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寄生捕喰者とツインテール

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またも登場、奇天烈な話題

 
前書き
久しぶりの更新ですね。
お待たせしてすみません!

では、本編をどうぞ! 

 
  
 太陽も山の影から顔を除かせ、スズメが囀り飛び立つ頃。

 
 慧理那に迷惑をかけてしまったという罪悪感からか、総二はその後如何謝ろうか悶々と考えてしまい、結局登校時間近くまでボ~ッと過ごしてしまう。

 制服に着替えた己の身体が、鉛と化した様な精神的負荷で足取り重く、肩を落として階段を下りリビングに辿り着いた総二。
 ……そこでやっとこさ、可笑しな事が起きているのに気が付く。


 それは総二以外の全員が揃っているのに、談話もなくシーンとしている事だ。


 何時もならば愛香とトゥアールが、暴力に罵倒にとやんややんや大騒ぎし、グラトニーまで加わったのだからより一層ヒートアップする筈。
 なのに、不気味なぐらい静か。
 頭の切り替えが済んだからか、総二の顔にも不安だけでなく疑問が浮かぶ。

「そうちゃん、ちょっと来てみなさいよ! すごい事になってるわよ?」
「……すごい事?」

 何時もTVでいじり倒される自分の姿は最早定番で、彼もまた何時ものソレだろうと呆れながらも、言われるがまま画面を覗きこんだ。

「な……!? つ、ツインテイルズの映画化って……しかもハリウッドォ!?」

 そして予想の外を悠々と行く、思わぬ急報にテレビ画面目掛け、身を乗り出してしまった。

 昨今フルCGの映画は珍しくないし、アクション映画でも要所要所に取り入れれば大概の場合は何とかなるだろう。

(でも、ネックは其処じゃあ無くてさぁ……)

 そう、問題はそこではなく、かといって細々としたモノですらなく―――ずばり、テイルレッドそのものの“容姿”にある。


 小学校低学年でも通用する幼い外見なら、当然役者だってそれ相応の子役である必要が首を擡げる。 しかし、人外の腕力で大剣をブンブン振りまわすならCGで誤魔化せるから兎も角として、他の豪快なアクションなどその歳の少女が出来るものでは到底無かろう。
 縦しんば出来たとして、台詞回しはどうするのだろうか。
 もしかすると、その歳で既に片鱗を見せている、天才子役が抜擢されるのかもしれないが……。

 突飛な方向へねじ曲がらないか、不安に思う総二を余所に、キャスティングが発表された。

「……ねぇ総二。この人、世界的なオスカー女優じゃなかったっけ? もしかしてそっくりさん?」
「……いや、残念だけど、っていうか俺も否定したいけど……多分見間違えじゃないと思う」

 何と幼いテイルレッド役に選ばれたのは、妙齢の美人女優。
 その後英語で語られた意気込みに合わせ、日本語の翻訳テロップが画面下に流れるが、やる気十分といった感じの翻訳に対して女優本人の顔はかなり苦々しいものであった。

「……仕事、受けなければ、いけない……ぶっちゃけ、ファン。でもツインテール、したくない……」
「なあトゥアール……」
「はい、グラトニーちゃんの翻訳で大体あってますよ。テイルレッドは好きだけど、髪型は真似したくないって感じですかね」

 ブツブツ呟かれるグラトニーの翻訳に、やるせなさ全開な表情でトゥアールが補足を入れた。
 万色のツインテールを愛する総二でも、嫌々その髪型に変えている者を流石に許容できないか、溜息を吐いている。

