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ソードアート・オンライン 神速の人狼

作者:ざびー
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ソードアート・オンライン編
  ー青眼の悪魔ー

「テン、テテて、テンテン、てっててー♪」

 薄暗く、ジメジメとした第74層迷宮区内に場違いなほど明るい歌声が咲いた。 独特なリズムを刻みながら、身の丈ほどある大鎌をバトンのようにクルクルと片手で回しながら遊ぶシィはいつにもなく上機嫌だった。 マーチーングリーダーがそうするように天高く大鎌を投げ上げ、くるんとターンを踏んでバックキャッチ。 どんなもんだ、とドヤ顔を向けてきる相棒に呆れながら、一言。

「……お前には緊張感というものがないのか?」

「ぜんぜ〜ん♪ 」

 いつもの事ながら、彼女の場所を選ばない陽気さに辟易としていると、にこやかな表情を浮かべながら、くるりんとターンを踏んだ。

  *

 迷宮区入りしてから早二時間ほど経つが、モンスターとのエンカウントが少なかったので迷宮の探索具合も順調でマップも大方埋まり、少し気分がいいのが原因かいつにも増して相棒の機嫌がいい。

 薄青い光に照らされる回廊をシィの鼻唄をBGMにゆっくりと進んでいると、突然音が止んだ。 何かと思っていると、控えめに袖を引かれてシィが不安げな瞳をこちらに向けていた。 不穏な空気に敏感な彼女は、恐る恐るといった風に訊ねてきた。

「……ねぇ、何か聴こえない?」
「いや? ……ちょっと、待って」

 立ち止まると眼を瞑り全神経を耳へと集中させる。 それなりの練度に高められている〈聞き耳〉スキルと様々な戦闘スキルを強化する〈人狼〉スキルの恩恵を得て、ある程度離れていようが問題なく聴き取れる。 遠方の微かな音もハッキリと聴こえ、アバターへと響いてきたのはーー


 ーー激しい剣戟と、獣のような咆哮。

「ーーーッ!?」

 ーーそして、プレイヤーの悲鳴。
 一種にして表情が強張るのが分かった。 即座に〈聞き耳〉を解除すると同時に駆け出していた。 シィも緊急事態だと察したのか、遅れずに並走している。

「ユーリっ、どうしたの!」
「……プレイヤーの、悲鳴が聴こえてきた。多分、交戦中なんだろうけど……」

 アレは、ーー聴こえてきた咆哮はこの層で戦ったエネミーのどれにも当てはまらない。 ヒヤリと脳裏に悪い予感がよぎった。

(まさか何処かの大馬鹿がボスに挑んだわけじゃ……)

 視界の端に表示されているダンジョンマップを確認しながら、声のする方角の道を選び、迷宮区を風の如く疾駆する。 途中、ホップするエネミーは一刀の下に斬り伏せながら、ユーリは自らの仮説について考えていた。

 マップデータの空白部はあと僅か。 それが示すのは、その層の最大の敵ーーボスが待ち受けるボス部屋が近いということ。 状況から推測するにこの先にあるボス部屋で戦闘が行われている可能性が高い、かなり。

 そもそも、層の元締めたるフロアボスは、プレイヤーもしくは、パーティ単体だけの力で斃せるものではない。 それこそ、何度も偵察が行われ、行動パターンを割り出した上で綿密な計画が練られ、漸く討伐に至る相手だ。 過去一度、二パーティーに満たない人数でフロアボスを討伐した事例があったらしいがそれはゲーム序盤かつその時のボスが少人数の方が適していたという理由に過ぎない。

ーーーいったい誰がっ!

 駆ければ駆けるだけ、不安を煽るサウンドは大きく、ハッキリとしたものになっていき、余計に焦りが募っていく。
 やがて角を曲がり、一直線の通路に変わり、シィが前方を指差し叫んだ。

「ユーリ、見えた!」

 回廊の突き当たりには、巨大な扉が左右に開き、入り口がぽっかりと口を開けていた。 ボス部屋だ。 薄闇の中ではソードスキルの演出光と思わしき色とりどりの閃光が眩く光り、同時に巨大な影が部屋の中で蠢いていた。

「ーーーあぁぁぁぁぁぁぁ」

「バカかっ……!」

 毒吐くと更にスピードを上げた。 ほとんど地に足をつけず、飛んでいるに等しい速度で最後の直線を駆け抜けた。 扉の直前で急制動をかけ、ブーツの鋲から火花を散らせつつ入り口のギリギリで停止した。 そして、半身を乗り入れ、言葉を失った。

