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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第三十四話

「ショウキ、右の奴を蹴散らして!」

「分かった!」

 アリシャの指示は相変わらず的確で助かるが、流石に最前線のモンスターたちを相手しつつ、その住処から脱出となると厳しい戦況だというのが現実である。

 指示通りに、愛刀である日本刀《旋風》を右側の狼型モンスターに斬りつけると、一体をポリゴン片とすることに成功するが、まだ残り十体程が残っているのが見て取れる。

 今俺たち商人ギルド《COLORS》がやっているのは、草原に大量に集まった狼型モンスターの群れの、年老いた長が持っているというレアアイテムの入手依頼であった。
クラウドとヘルマン、リディアが囮となって、比較的身軽な俺とアリシャが巣穴にあるレアアイテムを取りに行くという段取りで、アリシャ発案の作戦はスタートした。

 作戦は思いのほか上手く成功し、年を老いすぎてまったく動かない狼型モンスターの長老から、目的であった《クライ・ウルフズ》という紋章型アイテムを奪取することに成功した……のだが。
長老が俺とアリシャのことに気づき、遠吠えを上げて仲間を呼び寄せて、俺たちは即座に幾多もの狼型モンスターに囲まれることとなった。

「……どうするアリシャ!?」

 ヘルマンたちも囮をやってくれている為に、彼らの援護は期待出来ない。
この巣穴の周りは崖で囲まれていて、ところどころに足場はありそうだが、崖を登っている間に、崖を巣穴にしている鳥型モンスターか、俺たちを包囲しつつある狼型モンスターに背後からやられることであろう。

 ならば正面突破……と行きたいところだが、狼型モンスターは続々と集合していて、少し難しい。

「時間を稼いで! わたしに考えがある!」

 そう言いながら、アリシャはアイテムストレージを操作し始めた。
何か考えやら仕込みがあるならば、それにのらせてもらおう……正面突破よりは楽だからな。

「てぇぇぇいっ!」

 俺とアリシャに近づきつつある狼型モンスターに向かって、日本刀《旋風》を斬り払う。
狙いはHPゲージを0にすることではなく、狼の足を狙って行動不能にすること。

 その狙いは的中し、狼型モンスターたちの動く手段をことごとく奪っていく。
だが、とにかく数が多すぎて、10匹目以降から足を斬った狼型モンスターたちの数を数えるのを止めた。

「まだかアリシャ!? こっちにも限界ってものがあるぞ!」

「……オッケーショウキ! わたしの手に捕まって!」

 アリシャの声が聞こえるや否や、最後に一発狼型モンスターたちを吹き飛ばす斬撃を行った後に、高速移動術《縮地》によってアリシャの横に即座に移動する。

「相変わらず便利よね、それ!」

「……やってるこっちは《ソードスキル》が羨ましいけどな……」

 アリシャには……いや、ギルド《COLORS》のみんなには、ソードスキルを使えないという旨の俺の事情は説明済みだ。
それほど彼ら彼女らのことは十二分に信用しており、今回もアリシャの脱出出来る作戦とやらを信じて、彼女の手をとった。

「飛べぇ!」

 アリシャが俺の手と繋がっていない方の手につかんでいたのは、少し太い糸……いわゆる、鋼糸と呼ばれるものに近いものだった。
それを引っ張ると……なんと俺たちは大地から足を離し、大空へ飛び立った。

 数え切れない程の数を誇る狼型モンスターも、所詮は狼でしかないために、空は飛べずに大地を駆けるしかない。
だが俺たちは飛翔し、狼たちの牙の届かないところへ飛んでいった。

 そのカラクリは……

「……鳥?」

 アリシャが糸の先に捕らえているのは、崖の中腹を巣穴にしている大型の鳥型モンスターである《ヴァーユ》。
非アクティブモンスターのようで、便乗して一緒に飛ばせてもらっている俺たちを一瞥しても、攻撃してくる様子はない。