 彼風に言葉を借りるならば、表情ではなくツインテールに気持ちが表れてしまっている、といった所だろうか。

 彼に感化されたか愛香も其処まで言い表情はしておらず……結果的に総二の母である未春だけが、某カーニバルよろしくはしゃいでいた。

「制作決定だけで此処まで大体的に報道するんだから、世間からの期待だってバリバリ大きいと見ても良いでしょ!!」
「期待よりも被らない様にと、牽制の理由が大きいんじゃないでしょうか? こういうのって基本、早い者勝ちですし」
『つーかヨォ。殆ど世間一般の価値観ばッカ、映像だって情けねぇ姿の映像ばっかだろウガ。碌な映画にゃならしねぇと思うガナ、俺ァ』

 ラースの意見に対し、総二は自分もそう思うとばかりに強く頷いた。

 と……そんな会話を交わしているうち、テイルレッド役に(強引に)決まった女優へのインタビューを終え、次はいよいよテイルブルー役が顔を出す番が来ていた。

 一般の目線から言って、つい最近顔を出し始めたイエローや、レッド以上に謎だらけなグラトニーは兎も角、数戦目の同時期にすぐさま現れたテイルブルーは流石に投入される筈だろう。

 では一体誰が演じるのだろうかと皆の視線がテレビへ向き―――今まさに現れたベテランアクション男優の下へ、テイルブルー役とのテロップが振られた。




 ―――もう一度言おう…………ベテランアクション()()の下へ、振られたのだ。



 有り得ないその事実に一瞬皆が―――あのトゥアールでさえもテロップの不備を疑ったが、その疑惑を根元から払拭してくれる様な事実が即座に突き付けられる。

『監督からやってみないかと言われて、とっても嬉しかったんだ! 何せ、僕は前々からやってみたいと思ってたんだよ! 確かに筋肉は彼女よりモリモリだし、身長も高めだけど、他の所に差はないと思っているからね!』

「グラトニー、翻訳は―――」
「……必要無し。そのまんま」

 画面の中でも満面の笑みで、歯を煌めかせて力コブまで見せつける始末。
 女優の対応に反し、コッチは“超”が付くぐらいノリノリだった。

 その後女子アナが、『テイルブルー役の彼はウィッグではなく自らの髪を伸ばしてツインテールにする』との情報を告げ、総二は不覚にも見てみたいと思ってしまっていた。
 いや……総二に限らず、誰だってソコまでのこだわりを見せられれば、ツインテールが好きか否か関係なく大なり小なり気になってしまうかもしれない。

「お腹が捩れて何か飛び出すううぅぅううううぅぅぅ!!??」

 ……後方でまたも響く、悲痛なる絶叫。
 それはもしかしなくとも、トゥアールの口を滑らせた自業自得と、愛香の常識無視な暴力の織り成す、何時も通りな殺傷沙汰一歩手前の惨劇の音だ。
 それを横目に総二はトーストを一口齧りながら、ハムや卵などを挟んで数枚いっぺんに頬張ったグラトニーへ視線を移す。

 ―――特に何か意味がある訳でもなく、ただ単純に、そっちの方が見ていて気が安らぐからだった。

『続いては! 最近人気の人物に付いてピックアップ、更に細かく紹介していきましょう!』

 衝撃的な光景を生む原因となった、衝撃的な報道も終わり、次は新人アイドル紹介のコーナーに変わる。

 まず最初に野球選手と思わしき男性、次に作家だとテロップに記されている女性。
 そして三人目に挙げられて、画面中央に固定されたのは……メガネをかけた黒髪ツインテールの少女だった。

「おおっ!」

 先までテレビ画面へ視線を向ける事を鬱陶しがっていたのに、彼女が映るや否や条件反射というのも愚かしい、超反応で総二が釘付けになる。

「……」

 グラトニーの目が半眼になる。

「いいツインテールだな。うん、本当に良いツインテールだ……磨きこまれてるから、流行に乗っかって無いのが分かる。あの子はブレイクする気がするぜ」
「何また意味不明な事言ってんのよ……?」
『ハ、世迷い言ほざきながら飯食ってんじゃねェヨ』

