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寄生捕喰者とツインテール

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美の四心《ビー・テイフル・ハート》との邂逅

 
 
 
 今日も今日とて日差し眩いお昼頃。
 其れなりに続いた平和な時を、障子紙の如く易々と突き破り、またもや変態(かいじん)は現れる。
 ―――まぁぶっちゃけてしまうと正確には、グラトニーお弁当騒動から一日しか経っては居ないのだが。

「っと、今日はここか。やっぱどうみても、日本じゃないな」
「外国なんて久しぶりですわね。2回ぐらいしか出撃しませんでしたし」
「……良く覚えているな、イエロー」

 その頃の当事者であった総二よりも、テレビ越しに見ていた頃の慧理那の方が、如何もアルティメギルについては詳しそうである。
 しかも当の本人はそんな過去話よりもこれからどう戦うかの方に気が行っているらしく、うずうずと体を震わせ、若干ながら挙動不審にそわそわしている。
 そんな彼女へ、曰く言い難い何とも微妙な思いを抱きながら、テイルレッド(総二)は周りに目を向けた。


 今回は珍しく外国のビーチに現れており、日本の主にジメッとした夏とは違う、カラッとした澄み渡る、熱いのに何処か心地よい空気が辺りを包んでいる。
 加えて場所はハワイ島―――常夏の楽園と言っても過言ではない、バカンスにはもってこいの場所だ。
 視界一面に広がる青い海と白い砂浜、日本では余りお目に掛れない植物や樹木、雲一つない空がまた眼に心地よい。

 そんなシチュエーションの中で、実に似合わぬ黒い影が其処ら中で(うごめ)いていた。

「モケェー!」
「モケケ」
「モケモケッ!!」

 ……まあ何の変わり映えも無い、何時も通りにパンツを被った(様な頭の)戦闘員(アルティロイド)なのだが。

 兎も角彼等は彼らで役目を果たそうと、観光客や現地の人間を、コレでもかとカサカサした動きで追いまわす。
 彼らに追われる一般人もまた、(ほぼ笑い声な)悲鳴を上げながら右に左に(楽しそうに)逃げ回り、(笑顔で)表情を一色に染めていた。

「……ちょっとしたアトラクションになってるし……」

 まだ燦々(さんさん)と太陽の光が降り注いでいるから分かり辛いが、時刻は既に放課後であり、総二達はアルティメギルの出現を受けて、学校から基地へ転移しそろって出撃したのだ。

 ……したのだが―――何故だろうか、テイルブルーとグラトニーの姿は見えない。
 仲間が居ないのだし、不安に思っても良い筈なのだが、テイルレッドとイエローは原因を知っているのか動じる事はなく辺りを見まわしている。

 と―――

「おやぁ……あなた達がこの世界のツインテール戦士、ツインテイルズさんですかぁ。お初お目に掛ります」
「うおっ!? 何だこいつ!」

 唐突に声が掛り、手何時レッドはその方向を向いて、驚きの声を上げた。

 砂浜に踵を付けず浮遊していたのは、蝶々型のエレメリアン。
 今まで伝説や幻か否かに関わらず、全てが動物型だったのに、此処に来ていきなりの昆虫型だ。
 一線を画しているのは誰にでもわかる。

 加えてダークグラスパー来訪の後なので、偶然で済ますには(いささ)か違和感の大きすぎる、何かしらのつながりがある事も、またテイルレッド達は悟っていた。

「あ、自己紹介がまだでしたねぇ。えー、わたくしダークグラスパー様が統括する直轄部隊、およびアルティメギル四頂軍が一つ『美の四心(ビー・テイフル・ハート)』の先鋒でして~……パピヨンギルディと申します、ハイ。……あぁ、あと個人的に『唇属性(リップ)』を求めて活動してます~」

 何故だかえらく腰の低印象を受ける喋り方ではあるが、口から放たれた肩書きはやはり聞き覚えがない物で、同時にやはり今までのエレメリアンとは何かが違うのだとより一層確信させる。

