存在かもしれないですね……………」
セシルの話を聞いたエリィは目を閉じて呟き
「”覇道”と”信念”………………リウイ陛下達らしい言葉だな。」
「……………!………まさか………リウイお義兄様達は……メンフィルは………”世界”の……ディル・リフィーナの”理”に挑んでいるのですか………?」
ロイドは呆けた後疲れた表情で溜息を吐き、考え込んでいた後ある事に気付いたエリィは信じられない表情でセシルに尋ね
「なっ………!?」
エリィの疑問を聞いたロイドは驚きの表情をし
「世界の理に挑む……か。確かに間違ってはいないわね。…………………(そして私はそんな人だからこそ傍で支えようと思った……………今思えば歪んだクロスベルの”正義”の下、諦める事無く前に向かうガイさんと同じ姿が見えたから、リウイさんに惹かれ、支えようと思ったのかもしれないわね……………)」
セシルは静かな表情で言った後苦笑した後目を閉じてリウイとガイの姿を思い浮かべて黙り込み
「ふふ、ごめんね。警察の貴方達にとっては耳にしたくない事を言ってしまって。”正義”の象徴である警察にとっては辛い話だったかもしれないわね。」
話を戻して苦笑した。
「そ、そんな。とても勉強になりました。」
「ああ。今の話を聞いたおかげで”正義の在り処”を改めて考えさせられたよ。」
「そう。それならいいんだけど。」
そしてエリィとロイドの言葉を聞いたセシルは微笑んだ。
「それでセシル姉……話を戻すけど、ディーター市長の『独立宣言』の後メンフィルから……リウイ陛下から何か連絡があったのか?」
「………できれば、今すぐ今の仕事を辞めて自分の下に――――メンフィル大使館に来て自分達を支えて欲しいって言ってたわ。」
真剣な表情のロイドに尋ねられたセシルは静かな様子を纏って答え
「………セシルさんの身を守る為……ですか………もしクロスベルが本当に独立したら、それこそ二大国が侵略を開始してきてもおかしくないですしね……………」
「……………それで何て返事をしたんだ?」
セシルの答えを聞いたエリィは複雑そうな表情をし、ロイドは目を閉じて考え込んだ後尋ねた。
「……私がリウイさんの側室の一人である事がクロスベルに……ディーター市長に知られるまでいさせて下さいって頼んだわ。それがリウイさん達のギリギリの許容範囲だったからね。でも本音ではすぐにでも来て欲しいと思っているのじゃないかしら。……それに何かあればラギール商会に頼るように言ってたし………もしかしたらメンフィルの兵士の方達が今も陰ながら私を護衛しているかもしれないわね。」
「セシルさん……………………」
寂しげな笑みを浮かべたセシルの言葉を聞いたエリィは辛そうな表情になり
「……その……さ。セシル姉は幸せになるべきだよ。だから俺の事はいいから、いつでもリウイ陛下達の所に行ってくれてもいいよ。」
ロイドは複雑そうな表情で言った後、口元に笑みを浮かべてセシルを見つめて言った。
「まあ、酷い!ロイドがそんな事を言うなんて……そんなにルファディエルの方がいいの!?ううっ………どこで育て方を間違えたのかしら?」
その時セシルは声を上げた後、悲しそうな表情をし
「セ、セシル姉!俺は本気で心配して言ってるんだから、こんな時に冗談はやめてくれよ!」
ロイドは疲れた表情で指摘した。
「ふふ、わかっているわ。本当に自分の身が危ないと思った時は迷わずリウイさん達の所に避難するし、その手段も常にあるから私の事は心配いらないわ。」
「ハア……」
そして悲しそうな表情をすぐに笑顔に変えて言ったセシルの言葉を聞いたロイドは溜息を吐いた。
「あら、セシル。まだここにいたんだ?」
するとその時イリアがロイド達に近づいてきた。
「イリア、どうしたの?」
「どうしたもこうしたも………後で来るって言っていつまでたっても来ないからわざわざ迎えにきたんじゃない。」
「ふふ、ごめんごめん。すぐに行くから。うん、ロイド達に話したおかげで大分気持ちも整理できたし……私もそろそろ行くとするかな。あなたたちも色々と大変だろうけど……私もシズクちゃんも応援してるわ。だから、どんなことがあってもくじけずにがんばってね。」
「ああ、ありがとう、セシル姉。」
「それじゃあ、行きましょ。」
「なになに、弟君たちと色っぽい話でもしてたの?あたしにも聞かせてよ~。」
そしてセシルはイリアと共に去って行った。
「ふふ、元気つけるつもりが逆に励まされちゃったわね。」
「ああ、セシル姉らしいよ。……よし、俺達もそろそろ迎賓館に行くとしようか。」
「グルル……ウォン。」
「行ってくるわね、ツァイト。」
その後ロイドとエリィは迎賓館に向かった。やがてロイド達は全員、迎賓館の”饗応の間”に集まり……程なくしてディーター市長と娘のマリアベルも到着した。そして、到着が遅れたのを詫びるディーター市長の挨拶を合図に……豪華ながらも居心地のいい晩餐会が始まるのだった………
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