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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第三十三話

 第十四層の市街区、あまり人気がない広場。
そこで俺のすぐ横に、デュエル申請のメッセージが表示されていた。

 もちろん俺に挑んできた対戦相手は、真紅の服や装飾品に身を包み、またもや真紅の大剣を握りしめたクラウド。
ダンジョンと同じ格好をしているのと、その身に纏う気合いが、あいつも臨戦態勢だということをひしひしと感じさせる。

「分かってんな! 俺にこのデュエルで腕前を認められたら、このギルド《COLORS》への入団を認めてやんよ!」

「偉そうに言ってるけど、あなた所詮平団員じゃない……ふふふ」

 ギルド《COLORS》の他の面々は、半分見せ物を見るかのように飲み物を飲みながら少し遠巻きに眺めていた。
……特にアリシャとリディアの二名など、どこから手に入れたのかポップコーンらしきものまで用意していた。
何だ、映画か何かか?

「っせぇぞリディア! お前もそれで良いな!?」

 身の丈ほどもある大剣の切っ先を片手で持ち、こちらに向けながらクラウドは問いつめてくる。
……あの大剣を片手で持てるなら、スキル振りは筋力をあげていて、更にあまり鎧を着込んでいないことから、筋力優先で敏捷も上げていると分かる。

「分かってるさ。つまり、お前を倒せば良いんだろ?」

「……生意気な口たたくじゃねぇか!」

 俺も愛刀である日本刀《旋風》がきちんと鞘に入っていることを確認し、これから来るであろうデュエルに集中する。
後は、俺がクラウドからのデュエル申請に、『初撃決着モード』でOKを押すだけだ。

「頑張れショウキ! クラウドなんてやっつけろ!」

 ……応援してくれているのはありがたいが、ギルドメンバーに対してギルドリーダーがそれで良いのかアリシャ。
ま、お言葉に甘えさせてもらおうか。

 初撃決着モードでOKを押して、俺とクラウドのデュエルが始まった。

「行くぜぇっ!」

 頭からつま先と武器まで真紅のクラウドが、性格通りに先制攻撃を仕掛けようと突撃してくる。
彼の大剣は、俺の愛刀《旋風》よりもリーチが遥かに長い為に、どうやっても先制攻撃になる。

「……っと」

 馬鹿正直に真っ向から放たれたから竹割りを、未だ愛刀である日本刀《旋風》を抜きもせずに横に避ける。
その後、抜刀術《十六夜》による一撃でデュエルを決めるつもりだったが……振るわれたのが大剣のせいで、微妙にリーチが届かない。

 この、自分の攻撃は届くが相手の攻撃は届かない微妙な距離を、狙って攻撃したのなら対したものだが……まあ偶然だろう。

「剣も抜かないなんざ舐めてんのかっ!」

 気合いと共に迫ってきた横薙を、今度はバックステップにより避け、巨大な大剣を振った故のどうしようも無い隙を狙う。
狙うは……むき出しの胴体。

「抜刀術《十六夜》!」

 遂に鞘から抜き放たれ、《旋風》という名が示すように一陣の風のごとくクラウドの胴体に吸い込まれていく……が。

 俺の顔の前に、細剣が置いてあった。

「ッ!?」

 急遽抜刀術《十六夜》を中断し、横に倒れながら避ける。抜刀術《十六夜》がソードスキルだったならば、ここで剣を中断出来ずに終わっていたことであろう。

「へっ! あれを避けるか!」

 当然ながら、顔の前に置いてあった細剣の持ち主はクラウド。
先程までの真紅の大剣はどこかに消え失せ、代わりにその手には、またも真紅に輝いた細剣が握られていた。

 急いで倒れた態勢を立て直し、日本刀《旋風》を相手の剣を防ぐように構える。

「今度は俺のスピードに、付いてこれっかなっ!」

 先程までの大剣のパワーに任せた戦い方とは真逆に、細剣を使ったスピード戦をクラウドは展開する。
確かに、日本刀のようなリーチの長い武器は細剣のようなスピード戦が苦手というのが通説であり、(どうやってかは知らないが)細剣に変えた理由も分かる。

