寄生捕喰者とツインテール
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闇の支配者(笑)+ストーカー&ボッチ=末期
「へぇー……。なるほど、それで今はポニーアップとなっているんですのね、グラトニーさんは」
「……でも途中から、意味無くなった」
「【風陰東風】。姿どころか気配や痕跡すら残さず移動できる、だったか……なら確かに要らないな」
『つーか初っ端から其れ利用してリャ、それで良かったと今になって思ウゼ』
「確かにそうだよなー……」
慧理那と桜川教員が途中で加わり、恙無く始まった昼食タイム。
総二の手元にはちゃんとお弁当があり、グラトニーはグラトニーで自分の分を用意済み。
だが、折角だからと多めに用意された慧理那持参の、山海川様々よりどりみどりなオカズが詰まったお重もつついていた。
食べ盛りと超大喰らい二人なのだから、これでも充分過ぎる豪勢な食事だと言えるだろう。
それでも総二は午後の授業に差し支えが無いようにと、食べ過ぎない様に調整はしていた。
「此処に来れたのは良い、敵に対処するの容易いから。……前のままじゃ不安」
「そう言いつつ、オカズを頬張るのは止めないんだな……」
「フフフ、でも何だか嬉しく思います。それに名前の通りで、実に微笑ましいですわ」
『喰う量は微笑ましか無いけドナ』
「ああ、どんどん消えて行くぞ。これには私も吃驚だ……うん」
総二と慧理那、グラトニーの三人でテーブルに座り、桜川教員が後ろで待機しお茶などを注ぎ、ラースの含めて五つつの声がそれぞれ行きかい、他愛ない会話を交わしている。
「でもグラトニーがツインテールだった事に、理由があったんだな」
「ん。元々ツインテール属性、持ってない」
『お前さんなら分かってたんじゃねエカ? 少年。ツインテールの気配とやらは殆どなかっタロ?』
「あ、確かに」
「其処で納得するのが観束君らしいですわね」
「でも、観束の本音から言えば、やはりツインテールの方が良いんだろうな」
「え……えぇ、まぁ。というか姿変えれば、否応にもそうなるんだろ?」
『根本がそうだシナ』
髪型の事、日常の事、それぞれ話題を変えながら話は続いて行く。
……結局のところ今朝方の慧理那のお願いは本人に聞いてもはぐらかされてしまい、それでも此方にも非があると彼女は言い切り、ちょっとしたモヤモヤこそ残したが仲直りは出来たらしい。
まあ、そうでなくては、同じテーブルで呑気に会話しながら、昼食を共にはできないだろう。
―――――さて、ここで皆さんもお気づきの筈。
テーブル越しに言葉を交わしているのは、総二、慧理奈、桜川教員、グラトニー、ラースの五人だけ。
残るツインテイルズきっての武闘派と、変態思考名科学者の、大戦力である二人の姿が見えない事に。
で、その他二人である―――愛香、トゥアールはと言うと。
「わ、私の夢を……夢を返して下さいよおぉおぉぉぉ……!?」
「……さっきまでのあたしって一体……傾きかけてたあたしって一体……?」
二人全員仲良く、そして漏れなく orz と床の上で項垂れていた。
神が両者ともに床に付き、四方へバラリと広がっているが、食事中の者ら含めてそれに頓着する人間はいない。
……そも、二人の落ち込み様は酷いの一言に尽きるが、理由が酷過ぎる故に同情しがたいのだ。
トゥアールは元々の計画が余りにも邪な為、『見通しが甘かったなザマア見ろ』しか言いようがない。
愛香にも正直『声を掛けようがない』で終わるのが関の山だろう。