 だが如何もテイルレッドは覚え切れていないらしく、ボケッとした顔で佇んでいる。
 ……ゲームで言えば、“ツインテール”パラメータに全ポイント振って、後に先にもソコ以外は知らんぷりな状態なのが彼・彼女だ。
 極端すぎる特化型なのだから、まあ無理もなかろう。

「ダークグラスパーが直轄部隊、そしてアルティメギル四頂軍の一角、美の四心! ……中々に手ごわそうな相手が出てきましたわね、レッド!」
「え!? あ、あぁ……うん、そうだな! 今までの奴とは違うみたいだ……気を引き締めよう!」

 そんな(対して情報量も無いのに)頭を悩ませるレッドとは、まるで対照的なのがイエロー。
 ヒーロー番組で培った『好きなジャンルならパーツの名前さえ一言一句忘れない』驚異の記憶力を、此処で発揮し始めた。
 何と彼女はテイルギアの各部位の名前、役割すら頭に叩き込んでいる。
 パーツの一個一個、その総て個別に長文が割り当てられていると考えれば、その記憶力は侮りがたい。

 ……しかし何かの役に立つかと言えば、正直な所“微妙”の一言。
 ここ一番や最後で格好付かないのは、属性力(エレメーラ)を主に置いて闘う者達の共通点なのだろうか?

「あの~、ちょっと良いですかテイルレッドさん」
「……何だよ」

 兎に角レッドはブレイザーブレイドを、イエローはヴォルティックブラスターを構え、いざ戦闘開始……の前に丸まったストロー状の口を撫でながら、パピヨンギルディがまぁ待ってと手で制してくる。

 一応聞いておこうかと、レッドもイエローも武器を軽く下げ―――

「あのですねー、あなたの唇が欲しいのです―――」

慧理那さん(イエロー)、fire!!』
「了解ですわ!!」

 ―――言いきる前にヴォルティックブラスターが火を噴いた。
 心なしか、トゥアールの声もイエローの声も、若干の怒気がこもっていたように感じられる。

「ふざけないでください! 女性の唇を何だと思っていますの!!」
『ええそうですね! 身の程を知らぬ言い方が全く持って気に入りません!! 慧理那さん、脱いでも良いので全力で粉微塵にしてやってください!!』

 両者ともに怒り心頭、激昂して叫び続けている……しかし、対象とされたレッドは酷く落ち着いていた。

(いや、今までの前例から言ってキスしたいとかじゃないだろ、絶対……)

 テイルレッドが言うように、趣味嗜好の属性力(エレメーラ)が結晶した生命体なのだから、そんなある意味生易しい物では無かろう。

 ……と言うか仮にキスだとしても、相手は見事なストロー状の唇―――もとい口なのに、それで一体どうやって接吻をすると言うのか。
 勘違いする前に相手の装いをよく見た方が良い。
 名前から“蝶々”だって分かるし。

「あははぁ、これは手厳しいですね~、ハイ」

 だが当のパピヨンギルディは、顔面目掛けて数発の雷弾を叩き込まれたにもかかわらず、煙を払いケロッとしている。
 意に介さずと言った感じで既に攻撃へも移っており、背中から飛び散った鱗紛が空中で銅板の様な板を形成した。

「では、どうぞ行っちゃってください~」

 のんびりとした口調とは裏腹に、閃く様なスピードで銅板がテイルレッドへ殺到する。

「危ないっ!!」

 唐突な交戦開始に反応できないレッドへあわや直撃―――その寸前でイエローが胸のアーマーから、一対のホーミングミサイルを射出して数発一辺に叩き落とす。
 着弾時に轟く雷の爆風も合わせ、襲いかかる全ての銅板を瞬く間に吹き散らした。