 内部は修羅場だった。プレイヤーの一団が円形に広がるボス部屋の奥に押し込まれ、慌てふためきまるで統制が取れていない。 更に部屋の中央では、双眸を妖しく輝かせた青い悪魔が斬馬刀を片手に暴れていた。


 ーーなぜ、どうして……


 状況が飲み込めず、立ち竦んでいると背後から半ば叫ぶように名前を呼ばれ、ハッと我に返った。

「ユーリ! シィ!」

「……!? キリト、それにアスナも」

 黒と白のコンビが彼らの両脇に止まり、少し遅れて赤い鎧甲冑を身につけた集団ギルド〈風林火山〉がやって来、そして、彼らも中の状況を見るなり絶句した。 だがいち早く状況を呑み込んだキリトがボス部屋内部で倒れているプレイヤーに向かって叫んだ。

「……クリスタルを使え!!」

 だが、返ってきた答えはこの場にいる誰もに絶大な衝撃を与えた。

「だ、ダメなんだ……!クリスタルが使えないっ!」
「なっ……⁉︎」
「《結晶無効空間》……だと!?」

 一部迷宮区のトラップとして確認されていたがボス部屋でその仕掛けが採用されていることは一度もなかった。
状況に追いつけず、明確な行動を起こせないうちに、ボス部屋内部での状況は悪化していく。

『……逃げるな! 戦え! 我ら〈アインクラッド解放軍〉に撤退の二文字はありえないっ!!』

 リーダー格と思わしき男が片手直剣を掲げ、叫んだ。 本来ならプレイヤーたちの士気向上になるはずのそれは今に至っては自らの首を絞める行為に他ならない。八人の団員たちは四人二列となり、武器を構える。

「全員……突撃……!!」

 突撃指令。 本来なら、前衛に壁役(タンク)をおいて次々と入れ替わって(スイッチ)いくのが定石(セオリー)なのだが、……総突撃はあまりにも無謀過ぎた。

 悪魔は仁王立つと輝く噴気を吐き出し、隊員たちへと浴びせかけた。 恐らくあの吐息にも攻撃判定があるのだろう。 八人の突撃の勢いが目に見えて緩む。 そこにすかさず、大剣が突き立てられ、一人を掬うように斬りあげた。

 ボス部屋の主の頭上を越え、ユーリたちの目の前に激しく落下したのは、
 無謀な突撃を命令したリーダー格の男だった。

 ーーありえない

 そう言い残すと、無数の破片となり飛散した。 司令塔を失ったパーティーは瓦解した。 連携などあったものではなく、悲鳴をあげながら逃げ場のない部屋内を逃げ惑い、悪魔によって蹂躙されるのを待つだけ。

「もう……だめ、だよ」

 地獄絵図と化したボス部屋内を見て、アスナが堪えきれずに喘いだ。

「ダメーーーッ!!」
「アスナッ!」

 腰に吊った細剣(レイピア)の柄へと手をかけ、絶叫と共に駆け出した。 空中で抜いた細剣と共に閃光となったアスナは、悪魔へと痛烈な一打を与えた。 だが、まったく堪えた素振りを見せず、怒りの眼差しをアスナへと向けると猛烈な速度で大剣を振り下ろした。 咄嗟にステップで回避するも躱しきれずに斬撃の余波を受け、倒れてしまう。そこに容赦なく次弾が降り注ぐ。

「ーーざけんなぁ!!」

 咆哮一閃。 漆黒の鞘から放たれた銀の刃が光の軌跡を描きながら、部屋の主《ザ・グリーム・アイズ》の大剣を弾き返した。 凄まじい衝撃、激しい火花が散る中、ユーリは叫んだ。

「キリト、シィは援護! アスナとクラインたちは回復と救護!」


 威勢良い掛け声と共に野武士集団がボスを迂回しながら、倒れ伏す〈軍〉たちに駆け寄るも、中央ではグリーム・アイズとユーリが激しく斬り結んでいるため、撤退が遅々として進まない。 苦しい表情を浮かべるユーリを嘲笑うかのようにグリーム・アイズは暴れ狂う。


「ーーおぉぉぉ!!」

 悪魔の重く鋭い一撃と、ユーリの抜刀が衝突し、またしても激しい火花を散らし、衝撃の余波がビリビリと大気を震わせる。 周りへと気を使いながら、容赦なく降り注ぐ斬撃の嵐を必死に躱し、逸らすユーリの表情は厳しい。