極論、身も蓋も無い事を言ってしまえば、近年稀にみる “私欲剥き出し・おバカ頂上決戦” の結果がコレでした、としか言いようがないのだから。
「……早く食べよ? 時間無くなる」
「つーか現在進行形でどんどんオカズが消えて行ってるけどな」
グラトニーと総二の催促に、流石にこのまま落ちこみ続ける訳にもいかない思ったか愛香が立ち上がる。
一瞬『夢壊した奴が何言ってんの』と言いたげな目でグラトニーを睨みかけていたが、良く考えなくても自業自得な為、グラトニーに対してアクションは起こさなかった。
「食べます食べます!! さあグラトニーちゃん、快楽の渦に巻き込んであげますからねぇえぇええぇぇえぇっ♡」
代わりにどこぞの変質者がアクションに巻き込まれ、銀色の竜巻と化したのは言うまでもあるまい。
「勿論私も食べるわよ。時間少し無駄にしちゃったしね……あ! グラトニーそのカレー春巻き、残しといて! 私も好きなのよ」
「……りょーかい」
「嫌に言う事を聞くのだな。もう少し抵抗すると思ったぞ?」
『協力してくれる礼って奴ダヨ。下心はそんぐらいダゼ』
「でも他の食材に対しての欲は全開だよな……」
それでも部室内に、平和でのほほんとして空気が流れているのも、また言うまでも無いことだろう。
愛香が椅子に座ってオカズを皿いっぱいに取り始め、グラトニーは最早山盛りになるぐらい取ったからか頓着せず、慧理那が桜川教員からお茶御貰って飲み少しずつ食べ進め、総二はその様子……もといツインテールを嬉しそうに眺める。
トゥアールが殴られ回転し、爆笑しそうな転倒劇を繰り広げ、失笑しそうな絶叫を重ねて上げる。
戦前の一時として、このような平和は必要不可欠……なのかも、しれない。
「い、今私の存在価値をリアクション芸人みたいに、それに近しいみたく語られた気がしたんですが……ガクッ」
―――地の文を読まないでいただきたい。
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平和に平和を更にかけ合わせた様な、穏やかな空気とは無縁の、闇の如く真っ黒な“絶望”。
今のアルティメギル基地に漂っているオーラは、その言葉が適切に思えるほど、圧倒的に士気を失っていた。
しかしそれらもまた、ツインテイルズ及びグラトニーの手によって齎された物だと、基地内には広がっている。
直接対峙したであろうダークグラスパーもいると言うのに、一体何故そうなっているのか。
……もしかすると、不用意な混乱や、一層の士気低下を避けるためかも知れない。
だが例えどちらだろうと、彼等にとっては何の変わり映えも齎さないだろう。
ただ、敬愛し尊重すべき隊長達が三人も葬られ、自分達よりもはるか上に位置する実力者が、未だ世界に鎮座している―――その事に変わりはない。
ツインテイルズであろうが、グラトニーだろうが、そして単純感情種であろうとも、実力差を覆しようがないのだから。
一応作戦会議……と言う名のテイルレッド観賞会を催す会議室には、ある種痛々しい沈黙に包まれる。
「いいから読んでみよ! 一行でも目に映したその瞬間、貴殿の心の中に楽園が広がろうぞ!!」
数少ない戦気に燃える者と言えば、修業中のスワンギルディや一部のエリート各な猛者共、そして今しがた詩集を配ろうとしているフクロウ型の怪人のみ。
……場違いなぐらいやる気滾る声が、何とも空しく響いていた。
「済まないがオウルギルディどの。我の楽園は耳たぶにこそあるのだ」
相変わらず、大分お馬鹿な返しで非常に分かり辛いのだが、話にがたの怪人の声には余り覇気がこもっていない。
自分の性癖をただ吐露しただけの様だ。
