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ネフリティス・サガ

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第三話「成人の儀」

そしてまた6年の月日がたってアルセイユが16歳の誕生日。

アスレイユは母に会えると朝からは大はしゃぎだった。侍女たちも世話に困るほどだ。

ところが今回は違ったエレスティアは真剣な面持ちでアルセイユを王子として扱い、王であるイズウェル王から成人の儀を受け、両手に剣を持たされ、翡翠の川から取れたミスリルの塊でその剣を太陽の剣とされる暁刀という日本刀に良く似た刀に打ち直さなければならない、と言い放った。その刀の出来具合で、本当の成人になれるかどうかが決まるのだ。つまりこの四年間はアスレイユの王子としての責務を果たせられるかどうかそれだけの人物になっているかの猶予というわけだったのだ。

ミスリルはとても珍しい鉱石で精神と肉体が一つになって炎に投げ入れなければ溶かすことも鍛えることもできない。つまり半人前の者はミスリルを操ることはできないのだ。

アルセイユは、父イズウェル王を見、そして現、翡翠の国の王妃であり、いにしえの竜の末裔であり大好きな母であるエレスティアを見た。

しかしその顔はいつもの父と母ではなくどこかまるで古い物語のいさおしに出てくる英雄のように厳かで威厳に満ちているどこか神秘的なまでの存在感を持っていました。

アルセイユは困惑した、いつもいたずらをして困らせている大臣や古くから続いてる貴族の御曹司にしてやんちゃが大好きでアスレイユのミネトンの森遊びにいつも何かと剣の先生、学問の先生に課外授業などと言ってアスレイユを連れだしてくれる剛毅なお兄さん。

それに家族のように接してくれる。召使やメイドの侍女たちや執事のハインリッヒなど。

みんな、いつもは僕が視線を向ければ穏やかに笑い返してくれるのに今日ばかりはだれも厳しい顔を崩さない。
アスレイユは泣き出しそうになったすると以外にも父イズウェル王は困ったように少し眉を潜めしかしやはり厳しく言った。
「どうした出来ぬのか?それではこれまでお前を親身に思いそして尽くしてくれたものへ何の礼儀もないと返すべき礼儀などないというのか?」
 その時、アスレイユの心にこの十四年間の生活がまるで走馬灯のように思いだされた。

 例えばもう歳なのに、遠いイムリスの村から自分に魔法を教えるために毎朝日の出る前に起きてそして王城まで歩いてくる王立魔導師のメルペルはいつも摩訶不思議な魔術を見せてくれる。

 彼がいつも口癖のようにいう自説のよれば良き魔法使いほど、俗世で上手くやるもので平素はその技でいろんな見せ物を見せて平和で退屈な人々に娯楽を与える。
 
 だから魔法使いほど優れた語り部も吟遊詩人も不思議な珍しい余興をする人もいないのだ。曰く彼らのいるところ神秘と笑いと感動に溢れている。
だからアスレイユはこの金縁の丸メガネをかけた老人がとても好きだった。
 
 しかし一方で一旦危機が訪れれば厳格な知恵者にもなる。そんな時には王であれ皇帝であれドラゴンであれ、彼の者の勇気を挫けるものはいないのだ。
 
 そしてそう、アスレイユの元には明るくそして笑いのたえない働き者の召使やメイドがいつも彼の相手をしてくれるハッとするような黒い目に、艶のある黒い髪。しかし陽の光を浴びるとその黒い髪はキラキラと光るそんな絵に描いたような美少年のアルセイユ。

 働き者で城下に夫や子供を持つ召使やメイドたちはこのかわいい美童を見るだけで抱きしめて頬ずりしたくなるほど愛おしく思っておりアルセイユもまた、気さくで明るい花のような彼女たちの笑い声に連れられていつも
彼女らと戯れている。アスレイユはそんな時、
彼女たちのいい匂いに母を思い出す。
 
 この城が彼女たちの笑い声に楽しそうに働く活気で絶えない日はないのだ。

 アスレイユは思った。改めて周りを見回した。誰もが厳しい顔をしているがそこには誰一人としてアスレイユのことを思わぬ者はいない。

 だがこれはこの国の王子が独り立ちするための崇高な儀式なのだから、厳粛に皆あえて厳しい顔をしているのだ。
アスレイユは、そして父王に一歩歩み寄り、そして剣とミスリルを受け取った。彼はこの試練に必ずや打ち勝ってみせるだろう。
刀鍛冶は一朝一夕でできるものではなく
 
