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ネフリティス・サガ

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第二話「竜の少年」

竜の女王は、それから何千年もして、誇り高い人間の王と結婚した。その恋は春のように吹きすさび、その愛は

冬のように降り積もった。語り部は歌いだしにそう語り継ぐ。

翡翠の国は、《古き盟約》古き盟約を伝えながらもう何千年という時を生きた。

 そして竜の女王と人間の王アル・イズウェルの元に子供が生まれた名をアルセイユ・イズウェル・エレスティ

アという。二人の名を一つずつとってなずけた。

 アルセイユは、きらきらした少年としてすくすくと育ち、エレスティアの竜の血のせいか髪は赤く燃える様で

した。日を浴びると透き通ってそれが夕焼けの黄金色にもにた色合いをかもし出すのです。 

 アルセイユが十歳になった。ある日だ。お城の誕生パーティで久しぶりに浮かれて楽しんだ夜のことです。

アルセイユは晴れて大人の仲間入りをしたとはまだ決まってないのですが名目上ではそうでした。しかし心の中ではアルセイユはまだ同じくらいの歳の子と遊んでいたかったし優しく美しいエレスティア母君に甘えていたかったのです。

 アルセイユは、少し目に涙の滲んだ顔ですやすや自分の部屋で寝ていた。アルセイユは成人したとはいえ、ま

だ子供、人寂しいのに広い王宮の部屋を一人ぼっちで使っていたのです。

寝るときには、天蓋付きのアルセイユがどう背伸びしたって届かないほど大きなベッドで寝て、朝は、剣の修

練に兵士に混じって稽古をし疲れ果てて城の中に戻れば王宮一の学者が英才教育を施す。でもアルセイユは必死

に頑張りました、なぜなら頑張れば自分の誕生日の時だけ母のエレスティアに会え、胸いっぱいにほめてもらい

抱きしめられ遊びに付き合ってくれるからです。しかしある時、エレスティア女王がアルセイユに会いに行った

ことがありました、アルセイユがいつにもましてその一人ぼっちの部屋でずっと青ざめた顔でその広い床を見て

いた時です。部屋の窓からは素晴らしいい風景が見え、誰もが憧れるような部屋だったのですが王妃が王妃はい

つもゆっくりとしかもまったく音を立てずまるで幽霊のように歩きます。それでいて物を見つめる瞳は見ている

ものを燃え上がらせるような激しさを持っています。

ちょうどその時もまるで誰も声をたてないでといわないばかりにそうやって死んだように床を見つめる自分の

息子を見つめていました。

そして物憂げな顔でしばらくアルセイユを見つめていました。

そして初めて音をたてたと言わんばかりに

「アルセイユ」と呼びました。

 アルセイユは弾かれたように声の方を見つめ、そしてそうしまいとするのですが涙が頬からこぼれてぐしゃぐしゃの顔になりました。

エレスティアの胸に痛く響くような鳴き声が城にこぼれました。すると見ていた侍女の一人がもうやりきれな

くなってアルセイユを抱きしめました。頬をすり寄せ自分の子のように抱き寄せます。

しかしアルセイユのお母さんと叫ぶ声は止められません。

その場で忍び泣く侍女も一人二人となって、

一人の侍女がエレスティアに言い放ったのです。
「エレスティア様。アルセイユ様はあなたがもっと自分に会いに来てくれることを望んでいるのです。エレステ
ィア様はいつも展望室の魔法望遠台で始終、万里の彼方ばかりを見ておられて自分のすぐ近くにいる。もっと自
分を必要となさっている存在をお忘れなのですか!私達は日にバターとパンにぶどう酒を買えるお金を充分に稼
ぐために愛する子供をおいてこの城に奉公に来ます。ですが私たちの子供にはおじいさんもおばあさまもおりますし仲間の隣近所の子供たちと自由に遊ぶことができます。それゆえ寂しさも忘れ、帰れば一日のことをそれはもう沢山教えてくれます。それなのにエレスティア様は!」

「母親失格ですか?」エレスティアは少し切なそうに眉を潜めて問いかけました。エレスティアの言葉は相手を
ハッと呼び覚ますような力があります。その侍女もその言葉に言葉を失くしてしまいました。