……こうして書くと気落ちしている彼が、単なるピンポイント&ニッチな変態さんだと説明している様に思えてしまう―――いや実際そうなのだが。
「ぬうう……これさえ、このポエムさえ読めば……! 打倒ツインテイルズ、グラトニー討伐への鋭気を養えるというのに……!!」
ヤル気ある物とやる気失せた者の温度差が激しい所為で、目を通す事はおろか話を耳に入れてすら貰えない。
フクロウ怪人・オウルギルディは、“嘴”で“歯ぎしり”すると言う、何とも奇妙で器用な行いで屈辱を現した。
失った戦意を取り戻している事はアルティメギルにとっては喜ばしいことであろう……けれどもたった一人で、しかも空回りしていては意味がない。
そうこうしている内にスクリーンが用意され、モニター内にテイルレッドが大写しになった。
「「「おぉぉおおぉぉ……!!」」
少年のような純真さ溢れる、感嘆の声がそこかしこで上がる。
……声は酷く野太いが。
「やはり美しい……」
「女神か……やはり女神なのか!」
「美と言う言葉がこれほどに似合う者など、他におるまい……!」
「否、美と言う言葉すら陳腐で有るぞ……彼女にとっては」
これだけ聞くと一国の王女や、世界一の美女でも見ているかのように思えてしまう。
されど言わずもがな、画面に映っているのは紛う事無き 幼女その人。
幼女が大剣をブンブン振り回し、またファンに抱きつかれ泣きだす。
ゴッツい男どもが涙を流さんばかりに打ち震え、また眼を血走らせて凝視している。
別に剣を使っているからこうしよう、彼女の弱点は此処だろうか、だのと作戦を考えているなら良い。
だが作戦とは名ばかりのテイルレッド観賞会である―――しかも二時間延々と。
更には同じシーンのループやMADもあり、どれは繋ぎ目がかなり自然な出来栄え、所謂一つの神編集動画となっていた。
……武器すら研がず、一体何に労力を費やしているのだろうか、この変態共は。
「次にテイルブルーだが……」
仮に総二本人が居たなら精神的被害で発狂しそうな動画が漸く終わり、ツインテイルズの内が一人・愛香の名前が挙がった。
平時で有ればグラトニーに次ぐ戦力を誇り、力と技を十二分に備えた、言うまでも無い強敵。
ツインテール属性も高く、侮りを持って挑むなど愚の骨頂と言える相手だ。
何よりアルティメギルに容赦がないのは言わずもがななのだし、ツインテールに拘り過ぎて視野が狭まるテイルレッドよりも、ある意味警戒すべき者だと言えよう。
つまり、彼女の動画こそ凝視して然るべき―――
「早回しで構わぬな」
「是非も無し」
「うむ、異論は無い」
―――でも普通に十倍速ボタンが押された。
戦力的被害は普通に大きいのだが、まさか如何でも良くなっているのだろうか。
……それとも単に愛でる要素がないからか―――即ち阿呆か。
音も無く早送りの音だけが耳に入る中、ツインテールは良いのにな、と言った呟きだけが漏れ聞こえる。
「次は新たなる戦士、テイルイエロー……コイツはまた癖者の様でな」
雨霰に雷の銃弾を撃ち放つイエローの姿が大写しになり、流石に新参者だからか早送りはしなかったものの、代わりに非難の声が彼方此方から上がった。
「何と! 何故脱ぐのだ!」
「絶対領域を愛する私からすれば、最早魔神の体現者に他ならぬ!!」
「しかも恥じらいがまるでない……これをどう愛せと言うのだ!」
「邪道め! 頬を周知で赤らめないとは何事ぞ!!」
「これ程まで祝福を受けておきながら、何故進んで溝沼へ捨てるのだ……!」
―――如何も情緒が欠片も無い脱衣を非難しているご様子。
他に何かなかったのだろうか?