「このまま崖の上まで飛ぶわよ!」

 アリシャの指示を聞いているというわけでも無いだろうが、《ヴァーユ》は甲高い鳴き声で一声いななくと一層スピードを上げ、俺たちを崖の上へと導いた。

「……よっと。ありがとねー!」

 ヴァーユと繋がった糸を手から離し、俺とアリシャは崖へと降りたった。

そして飛んでいくヴァーユに手を振って、アリシャは感謝の言葉を叫んでいた……モンスター相手に何言ってんだか、とは思うが、アリシャがやると何故だか絵になって似合う。

「よくもまあ、こんな方法考えついたもんだな」

「ふふふ、鍛え上げた《裁縫》スキルのなせる技よ。……だけど問題は……」

 得意げな顔で俺の疑問に微妙にズレた答えを返してくれるが、すぐさま表情が少し暗くなる。
……ああ、多分俺もお前が考えてる問題と同じこと考えてるさ。

「「どうやって降りるんだ(かしら)……」




 仕方がないので、俺たちが崖から脱出するために使った手段は、使うことで指定した街に移動することが出来る《転移結晶》だった。
値段が張るので、あまり使いたくはなかったのだが……あの崖を自力で降りるよりはマシだ。

 囮をやってくれていたヘルマンたちは、今は近くの宿屋をとってくれていることだろう。
……ギルド《COLORS》は本部という物はなく、色々な層を転々とする為に、近くの宿屋に泊まってそこが一日限りの本部になるのだ。

 話題が逸れたな。
俺たちが来たのは第二十六層《イリーガル》。
そこに出来た、新しい攻略ギルド《血盟騎士団》の仮設本部だった。

 《血盟騎士団》とは、初のユニークスキル使いとも言うべきプレイヤー、《ヒースクリフ》によって集められた新たなギルドであり、規模は小さいものの、メンバーがどいつもこいつも最前線で三日はダンジョンに籠もった後に生還出来るようなハイレベルの凄腕プレイヤーのため、先日の第二十五層の攻略によって半分壊滅状態にある《軍》に代わって攻略ギルドの中心となっているギルドであった。

「いやあ、いつもスミマセンなあアリシャはん!」

 ……そんな少数精鋭を地で行く血盟騎士団にもっとも似合わない男であろう、ギルドの経理担当の《ダイセン》と、俺とアリシャは話し合っていた。
狼型モンスターの素材と、目的であった紋章型アイテム《クライ・ウルフズ》の買い取りや交渉に来ているのだ。

「いやいや、コレがわたしたちの攻略の仕方ですから!」

 アリシャは商人系のスキルも上げている為に、ダイセンとの交渉はアリシャ頼みにするしかない。

 よって、俺は手持ちぶさたに椅子に座っておくしかないのだ……頼むから世間話を止めて、早く商談に入って早く終わらせてくれ……!

「相変わらず、可愛い髪飾りしてまんなあ」

「えへへ、お気に入りなんですよ〜」

 ……終わる気配を感じなかったので、お喋りに夢中になっている二人に気づかれないように、俺は静かに仮設本部のテントから外へと出た。

「まったく……ん?」

「おや、君は……」

 テントを出たところで、ちょうど人と会う。
ここにいる以上、血盟騎士団の人物であるのだろうが、血盟騎士団の制服は白い服に赤い十字が入った服ではなく、目の前にいた人物の服はそれを逆にしたような、赤い服に白い十字の銀髪の青年だった。

 《聖騎士》ヒースクリフ。
ユニークスキルを持った血盟騎士団リーダー、その人だった。

「君は確か……ショウキくん、だったかな?」

「へぇ……良く知ってるな」

 血盟騎士団は最近のお得意様であるが、アリシャはともかくとして俺まで覚えているとは……流石といったところか。

「フ……それぐらい当たり前だと言っておこう。それより、君はどうしてここに……なるほど」

 ダイセンとアリシャがいるテントの入り口をチラリと捲って見て、なんとなく俺がこうしている理由を察したらしい。

「こちらの団員がすまないな。……だが、ちょうど良いと言えばちょうど良いか」

 ヒースクリフはニヤリと謎めいた笑みを見せると、高速でシステムメニューを操作し始めた。
いきなりどうしたんだ、と問おうとしたが……ヒースクリフが何をしたかは、その数秒後に問うまでもなくなってしまった。
ギルド《COLORS》の入団試験(仮)の時と同じように、俺の近くに浮かぶデュエル申請メッセージ……相手は当然、目の前にいる人物である、血盟騎士団リーダー、《ヒースクリフ》だった。

