英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)
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第39話
屋上から走り去ったロイドは1階まで降り、外に出た。
~夜・特務支援課前~
「ハア…………(あの時……エリィから良い匂いがしたな………じゃなくて!!)」
外に出たロイドは心の中でエリィに頬にキスされた時の感覚を思い出しながら溜息を吐いた。するとその時
「あれ?」
「ロイドさん。」
「……どうかしたんですか?」
手すりの近くで街の景色を見ていたシャマーラ、セティ、エリナがそれぞれロイドに声をかけた。
「セティ。それにシャマーラとエリナも。……ちょっと外の空気が吸いたくなってね……3人はどうしたんだい?何か少し暗く感じているけど……」
声をかけられたロイドは答えた後セティ達を見回した。
「ん~………今日の”黒月”でツァオにセティ姉さんやあたし達が一番気にしている事を言われて……ね。」
「……気分を変える為に外の景色を見ていたんです。」
「……迷いが籠った槌では良い物は創れませんので。」
ロイドに尋ねられたシャマーラとセティは寂しげな笑みを浮かべて答え、エリナは静かな表情で答えた。
「ツァオが言った事……?………一体何を気にしているんだ?」
話を聞いたロイドは不思議そうな表情をした後、真剣な表情で尋ね
「…………私が正妻の娘である事です。」
尋ねられたセティは静かな表情で答えた。
「そう言えば、そんな事を言ってたな……………ずっと気になっていたんだけど………セティ達は腹違いの娘同士でありながら、何でそんなに仲がいいんだ?腹違いの子供達ってあんまり仲がいい印象はないんだけど……」
「フフ、母様達は父様が領主になるまで父様の護衛仲間としてずっと一緒に支え続けてきましたから、母様達の仲はとてもいいんです。」
「それにセティ姉さんの産みの親――――セラヴァルウィ母さんはとても寛容な人だし、他の母さん達もあたし達を本物の娘同様可愛がってくれるしね。あたし達にとって産みの母親以外の母親もあたし達の母親なんだ!」
ロイドの疑問にエリナは微笑みながら答え、シャマーラは嬉しそうな表情で言った。
「そうか………でも、それなら何でそこまで気にするんだ?」
「……他の領のパーティーに招待された時、領主の娘である私達も立場上参加しなければならないのですが………その時にいつも私達は奇異な目で見られるんです。」
「あたし達、容姿も全然似てないでしょ?だから、それで勘ぐる人達が多いんだ~。エリナなんか見てわかると思うけど、エルフのセラ母さんから生まれたとは思えない姿だもの。」
「………どうしても愛人の娘というのは、権力者達からは嘲られ、格好の的にされてしまうんです。」
ロイドに尋ねられたセティ達はそれぞれ複雑そうな表情で答えた。
「そうか……………ちなみに両親達はその事は?」
「勿論、気付いています。………幸いシャル母様は社交界等は面倒くさがって参加しませんし、父様達の護衛役として付いて行く”天使”の母様やエリザ母様に正面から皮肉を言うような人たちはいませんでしたので。」
「………どうして血が半分違うだけなのに、そこまで差別するんでしょうね?私達は血が半分しか繋がっていなくても、本当の姉妹だと思っているのに……」
「………………俺が思うにさ。3人共、周りの言葉なんか気にせず、いつも通りでいいと思うよ?」
暗そうな雰囲気を纏わせて語るエリナとセティの話を聞いて考え込んだロイドはセティ達に微笑んだ。
「え……」
「へ……」
「ロイドさん……?」
一方ロイドの言葉を聞いたセティ達はそれぞれ呆け
「……3人とは理由が違うけどさ。俺と兄貴もルファ姉と生活を始めた時、奇異の目で見られた事あるよ。………事情を知っているセシル姉達は気にしていなかったけど………それでも兄貴達が奇異の目で見られたり、噂されるのは正直、嫌な気持ちだったんだけど………2人とも、堂々としていたからかな?その内、兄貴達が奇異の目で見られたり噂されることもなくなったんだ。」
「「「…………………………」」」
ロイドの話を聞いていた3人はそれぞれ黙ってロイドを見つめ続け
「だから………3人はそのままでいいと思うよ?接した期間は少ないけれど……それでも3人は本物の姉妹だって、俺達は知っているから。」
「「「!!」」」
ロイドに微笑まされた3人はそれぞれ目を見開いて、驚き
「フフ……」
「えへへ………」
「……………」
それぞれ微笑んだり、静かな笑みを浮かべた。