……銃撃主体なのに前に出るとか、出撃回数が少ないのに早くも仲間に迷惑を掛けまくっている事とか。
「恐らく敢えて辱めを自らに課しているのではないか?」
「なんと! アルティメギルの五大試練を、この者は戦中に実行していると!?」
「深き覚悟を持った戦士だとは……侮れぬ」
実際は露出狂のドMが脱ぎたくて脱いでいるという、某・稲妻11も吃驚の超次元理論なのだが、そんな考えに行きつく彼らではない。
……いや行きついて欲しくも無いが。
「ブルーとイエローについて、充分に研究が出来た。そして理解したぞ……やはりテイルレッドを存分に探求すべきだとな」
「うむ! 正にその通りだ!」
「十二分に時間を掛けねば、彼女の魅力を深淵まで理解できぬのだからな」
再び始まるテイルレッド観賞会。
半泣きの姿がアップになり、『おおぉぉおおぉぉお……!!』と数時間前と何も変わらない野太い声が会場を満たす。
……そしてグラトニーが地味に省かれていた。一番に研究すべきは捕食者である彼女だろうに、何故また観賞会が開かれているのやら。
やはり“可愛い”が一番なのだろうか……やっぱりお馬鹿なのか。
数時間にも及ぶテイルレッド観賞会もやっと終わって、次は如何やら配給品を配るらしく、戦闘員がエッサホイサと矢鱈大きな箱を持ってきていた。
「これより闘いに備え、テイルレッドフィギュア1/20を皆に支給する! 順番に並ぶが良い」
ゴッツい怪人達がピシッと両手を揃えて達、お行儀よく律義に一直線に並ぶ。
その余りに矛盾した様は、何とも滑稽かつ茫然となる様相を醸し出している。
……というかフィギュアで一体どうやって闘いに備えると言うのか。脚の部分で相手の目を突き、眼つぶしでもするのだろうか?
実に地味である。……否、そもそも決まる訳無かろう。
やがて彼等全員の目の前に、実に良い笑顔をしてテイルレッド(のフィギュア)が佇む。
……この状況を限界まで耐えていた人間が見たら、嘲笑っているようにしか見えないだろうが。
しかし悲しいかな、機械で精密に作られてはいれども、仕上がりには個々でバラつきがあった。
「まてい! 我がフィギュアを見よ!ツインテールの塗装が不完全ではないか!」
「何を贅沢な! 俺のフィギュアなど目の位置がずれておるのだぞ!」
―――なら騒がず返品でもしてください。
「よ、鎧の淵に墨を入れて立体感を出さぬなど……! 何と言う手の抜きようか!!」
「ええい誰か筆を貸せい!! 自ら手直ししてくれるわ!!」
―――なら叫ばずさっさと塗って下さい。
「俺のフィギュアはダメな部分が多過ぎる……何故これを仕入れたのだ!」
「責任者は誰だぁ!!」
今目の前で行われている騒乱は……第三者が目撃していたならば、思わずつっこみが抑えきれなくなる光景だった。
何せ大の男達が散ったい女の子のフィギュア片手に、本気で乱闘を起こしているのだから。
……ロボットホビーで遊ぶ子供なのか、コイツらは。
そんな見苦s―――けたたましい騒動の中に、他二名ほど混ざっていない者が居る。
一人目は先のオウルギルディ、もう一人は……古参の将であるスパロウギルディだった。
「最早、此処までかもしれんな……」
そりゃあフィギュア片手に馬鹿騒ぎをしているから当たり前―――などと言った理由では(残念ながら)なく、彼が悲嘆しているのは戦士達の目の輝きに合った。
これまで幾度も世界へ侵攻してきた、彼だからこそ分かる。
同じ騒ぎを起こすにしても、フィギュアを持つにしても、観賞するにしても……あのツインテールを絶対に手に入れてやる! と言う、強き輝きが彼等の目の中へ常時灯っていたのだ。
だが今はどうだろうかと言われれば、スパロウギルディの答えは一つ。
―――輝きは殆ど失われている―――
これに他ならない。
……傍から見れば輝いてようが無かろうが、ロリコンな変態共の乱痴騒ぎ以外の何物でもないけども、スパロウギルディの見る景色は違う。