 ついでに胸の装甲も脱衣(パージ)(意味的に間違ってはいない)され、キチッと肉感を持つ胸が射出の反動で揺れていた。

 ……何時もならここで、胸に対し強烈な執着心と嫌悪感を持つブルーからの私情丸出しなダメ出しが入ることだろう。
 だが、今回はいない。
 だから不要なツッコミが入る事も無く、戦闘は続行していく。






『ちょっと!? なに胸の装甲を真っ先にパージしてんのよアホイエローッ!!』

 ―――訂正。何処からか普通にダメ出しが返って来た。
 如何やら少し遠方にいる様ではあるが、映像はないのにどうやって判断したのだろうか。発射時の音か。

『胸の装甲は最後も最後! 一番のピンチにハマって、それでも耐えに耐えてもう仕方がない窮地に陥った時に、断腸の思いで脱ぐのよ!』
「で、でもフォトンアブゾーバーという光膜が体を覆っていますし、装甲は別に関係ないと……」
『ヒーローになりたいなら胸を晒しちゃあダメでしょ!? そんなヒーロー居る!? 布みたいなアンダーウェア来てこれ見よがしに胸見せ付ける―――バビョッ!?』
「「えっ?」」

 ……100%私怨たっぷりのアドバイスが、何故か途中で奇妙な音声に変わり、レッドのイエローの顔が真ん丸な目と三角な口になってしまう。

『……ブルー、五月蠅い。って言うか邪魔』
『ワッハッハ! 如何やら弱体化している様ですが、それでもやはりグラトニーは強いですな! このモスギルディ、その愛らしい唇を何としても手にいれたくなりましたぞ!』
『……キモイ』

 まあ……その答えはすぐに帰って来たが。

 どうも二人が居ない理由は別々の位置で闘っているかららしく、先程のイエローへの通信へ反射的にツッコんだ際、どうもブルーが障害になる位置へ陣取んてしまっていたらしい。

 それを戦闘を続けていたグラトニー、及びもう1体のエレメリアン・モスギルディが死角からふっ飛ばした為、先の素っ頓狂な声が生まれたと言う訳だ。
 ……地味に大らかな部長の様な喋り方をしているという、要らない情報も追加で分かった。

『アンタもっと連携考えなさいよ!! 協力してほしい、って言ったの何処のどいつよ!?』
『ミュンヘン』
『“独逸(ドイツ)”の都市なんか聞いてないわよ!?』
『響きが好き』
『知らないわよ!?』

 パピヨンギルディと相対しテイルレッドは少し引け腰気味、テイルイエローも怒られたからかシュンとしているが、しかし向こうは如何やら寒いおふざけを交えるぐらいには余裕がある様子だ。

 このままでは駄目だと己を鼓舞し、レッドはイエローへ檄を投げる。

「でも今日は何時にも増して、良いツインテールだぜイエロー! もっとやる気出してくぞ!」
「は、はぁい♡ 分かりましたわぁ、ありがとうございますご主人様ぁん」

 結果イエローはやる気を出したが、レッドのやる気が少し抜けた。
 とろけた声で身をくねらせながら返事を返されたのだ。……彼女の脱ぎ癖も相俟って、そりゃあ微妙な心境にもなる。

「いや~、見事ですねハイ。流石の破壊力です脱ぐツンテイルズさん」
(……何か飲むヨーグルトみたいに呼称されてるし)

 レッドの心へ更なる微妙さが叩きつけられるも、されど気を抜いている暇は無いらしくパピヨンギルディは改めて鱗紛を撒き散らし始めた。

「それはですねぇ、落したり避けたりしなくたって大丈夫ですよ~ハイ。痛くはありませんから」

 フィンガースナップで音を響かせれば、次の瞬間には既に数十もの銅板が復活し、パピヨンギルディの周囲を取り巻き、螺旋を描いて回り出す。
 やがて一旦横向きになってピタッと制止し、切れの良い動きで平たい面の部分をレッド達の方へ向けて来る。

 と……陽光の角度や加減のお陰だろうか。
 その銅板の表面に、何やら彫られているのが確認できた。

(唇が欲しいって……ま、まさか!?)