「……そうですね。親しい人達がそう見てくれていたら、気にする事なんて、ありませんね。………ありがとうございます、ロイドさん。何だか悩むのも馬鹿らしくなってきました。」
「うんうん!それに何だか急に3人で何かを創りたくなってきたよ!」
「フフ、3人で協力して何かを創るのなんて、久しぶりですね………」
セティはロイドに微笑み、シャマーラは無邪気な笑顔を見せて呟き、シャマーラの言葉を聞いたエリナは静かな笑みを浮かべた。
「はは、お役に立ててよかったよ。3人はそうやっていつも仲良く笑っているところが素敵なんだからさ。」
「「「!!…………………」」」
そして笑顔を見せながら言ったロイドの言葉を聞いた3人はそれぞれ頬を赤く染めて驚いた後、黙ってロイドを見つめた。
「?3人共、どうしたんだ。ジッと見つめて。」
3人の様子に気付いたロイドは首を傾げた。
「フフ、どうやら無自覚で言ったみたいですね………」
「ええ………何だかロイドさんの将来の女性関係が心配になってきました。」
一方セティとエリナは苦笑し
「ロイドさん、自分があたし達に何を言ったか、ちゃんと理解している~?」
シャマーラはからかうような表情でロイドを見つめた。
(はわわっ!ま、まさかセティ達………ロイドさんの事を?)
(わあ………なんだかご主人様がもう一人いるみたい!)
(なんだかロイドは将来、ウィルみたいになるんじゃないかと思えてきたわ……)
(あ~………確かに……)
一方水那は慌て、アトは喜び、クレアンヌとクレールは苦笑していた。
「へっ……………………なっ!?え、えっと………俺は思ったままの事を口にしただけで………」
シャマーラの言葉を聞いたロイドは不思議そうな表情をしたが、すぐに気付いて驚いた後、慌てて言い訳を始めたが
「ロイドさん。これは複数の女性関係を持っているお父さんを知っている私達からの忠告です。……将来、仲良くなった女性達を一人残さずちゃんと愛さないと、刺されますよ?」
「後は仲良くなった女の人達がみんな、仲良くしていないと、幸せな家族を築けないよ~?」
「ええ。……でないと貴女を好きになった女性の方々が可哀想ですよ?」
「ちょ、ちょっと待て!3人共エリィと同じような事を……ランディならともかく、何で俺がそんな事を言われなくちゃ……!」
セティ達に微笑まれたロイドは慌てた様子で言った。
「うわ………既にエリィさんも被害にあったんだ………」
「フフ、それならロイドさんの最初の女性はエリィさんですかね?」
シャマーラは驚いた後苦笑し、エリナは静かな笑みを浮かべ
「ロイドさん。複数の女性と関係を持つのは………ほどほどにしておいてくださいね?そうでないとエリィさんが可哀想ですから。」
セティはロイドを見つめて微笑んだ。
「ちょ、ちょっと待て!なんで、そこでエリィが出てくるんだ……!?」
セティの言葉を聞いたロイドは慌てながら尋ねたが
「そのぐらい、自分で考えて下さい。」
「おやすみ~。」
「おやすみなさい、ロイドさん。」
セティ達は答えず、ビルの中に入って行った。
「……………エリィ、本当に俺の事が………?……いやいやいや!あり得ないから!何を期待しているんだよ、俺は……ハア………俺ももう、寝よう……」
3人がビルの中に入った後、ロイドは考え込んだ後すぐに否定し、疲れた表情で溜息を吐いた後ビルの中に入った。その後ロイドは部屋で待っていたルファディエル達にセティ達の事も見られていたので、さんざんからかわれた後、明日に備えて休んだ。
~黒月貿易公司~
「―――以上が今週の成果です。連中が投入してきた軍用犬がいささか厄介ですが………”銀”殿さえいれば、戦力面での不足は補えるかと。」
一方その頃、ツァオは東方風の男から報告を受けていた。
「ふむ、わかりました。市内での体制はこのまま継続。あとはそうですね………アルタイル市に派遣した人員を半分ほど呼び戻してください。」
「承知しました。………”ラギール商会”の方はいかがなさいましょう?今まであちらに対して、まだ何も仕掛けていませんが。」
「あちらに対しては向こうから仕掛けてくるまで放置しておきましょう。下手に藪をつついて、蛇どころか竜を出す訳にはいきませんし………こちらとしても将来的に向こうとは”良い関係”になりたい所ですし。」
「承知しました。それではツァオ様。お休みなさいませ。」
「ええ、お疲れ様。」
「ふう………困りましたね。長老方の助けを借りるのはさすがに後が恐いですし………やれやれ……”銀”殿がもう少し協力的だと助かるんですが。」
東方風の男が去って行くとツァオは溜息を吐いた。するとその時
「……契約分はきちんと働いているつもりだがな。」
何と何もない空間から黒衣の男が現れた!