戦意など失い、体裁を取り繕う為だけに会議を行うその様は、もう末期寸前以外の何物でもないのだ。
加えて今回の会議はグラトニーを完全無視。
一番に警戒して然るべきものを省くなど、怖れから目を逸らし逃げ続けるのと同義。
それは戦士にとって、一番恥ずべきものだと言うのに……。
(……これまでか)
手を組み沈黙するスパロウギルディが、力なく瞳を閉じた。
「一同、控えよ!!」
「「「!?」」」
その諦観の空気を、そして乱闘の熱気を、たった一言で何者かが消し飛ばす。
その場には似合わぬ女性の声であったのだから、寄り彼等の動きを止めるには効果的だった。
「な、何奴!?」
ホールの入口……そのには見慣れぬ戦士が仁王立ちしていた。
今まで総二達の世界を襲っていたアルティメギルのエレメリアンは、誰も彼もが動物の造形だった。
脊椎無脊椎に関わらず、一定の法則性を持っていたのだ。
されど入口に立つ彼の姿は―――“蝶々”。
更に後ろから現れる“蟷螂” そして蟻。
三将共に、今まで一度も出てきてはいなかった、『昆虫』の姿を持っている。
誰もがその異質さの戸惑う中、いの一番に声を上げたのはスパロウギルディであった。
「まっ、まさか彼は、アルティメギル四頂軍が内一つ美の四心の戦士……! あの方直属の部隊の……!!」
「スパロウギルディ殿、あの方とは……?」
一人の戦士の問いにスパロウギルディが応えようと振り向き―――しかしその口は噤まされる。
行き成り昆虫戦士達が傅いたかと思うと、恐らくはその《あの方》であろう者が、ゆっくりと靴音を立て入室して来た。
その者の姿に、皆が再び絶句する。
何故ならば、其処に佇む“それ”は、何とダークグラスパーであり―――
見紛う事無き《人間》の姿をしているのだから。
「ツインテイルズ!? 黒の戦士が現れたのか!」
「それともまさか、グラトニーと同類か……!?」
そう思ってしまうのは無理もない。何せグラスギアを纏ったダークグラスパーの姿は、ツインテイルズと酷似している。
更に一対の角やマント、尻尾の存在が、グラトニーの様な異質なエレメリアンをも連想させたのだから。
「否、我が名はダークグラスパー。アルティメギル四頂軍が一つ美の四心を開いたが得る者であり、アルティメギル首領の意思を伝える者!」
その言葉で疎らだったざわめきは、部屋中へ一気に広がった。
「これよりこの舞台はわらわが指揮を執る! これは首領様の決定、故に反論など許さぬ!!」
不遜さをたっぷり交え、ダークグラスパーはそう言いきる。
どうやら単純感情主の存在が知られていなかった理由は、まだ彼らと顔を合わせていなかった為らしい。
……だが彼等は元来、人間と争う者たち。
顔御合わせたとて、当然素直に歓声で迎え入れられる筈も無い。
「畏怖の対象たるダークグラスパーが貴様のような小娘だと!? ふざけるな! 信じられるものか!!」
「ツインテールの美麗さ、見事なる造形、それは認めよう! しかし落ちぶれた我らとて、人間に手綱を握られるほど墜ちてはいない!!」
爆発の如く膨れ上がり飛び交う彼等の怒号を……しかし意も返さず、ダークグラスパーはスパロウギルディの方へ歩いて行く。
「ツバメよ……かつて見た覚えある顔だが、まさか今の指揮官はお主か?」
「はっ。ドラグギルディ様の参謀であったが故。しかしあなたが直々に指揮を取られるとは」
「理由は知れておろう。ポーンばかりでキングを取るなど、正しく愚の骨頂だからのう」
最後の一言はスパロウギルディへではなく、明らかに周りへ向けて放たれた物だった。
だからか、一度は熱の冷えたホール内が一触即発の空気に包まれる。
しかし彼女の対応は、また変わらなかった。
「不服ならばわらわに反旗を翻してみればよい……誰でも良い、属性力を奪って見せよ」
一見、昆虫型エレメリアンも連れずに無防備に歩いて行く彼女だが、裏を返せばそれだけ己が実力に自信があるだけの事。
