K's-戦姫に添う3人の戦士-
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2期/ヨハン編
K22 黄金のガングニール
デッキ内を、調を抱いたままヨハンは走る。
「どうするのっ」
「こういうでかい艦なら脱出用ボートがあるはずだ。米国にもマリアたちのもとにも、もう戻れない。自力で戦場を離脱しないと」
艦内を走るヨハンの前に、米国軍人たちがサブマシンガンを構えて立ちはだかった。
ヨハンは幅の広いバスタードソードを突き立て、弾丸への盾とした。その上で、アームドギアを使わず、体術で米国軍人を叩きのめした。
拾ったサブマシンガンの銃口を、倒れた彼らへ向けた。
「教えろ。脱出艇はどこにある?」
場所を答えた米国軍人を、ヨハンは撃たなかった。バスタードソードをアーム装甲に戻し、再び調を抱え上げて、走り出した。
(あった! 非常脱出口)
ヨハンは調を下ろし、ギアを解いてすぐさまそのボートを動かせるように調整した。この手のメカニカルな技術はエアキャリアの操縦で習得済みだ。
「調、乗って」
先に調をボートに乗せ、ヨハン自身も乗り込み、ボートを海へ向けて乱暴に落とした。ボートが着水した海面が跳ね、水しぶきをかぶったが、どうにか戦域離脱には成功した。
しかし、安心する暇は与えられなかった。
「ヨハン! 上!」
見上げれば、黄金の少女と紫衣の少女が空中でぶつかり合っていた。
幾億の歴史を超えて
この胸の(Go) 問いかけに(Go) 応えよShine
紫衣の少女は小日向未来。その小日向未来と戦っている装者――あれは――
「あれはガングニールの、ヒビキ・タチバナ……? どうして……」
激戦という形容さえ生ぬるい。立花響と小日向未来の戦いはもはや、そう、死闘であった。戦いの決着は片方の、あるいは両者の死を以てのみとしか思えないほどの熱量。光線。裂空。
「戦う必要なんてないって、言ったくせに。何で戦うの。やっぱりあいつも、正義を振りかざして、力で人を思い通りにしようとする奴らと同じ」
「調」
「親友なんでしょ? 一番守りたい人、でしょ? なのに何で。何であいつはあんなに、ボロボロになってまで戦ってるの? わたし、わたしは、きりちゃんと離れただけで、こんなにつらいのに……」
愛する人なのに戦うのか。愛する人でも戦うのか。愛する人だから戦うのか。
黄金と紫の交錯を見上げても、ヨハンは答えを見つけられない。
大事な(Fly) 友から(Fly) 貰った言葉 絶対(絶対) 夢(夢)紡ぐから
そのフレーズが鳴り渡った瞬間、調は勢いよく上空を見上げた。
「友…から貰った…」
調は両手で胸を押さえた。その胸に去来しているのは先刻の決裂か、それとも無垢だった日に交わした他愛ない言葉か。
想う間にも立花響は歌い、空を蹴りながら、確実に小日向未来へと迫りつつあった。
(がんばれ)
不意にヨハンの中にその言葉は浮かんだ。
(頑張れ、ミス・ガングニール)
敵なのに。敵対すると自ら告げたのに。気づけばヨハンは彼女を応援していたのだ。自分でも信じられない。
ただ、ひたむきに親友を目指す彼女が傷つけられる姿に、どうしても、負けないでくれと、辿り着いてくれと想ってしまった。
調は胸に当てていた両手をいつの間にか祈りの形に組んでいた。立花響と小日向未来の戦いを見守る目は真剣そのもの。
ヨハンは気づいた。今は調も同じ気持ちなのだと。
彼らの祈りが届いたかは知らない。だが、立花響はついに小日向未来へ辿り着いた。
立花響はミラーデバイスを砕き、親友を抱いて宙を翔けて行く。
上空ではいつのまにかシャトルマーカーが大量に射出され、神獣鏡の光線を反射させていた。
「『絶対に…絶対に』ぃぃィィイイイイイイッ!!!!」
立花響は小日向未来と絡み合ったまま、最後のシャトルマーカーの下へと向かっている。
「そいつが聖遺物を無効化するっていうなら……そんなの脱いじゃえ! 未来ゥゥウウウッ!」
ついに光線が放たれた。
シャトルマーカーが編み上げた巨大な光条は暴力的なまでに眩い。
ヨハンはとっさに調を抱き込んで衝撃から守った。
同時に金と紫の少女たちは、歪んだ鏡を砕く光へと消えていった――
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