 愛香とラースの突っ込みもどこ吹く風で、総二はテレビ内のアイドルに見入りっぱなし。
 ……とはいえラースは突っ込みつつも、最近出て来る話題作りの為にツインテールにするアイドルと違い、確りツインテール属性が存在しているのを画面越しにだが理解していた。

 その後、どうもツインテールだけでなく―――というか元からツインテールよりも、メガネを売りにしたアイドルらしく、コンタクトやメガネ関連の軽い話題振りに毒舌で返したり、曲の名前すらも“眼鏡プラネット” と付いており、とことんまで『眼鏡』という要素を売りに出しているのが分かる。

 それでも強いツインテール属性が芽生えているのか、総二は彼女から視線を離さない。
 目が離せない事を、ついつい目が向いてしまう事を…………いっそ『怖い』と思える程に。

(……な、何かおかしいな……? 普通に良いアイドルだってのに……この後ろめたさは、何なんだよ……?)

 敢えて強くそう思う事で一旦打ち消そうとはするものの、彼の心の中に僅かな音量で鳴らされる警鐘は、依然として止まないのだった。

















 総二達が学校へ向かうべくと出て行ってから、グラトニーは観束家の屋根の上に腰かけて、日向ぼっこをしていた。

『一応、休みが長引く事は伝えたんだヨナ?』
「……ん、新垣瀧馬の休み、伝えた」

 元が男子高校生である瀧馬である為、何の連絡も無しに通わなくなっては不自然だと、電話越しに幾つか家族などを装って、休みが長引く事を伝えて居たらしい。


 尤も担任が、『面倒臭い事、大嫌い』が代名詞の樽井教員であった所為で、半ば改竄をえてしまった結果になった様子だが。


『相棒、お前の親はまだ戻らねぇのカヨ?』
「……数か月開ける事、ザラ……別に珍しく無い」


 言いながら嫌そうな顔をしているのは、愛されていないから―――ではなく、寧ろ帰ってきたら異常なほどベタベタ纏わり付いてくるから。
 なので、そのウザったさから顔を顰めて居る……そういう理由だったりする。

 邪険にされるよりはマシだとしても、髭面親父と長身女性から思い切り抱きつかれると言うのは、年頃の男子高校生からすれば、鬱陶しい以外の何物でも無かろう。

 勿論人による部分はあるが、瀧馬―――グラトニーにとってはほとほとキツくなる抱擁であるらしかった。

「ふぅ……」

 確認の為とそんな言葉を二つ三つ交わしてから、また無言でグラトニーは日向ぼっこへと戻る。


 何もやる事がないのだし、喫茶店は『アドレシェンツァ』はまだ開店前。
 テーブル吹きなどは事前に手伝い終えてしまい、残りの仕込みはグラトニー及び瀧馬にはレシピなど見ても実行不可能。
 加えて鍛錬しようにも、メンテナンスの所為かエレベーターが動かないので地下のトレーニングルームへは行けず。

 つまるところ何処にも場所が無く……また動かなくともいい訳ではないが、されど出来るならば平時は回復に努めなくてはならない現状況。

 ―――なのでその結果、自然とこうなってしまったのだ。

 ……言いつつも腕の時計を気にしている辺り、元の中身(瀧馬)中身(瀧馬)なのだから、開店後の店の手伝いは一応する気な様子だ。
 とはいっても(珍妙な)固定客ありだという事と、単純に店側の都合もあり、昼近くにならないと明かないらしい。

 とはいえ朝食からもう既に数時間たち、後数十分もすればその時間帯。
 だからこそ、グラトニーは寝転がっているのだろう。

「……」
『……』

 そうして暫し、グラトニーとラースはのんべんだらりと屋根に寝そべって、時々頭上を通り過ぎる小鳥を眼で追いながら、眼は閉じる事無くただ寝転がった。
 響くのは小学生らの者と思わしきはしゃぎ声や、通り過ぎる車のエンジン音、吹いた風によりなる木の葉の掠れのみ。