「おお……いらしてたんですか。いやはや、失言でしたね。」
突然現れた男に気付いたツァオは動じる事もなく、口元に笑みを浮かべて言った。
「フン………わざと聞かせたのだろう?相変わらず喰えない男だ。」
「いやいや、貴方ほどでは。ところで今宵はどのようなご用件で?軍用犬への対処をする気になっていただけましたか?」
「あの程度、お前の部下どもで何とかできるだろう。私が相手をするのはガルシアを始めとするルバーチェの主力のみ………そういう契約だったはずだ。」
「やれやれ、つれないですねぇ。何やら”アルカンシェル”に拘ってらっしゃるようですが………ここの警察はなかなか優秀だ。こちらへの面倒事は困りますよ?」
黒衣の男の言葉を聞いたツァオは溜息を吐いた後、目を細めて男を見つめながら言った。
「クク、心配は無用だ。それよりも………”特務支援課”、どう感じた。」
「ふむ………用件というのは彼らについてでしたか。そうですね―――興味深い若者たちでしたよ。特にリーダーらしき、ロイドさんがいいですねぇ。自分の力不足を痛感しながらもひた向きに前に進もうとする………カンも悪くないようですし、なかなか好みのタイプです。」
「お前の趣味は聞いていない。他のメンバーはどうだ?」
「フフ、これがまたなかなか興味深い面々でして。マクダエル市長のお孫さん………相当な政治センスをお持ちのようで参謀役と言ってもいいでしょう。ユイドラ領主の長女さんは……やはり領主の長女なのか政治や交渉事、それらによってもたらされる利益をわかっており、若いながらも経営者としての片鱗を見せていました。残りの2人の妹さん達はやはりあのユイドラ領主の娘なのか、職人としての腕も若いながら良さそうでしたし、武の力もそれなりにあるかと。エプスタイン財団の娘さん……魔導杖そのものも興味深いですが特殊な資質を持っているようです。赤毛の彼は………フフ、これは私のカンですが我々と似たような匂いがしますね。そして未だ私達の前に現していない”叡智”と称される天使の方ですが………報告を見る限り、一課の刑事たちをも超えるずば抜けた推理、そして相当の武や知略をお持ちのようです。それこそ市民達が噂しているように2人目のクロスベルの”真の守護者”と言ってもおかしくないでしょう。油断をすれば最後、私達も策に嵌められそうで、手強い相手ですね。後は彼らに従う異種族の方達ですが……フフ、正面から戦えば、我々に勝ち目はないでしょう。」
「………なるほど。………………………」
ツァオの話を聞いた黒衣の男は考え込み
「しかし……どうしてまた彼らに興味を?」
「なに………少々、試したくなってな。この私の―――”銀”の依頼を託すのにふさわしい相手であるのかを。」
ツァオに尋ねられ、黒衣の男―――銀は静かな口調で答えた。
そして翌日、朝食や朝のミーティングを済ませたロイド達は今後の捜査についての話し合いを始めた…………
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