 ユーリの扱う〈抜刀術〉は、強力な一撃を放てるが、一度使うと次の技の発動までに〈納刀〉という決定的な隙ができる。 それこそ一瞬のことだが、ボスの強靭なステータスとカスタマイズされたソードスキルがその隙を与えない。 ゆえに存分に自分の力を振るえずにいるユーリは、徐々に押されつつあった。

「ーーユーリ、スイッチ!」
「くっ……!」


 〈カタナ〉の強攻撃とグリーム・アイズの大剣が衝突し、その反動を利用し即座に後ろに飛び退り、入れ替わるための間を空ける。 そこに漆黒の片手剣に血色のライトエフェクトを纏わせたキリトが飛び込んでくる。

「ーーハァァァァァ!」

 〈片手剣〉の中でも屈指の威力を誇る重単発技〈ヴォーパル・ストライク〉が放たれるが、しかし、大剣を盾のように構え防がれる。 キーーンと虚しい音を立て、弾かれたキリトにカウンターの拳が放たれ、キリトの華奢な体を吹き飛ばした。 即座にタゲを自分に向けさせると、ユーリは必死に思考する。

 攻略組上位に入るダメージディーラーであるキリトや自分がマトモにダメージを与えられない中、スピード型であるアスナやシィではグリーム・アイズの一撃を捌ききれるとは思えない。 クラインもいるが数分と保たないだろう。

 斬馬刀とカタナが次々と衝突を繰り返し、火花を散らす中、戦況は悪化していく。

「ーーう、ウワァァァ⁉︎ 」
「ーーこ、こっちに来るんじゃねぇ!」

 ボス部屋奥。 グリーム・アイズの尻尾だと思っていた大蛇が鎌首をもたげ、毒液を撒き散らしながら〈軍〉プレイヤーと彼らを救助しようとするクラインたちを襲っていた。 そして、軍を庇った一人のプレイヤーが咥えられ、鋭い牙を突き立てられた。 血飛沫のような紅い飛沫が舞い、〈風林火山〉の団員が継続ダメージに恐怖に怯えた声を漏らす。 恐怖の感情が伝播し、もはや救助どころではなくなる。 クライン達が仲間を必死に助け出そうとするが激しく動き回る本体の悪魔がそれを容易にさせない。

 定石通りなら、本体か尾蛇に強烈な一撃与えてやれば、解放されるのだろうが、防戦一方でスタンさせるまでの一撃を見舞うまでの余裕はない。 焦りが募る毎に剣先が目に見えて鈍る。 大上段から放たれた大剣を逸らしきれず、已む無くカタナで受け止める。 ユーリを押し潰さんが如く、大剣に力が込められ、ジリジリと押され、ギシリと刀が嫌な音を立てる。

 打つ手なしと思われた時、大蛇の絶叫と共にプレイヤーがポロリと解放された。 見れば、太い胴体が穿たれ、切り裂かれていた。 アスナとシィだ。 二人は、強い意志を秘めた瞳をユーリへと向け、叫んだ。

「ユーリ! 尻尾は私たちで対処するからっ!!」
「任せたっ!!」
「任されたっ!!」

 短い言葉で応えると、四肢に力を込めグリーム・アイズの一撃を弾き返した。 即座に納刀し、抜刀を放つ。 唸りを上げた銀の刃が筋肉が隆起した胸元を捉え、切り裂いた。 初めてボスのHPバーが目に見えて減少するが、与えた傷は思ったよりも浅く、輝く双眼に怒りの色を滲ませた悪魔は、大きく息を吸い込み、わ輝く息を吐き出した。

「ーー舐めるなぁっ!!」

 再び抜刀が放たれ、凄まじい剣風がブレスを切り裂く。 輝く吐息がダイヤモンドダストのように散る中、悪魔と人狼が激しく斬り結ぶ。 今までの劣勢を跳ね除けるように刀を振るうユーリの猛攻に悪魔が僅かに後ずさる。

 もしかしたら、イケるのではないか……救助を続ける中、戦闘外にいるプレイヤーたちは希望を抱く。 だが希望はただの理想に過ぎず、即座に散った。

 グウォン……!と唸りを上げ、大蛇がその体を鞭のように振るった。 苛烈に攻撃を仕掛けていたシィの体を強かに打ち、その矮躯をいとも容易く吹き飛ばした。 壁へと激突し、苦悶の声をを漏らす相棒を見て、ユーリが堪らず叫んだ。