 彼等の大きな戦前に良くあった―――何時も通りの穏やかな日常を、また少しばかり崩れるだろうと知っているからこそ、グラトニー(瀧馬)は静かに静かにかみしめていた。
 ……ラースもそうなのかは、語らぬ為に分からない。

『そうだ相棒(バディ)。ちょいとこれからについて聞いて欲しい事があっテヨ』
「……?」

 唐突だった。
 ラースの口から語られる “コレから” を耳にし、緩み切っていた表情金を粗方引き締めた。

 そして覚える為にか目を閉じて、何度も反芻しているかのように軽く頷き続ける。


「グラトニーちゃーん!」


 すると―――――唐突に、下から呼び声が掛る。

 グラトニーが転がりながら移動して、屋根の端から顔だけ出して覗いてみると、そこには此方を見上げる未春の姿があった。
 
 何やら布に包まれた四角い物を、両手に一つずつ持っている様子だが……。

「……何?」
「総ちゃん達ったらお弁当忘れちゃってね? トゥアールちゃんの分もあるから届けて欲しいのよ」

 一聞、其処まで違和感のない普通のお願いに聞こえる―――もとい、本当に単なるお願いだ。

 が、未春の表情には苦笑こそ張り付いている物の、そこはかとない不謹慎な何かも含まれていると感じる。
 まるで……これから起きる事を想像して、鼓動の高まりを抑えきれずワクワクしているかのような。

 いや、まるで……ではない、絶対にワクワクしている。
 口角の上がり方も微笑ではなく、何かを中途半端に堪えて居るそれだ。

(『マ、そりゃあ相棒(バディ)が学校なんかに行きゃあナァ』)

 ある意味自画自賛であろうが、少なくともラースはグラトニーの容姿を可愛らしい、美少女一歩手前の美幼女だと認識している。
 そして世間の反応を見るに、それが強ち間違っていたり、大きく捻くれているという訳でもない。

 更に、総二達は愚か他の生徒とさえ、昨日までまるで面識がないのだ。
 “瀧馬”としてなら何人かいるだろう。しかし今の姿は“グラトニー”。
 姿は勿論、性別、喋り方、正確、放つ空気、何から何までまるで別人である。

 さて、ここで問題。

Q.そんな彼女が弁当の包みを手に学校へ行き、総二達に届けたら一体どうなるでしょうか?
A.騒ぎになる

 ……答えは当然一つ、コレ以外に考えられない―――確定だろう。

『別に部室のワープゾーンと地下室が繋がってんだかラヨ、何なら一旦帰って来るまで待ってたらどウダ?』


 流石にプチだろうと何だろうと騒動を起こしてしまい、何かしらの要素で目立つことは避けたいのか、ラースが尤もな提案を出す。

 されど未春はニヒルな笑みを浮かべて、チッチッチッ……と指を横に振った。

「エレベーターの点検ぐらいは知っているでしょ? 今日中にも終わるらしいけど、アレの所為で下から上へも昇れないの。だから今の内に届けて来て貰った方が早いのよ」

 此処でグラトニーとラースは悟る。


 弁当を忘れた様子だから届けて欲しい―――ならばもう少し早く呼べば良かったし、店の手伝いをしようとしている時にでも声をかければ良い。
 なら今さっき気が付いたから? ―――今の今まで不調もなく予兆もなく、順当に動いていたエレベーターが突然に動かなくなる……正確には『エネルギーが流れていない』状態になるだろうか。
 そも弁当を渡すのは未春当人の筈……なら、今日に限って何故忘れて行ったのか?

 確実に騒ぎを呼び込むという事、トゥアールの性癖、美春の厄介さ―――総てが繋がった。

()()()忘れやがったなコノ人等は……!)