「いきなり何の真似だ?」

「見ての通りだよ。私とデュエルをしないか、ショウキくん」

 ヒースクリフは目を細め、こちらを試すような、計るような挑発的な視線をこちらに送ってくる。

「質問の意味が違う。何でいきなり勝負を挑んでくるんだ?」

「おっと、これは失礼だったね」

 少しおどけたようなポーズをとった後、またもシステムメニューを操作してヒースクリフ自身の武器である、盾とその内側に収納されている剣……ユニークスキル《神聖剣》を取り出した。

「君と戦ってみたいという単純な興味だよ。なに、悪い話じゃない。君が勝てば、今回ギルド《COLORS》に払う代金は通常の倍にさせよう」

「……俺が負けた場合は?」

 ここで勝った場合ではなく、負けてしまう場合のことを考えてしまうのが人間の性というものだ。

「負けた場合……そうだな。君たちギルド《COLORS》は、全員血盟騎士団に入団してもらう、というのはどうかな?」

 ――ッ!?
ヒースクリフが発した条件に、圏内ということで案外緩く構えていた俺に電撃が走り、きちんと構えろと身体に警告がはいる。

 それはむしろ、俺が勝った場合に得られる報酬のような気がするほどのありえない条件。
血盟騎士団は、少数精鋭がウリの小規模ギルドであるのに、この条件は明らかに不自然である。

 ……負ける気がしないと思われているからば、心外だが。

「……おっと。誤解しないように言っておくが、これは別に君に負ける気がしないという理由ではない。君たちギルド《COLORS》の戦力はなかなかだからね、むしろギルドに勧誘したい」

 俺の心の内を読んだかのように、ヒースクリフは俺の疑問に答えてくれた。

 ……ここで俺がヒースクリフのデュエルを受け、勝った場合は今日の報酬は二倍となる……それだけのお金さえあれば、新しい装備や転移結晶を用意することで、依頼や攻略などがもっとずっと楽になるだろう。
だが、いくら団長であろうともそんな金を右から左に回せるわけがない為、どっちにせよ、ヒースクリフに負ける気はないのだろう。

 逆に、俺が負けてしまった場合には、俺たちギルド《COLORS》のメンバー全員が、血盟騎士団に入ることとなる。
しかし、元々俺たちの目的は間接的ながらも攻略なのだから、新進気鋭の攻略ギルドに入れて悪いわけがない。

 なら、俺が取るべき選択は――

「――こうするしかないな」

 俺の斜め上に浮かんだ、ヒースクリフから申請されたデュエル申請メッセージ……それを、迷わず俺は『NO』を押した。
デュエルが拒否された旨のシステムメッセージが表示され、ヒースクリフからのデュエル申請メッセージは消え去った。

「悪いけど、俺は今のギルド《COLORS》が好きなんだ。この条件じゃ、勝っても負けてもなんか変わるさ」

「なるほど……それならば仕方がないな」

 ヒースクリフは少し残念そうにしながら、活躍の機会がなかった《神聖剣》を自らのアイテムストレージにしまった。

「突然変なことを言ってすまなかったね。お詫びに、とっておきの情報を教えよう」

 ……とっておきの情報?
まさかユニークスキル《神聖剣》の取得方法……なんてことはありえないな。

「第十九層《ラーベルク》の小さな丘の上に、午後8時限定で隠しモンスターが出るらしい……行ってみることをお薦めしよう」

 そう言い残し、ヒースクリフはそもそもどこかに行く用事があったのだろう、どこかへ立ち去っていった。

 ……隠しモンスター。
通常のモンスターとは違って一度限りしか現れないこともあり、倒したときには、だいたいその希少性に見合ったレアアイテムを入手することが出来るのだ。

 ヒースクリフが何故そんな情報を俺に渡したのかは分からないが、この情報が本当ならば、行かないわけにはいかない。

つまり、だ。

「ナイスな展開じゃないか……!」

 知らず知らずの内に口癖を呟いてしまうが、テント内からアリシャとダイセンの商談はまだまだ続くような声が聞こえ、ついつい肩を落とした。
 
 

 
後書き
《走馬灯編》は後二回で終了予定です……いい加減本編進めないと……

※血盟騎士団本部について

アスナが一巻にて「本部は第三十九層の田舎町だった」という旨の発言を残していますが、作品の時系列の関係上や、いくら血盟騎士団であろうとも下積み時代はあるだろうということで、作中では血盟騎士団仮設本部ということとなっております。

 
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