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ソードアート・オンライン 神速の人狼

作者:ざびー
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ー騎士団会合ー

 
前書き
七夕投稿。 なおまったく関係ないもよう 

 
第74層のフロアボス〈ザ・グリームアイズ〉がわたしたちの手によって討伐された翌日。
アインクラッド中が昨日の一件で持ちきりだった。 次層の解放だけでも充分な話題なのに、今回は新たなスキルというオマケつきだ。 曰く、『軍を壊滅させた悪魔』、『悪魔を両断する神速の太刀』。そして、『二刀流の五十連撃』。 尾ひれがつくにもほどがある!!、とは某黒の剣士様の言葉だ。
しかし、〈軍〉がプロパガンダとしてボス討伐に乗り出した筈が、かえってキリトの新スキル〈二刀流〉の周知に一役買ってしまったとはなんたる皮肉か……。

そして、現在。な、ぜ、か噂の渦中にいる人物がアスナを引き連れ、目の前にいた。

「頼む! 一緒に来てくれないか?」
「……ぜってー、ヤダ」

腰を90度に曲げて拝み倒すキリトに対し、ユーリが不機嫌に表情を歪めてキリトを見下ろす。 一方、私とアスナは互いに顔を見合わせて、アハハと苦笑いを浮かべた。なぜこうなったかを説明するには、少し前に遡らなければなるまい。

* * *

第75層の転移門をアクティベートした翌日。今日は攻略をお休みにして何か美味しいものでも食べに行こうか、と予定を立てていた。 自室から出ると既にユーリは支度を終えていたようで、ジーパンにシャツ。裾の長い上着で彼の特徴でもある尻尾を上手に隠したユーリが壁によりかかっていた。 犬耳がうまく収まらないのか、キャスケット帽の位置調整をしているユーリを微笑ましく思いながら私は声をかけた。

「ユーリ、お待たせ〜」
「ん。 行くか」

キャスケットを深めに被ると壁から離れたユーリは私の横に並んだ。 そして、いざ出かけようとした矢先にキリトたちがやってきたのだ。

* * *

拝み倒すキリト氏曰く、アスナの所属する〈血盟騎士団〉の団長ヒースクリフが、キリトに会いたがっているそうで、行くにはいいが不安なのでついて来て欲しいとのこと。 ついでに、ヒースクリフから送られてきたメッセージにも『是非ユーリ君も一緒に』の一言が添えられていた。
団長のお願い(命令)だけあって断るわけにもいかず、アスナは良心との板挟み状態で心苦しいらしい。 だが、知っての通りユーリのヒースクリフ嫌いのせいで、キリトが拝みたおしても一向に折れる気配がない。
押して駄目なら引いてみろ。 もしくは北風と太陽か……戦術を切り替えたキリトが提案する。

「そういえば、最近美味い穴場のNPCレストランを見つけてだな……」
「うっ……」

ボソリと小さく呟くようなキリトの言葉はしっかりとユーリの犬耳に届いたらしく、頑な態度を貫いていた彼が揺れた。 友情ではなく、食欲に訴えるとは。汚いキリト汚い。ユーリの頑な態度が揺らいだのをチャンスと見たキリトが一気呵成に畳み掛けた。

「ランチメニューも美味かったけど、デザートもよかったな」
「む……」
「なんか山みたいなパフェがあったしな〜」
「むぅ……」
「頼む! 来てくれたら、奢るから!」

揺さぶり、揺さぶり、お願いのコンボが炸裂し、ユーリは目の前で頭を下げるキリトを見て考える素振りを見せたまま動かなくなってしまう。 しばし無言の状態が続くも、それを破ったのは彼の深いため息だった。

「はぁ〜〜……、わかったよ。そのかわりに不味かったら覚えとけよ」
「おぉ、助かる!」
「話済ませてたら、とっとと帰るからな」

ユーリはガシガシと頭を掻きながら、キリトの感謝の言葉を鬱陶しそうに受け止める。 文句を言いつつも人に甘いユーリはやはりツンデレさんだな……なんて事を頭の中で思い浮かべながら、私達は家を後にした。

* * *

鋼鉄の都市グランサム。 そこに悠然と聳え立つ城が〈聖龍連合〉と双角を成すトップギルド〈血盟騎士団〉の本拠地である。 その尖塔の一つ、その最上部に設けられた談話室に私達は足を運んでいた。
壁一面がガラス張りで、街のパノラマが見渡せるという高級なホテルかマンションのような豪華仕様なこの部屋には、長机に団長ヒースクリフが座り、その脇を固めた幹部職が無言の圧力をかけてくる。 が、その原因となったのは我らがユーリ君である。 部屋に入り、ヒースクリフを見るなり、意外そうに目を見開くと一言。

「……なんだヒースクリフ。まだ生きてたのか」
「ちょっとユーリくんっ?!」

のっけからいいパンチかますなぁ……。言外に早よ死ねと言っているようなものである。 視線を巡らせば、アスナとキリトがドン引きしてこちらを見ており、幹部職の連中たちは今にでもユーリに斬りかかりそうなほどの怒りの感情を露わにしていた。 額に青筋を浮かべ睨んでくる幹部たちに挟まれて座るヒースクリフは机に両肘をついたままユーリへと視線を固定し、薄っすらと微笑みすら浮かべて口を開いた。