 グラトニーモードではなく瀧馬モードで内心怒り、そして愚痴り……されどこのまま無視しても損をするのは、昼食を最悪食べられすらしない総二だけ。
 逃げ場のない選択肢に苛立ちながらも、意地張りから昼食無しになるのは可愛そうだと思ったか、諦めたように首を振る。

「……分かった。届けに行く」
「ありがとう! じゃ、お願いね」

 青とピンクの無地布で包まれたお弁当を手に取ると、小さく手を振りながら未春に見送られ、いざ総二達の通う(一応瀧馬も通っている)学校へと脚を進めた。







 弁当を届けるお願いを受諾してから、訳数分ほど後。

 学校へむかっている筈のグラトニーは―――今、路地裏に居た。

「……見た目を変える?」
『つっても髪型ぐらいだけドナ』

 何故こんな所に居るのか?
 それは彼女が以前やらかした、とある小さな事件が発端だった。

 グラトニーは《暴食》の名に恥じぬ食いしん坊かつ大食いであり、人間形態となった時には対象が属性力(エレメーラ)ではない為に、よりその特徴が顕著に表れる。
 そんな状況下で彼女が行う事などたかが知れていた。

 そうして起きた事件こそ……皆様もご存じ、ニュースにすらなった『謎の大食い幼女』事件である。
 カレーにステーキにケーキにと、呆れるぐらいとことん食いまくった所為で、詳細な姿を知る人間こそ少ないが、それでもソコソコ有名となってしまっていた。
 名前こそ“無名”ではある。
 が、幼女で眼帯でツインテールな容姿を持つ者など、そもそもこの辺りではグラトニー位しかおらず、噂を知る者に見つけられ小さくとも騒ぎを起こす可能性が首を擡げている。

 だからせめて髪型を変えてしまおう、と言う訳なのだ。

「でも変えられる? ……エレメーラ詰まった機械、持ってた筈」
『大丈夫だッテ。ツインテールは影響されて偶々そうなったダケ、テメェから変える事ぐらい易々ヨ』
「おー……」

 マア、テメエから変えようとしなければ変身の度にツインテール(ツインアップ気味)になるけドナ―――とのラースの言葉を耳に入れながら、グラトニーは自分の髪を結っている灰色の飾りを触る。

 そこから取りあえず髪を解いてみれば、違和感が生じる事も拒否される事も別段何もなく、無問題で髪型を変える事が出来た。
 取りあえずツインテールからポニーアップへ結び変えて、眼帯のデザインも少し変更する。
 一応己の身体の一部なので、大きく逸脱し無ければ変幻可能らしい……との、ラースの言だ。

『アア、あと相棒。解ってるとは思うが歩幅とか歩行スピードにゃ注意しロヨ。ガキの見た目でボ○トも真っ青のスピード出されタラ、それだけで目立っちまウヨ』
「りょーかい……」

 また、幾ら治療中で能力が諸々落ちこみ、更には力が制限される人間形態をとっているとは言え、やはりエレメリアンはエレメリアン。
 歩いても歩幅に合わないスピードで進んでいく。
 走ればどうなるかなど言わずもがな。ラースが言った様に、ボ○トを置き去りにする猛スピードを叩きだしてしまうだろう。

 よって必然的に、今の見た目に適した速度で学校向かわねばならない。
 ……意外と窮屈な状況に、グラトニーの唇は若干ながら“へ”の字に曲げられた。

「見た目変えるの、出来る?」
『無理ダナ』
「……長身になれば、歩幅も変わる。学校言っても余計に騒がれない」
『イヤ、この辺りで見た事ねえ外国人の女が入ってきたら否応にも目立つっテノ』
「むぅ……う~む……」

 要するに、どうしても注目されるのは確定らしい。

 学校に行けば当然、小さい子が学校に来たと騒がれ、絶対に先生等に捕まる。
 この子は何処から来たのか、一体誰の子なのか、そういった議論も交わされそうだ。
 最終的に弁当を差し出し『届けに来た』といえば一応は収まるのだから、此処はそれをメリットなのだと言うべきか。