達人との実力の開きを感じられない程、彼等は墜ちた愚か者ではなかった。
「……使えん。やはり一端の『兵士』揃いでは、敵の頭足る『王』はとれぬな」
……愚か者ではない。
だが彼らにも意地と、プライドがある。
我慢出来ぬと……それでも、先とは違う鋭気に満ちた声が上がった。
「兵士を舐めるな! 盤面を埋め尽くせば王にも届き、敵陣へ切り込めば騎士とも成れるのだ!!」
「名のみ知れた処刑人が割り込んで来る事こそ可笑しいのではないか!? 宛らチェスの中に色だけ似ていると碁石を放り込むようではないか!!」
その発言は強く、強く……素晴らしく熱気に溢れた、兵士なりの意地の発露。戦士としての矜持あふれる姿を見せつけていた。
……手にテイルレッドのフィギュアを握りしめて居なければ、よりもっと。
そんな彼等を見て、ダークグラスパーは口角を上げた。
……多分、フィギュアを握りしめながら決意の一言を行った、そのお間抜けさに笑っている訳では断じてない―――と思う。
「覇気のない連中かと思うたが……フッ……その気概、気に入ったぞ!」
そして何処からともなく取り出されたのは―――年季の入った黒い携帯電話だった。
「鋭気を見せた褒美だ! わらわのメールアドレスをくれてやろう、形態を出すのじゃ!!」
刹那、ホール内が静寂に包まれた。
先までの盛り上がりが、夢幻の如く唐突にしぼむ。
皆の顔には漏れなく『え? 何で?』 と書いてあった。
「どうした! わらわのアドレスを欲する猛者はおらぬか? それとも赤外線通信機能すらついていない骨董品しか持ち得ぬと言うのではあるまいな!?」
百八十度ねじ曲がった話題からの、余りに場違いな非難だが、それを受けて尚酷いまでに無言を貫く。
スパロウギルティも無言を貫く。
「ええいパソコンのアドレスでも良いわ! エロゲ-は嗜んでおるのだろう!? ん!?」
三度、無言。
……もしかすると、属性力を感じ取れる彼等だからこそ、彼女の『イースナ』としての危うさを感知したのかもしれない。
まぁ、誰だってストーカーと連絡先など交わしたくは無い。
メールを数分に何十通も送ってくるなら尚更に。
そのままダークグラスパーが皆の背後を巡っていくも、何故か携帯が壊れて居たり、持っていなかったリと、誰も交換など出来はしない状態だった。
無言の時が、十分、二十分と過ぎ去っていき―――
「ええいもう良いわ腰抜け共!! とにかく今から此処の部隊の指揮官はわらわ!! 気に入らぬなら首を取りに来るが良い!! 勇気ある者に漏れなくメールアドレスをくれてやる!!」
―――堪忍袋の緒が切れたとばかりに肩を怒らせ、ダークグラスパーは大股で会議室を出て行った。
少なくとも、今怒られるべきは彼らではないと思う。
そんな粘っこい空気から解放された同情すべき彼等は、腰が抜けたみたく膝をつくのであった。
彼等にとっての脅威は、まだ一時的に去ったばかりだ。
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「イースナちゃんはホンマに友達作りが下手やなぁ……」
部屋へと戻り、ダークグラスパーからイースナへ戻った彼女へ、アイドル声優の様な女性の声が掛けられる。
まさか女性型エレメリアンなのかと顔を向ければ―――おそらく、絶句必死な物が其処に佇んでいた。
何せそこに居るはエレメリアンと同等の巨躯、ふくらはぎの方が太い脚、ツインテールを模した飾り、そして金属で形造られる『ロボット』だったのだから。
そんなロボットが少女声で、しかも頑張ってキャラを作っている感満載の関西弁で喋るモノだから、驚かなければウソだろう。
「あ、あいつらがいけないん、だもん……ちっちゃな女の子のフィギュア握りしめて、私のアドレス何か身向きもしない……い、嫌な奴等」
眼は忙しなく動いて一点を見つめず、時折切れてつっかえる言葉は明らかに口癖でも何でもない。