 熟練の者でも至高の剣を作るには人生をすべて賭ける必要がある。
 
 それもアスレイユの鍛えあげなければいけない剣はミスリルでこのなんの変哲もない剣を最高の剣に昇華させなければならない。
ミスリルはあふれるばかりの精神によってのみ、炎の中で溶けるそして金属に混じる。

 そして鍛え上げれた刀がこの翡翠の国の世継ぎとなる記になる。そして晴れて成人したときアルセイユは王の位につき、「王の翡翠」とよばれる王家のみに受け継がれる伝説の秘宝を授かるのだ。
 
 さて、アルセイユは三日三晩身を清め精神の統一に入る。

 ここからは父イズウェル王が家臣であるマリオルという高名な賢者との対話からアルセイユの仕事を見よう。

「翡翠の国の王子は並大抵の者には勤まらないのにあのように若いいや幼いとさえ思えるものがまさかミスリル

を鍛えるというのですか」

「アルセイユはな、私の妻の血を引くものだ。

あいつは龍なのだよ。これでもかなりよい龍になった。あいつはみんなの温かい心を感じてそれで剣をとった。

あいつの心がミスリルに反映されればそれは剣ではなくなるかもしれん。優しすぎる。しかし弱いわけではない。

強くなった。わしにはあいつの成長がうれしい。この際、成人の儀などなんでもいいのだ」

「ですがやはりわたしは翡翠の国の次の千年を受け持つものとしてあのものは幼すぎると思うのです」

「マリオル、おまえも心の底ではもう納得しておるくせにやはり賢者としては厳しい物言いをせねばならないか」
「王様、戯れを」

 アルセイユの胸中には寂しさと愛情がまるで木の年輪のように積み重なっていました。

それは並大抵ではありません。

それも一人で炭に最適の木を捜し、そして国中を探し回って良質の砂金やら砂鉄を探します。

ついにそれも終わり、様々な金属を微妙な比率で調合します。アルセイユはずっとイメージしていました。自分の中の龍の姿を。
そしてたたらに鉄を注ぎ込み、ふいごをふかしそして最後にミスリルを流し込みました。

たたらから翡翠のように輝く光が放たれてそしてそれが最高潮になったとき。

アルセイユは重いハンマーでたたらを壊しました。すると一塊の緑に輝く熱いたまはがねと呼ばれるものができたのです。

そしてこれを打ち延ばしていくつもの工程を得て完成するのです。

そして一か月後の朝はアスレイユは見事な昇り龍の彫り物がある素晴らしい暁の太刀を
鍛えだしたのです。

ついにアスレイユはミスリルを操れるようになったのです。

 そばでそっと見ていたイズウェル王とその家臣は、驚嘆しました。
「あれはオリハルコン!」

「伝説の金属!」

王は居てもたってもいられなくなって息子のもとへ駆け寄りました。
「すごいぞ、よくぞ……ここまで!」

「夢中だったんだ、みんなの期待に応えたくて」

「ああ、ああ!よくやった。お前の剣だ、『アルセイユの剣』だよ!」

 オリハルコンは、至高の金属である。この翡翠の国では古来よりその金属のことを調べてきた。

エレスティアが言うには、その金属はみな同じような特性を持つが、オリハルコンの、その種類は数千種類に
上る。

イズウェル王は、その目で鞘から引き抜いたアスレイユの剣を眺めた。形は麗美な流線形で刃には独特の波紋

が浮かび、刀身は黄金色になにか輝きを放っている。

「見事だ。立派な暁の太刀、うむ、昇り龍に翡翠の石の紋か」

「でもなんだか僕にはまだ使えこなせないような気がします」

「オリハルコンは、使用者の精神力によって力を引き出す。おまえはまだ若い。よいか、

 感情をむき出しにしてとびかかればよいというものでもない。意志の強さだけでは絶対に越えられないものが精神なのだ。この刀の本来の力はお前が龍としても人としても大成したときに初めて引き出せる。最初から絶大な力を有するものは己を破滅に導く。力をつけることは大切だがもっと肝心なのは……」

「父さん、あ、いや父君、今はお説教はなしにしてよ。もうへとへとでベットに倒れこみたいくらいなんだから」
「お、おお。すまん」

「それじゃ、おやすみなさい」

「う、うむ」

 次の日、見事、成人の義を終えたアルセイユは翡翠の国の正統後継者として翡翠のペンダントを授けられました。これはエレスティアが諸国を旅していた時、それで翡翠の国の王妃だという証明になるもので関所などはすべてこれがあれば通れるのです。
 
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