 答えを悟り、戦慄くテイルレッド。
 恐ろしいその答えは―――彼女の口からではなく、通信越しに聞こえてきた。

『アンタまさか唇が欲しいって、 “型を取る” って意味だったのぉ!?』
『……いっぱい唇、浮いてる……キモイ』
『《アア、キモイナ。超キモイ、っていうかキメェ》』

 そう―――銅板には宛ら魚拓のように、唇の型が刻印されているのだ。

 彼等アルティメギルのエレメリアンはその性質上、直接肌に触れたりと言う機会はめったになく、あっても属性的に止むをえずと言った場合で、無暗に接触しない点では信頼に値すると言って良い。

 が、変態的思考は天井知らず。
 まさか無数の唇が宙に浮いていると言う、ホラー映画もかくやの装いを醸し出す光景を至福に感じるとは、流石に予想できなかっただろう。

「近くまで行けば、スキャンできますからね~。大人しくしててくださいね。テイルレッドさん」

 中に浮遊する無数のキスマーク相手では戦意が保ちづらいのか、テイルレッドの顔が二重の意味で青くなる。

『あー!? 私のコレクションが次々壊されていく!? 次いで属性力が食べられていくぅ!? な、何とも無慈悲な少女達……本当に血が通って居るのですかな!?』
『《少なくとも相棒には通ってねェヨ》』

(まあエレメリアンだしなぁ……)

 そんな怪談真っただ中な状況ながら、やっぱり向こうは有利なご様子。
 追加でラースが尤もな台詞を吐いた。

 兎も角有利なのには変わりなく、彼女等の奮戦に勇気づけられたテイルレッドは、ブレイザーブレイドを正眼に構えた。

 イエローも両拳を腰にやり、全武装を発射態勢に切り替えた。

「……え?」

 もう一度言う―――『全武装』を発射態勢に切り替えた。

 即ち、完全脱衣(フルブラスト)モードという激しくルビと元が合っていない、全重火器発射態勢に入った訳で……

「我慢できません……っ……もう我慢出来ませんわぁああぁぁぁーーーっ!!」
「えあちょまだめ何やっておわあああぁぁああぁぁぁぁあああぁーーーっ!?」

 テイルレッド最後の背遠くもむなしく、ロックもせずに見境なく銃弾も徹甲弾も斬裂弾も何もかもを撒き散らし始めた。問答無用でテイルレッドが吹き飛ばされた。

 オマケに砂地だからか、ツインテールでの体勢固定も利かない。
 連発式打ち上げ花火を転がしたが如く、明後日の方向に何発も何発もすっ飛んでいく。
  
 もう敵を排除したいんだか、味方を巻き込みたいんだか、ただ脱ぎたいんだか解らない。


 絶望に暮れる間もなく、テイルレッドの眼前へ無慈悲な砲撃が殺到した……。












 一方マウイ島で戦う、ブルー&グラトニー組はと言うと―――

「せっ! ぃやあっ!」
「ぬううぅ!?」

 テイルブルーは接近戦に持ち込み、足払いから体勢を起こし左裏拳を叩き込む。
 更に右ストレートを繰り出し、モスギルディにたたらを踏ませた。

 ……(ウェイブランス)はどうしたのだろうか。

「ほっ」
「う!? あ、えっ!?」

 脈絡無くグラトニーがブルーの肩越しに飛び越し、モスギルディに追撃を仕掛ける。
 行き成り顔の横を通られたからか、テイルブルーは流石に一瞬ビクッとした。

「せぇっ……!」
「わと、ま、ちょ!?」

 右足からの風を使って空中で体勢を変えつつ、砂棍棒と拳での大ぶりな攻撃を打ち込んでいく。
 ……テイルブルーが範囲外に逃れるのを待たずに。
 それでも柿色の左腕を縦一閃した際、仰向けに倒れ込みかかり隙が出来た。