「なに、そう易々とやられていては聖騎士の名が泣くからね。 しかし、ユーリくんがここに来たということは……気が変わったということかね?」

ヒクっとユーリの口元が微かに動いた。呼び出したのは、そちら側なのによくまぁぬけぬけと。
ユーリはため息と一緒に怒りの感情を吐き出すと、人を馬鹿にしたような視線をヒースクリフに向けて一言。

「……なに、もう呆けたの?」
「なに、ただの意思確認だ。 挨拶代わりだと思ってくれればいい。 それとわたしはまだ三十代だ」

しれっと毒を吐いたユーリに対し、ヒースクリフもまた動じた様子もなく言葉を返した。
一方で幹部たちは相当頭にきているらしく、耳まで真っ赤だ。ストレスで脳の血管がプッツンしないだろうかと他人事のように考えていると幾らかクールダウンしたユーリが口を開いた。 なおキリトたちは彼らのやり取りにドン引きしたまま固まっておられる。

「で、なに? 今日俺らはこのためだけに呼ばれたのか」

これ以上は無駄と判断したのだろう。 強引に話題を本題へと持っていく。 それを聞き、ふむと頷いたヒースクリフは手を組みつつ答えた。

「なに、君らが我々のギルドに加わらないかと言うつもりだったのだがね」
「あいにく怪しい宗教とギルド勧誘はお断りっていうのがうちの家訓でしてね」
「そうか。 二人目、三人目のユニークスキル保持者が入ってくれれば戦力の増強もそうだが、話題性も十分だと思ったのだが残念で仕方ないよ」

そう言うヒースクリフがまったく残念そうではないのは、ここまで予想通りだったのだろうか。 ユーリは頭でも痛むのかこめかみに手を当てると重々しい息を吐いた。

「ハァ〜……なんとなくこんな流れになるだろうとは思ってたけどさ。 仮に俺らが血盟騎士団に入ったとしても、大して旨みがないんだよ」
「ほぅ。 一応ギルドボーナスとしてステータスに上昇補正がかかる。集団で行動すれば、不測の事態にも対応できると思うが……それでもダメなのかね」

ユーリの言葉に興味を持ったのかヒースクリフは視線で先を促す。

「それは確かにプラスだけど。 ソロやコンビプレーでやり慣れてる側としては慣れてないチームプレーは自由に動けない分、枷になる。そもそも、そこの集団不適合者(ぼ っ ち)がギルドに馴染めるわけないだろ」
「……ぐはっ」

さりげなくキリトにダメージを与える手腕にさすがとしか言いようがない。 だがユーリの説明はまだ終わりではないらしく淡々と語っていく。

「それに今でこそ、血盟騎士団と聖龍連合の実力は同等だからいいけど、ユニークスキルなんてチート紛いが片方に集まってみろ。 もう片方からしてみれば、拮抗していた戦力に差が生まれ、それが妬み嫉みの原因になる。 最悪攻略に支障をきたすぞ」
「確かにそうかもしれないな……」

少し語調を強めるユーリに対して、眉を伏せたヒースクリフが相槌を打った。団長様も思うところがあるのだろう。 まだ攻略済み層が一桁だった時は二つのギルド間でのいざこざが絶えなかったらしい。 挙句の果てに、ボス討伐の際に得られる莫大なリソースを独占するために片方のギルドがもう片方を出し抜いて単独でボス戦を行おうとした事例もあるらしい。 もっともそれは未遂に終わったらしいが。
今でこそそんな馬鹿げた真似ーー軍は除くーーはしないものの、一歩間違えば過去のような事態を起こしかねない。 まぁ、ユーリはそんなことを心配しているというより、いざこざに巻き込まれたくないだけだと思うが。

「確かに今、攻略組の間に不和を生むわけにはいかない。 だが、ユーリくん。君が思っているよりも我々の戦力は常にギリギリなのだよ。ーーーなのにキリトくん、君は我がギルドの貴重な、主力プレイヤーを引き抜こうというわけだ」
「……っ!」

開かれた真鍮色の瞳がキリトへと向けられる。 水を向けられたキリトはゴクリと息を飲み込み、ヒースクリフと向き合った。 だがそれを遮る声がある。

「待ってください、団長!確かにメールでは抜けますと言いましたが、 私は別にギルドを辞めたいわけじゃないんです! 少し……考える時間が欲しいだけで」

ヒースクリフはなおも言い募ろうとするアスナを一睨みしただけで黙らせるとヒースクリフは強い意思を滾らせた瞳でキリトを見据えた。

「わたしたちが今いるこの世界は剣の世界だ。 なら、欲しいものがあればそれはおのが力で、おのが剣で手に入れて然るべきだろう」

周りくどい言い方だが、理解したであろうキリトは力強い視線でヒースクリフを見据えている。

「欲しければ、剣でーーー〈二刀流〉で奪い給え。私と戦い、勝てばアスナくんを連れていくがいい。だが、負けたら君が血盟騎士団に入るのだ」
「…………」

キリトの返答を求め、注意が一斉に彼へと向けられる。 重苦しい沈黙の中、一歩前へと踏み出した。

「いいでしょう。剣で語れというのならば、望むところです。 デュエルで決着をつけましょう」
「君なら受けてくれると思っていたよ。……ところでユーリくん」

その言葉を受け、ヒースクリフはニヤリと笑みを浮かべた。 もしかしたらキリトにデュエルを持ちかけるのがヒースクリフの狙いだったのかもしれない。 だがキリトがデュエルを承諾させられた矢先、水を向けられたユーリはうへぇと露骨に嫌な顔を浮かべた。

