ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~
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第66話竜とスグ
竜side
2025年6月8日
二日前コンビニ強盗を倒した時に直葉ちゃんの竹刀を勝手に使った挙げ句、壊してしまったオレは弁償代わりに直葉ちゃんとデートに行くことになってしまった。そしてオレは今、指定しておいた場所で直葉ちゃんと待ち合わせている。デートと言っても弁償デートの訳だけどーーーいや、弁償デートってなんだ。そもそも直葉ちゃんはデートのつもりであんなこと言ったのか?真相は闇の中だけど、前から白黒はっきり付けたいと思ってた事もあるしーーーおっ、来たか。
「竜くん!ごめんなさい、ちょっと遅くなっちゃった」
「いや、全然大丈夫。待ち合わせ時間ジャストだよ」
少し息を切らしながら走ってきたデートのお相手、従妹の桐ヶ谷直葉ちゃん。走っている時に胸が揺れていた事に目が行ったが、言ったら怒られそうだから言わないでおこう。
「それで、どこに連れてってくれるんですか?」
「え?あぁ、実はオレも初めてなんだよな。母さんに薦められた所なんだけど・・・」
実を言うと、オレからお薦め出来る場所には心当たりがなかったため、母さんが教えてくれた場所まで行く事になった。母さんのお薦めだと思うと、いくつか不安な事がある。一つ目、場所がギリギリ都内だという辺境だという事。二つ目、ネットで調べてみたが検索に引っ掛からなかった事。最後の三つ目の不安はーーー
『20年前にママがよく行ってた所なんだけど、超ハラハラドキドキする遊園地だからデートには打ってつけよ!近くに住んでる友達にフリーパス頼んどくね!』
ーーー20年前って、オレ産まれてないじゃん。というか今もあるのか?
「オーイ!神鳴竜くんってキミでしょ!?」
「あの人、竜くんの事呼んでますよ?」
「お。母さんの友達ってあの人か」
フリーパスを頼まれた近くに住んでる母さんの友達ーーーどうやらあの女の人みたいだな。見たところ30代後半って感じかな。でも本当に友達か確認しとかなきゃな。SAOに囚われてから初対面の相手を疑ってしまう癖が出来ちまったからな、自分でも直さなきゃいけないと思ってるけどーーー
「確かに神鳴竜ですけど・・・一応確認しときます。オレの母の名前、年齢、特徴を答えてください」
「疑い深いって聞いてはいたけど、まさかここまでとはね。あなたの母の名前は神鳴ミク、38歳。キレると般若みたいな顔になる」
「この人だ。間違いない」
「どんな確認!?しかも38歳って21歳の息子がいるのに若っ!」
オレの確認法に驚いた直葉ちゃんの気持ちは分からなくもない。オレの母、神鳴ミクは38歳。つまり一番上の龍星を17~8で産んだ事になる。どういう訳かは知らないけど、あんまり気にしないでおこう。
オレは母さんの女友達から二人分のフリーパスを受け取って、例の遊園地に向かって歩くがーーーゲートの前で立ち止まってしまった。それは仕方のない事だと思う。だってこの遊園地ーーー
「ここ・・・営業してるんですか・・・?」
「・・・前もって下調べしとけばよかったかな」
廃墟なんじゃないかなって思うくらいボロボロだった。人は見た限り10人いるかどうかすらギリギリだし、看板ボロボロだし、カラスは飛んでるし、ジュースのカップとかポイ捨てされてるし、マスコットの着ぐるみが生首状態で捨てられてカラスに右目食われてるし。直葉ちゃんの言う通りそもそも営業してるのかすら疑わしい。道も間違ってなかったし、母さんにテレビ電話して確認しようーーー
【もしもし、りゅーちゃん?遊園地まで行けた?】
「母さん。遊園地って・・・ここで合ってるか?」
テレビ電話に出た母さんにオレは問いただし、スマホの画面を遊園地ーーーの廃墟らしき場所へ向ける。
【わぁ~!ここよ!ここ!すごい懐かし~!】
「ここなんだ・・・」
「ここかよ・・・」
どうやらオレたちは道も場所も間違えてはいなかったらしい。でも本当に懐かしいか?どこか面影を感じるのか?
