英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)
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第21話
~ウルスラ病院・受付~
「ようこそ、ウルスラ病院へ。今日は外来ですか?それともお見舞いでしょうか?」
「あ、いえ……クロスベル警察、特務支援課のロイド・バニングスといいます。今日は、捜査任務のためにこちらに伺わせていただきました。」
受付嬢に尋ねられたロイドは捜査手帳を見せて説明した。
「あ、警察の方だったんですか。捜査と言いますと………やはり例の魔獣騒ぎでしょうか?」
「ええ………自分達の方でも調べるように警備隊から要請がありまして。関係者に一通り話を聞かせていただければと。」
「ふふ、わかりました。そうですね、病院長は留守ですし、看護師長をお呼びしましょうか。」
「そ、その……実はですね。個人的な知り合いがこちらに勤めていまして………その人がお忙しくなければ、案内してもらおうと思いまして………」
受付嬢に尋ねられたロイドは緊張した様子で答え
(何だか緊張してますね………)
(そりゃ、ナースのお姉さんで美人とくりゃ緊張もするだろ!)
(それは貴方だけでしょう……)
その様子を見ていたティオ達は小声で会話をしていた。するとその時
「――――ロイド?」
女性の声が聞こえ、声が聞こえた方向にロイド達が視線を向けるとそこには一人の看護師の女性がいた。
「……………………」
女性は驚いた表情でロイドを見つめ
「あ……………」
「おおっ!?」
「………綺麗な人…………」
「……ぐらまーです……」
女性を見たロイドは呆け、ランディは驚き、エリィとティオは女性の整った容姿や普通の女性より優れているスタイルを見て驚いていた。
「あら、セシルさん。ちょうど良かった。こちらは警察の方だそうで………」
女性に気付いた受付嬢は女性に伝え、ロイドは女性に近づいた。
「えっと………その。いきなりゴメン…………先に連絡すればよかったかな。」
女性に近づいたロイドが緊張した様子で言ったその時
「…………っ……………!」
女性はロイドに抱き付いた!
「ちょ、セシル姉………!?」
「やっと………やっと会えたわね。お帰りなさい…………本当に久しぶりね、ロイド………」
抱き付かれて戸惑っているロイドに女性は嬉しそうな表情で言った。
「う、うん………会いにいけなくてゴメン。しばらくずっと忙しくてさ………そ、それより、さすがに少し恥ずかしすぎるんですけど………
「………いいからこのままお姉ちゃんに抱き締められてなさい。ふふっ……背もこんなに高くなって…………前に別れた時は私と同じくらいだったのにね………」
「そ、そりゃあ、育ち盛りの3年間だったし…………」
(フフ……相変わらずの様子ね、セシルは………)
(かかかっ!今の内に押し倒して、大人の男になっちまえ!)
女性とロイドの様子を見ていたルファディエルは微笑み、ギレゼルは陽気に笑っていた。
「あ、あの~………」
一方受付嬢は恐る恐る話しかけ
(な、なんていうか………)
エリィは苦笑し
(想像以上に甘々ですね………)
ティオは呆れ
(おのれロイド……!ルファディエル姐さんがいながらあんな素敵なお姉さんを……!)
ランディは悔しそうな表情でロイドを睨んでいた。その後ロイド達は女性に事情を話し、看護師寮の食堂で自己紹介をし合った。
「――――初めまして。セシル・ノイエスといいます。ふふ、どちらかと思ったけどロイドの同僚さんだったんですね。」
「は、はい……エリィ・マクダエルです。」
「どうも………ティオ・プラトーです。(セシル・ノイエス………確かその人の名前はティナさんが生まれ変わった人の名前のはず…………まさかこの人が?)」
「ランディ・オルランドっス!どうぞお見知りおきを!」
「ふふ、よろしくね。はあ………でも、私ったら慌てんぼうね。てっきりロイドが彼女を連れて遊びに来たかと思っちゃったわ。」
エリィ達の自己紹介を聞き、微笑んだ女性―――セシルは溜息を吐いた。
「ちょ、何を言い出すのさ!?」
一方セシルの言葉を聞いたロイドは慌て
「だって、3年ぶりでしょう?彼女の一人や二人くらい作ってお姉ちゃんに紹介してくれるのかな~って。はっ、ひょっとして本当に付き合っているけど仕事だから隠しているとか……ご、ごめんなさい。悪い事をしちゃったわね。」
「あ、あのねぇ………」
セシルの話を聞いたロイドは呆れた様子で指摘しようとしたが
「それで………どっちと付き合ってるの?エリィさん?ティオちゃん?それとも2人いっぺんにとか……」
セシルは話をロイドの様子に気付かず話を進め
「だから違うってば!」
「2人じゃないとするとルファディエルかしら?そうよね、一緒に暮らしていたら姉弟とはいえ、愛が芽生えてもおかしくないものね……お姉ちゃんは応援させてもらうわ、ロイド。ルファディエルとは血の繋がった姉弟ではないから誰にも反対されないから、安心して付き合っていいわよ。種族は違えどルファディエルはとてもいい女性なんだから絶対に離しちゃダメよ!」
「いやいやいや!ルファ姉と俺なんて釣り合わないから!」
「はっ…………も、もしかしてそこの彼と………ううん、私もそういうのには理解のある姉でいたいから………全力で応援させてもらうわっ!」
「いや!そこは反対するところだから!?」
暴走してその度にロイドに突っ込まれた。
(ハア……こういう所も相変わらずね……)
(かかかっ!貴重な天然ッ娘を既にキープしているとはさすがはロイドだな!)