 だが騒ぎになってしまうと、これから先の活動に不都合が生じる。人間形態の姿で活動することだって、これから先起こり得ないと言い切るのは無理だ。
 なら部室の窓から入るという手もあるのだが、それはそれで目立つ。
 余計な負荷が掛る以上、不必要にワープも出来ない。

 唯一の良点としてあげられるのは、『瀧馬』としての姿が知られることはないという事。
 姿を戻す必要性が無いのだし、変身ヒーローモノの展開に良くあるシチュエーションの一つ、変身バレは起こり得ないという事だ。

「う~……」

 さて彼女(彼)(グラトニー)はが選ぶのは、常識か非常識なのか、果たして―――










 さて一方、私立陽月学園の、とある一年生教室。
 四時限目の授業も恙無く終わり、生徒らにとっては待ちに待った昼食の時間が訪れる。

 相も変わらずテイルレッドガーテイルレッドガーと呪文的に呟きながらも、しかし確り購買へ向けてダッシュする運動部員や男子生徒達。
 日差しも段々と強くなってきた今日この頃。風あたりの良くテイルレッド談話し易い場所を求め、他者の席を借りて座る文化部や女子生徒達。

 廊下にも、場所を移動して弁当を広げたり、購買へと昼食確保へむかう者達が行き交い、皆口々にレッドたん可愛いだの、嫁にしたい妹にしたいとしきりに話しているのが聞こえる。
 総二達の居る教室の一角でも、自作の高レベルなテイルレッドキャラ弁を広げ、ある者は恍惚とし、ある者は空腹と違う理由で涎を垂らす。

 そんな何とも言えぬ微笑ましさ醸し出す光景が学校のそこかしこで繰り広げられ―――

「急げ! テイルレッドパンが売り切れちまう! 折角の昼なのに色々と妄そ―――いや想像する楽しみが奪われちまうぜ!」
「何言っているの妄想するのは私達の特権! 私達なら合法なのよ! 変態は引っ込んでなさい!」
「今の内にすり抜けてぇ……イヒヒ、今日はどんなレッドたんが見れるのかなぁ……」
「あぁ……テイルレッドたん……テイルレッドたん」 ←己の尻を触りながら
「レッドたんレッドたん! 食べちゃいたいぐらい可愛いあなたを……いまお姉さんがホントに食べてあげちゃうからねぇ? うふふふ…………ジュルリッ……」 ←弁当を見ながら

 ―――否訂正、やはりどう捉えようと気持ち悪いモノは気持ち悪かった。


 当事者である総二もまたゲンナリした顔―――どころか世の中に絶望した顔をしつつ、刹那ながらの安息を求めて、彼の設立したツインテール部部室へと移動する。


 数分で部室へは辿り着き、漸く粘っこい言葉が聞こえなくなったからか、
「安心してください総二様! その疲れをもっとキモチイイ事で吹き飛ばして差し上げます!」
 と言ったコンマ数秒後に、愛香の剛脚で物理的に吹き飛ばしを喰らったトゥアール。
 その悲鳴を聞きながら、総二は部室のドアをがらりと開ける。

 総二、愛香、トゥアール、生徒会長の慧理那、メイドの桜川教員の五人フルで使ってもまだまだ余るほど大きな長テーブル傍の椅子を引き、軽く音を立てて鞄を置いた。

 そして鞄の中を覗いていた総二の顔が、どんどん焦燥を帯びた物へと変化していく。

「や、やべぇ……」
「あれそーじ? どうしたの、そんな顔して」

 やっとじゃれあい(折檻)を止めた愛香は、彼が思い切り脱力している様を見て不思議に思い問いかける。
 総二はゆっくり振り向くと、鞄の口を広げて中身を彼女にも見えるようにした。