【あの朽ち果てた看板・・・いつも故障中の観覧車・・・錆で今にも倒れそうなジェットコースターのレールの支柱・・・20年前と全然変わってない!】
「変わっててくれよ」
何で20年前から看板朽ち果ててんだよ?何で20年前から観覧車ぶっ壊れてんだよ?何で直さねぇんだよ?何で20年前からジェットコースターのレールの支柱が錆びてんだよ?何で新しい支柱に取り換えないんだよ?つーか何でこんな所が潰れねぇんだよ?そもそも何でこんな危ねぇ臭いがプンプンするような所紹介したんだよ?いくら母さんが天然だからってこれはシャレになんねぇぞーーーいや、元々こういう危なげな雰囲気を醸し出してる隠れスポットなのか?でもなぁ、直葉ちゃんがそれで納得出来るかどうかーーーよし。
「元々こういう雰囲気を醸し出してるだけの安全な遊園地みたいだな。物は試しだ、行ってみようぜ?」
「は、はい。それじゃあ・・・行ってみます?」
【楽しんでね~♪お二人さ~ん♪】
「うるせぇっての」
オレは若干イラついてテレビ電話を切る。全くあの母親は何が面白くて息子とその従妹が遊びに行ってるのをニヤニヤしながら見てるのかーーー
「直葉ちゃん、まず何に乗る?」
「え~っとじゃあ・・・」
母さんの事は今は置いといて、直葉ちゃんにまず何に乗るか聞く。直葉ちゃんは何に乗るか迷って、結果ーーー
「ちょっと恐いけど・・・あれに乗りたい!ジェットコースター!」
「そ、そうか・・・」
正直に言うとーーーないわー。とは口には出さないでおこう。一応問題なく動いてるし、安全な遊園地って言ったのはオレだもんな。相当な命の危険がない限り、オレもこの遊園地からは逃げるようなマネはしないーーーそう心に誓いながら、オレと直葉ちゃんはジェットコースターの乗り口の係員さんにフリーパスを見せた。
「では、こちらにサインをお願い致します」
『サイン?』
何か係員さんに何かを渡されたぞ。何々ーーー誓約書?
「このジェットコースターでは如何なる理由で怪我、もしくは死亡しようとも運営は一切の責任負いませんので、それを承諾するための誓約書にございます」
『それ海外でバンジージャンプする時に書くヤツ』
普通ジェットコースターに乗る時にそんなの書かねぇよ。何なの?このコースター人死ぬの?このジェットコースターは急行地獄行きの殺人エクスプレスなの?SAO程じゃねぇけど、かなりタチの悪いぞ。デスゲームか。誰が乗るかこんなモンーーー
「ありがとうございます。爽快な空の旅をお楽しみください」
結局書いちゃった。
「さあ早く乗りましょ?」
「う、うん・・・」
直葉ちゃんに急かされてオレはジェットコースターのシートに座った。コースター一機は一列二人乗りが六列の計十二人乗り。オレと直葉ちゃんは一番前の列に隣同士で座った。そして背もたれから安全バーを下げてーーー
【出発します】
出発のアナウンスと共にジェットコースターが動き、レールの上を走り出した。
直葉side
ジェットコースターなんて何年ぶりかなーーー多分、小学校低学年以来かな。その時は隣がお母さんだったけど、今あたしの隣には竜くーーー
「うっぷ・・・オエッ」
「え!?酔ってる!?」
竜くんがあたしの隣で酔ってる!竜くんって乗り物酔いするんだ!初めて知った!どうにか口の中に何かを抑え込んでるみたいに手で口を塞いでる!これってもしかしなくてもーーー今は絶対外に出しちゃダメ!