「そこですな!!」

 待ってましたとばかりに剛速の蹴りが打ち込まれる。

「……何が?」
「あ」

 ―――が、右足からの爆風でバク転をかまされ、虚しくから振る。

「ぜえっ!!」
「え―――うぎゃあっ!?」
「……危なっ……!」

 と、真正面から突如として青い閃光が迫り、モスギルディの眉間をジャストミートで撃ち抜いた。
 ……グラトニーのすぐ横を通り過ぎながら。
 その閃光の正体であるウェイブランスを引き戻すと、テイルブルーは思い切りヤクザ蹴りをかます。

 それも何とか大げさに飛び退いて交わせば……

「……もいっちょ」
「あごふっ!」
「う、ぷへっ!?」

 上空に飛び上がっていたグラトニーの、反動で再び飛ぶ程の落下ストンプが炸裂。
 ―――地上のテイルブルーに砂が掛る。

「こんの! も一発!」
「のへぇっ!!」
「……あぷっ……」

 更に追加でブルーが槍ですくい上げを喰らわせて、容易く軽々と宙を舞わせる。
 ―――空中のグラトニーに砂が掛る。

「んっ!!」
「そりゃあっ!!」
「のわぁぁ?!」

 回転して砂を掬い、【ブレーク=ショット】が飛来。テイルブルーがリンボーをする。
 水を纏った槍で広範囲を薙ぎ、力一杯の斬り払い。グラトニーが空中ジャンプをする。

 『固定強化』された砂散弾は余すことなく命中し、テイルブルーの槍も見事に腹を打ち据えて、ゴロゴロ砂地を転がさせた。

「おぉ―――いやぁ甘く見ておりました、これは厳しいですなぁ。これほどまでに強いとは」

 それでもひょいっと立ち上がってくるあたり、フルボッコの効果があるとは言い辛いが、それでこ戦闘を優勢に運べていた。

「ふぅーっ……やっぱり一筋縄じゃあいかないわね」
「……ん」

 ――――何と言う事だろうか。
 最初のいざこざからは一転、(一応は)綺麗な連携でモスギルディを追い詰めている。
 お互いがお互いを睨んでいるのは、まぁ多分気のせいだろう。

 ……実のところブルーは、唇云々のくだりから思い切りパンチを打ち込んでいた
 しかし、それをモスギルディは直に受けてなおケロッとしており、中々の強敵であることが窺えたのだ。
 だからこそのコンビネーション(モドキ)なのだろうが、それにしても結構な息の会い様である。

「なんだろ……普通に戦えている事に違和感があるわ……」
「……それ、末期」

 ブルーのつぶやきにグラトニーが返すが、彼女の言葉もそう間違いとは言い難い。

 なにせ何時もは、やたらと(悪い方で)ノリが良く何でもかんでもツインテールに結びつけるテイルレッドと、脱ぎたがり砲撃しまくり周りに被害を与えるテイルイエローに囲まれているのだから。
 軽く害を被っているとは言え、それでもグラトニーとならごく普通に闘えているのだから、そう思ってしまうのも無理からぬ事だった。
 だから恐らく、内心ではそれなりの信頼を置き始めているに違いない。

 ……横目で睨み合っているのは、きっと見間違いなのだから。

「そう言えばトゥアール、レッド達の方は大丈夫?」
『はい。ただいまお二人共々、絶賛大健闘中―――』
『アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!』
『あああぁぁあああぁぁああああああああぁあぁぁぁぁぁああああっぁぁぁ!??』
『―――ですので』
「ねぇとんでもない物が聞こえたんだけど、ちょっと!?」
「……無事、祈る」

 通信越しに聞こえる雷鳴がとてつもなく不安を湧き起こし揺さ振ってくるのだが、依然として目の前にはモスギルディが居る為、なるべく早く片付けて救出に向かおうと正面に向き直った。