「それは!」

「そうでしょう、アルセイユ、この城にいてお前の心をいつもひしひしと感じているよ、私もどんなにかお前に

会いたくて今日ばかりはお前が本当に思いつめてるのを感じてきてつい、ここに来てしまった。そして一声、声
をかけただけでそのように泣きじゃくるお前を見ていて侍女たちの悲しさもこの城の冷たいくらいの静かで広い
空間もどんなにお前にひどい仕打ちをしているかよくわかった、だけどもわかっておくれ、私は、この国の百年
後も生きるし、そしてその百年後もそのもっと後も生きる。そしていつかお前が逞しく育つ日も今日と同じく見
ることになるだろう、いいかいアスレイユ、私達には龍の血が脈づいているのだ。一年が一分のように時はたつ
が、実際はその一年を普通の龍ではない人間のように過ごす、お前は今は若龍で育ち盛りだから時が立つのが早
くもありそして遅くも感じる。それは龍という生き物が人間のように百年ばかりの時しか生きるものではないからなのだ。お前の今日の悲しみも私の愛しさも年月をかけてゆっくりとお前の中に積み重なってそしてゆくゆくは一番よい形で心をそだてるのだ。アスレイユ、来なさい、今日は北方の空が透き通るように晴れ渡っている。こういう時、災いはやってこない。私は危険を感じたら、すぐさま、戦衣装に着替え、空を駆けて北方へ万里を駆けて行かなければならない。でも今はお前を力いっぱい抱きしめておきたい」
 アスレイユはぐずりながらも母エレスティアの胸に飛び込んだ。エレスティアは膝を折ってアスレイユをその胸に抱いた。
するとまるで魔法のようにそれまで青ざめていた顔はすっと赤みがさしてまるで元気で活発な子供の安らかな寝顔になった。
「お前たちにも迷惑をかけた、いつも城中をその明るさで満たしてくれているおまえたちも龍の子供の育ち方はいささか心に苦しいだろう。私達は子供に愛を与えすぎるわけには行かぬのだ。それだけの力と責任とそして理由があるのだ。龍の子供にとって愛は濃密すぎる。それだけで育てば良い龍にはなれない。
自制心のある誇り高い龍になるには厳しさも必要なのだ。甘えて育った龍は欲深く堕落し
人々を脅かす」
 すると先ほど、辛言をした侍女は、泣きなが、こういった。
「そうとは気づかず恐れ入りました。私達は日々お城で元気に働きます。この国の土はよい魔力がこもってここで育ったものは食べれば元気がわきますし人一倍強くなります。ですからいつも笑いを絶やさす仕事ができます。しかし王子殿下はやはり何か私どもの子供のような気になるものですから……」
「お前たちの笑い声が一番の魔法なのだよ、
城下も下忍に聞く限りでは活気が耐えず自分が影に生きることを忘れるくらいだという。
しかしね、こういう一番平和なときが一番、恐ろしいのだ。それが嵐の前の静寂なのかもしれないから」
「エレスティア様はいつも北方を見ておりますがどうしてなのですか?」
「どうもこのごろ北方から良くない噂が絶えないのだ。戦船を造っているとか得体の知れない自力で動く機械を造っているとか」
「私はそれよりもアスレイユ様のことが心配です。いくら我らとは生まれが違うとはいえ王城で城の者ばかり相手にしていては」
「そうだな、そろそろ。城下の町の子供たちとも遊ばせるべきだな、いやアスレイユはこれまで自分のことばかり気にかけてくれるものばかり好んで付き合っていたようで少し人見知りが過ぎると思っていた。近頃になって
ようやくそれが治ってきた。良い機会だ。アスレイユの城の外への外出を許す。ふふふ、ホントは言われなくとも王城を抜け出すくらいの気概が欲しいのだがこの寝顔を見てはまだ幼すぎるのだなと私も反省している。だがまあなんといっても龍の子供だ。同じ子供のようにはいかぬ、あまり、早くに城下のものと接してもそれが良いことばかりではないからな」
それからというもの、アスレイユはとても積極的になった。久しぶりに母の胸で眠ったことが彼の十年分の元気になったのか城を抜け出していろんなところに冒険しにいくようになった。 
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