「というか、何でウチも紹介しててくれなかったん? 内は皆とすぐ仲良うなれるから大丈夫やで?」
「あいつ等は人間の女に興味ないから……あなたに親近感がわくだけ……だから、だ、駄目なの」
「そうやって距離取っとったらアカンて。こっちから歩み寄らんと」
「私は歩み寄ってる、もん。……あいつ等の方が……」
……客観的に見てイースナは歩み寄ってすらいないし、そもそもの歩み寄り方が間違いなのだが、それに気付こうとはしない。
いや、気が付けたならこうはなっていないだろう。
「しゃーないなぁ……なら、ホレ」
そう言ってロボットが差し出したのはQRコードの描かれたシール。
そのコードの中身は、間違いなくイースナのメールアドレスだ。
「これを好きな物と一緒に渡せば、きっと好感してくれる。自信持って実行するんや」
「好きな物……」
それなら好都合だろう、何せ部屋中にエロゲーが有るのだ。
己々好みの属性を抜き出したものですら、容易にそろえられる筈だ。
「流石メガ・ネ。頼りになるモテ女」
「その略仕方止めてて言うとるやろ。メガ・ネプチューン=Mk.Ⅱて格好いい名前あるんやし」
「……長い」
「それ名付け親が一番言うたらアカン台詞やで!? しかも一代目なのにMk.Ⅱって何でやって突っ込みも戦闘け入れてるのに!」
一頻り漫才のようなやり取りを交わした後、コミュニケーションが苦手な物特有の卑屈な笑いを浮かべるイースナ。
「イースナちゃん、ちょっとええか?」
そうして―――行き成り、メガ・ネプチューンが問うた。
……その声は真剣で、先までの遊びは何処にも無い。
「何でグラトニーとか、あの炎の奴の話とかせえへんかったん? 結構重要な問題な筈やけど」
それは間違いようも無く、単純感情種達の事を言っていた。
確かに脅威でしかない彼等について説明しないなど、士気の低下を防ぐため以外には特に理由が見当たらない。
それに一時的に危害がそがれるとしても、何も知らないよりはマシではなかろうか……そう考えて、メガ・ネプチューンは進言したのだろう。
「あいつ等に関してはま、まだ早い。対抗できないのにお、脅えていても……無駄、だから」
「まぁ、イースナちゃんがボコボコにやられる相手やし、どうしようもないのに気張ってても仕方ないのは分かるんやけど―――でもそれって同時に、他の皆を犠牲にして様子見するって事やろ?」
「……必要な犠牲だから、り、理解してメガ・ネ」
「だからその略し方止めてって」
必要な犠牲と言う言葉を、何の感慨も無く発したイースナに、メガ・ネプチューンの瞳の発光が微かに弱まった気がした。
「それに今大事なのは……何時か本当の私があの人の前で、わ、笑えるようになる事」
「なら他に人で練習せんと……」
「笑えるのは……あの人の前だけでい、良いから」
またも微かに光が弱まるが、イースナはそれが目に入っていないのか頓着しない。
「が……頑張ろうメガ・ネ。支配者として、この世界に眼鏡を、ひ、広げてやる。体も心も全てをし、支配してやるんだから……」
「そうやな」
眼鏡が世界を揺るがすという、前代未聞の珍事が、今脅威としてツインテイルズの目の前に迫っていた。
だが―――
「[アアアアァァアアァァァ……]」
「……ギ、ギチチ、ギチ……!!」
「“――――ッハ””……カハァ……”」
―――本当に『脅威』と言えるのは、果たして彼女の方なのだろうか……。
後書き
でた! アルティメギル四頂軍!! 驚異の宿敵達っ!!!
……でもサーストからすれば、多分ザコと何ら変わりないんだろうなーって言う……虚しい。
あと単純感情主を放っておく理由……特にトゥアール関連が酷いですが……やっぱりアルティメギルだからなぁ……。
そしてやっぱり、ただの失笑劇じゃあ終わらない……押し寄せし驚異とは一体?
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