ガタン
「・・・あれ?」
今、ジェットコースターに乗ってからあたしが感じていた圧迫感が消えた。その原因はーーー安全バーが外れていた事だった。
「え!?やだ・・・!!」
何で安全バーが!?走行中に安全バーが外れるなんて絶対ありえない!こんなの死んじゃうじゃない!そんな事になったらこの遊園地の運営にもーーー
【私、桐ヶ谷直葉は如何なる理由で怪我、もしくは死亡しようとも主催者・責任者に一切の責任を問いません】
ーーーああ、そっか。あたしが誓約書を書いた時点で、運営は責任を負わないんだ。そもそも誓約書なんて書かなきゃいけないくらい危険なアトラクションなのに、どうして乗っちゃったんだろうーーーもうすぐ落下地点だ。安全バーが外れた状態で落下地点を通ったらあたしの身体は宙を浮いてーーー落下して死ぬ。嫌、そんなの絶対嫌。助けてーーー
「助けてお兄ちゃん・・・!!」
「スグ・・・!!」
「!?」
今、あたしを呼ぶ声が聞こえた。それもお兄ちゃんがいつもあたしに対して呼んでくれる呼び方。その声が聞こえた方向から腕が伸び、あたしを強く抱きしめた。その人はあたしの兄・桐ヶ谷和人ではなく、一緒にこのジェットコースターに乗っていたーーー
「竜くん・・・!?」
「スグ・・・ウプッ!絶対・・・オエッ!守る・・・!!」
ジェットコースターによって乗り物酔いになっていた従兄、神鳴竜くんだった。その彼は乗り物酔いに苦しみながら、落下するジェットコースターからあたしが落ちないように強く抱きしめている。『スグは絶対守る』ーーーそう繰り返し叫びながらーーー
******
あのジェットコースターの恐怖の時間が終わり、竜くんはーーー
「オロロロロロロロロロロロロロ!!!!!」
「竜くんしっかりして!!!」
ずっと我慢していた物を吐き出している。あたしが背中を擦ってみたら、少しずつ顔色がよくなっていった。
「直葉ちゃん、こんなオレが言うのもなんだけど・・・大丈夫か?」
「はい。おかげで助かりました・・・」
あの時竜くんが助けてくれなかったら、あたしーーー絶対死んでた。だからこうして地面に足を着けていられるのも、全部竜くんのおかげだもんーーーそういえば、竜くんはどうしてーーー
「竜くん・・・どうしてあの時スグって呼んだんですか?」
「え?」
竜くんはあの時、あたしの事をスグと呼んだ。お兄ちゃんと双子って事もあって、完全にお兄ちゃんと見間違えそうだった。もしかしたらーーー
「・・・オレ、無意識に・・・本能的にそう呼んでたのかもしれない」
お兄ちゃんと同じ血が流れてるからーーーDNAレベルであたしをそう呼んでたのかもしれない。
「オレさぁ・・・」
あたしがそんな考え事をしていたら、竜くんが口を開いた。口を抑えてるのは、口臭を気にしてるのかもしれない。そして放たれた第一声がーーー
「オレさ・・・何か心のどっかで、キミの事を妹みたいに思ってたのかもしれない。だから和人みたいに・・・キミを呼んだんだと思う」
「!!!」
この言葉はーーーあたしの心の奥まで染み込んできてしまっていた。この言葉がすごく、すごく嬉しくてーーー気が付けばあたしは、竜くんに抱きついていた。
「お、おい・・・」
「ありがとう・・・!ありがとう・・・!本当に・・・本当にありがとう・・・!」
助けてくれてありがとう。あたしを妹と思ってくれてありがとう。そんな気持ちがどんどん沸き上がってくるーーーどんどん膨らんでくる。
「これからは・・・オレも、スグって呼んでいい?」
「・・・うん!」
あたしの頭を撫でながら、竜くんがそう聞いてくる。スグって呼んでほしい。一緒には暮らせないけど、彼と兄妹になりたい。もう一人のお兄ちゃんにも、そう呼んでほしいーーー
「じゃあ・・・」
これからはあたしもーーー
「これからはタメ口でいいよね?竜兄ちゃん!」
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