 そこで愛香もまた、総二が焦っている理由に気が付いた。

「あっ! お弁当無いじゃない!?」
「しかも財布も無いんだ……やばい、このまんまだと昼飯無しだ。この後二時間体育ぶっ続けなのに」

 しかもツインテール馬鹿とはいえ、彼もまた食べ盛りの男子高校生だ。
 自業自得かもしれないとはいえ、運動するしないに関わらず、この仕打ちは正直キツ過ぎる。
 愛香のお弁当をちょっと分けてもらうにしても……実際のところ愛香は“食事”に関してちょこっと図太い部分があるので、余り配分をもらえないのは総二が一番よくわかっていた。

 晩御飯までからなる苦しみに耐えなければ行けないのかと、総二は顔に影を落とし肩をもガックリ大げさに落とす。

「大丈夫ですよ、総二様?」

 そんな彼の肩に……何故か妙に艶めかしい仕草で手を掛けるトゥアール。
 反射的に吹っ飛ばす愛香。
 だが、今の総二にそんな所へ気を掛ける余裕はない。(酷い)

 空腹を満たせる可能性があるというのもそうだが……一番は根拠すら見当たらないのに、大丈夫と言われたからだ。

「なぁトゥアール、大丈夫ってなんでだ? 何でか知らないけど携帯代わりのトゥアルフォンまで無いんだぞ?」
「あいたた、毎度容赦のない―――ああ、大丈夫な理由ですか? それは届けに来てくれるからですよ。もうそろそろ見える筈です」
「届けるって……」

 意味深長に、ニヤリと笑って何故だかトゥアールは腕を持ち上げ、耳を(そばだ)て始めた。
 二重の意味で彼女の言動を(いぶか)しく思い、愛香も詳細を聞いた方が早いと思ったか、彼女に詰め寄っていく。

「ちょっと、まさかグラトニーを刺し向けたんじゃないでしょうね!?」
「その通りですけど?」
「えぇっ!?」

 さらりと言われた言葉に総二は驚き、愛香の口がパカンと間抜けに開かれた。

「クックック……グラトニーちゃんは紛う事無き美幼女! しかも昨日(さくじつ)までそんな彼女は存在していなかった……なら必然的にキャーキャー騒がれます! そうで無くとも騒ぎが駆け巡るでしょう!」
「だったらなんなのよ!?」
「そこに私と総二様が割って入る! トゥアルフォンを使って『パパ、ママ』という音声を流す! これで私の桃色学園生活は約束されたも同然です!! ……その後で本物のパパとママに成るべく行動する事こそ一つの形式美っ!!」
「んな阿呆な事の為に念入りな細工してんじゃないわよ!!」

 幼女趣味と総二との関係。
 両方が約束されるシチュエーションを妄想して鼻血を吹きだしながら語るトゥアールを、此方もまた真っ赤になるほど興奮した愛香が吹き飛ばす。

 しかし、其処で彼女はピタリと不自然な格好で止まり、総二の方へギギギ……と音が鳴りそうな所作で振り向いた。

「そーじの髪は、赤……あたしの髪は、青……グラトニーは紫。ってことは……だ、だから……っ」
「お、おい愛香?」

 如何してだか愛香も耳を欹て始め、何時の間にかクラウチングスタートの体勢を取りつつ、二人は何時の間にやら開かれっぱなしになった出入り口の空間と睨めっこし始める。

「お、お前ら?」
「もうそろそろなんです。もうそろそろ、どちらの反応にせよ来る筈ですよぉっ……!」
「絶対に負けないんだから……!!」

 愛香が限界まで歯を食いしばり、トゥアールの口角が限界まで引き上がった、正にその瞬間―――!









「良く考えたら【風陰(ふういん)東風(こち)】で姿消せた」

 ……目の前の虚空から姿を現した。

「「―――ちっくしょぉおおぉぉぉぉおぉぉぉぉっ!?」」

 そうして別に何事も無く、ごく普通にグラトニーは部室へ入って来たのだった。

 
 

 
後書き
 
……だって、何回も使ってる技ですしね……。 
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