 だが、スピード戦なら望むところだ。

「セッ!」

 縦横無尽に空中を駆け巡る、真紅の細剣を日本刀《旋風》の銀色の剣閃が捉える。
細剣とは元々、スピードの為に軽量化した剣であり、切れ味は日本刀には遠く及ばない。

 結果として、クラウドの真紅の細剣は鍔迫り合いを演じることも無く、刀身と鞘が分離することとなった。

「よくも俺の剣をやりやがったなっ!」

 だが、またも予想通りに真紅の剣が、細剣を持っていなかった方の手に握られていた。
今度は、大剣と細剣の中間ぐらいの剣……つまり、ノーマルな片手剣であった。

「今度はその剣が斬られたいのか?」

 ……まずはあの武器の速攻チェンジを破るところから、だな。
その為には、もう一度ぐらいクラウドの武器を使えなくさせる……!

「もうやらせねぇよっ!」

 俺の簡単な挑発に引っかかり、相変わらずの前進気味の攻撃を仕掛けてきた。
片手剣に持ち替えて斬りかかってきたものの、その真っ向から来るクラウド独自の太刀筋は変わらない。

 勢い良く放たれた突きを横に避けると、間髪入れずに片手剣が横薙にシフトする。
この思い切りの良さとスピードは流石だが、見切れないほどじゃない為に、日本刀《旋風》で受け止める。

「ハアッ!」

 日本刀《旋風》を力任せに振るうと、当然質量が小さいクラウドの片手剣の方が弾き飛ばされる。

 本来ならばここで吹き飛ばした片手剣を破壊するか、クラウド本人に追撃をするところであるが、もう片手に持つであろう剣に防がれるのがオチであり、悪ければ一撃喰らってしまう危険性まである。

 ここは追撃せずに、クラウド本人のもう片手を観察するのが得策……!

「……チィィッ!」

 吹き飛ばされた真紅の片手剣を一瞥しながら、舌打ちしたクラウドの片手は高速で動きだした。
あの動きは確か……《クイックチェンジ》……!

 武器を変更するメニューは本来ならば五項目ほどの選択が必要なため、一々戦闘中に武器を変えてはいられない。
だが、クイックチェンジが話は別であり、その項目を二項目ほどに省略出来る。

 そしてそれを極め、注意せねば見えないレベルにまで昇華したのが、見えない剣入れ替えのトリック……!

「トリックが分かったなら……こっちのものだッ!」

 クイックチェンジのレベルをそこまで上げていることと、多数の武器を扱えるセンスとレベルには脱帽するが、仕掛けが分かってしまえば恐るるに足らず。

 威力を度外視した、高速の日本刀《旋風》による一撃がクラウドの片手を刻み、今まさにオブジェクト化しようとしていた真紅の大剣を取り損ねた。

「……へっ!」

 だがそこで、クラウドは思いも寄らぬ行動に出た。
取り損ねた大剣を取らずに、大剣を足場にして天高く飛び上がったのだ。
武器がないところを追撃した俺の一撃は空を切ったが、空中で身動きはとれない為に、地上で待ち構えていれば俺の勝ちなのだが……そう上手くいくはずがない。

「行くぜショウキっ! ……ぶっつぶれろっ!」


 そして、空中でクラウドが出した剣は……巨大な薙刀ッ!?

 切り札と言うほどの迫力はあるが、片手剣や細剣、大剣などを使用していたクラウドの筋力値では使いこなせないはず……なるほど、だから自由落下で威力と速度が跳ね上がる空中へと飛んだのか……

 そして空中のクラウドの自由落下から放たれる、巨大な鉄の塊である薙刀のから竹割り。
その質量を利用した速度から、直下地点にいる俺には絶対に回避不可な攻撃……!

