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K's-戦姫に添う3人の戦士-

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2期/ヨハン編
  K23 「助けて」

 武装集団フィーネはフロンティアの起動に成功した。

 おそらくはマリアが射出されたシャトルマーカーが、神獣鏡(シェンショウジン)の装者から放たれる、出力の小さな一つ一つの輝きを一点に反射させ、集束させることでフロンティアの封印を解いた――巨大な“島”を浮上させたのだ。


 近海にいた調たちのボートは新しい“島”に引っかかって打ち上げられた。

「ここがフロンティア……」
「天つ祖神の間に産まれた、(とり)()(いし)(くす)(ふねの)(かみ)。遥かな昔、カストディアンが異なる天地より飛来した際に用いた、星間航行船」

 知らないはずの知識をすらすらと自分の口が紡ぐ理由を、斟酌するだけの余裕は、今の調にはない。

「船をカミサマ扱いか。日本人の宗教観が分かるエピソードだ」

 苦笑しつつ歩き出したヨハンの背を見て、調は気づく。ヨハンは調が立花響たちを探しに行こうとしていると理解して、手伝おうとしてくれている。

「僕も彼女たちの結末は気になる。調は気にしなくていいよ」
「ごめん…」
「そんな顔をしないで。調が辛いと僕も辛い」
「うん…」

 ヨハンが手を差し出す。調は抵抗なく彼の掌に手を預けた。
 二人は手を繋いで荒野を歩き出した。




 あちこちにある遺構を見ても、調の中に物珍しさは浮かばなかった。むしろ見慣れたふるさとに帰ってきたかのような気分にさえなった。

 手を繋いだヨハンを見上げると、ヨハンにもとまどった様子は見受けられなかった。ヨハンと長い時間を過ごした調には、それが調と同じような心境でいるからだと分かった。

 だから、二人してフロンティアの遺構に興味を奪われることなく、目当ての人物を探すことに専念できた。


「あ――」

 調は荒野に横たわる二人の人間を見つけて、駆け寄った。リディアン音楽院の制服を着た少女と、私服の少女。見つけた。立花響と小日向未来だ。

 続いて来たヨハンがしゃがみ、彼女たちの首と口元にそれぞれ手を当てる。脈と呼吸の確認作業。

「――大丈夫。二人ともちゃんと生きてる」

 調はほっと息をついた。目の前であれだけ大立ち回りされては、敵でも安否が気に懸かってしようがないというものだ。

 ――それから調とヨハンは力を合わせて、立花響と小日向未来をボートに並べて横たえた。
 調がボートの救難信号を点灯してから、調とヨハンはボートを離れて歩き出した。

「見つけてくれるかな」

 ボートをふり返りながら、調はつい口にした。

「大丈夫。あちらの指揮(オペレート)の優秀さは、今日まで戦ってきた僕らが骨身に染みて知ってるじゃない」
「そう、だね」
「信じよう。――僕らはマリアたちを探さないと。フロンティアが出現した今、計画は最終段階。僕らが信じた通りに事が運ぶなら静観しても問題ないけど、ドクターが何をやらかすか分かったものじゃないからね」

 喉元がきゅっと痛んだ。思い出したのは、泣いていた切歌。調たちを裏切ってしまったと吐露した、痛々しい切歌の表情。

 人類を月の落下から救うため、正義ではなく悪の道を選んだ。善も綺麗事も捨てると決めた――そのつもりでいた。
 なのに、今になって、親友の泣き顔が、こんなにも胸に突き刺さっている。

(どうしてこんなことになってしまったの? わたしたち、どこで間違ったの? 分からない。答えが見つからない。ねえ誰か、ねえ)

「……たすけて……」




 ――助けて。

 ヨハンはその言葉を聞いた直後、調の小さな体を全力で掻き抱いていた。

「ヨハン?」
「やっと――言ってくれた」

 ――昔からギリギリの所で調はヨハンを頼らない。
 調から甘えることは多々あったし、ヨハンも調を甘やかすのが好きだったからいい。だが何故か。切歌より脆く見える調なのに。マリアやナスターシャにも「助けて」とは言わなかった。
 それは調の、善人面の大人に振り回された過去に起因するとヨハンは予想していた。
 そうではない。ヨハンたちが言わせなかったのだ。
 偽善にも嘘にも本気になれない弱い大人である自分たちを見て育った調が、どうして誰かを頼ることができるだろう。

「調が『助けて』って言ったら、どんなことをしてでも助けてあげるんだって決めてたんだ。何でもあげる、何だって叶えてあげるって」

 やがて調は、ヨハンの背中に両腕を回した。こんなに小さな体で現実に立ち向かっていたのかと思うと、いとしくて、ヨハンはもっと強く調を抱き締めた。

「――わたしはわたしたちみたいな、虐げられる弱い人たちを増やしたくなかったの。マムとマリアの計画は、わたしの欲しい世界を創ってくれると信じてた。信じてたのに、マリアはいつも辛そうで、マムはどんどん笑わなくなって。きりちゃんが、泣いて……みんな、バラバラだよ」
「そうだね。みんなが悩んで、苦しんでる」
「間に合うかな? 今からでも、わたしはきりちゃんたちを助けられるかな?」
「分からない。分からないけれど、分からないってことは、間に合わせることもできるんじゃないかって僕は思うよ」

 体を離す。ヨハンを見上げるマゼンタの両目に、迷いも不安もなかった。

「わたし、きりちゃんたちを救い出したい。だからヨハンの力も貸して。助けて、ヨハン」
「……ああ。何でもするよ。僕の調」




 響は未来や翼ともども、管制で慌ただしいブリッジに立っていた。

 隣に立つ未来はLiNKERやギア強制装着の後遺症もない健康体だと、二課の医療部がお墨をつけてくれた。
 それだけではない。響自身も、神獣鏡の光条によって、全身を蝕んでいたガングニールを除去された。

 ただ一つ。不安がある。クリスだ。
 翼の証言によると、クリスは翼を背後から銃撃して、切歌に向けてF.I.S.に寝返るという宣言をした。

 響は改めて、画面に映し出された巨大基地を見上げた。

 もう一つ。気になっていることがある。
 あの荒野で気を失っていたところを、自分と未来は、誰かに助けられたのだという。救助信号を発信する救命ボートに寝かされていたことで、二課はその信号を辿って響たちを発見できたのだと。一体、誰が――


 ピー、ピー、ピー


 思案に沈みかけた響を、通信の音が現実に引き戻した。通信先は、日本の政府でも米国艦隊でもないと藤尭が告げた。

《アロー。アロー。武装集団“フィーネ”のエアキャリアから通信中です。日本特異災害対策機動部の皆さん、聞こえますか?》

 モニターに映し出された人物は、F.I.S.の装者、ヨハンだった。 
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