 グラトニーもまた耳に付いた、トゥアールからのプレゼントだろうインカムから手を放し、また正面を見据えた。

「麗しい唇が二つも並ぶとは何と美々足る光景か……ちっちゃく可愛いキッス! 乙女のみずみずしきキッス、あぁなんと甘やかなかほり漂う事か……! 必ずぅ、必ずコレクションに入れて見せま―――」
「「キモイ」」

 異口同音で【ブレーク=ショット】とウェイブランスの投擲がヒット。
 割と遠慮無しで放たれた二つの遠投は相乗効果を生み出して、モスギルディを縦に数回転させる。

 ……今度は慎重さを考慮に入れたのか、グラトニーは前でブルーは後ろ。
 お互いにアクションを起こす事は無かった。

「せっ!!」
「ぶはっ!?」

 だが全力で前に突撃した為、後方へ盛大に砂がぶちまけられた。

 未だによろめいて行動できないモスギルディへと容赦なく右左のコンビネーションを叩き込み、ジャブの要領で左腕へ【固定強化】を重ね掛けして来るべき瞬間に備える。
 何度目かのワンツーパンチを重ね、フェイントを掛けて右で裏拳を打ち込む。

 モスギルディが繰り出す腕の横薙ぎを屈んで回避し、一旦伸びあがってまたもフェイントを掛ける。

「そいっ……!」
「しまったぬはああ!!」

 結果、見事に引っ掛かったモスギルディの顎ガードも虚しく腹へ爆風蹴りが炸裂した。
 反動でまたも空へ跳び上がったグラトニーは左拳を構えて、

「どおりゃああぁぁああぁっ!」
「背中アアァァアアァっ!?」

 直後にテイルブルーが上空から着弾する。

「……ぬぷっ……!?」

 グラトニーが地味に吹き飛ばされる。

「まだまだまだぁ!!」

 ブルーは次なる一撃で間欠泉の如く砂を吹き上げ、槍を杖代わりにして上体を起こすと連続で蹴りを繰り出した。
 更なる猛烈な勢いでの連続突き(拳)で、モスギルディの身体を尽く叩いて行く。

「ハアアァァアァ――――――っ!」
「私はサンドバッグではなあぁぁあぁ!?」

 半分ほど声に成らない叫びを上げて、テイルブルーはトドメのアッパーカット。放物線とはとても言えない鋭い曲線を描き、怪人の巨体が宙を舞う。
 グラトニー目掛けて。

「……喰らえ……【ブレーク=マグナム】ッ!」
「理不尽な気もするぐっはあぁぁああ!?」

 溜めこんだ威力を拳に乗せ、大砲から発射された見たく、一気にモスギルディを吹き飛ばして行く。
 一直線な軌道を描き、巨体がまたまた宙を飛ぶ。
 テイルブルー目掛けて。

「おっと!」
「あばばばばばば……………………!」

 間一髪で身を翻し、テイルブルーはモスギルディとの衝突を回避して見せる。
 拍など置かず、テイルブルーとグラトニーは両者ともに砂地を蹴りあげ、砂煙を上げて一足飛びにモスギルディと距離を詰めていく。

 そのままテイルブルーは青色の槍を、グラトニーは柿色の腕を、轟音を上げて振り下ろした。
 ……その一撃がぶつかり合って止まった。

「さっきから何なのよ! あたしの邪魔ばっかりして!?」
「……こっちの台詞。何で邪魔するの」
「あんたが攻撃の軌道上に居るのが悪いんでしょ!? そもそもあたしを毎回巻き込んで!」
「……そっち、遅いのが悪い。ブルーこそ毎回お邪魔虫」
「「ぬぬぬぬぬ……!!」」

『(ウン、面白ぇから黙っトコ)』

 本気で嫌悪している訳ではないようだが、それでも行き過ぎなぐらい互いの攻撃が食い違うからか、顔を突き合わせて睨み合っていた。
 ……気のせいだと信じていたのだが……。