「でぇぇぇぇいっ!」

 クラウドの巨大な薙刀が、俺がいた石畳の大地を砕く勢いで振り下ろされた。
あの威力では、日本刀《旋風》で受け止めることも不可能だろう。

 ――だが甘い。

 俺はもう《縮地》によってすでに、位置を言うならばクラウドの背後である、巨大薙刀の長い持ち手の部分に立っているのだから――!

「残念賞だ。あの攻撃なら、次に何をされるか誰でも分かる」

 背後からの俺の声に驚き、クラウドが振り向いてくるが……恐らく、薙刀を振り下ろす時にソードスキルを使ったのだろう、スキル硬直で動けないようだった。

「俺の勝ちだ……ナイスな展開だったぜ?」

 日本刀《旋風》の柄尻を向け、クラウドの頭にブチ当てた。
クリティカルに見合う威力で殴った為に、初撃決着モードのルールにより、俺の勝利が決定した――



「納得いかねぇぇぇぇっ!」

 向こうでなんだか叫んでいるクラウドは、笑いながら慰めに行っているリディアに任せるとして、俺はアリシャとヘルマンと共に、ギルド《COLORS》に入る為の手続きをしていた。
……まあ、ヘルマンは立って夕日を眺めているだけだが。

「コレで良しっ! それじゃあショウキ、これからもよろしくっ!」

 ギルド《COLORS》への入団手続きが完了し、ハイタッチを求めてきたアリシャとハイタッチをしておく。

「ほら、ヘルマンもよろしくってぐらい言いなさいよ!」

「……よろしく頼む」

 ヘルマンの相変わらずの対応に、ああもうこの無愛想は、とアリシャは聞こえるように独り言をぼやくが、ヘルマンは気にせずに夕日を見ていた。

「おいショウキッ! 勝ったからって調子にのるんじゃねぇぞ、まぐれなんだからな!」

「……嘘つき」

 向こうの騒がしい者と笑っているものは、向こうで放っておくことにしよう。
しかし、ギルド《COLORS》……まさか、ギルドに入ることになるとは思わなかったが、人生何が起きるか分からないもんだな。

「それじゃあショウキ! ギルド《COLORS》入団に際して、リーダーであるわたしからプレゼント!」

 アリシャがメニューを操作し、黒い物体を俺に向かって投げつけてきた。
別に投げつけてきたと言っても、たかがしれているので、難なくキャッチして広げてみると……

「わたしお手製の黒色コート! 着てる和服黒色だし、防御力低そうだからちょうど良いわよ!」

 流石、戦闘用スキルを何も入れていないだけあって、アリシャは裁縫スキルも上げているらしい。

 試しに着てみると……軽い。
しかし、きちんと防御力も上がっているし、俺は本来使うことの出来ない《隠蔽》スキルのボーナスまで付いている……

「凄いな、この黒いコート……貰っただけじゃ悪いな。なんか無いか……」

「別にそんなの良いって!」

 アリシャはそう言って首を振るが、何かお礼せねば俺の気が済まない。
……しかし、こんな時に限って俺のストレージには素材とポーションばかりしかない……

 いや、ストレージの奥底にあった。
アイテムを出してみると、《カミツレの髪飾り》という、一回限りのクエストで貰った報酬の筈なのに、何の効果も無いという奇妙なアイテムだ。
しかし、デザインはまあまあだし、元気なアリシャには似合うのではないか……

「だったらコレだ、お礼」

「可愛いじゃん! 貰って良いの?」

 どうやら、なかなかどうして高評価だったようだことに安堵し、胸をなで下ろした。

「もちろんだ、お礼なんだから」

「やった! ……へっへ~似合う?」

 夕日をバックに、《カミツレの髪飾り》をつけて笑うアリシャは……まあ、その、可愛かった。
 
 

 
後書き
さて、この走馬灯という名の過去編はいつまで続くのか。
それは自分にも分からない。

感想・アドバイス待ってます。 
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