「……なに?」
「なに、君とも是非一度剣を交えてみたくてね」

聖騎士などと謳われていてもやはり、この男もこの剣の世界に魅入られた極度のゲーマーなのかもしれない。 もしくはただのデュエル脳。 いずれにせよ、見かけの割に好戦的な性格なのかもしれない。

「ーー条件はキリトくんと同じだ。 君が勝てば、望むものを。 私が勝てば君をもらう。 悪くないと思うが……?」

如何かね? 意思を尊重するように、しかし承諾以外を許さないような声音でヒースクリフが訊ねる。 ユーリの返答に興味があるのか皆の視線が集まる。 ユーリははぁ〜と息を吐き肩の力を抜くとしっかりとヒースクリフを見据えてーー

「イヤだ、めんどくさい」


ーーキッパリと断った。
この状況下で、しかもヒースクリフに頼まれておいて断る奴はいないだろうと思っていたのか、皆声も出せず、唖然とした表情を浮かべていた。 しかし、断る理由がただめんどくさいから、というのも彼らしい。
だが、せっかくこのアインククラッドのトッププレイヤーとデュエル出来る機会なので、正直もったいないと思う。 なので、私は威勢良く手を挙げた。

「じゃ、私やる!」


* * *

ヒースクリフ率いる血盟騎士団との会談を終えた私とユーリは、予定通り街開きで賑わう75層をぶらついた後、昼食にキリトが教えてくれた隠れ家風NPCレストランへと足を運んでいた。 それは迷路のように入り組んだ隘路の先に、ぽつんと佇んでいた。
中に入ると、陽光を反射したステンドグラスが七色に輝き、外周部に沿うように作られたテラス席からは暖かな日差しが差し込んでいる。 総じてお洒落なカフェのような店に思わず心が弾んだ。
ほぼ貸し切り状態の中、テラス席を陣取ると少し遅めの昼食を取ることにした。

「……はむ!」

大きな口を開けてBLTサンドに(かぶ)りつくと、シャキッとしたレタスの瑞々しい食感と、ベーコンの肉汁とトマトの爽やかな酸味が口いっぱいに広がる。 なんとも幸せな感覚に浸りながら、もぐもぐと咀嚼していると既にデザートのイチゴパフェに手をつけていたユーリに声をかけられた。

「なぁ、シィ。 おまえなんでデュエル受けたんだ?」
はんとはく(なんとなく)?」
「もぐもぐしながら、話さない」
「ほわ〜い」


ジトっと目を細めたユーリに説教されてしまい、「あんたは私の親か!」と言うツッコミはパンとともに飲み込んでしまう。 アイスカフェオレをストローでズズズっと啜り、喉を潤すと改めてユーリの問いに答える。

「別にただなんとなくやりたいと思っただけだからね、他意はないよ」
「……戦闘狂(バトル・ジャンキー)め」

私にとってそれは褒め言葉なのだが、それを言葉にすれば人を小馬鹿にしたような眼差しが返ってくるので敢えて()しておく。 アイスクリームの山を食べ進めていたユーリがスプーンを口に咥えたまま、視線だけを私に向けると呟いた。

「そういえばさ、アスナとやるとしても勝算はあるのか」

そうデュエルの相手はヒースクリフではなく、アスナの方だ。 ヒースクリフはキリトと戦うというのもあるが、単純に私がアスナと一戦交えてみたかったというのが最大の理由だろう。 なお私とアスナの決闘はヒースクリフvsキリトの前に行われる。すなわち前座だ。 色々と思う事もあるが、まぁ良しとしよう。

さて、アスナへの勝算だったか。
幾つか策を講じるつもりだが、こればっかりは実際にやってみないとわからない。 だが、易々と負けてやるつもりは毛頭ない。 だから、私は胸を張って言ってやる。

「まぁ、なんとかなるでしょう!」

私がそう言うとユーリはあきれた様子でこめかみに手をやり、ため息を吐いた。

「なぜ誇らしげなんだ……この馬鹿」
「ポジティブシンキングと言って欲しいね!」
「うざったい……」

ユーリは辟易とした表情を浮かべて呟くも、視線を外周部に広がる青く澄んだ空へと向けながら口を開いた。

「まぁ、やるからには勝てよ」
「はは、ツンデレ乙」
「やっぱりお前、完膚なきまで叩き潰されてこいよ」

 
 

 
後書き
いつにも増して投稿が遅いのは、この暑さのせいです。ワタシワクルナイアルヨ-

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ではまたノシ 
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