 あとラースの考えは何気に酷かった―――が、聞こえない為に誰も突っ込めない。

「御待ちなさいお嬢さん達! 今私との戦いな最中だと言う事を忘れておりませんかな?」

 否、一人一歩踏み出る者が居た。
 モスギルディは勇敢にも挙手をし、彼女等の方へ距離的にも、話的にも踏み込んだのだ。

 至極まっとうな台詞を前に、彼女達は口をそろえて―――

「だいたい協力して欲しいとかいったのアンタでしょうが! 合わせるのが筋でしょ!」
「……最初攻撃してきたの、ブルー。峰でも痛い……なんで巻き込もうとした?」

 ―――無視をしていた。或いは、耳に入っていないだけなのか。
 ……多分、いやまず間違いなく後者だろうが。

「これ見よがしに胸を揺らすからでしょ!! もう少し遠慮ってものを覚えなさいよ!!」
「……そうやってガッツくから、望むモノも寄り添わない……これ鉄則」
「あの~、お嬢さん方? ギャラリーも見ておるこの最中、其処まで私欲むき出しに口喧嘩などするのは如何なものかと―――」

「ハッキリ言わないぶん、なんかムカつくわよそれ!」
「……五月蠅い……声も」
「第一味方同士なのですし、初の共闘なのですから、もう少し譲歩の気持ちを持ってですなぁ―――」

「“も” ってなによ “も” って!!」
「……自分で考えて」
「聞こえているのですか? もう少し慎みを持って行動した方が宜しいですなぁ。いや、涎の滲んだ唇もまた良い物なのですが!」 

 無視して、無視して、無視し続ける。
 ギャラリーとしては何時ものテイルブルーの悪魔的怖さが緩和され、単なる少女と気な怒りを表に出していることと、グラトニーの意外な一面を見れた事で苦には思っていないようだが、当事者たるモスギルディとしては辛い物があるだろう。

 何より彼もまた戦士。
 当然の事柄を語っているのに、シカトされ続けるのは我慢ならない。

「アンタは遠距離! あたしは近距離! これで良いじゃないのよ!」
「……属性力が痛む。もっと食べたいから却下」
「御二人とも、あのです―――」
「ならどうするって言うのよ?」
「……遠近逆にすればグッド」
「あたしに砂でも投げてろっていうの?」
「うん」
「即答しないでよちょっと!?」
「御二人とも―――」
「譲歩した結果、これ」
「アンタってもっと常識的だったでしょうが! 食が絡むと暴走しがちなの止めなさいよ!」
「無理」
「即答するな!? ちょっとは対策考えなさいよ!?」

 流石にこれには我慢出来なくなったかモスギルディは一気に、大量の息を吸い込んで胸を膨らませ―――

「御二人ともっ! いい加減にしな―――」
「「さっきからうるさい!!!!!」」

 それをかき消すほど倍する怒号と共に、まず水流のオーラ―ピラーが拘束。

 更にウェイブランスから放たれる必殺の『完全開放(ブレイクレリーズ)』、【エクゼキュートウェイブ】が右から。
 最初から柿色に輝いていた宝石かと見紛う位に濃い力を纏う巨大な岩塊、【ブレーク=キャノン】が左から。

 それぞれ挟み込む形で豪快に衝突し…………最後の決め台詞すら吐く事もかなわず、モスギルディは消滅した。
 後に残るのは、コロコロ転がる属性玉一つだけ。

 かくして、二人とも戦いに勝利したのだった。



「「ガルルルルルルルルルルルル!!」」
『オーイ相棒、もう終わってんダゼ~』
『獣なグラトニーちゃんもまた可愛いですねぇ……hshs! 超hshs!』

 ……二人の闘いは終わっていなかったが。

 
 

 
後書き
何でしょうね……この原作主人公側とオリ主人公側の、戦闘描写の差は。

……というか、何とかわいそうなモスギルディ。……ホント、トバッチリですよねぇ……。 
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