「ーーシィ!?」

 ユーリの視線がグリーム・アイズから一瞬だけ逸れる。 決定的な隙をグリーム・アイズが見逃すはずがなく、 体の捻りを前方位を薙ぎ払う両手剣技〈ラウンド・スマッシュ〉が放たれ、ユーリの華奢な体を吹き飛ばした。 ギリギリ、剣と体の間に刀を差し、直撃を免れるが強烈な一撃を受けた代償として〈転倒〉状態となり、ユーリに慈悲無き硬直が課せられる。

「ーーッ!? ユーリ!!」
「くっ……」

  地面に転がったまま見上げるユーリへと断罪者を狩るギロチンの如く大剣が振り下ろされる。 元より防御の低い自分が直撃を受ければ、HPは容易く散るだろう。 相棒が悲痛な叫び声を上げる中、ユーリは目を瞑った。

 だが、ユーリを襲う衝撃は数秒経ってなおやってこず、薄っすらと瞳を開ければ、コートの裾を翻したキリトがユーリを守るように悪魔の前へと立ち塞がり、漆黒と純白の剣を交差させ大剣を受け止めていた。

「お前……それ」
「……すまん、遅くなった」

 ユーリは思わず眼を見張った。 キリトがずっとひた隠しにしてきた〈二刀流スキル〉。 それを今解放したキリトは、ぐっと四肢に力を込め、二刀がグリーム・アイズの大剣を押し返し、即座に両手の剣が振るわれ、ガラ空きとなった胴体を深々と切り裂いた。 大ダメージが通り、グリーム・アイズが絶叫する。 さらに次々と両の剣が閃き、群青の体躯に紅い斬撃痕を刻んでいく。 凄まじい勢いでグリーム・アイズのヒットポイントが減少していき、 そして、二段目のHPバーが粉砕されると同時にグリーム・アイズの目の色が変わった。

 咆哮と共に大剣を振るい、強引にキリトを引き離す。 が、そこに眩い銀閃が放たれ、悪魔の胴体に傷をつける。 堪らず叫ぶ悪魔を他所に、再び風切り音が響き、銀閃が奔った。

ギロリと悪魔の双眸がキリトとグリーム・アイズの間に割り込んだ人狼へと向けられ、大剣が振るわれる。 だが本人はそれを易々と躱し、刀を鞘へと納めるとグッと体を屈ませる。 クラウチングスタートのような低姿勢から、ダンっと力強く床を蹴る音がだけ響き、ユーリの姿が一瞬だけ掻き消えた。

「ーーう、オォォォ!!」

 刹那の交差。 一条の閃光が悪魔の巨軀を貫き、斬ーーッと音が遅れて響く。 音すらも置き去りにした神速の一太刀は、三段目のHPバーのほとんどを消し飛ばし、遂にグリーム・アイズのHPバーをラスト一本にまで減らした。 上向き、焦点の合わない眼を向けるグリーム・アイズへと黒白の剣にライトエフェクトを纏わせたキリトが突き進む。

「決めろ、キリト……!!」
「うおおおおおおおお!!」

 防戦一方だったいままでの借りを返すが如く、両の剣による凄まじいラッシュが開始された。 右の剣で斬りはらい、間髪入れず左の突きが放たれる。 右、左、また右。 いつか見た〈二刀流〉の上位剣技〈スターバースト・ストリーム〉の斬撃が次々とグリーム・アイズの巨体を抉っていく。

「らあああああああ!!」

 大きく吠えたキリトの最後の一撃が胸の中央を貫いた。 断末魔の悲鳴を上げ、天井を振り仰いだ悪魔の全身が硬直したーーと思った途端。

 青い悪魔は、青い粒子となり爆散した。 部屋中にキラキラと光る粒が舞うなか、空では勝利した彼らを讃えるかのように黄金の文字が輝き、いくつものファンファーレが鳴り響いた。



 
 

 
後書き
二刀流及び、各sao二次創作における主人公の切り札の当て馬こと〈グリーム・アイズ〉さん討伐回【完】。

というわけで予告通り原作一巻の開始です。 ラグーラビットのくだりは皆さん見飽きてると思うのでカット(無慈悲)。
いきなりの迷宮区スタートかつボス戦突入と、かなり色々と端折っているのでわかり辛かったらすいません。
とりあえず、早めにsaoを終わらせたいです。

ではまたノシ 
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