その様子を見ていたルファディエルは溜息を吐き、ギレゼルは陽気に笑い
「クスクス……」
「なんだか…………ユニークなお姉さんですね。(本当にティナさんが生まれ変わった人なんでしょうか?何と言うか………性格が全然違って、とてもそうには思えません………)」
「は~、天然なところも素敵だ……」
エリィは微笑み、ティオは興味深そうな様子でセシルを見つめ、ランディは嬉しそうな表情でセシルを見つめていた。
「そういえば、ロイド。ルファディエルは?今は一緒じゃないの?」
「いや、今も一緒にいるよ。―――ルファ姉。」
「………こうして顔を合わせるのは久しぶりね、セシル。」
そしてセシルに尋ねられたロイドはルファディエルの名を呼び、呼ばれたルファディエルは人間の姿で現れてセシルに微笑んだ。
「フフ、久しぶりね。それにしても貴女は全然変わった様子が見えないわね。」
「あのね………私が天使だって事をもう忘れたの?天使は寿命は関係ないから、これからもずっとこのままよ。」
「ハア……歳を取らないことといい、ロイドとずっと一緒にいれる事といい、本当に羨ましいわ~。私もできる事ならずっとロイドの面倒を見たいのに………」
「もう……そうやってロイドを甘やかしていたら、ロイドはいつまでたっても一人前になれないわよ?」
「むう……ルファディエルだって人の事は言えないじゃない。職場を含めて色んな所でロイドの面倒を見ているんだから。」
「フウ……それは貴女が頼んだ事でしょう?貴女に嫉妬される筋合いはないわよ。」
「それでも納得できない所があるのよ…………そう言えば貴女は今はどこで寝泊まりしているの?ロイドは職場の寮のようだけど………」
「私はロイドと契約して、ロイドの身体の中にいるから、部屋は一緒………と言うべきかしらね?」
「え!じゃあ、前みたいに一緒のベッドでロイドと寝ているの!?ルファディエルばっかりズルいわよ………」
「私の話はちゃんと聞いていた?私はロイドの身体の中にいるだけで前みたいに一緒のベッドでは寝ていないわよ。第一、以前クロスベルで暮らしていた時でも私はそんなに頻繁にロイドと一緒のベッドに寝た事はないわよ…………貴女こそ、私がロイド達に世話になるまでに時々ロイドと一緒にお風呂とか入った事があるんでしょう?それと比べたら、大した事ないわよ。」
「え~………それは私と貴女とロイドの3人で一緒に入って身体の洗いあった事で無効になったじゃない。第一、貴女だってロイドと一緒に入っていた事があるじゃない。」
「ちょっ!?セシル姉!ルファ姉!ストップ!!頼むからもう、話を止めてくれ!」
セシルとルファディエルの会話を聞いていたロイドは真っ赤な顔で慌てた様子で叫び
(あっははは!まさかルファディエルにそこまでさせるとはねぇ!面白い男だよ!)
(かかかっ!さすがはロイド!そんなに昔からルファディエル達を同時攻略するとは!)
エルンストとギレゼルは笑い
(ル、ルファディエル様…………いくらなんでもそれはさすがに甘やかしすぎでは………?)
(まさかルファディエルがそこまで甘やかしていたとは…………正直な所、別人かと思ったぞ…………)
メヒーシャは表情を引き攣らせ、ラグタスは驚きの表情で呟き
「………やっぱりルファディエルさん達と一緒にお風呂を入った事があるのね。しかも3人で一緒に入った上、身体を洗いあった事もあるなんて。」
「しかも話を聞いている限り、わりと頻繁にあったようですね……さらにルファディエルさんとベッドと一緒に寝ていたとは………リア充にも程があるでしょうに。」
「おのれロイド………!ルファディエル姐さんだけでは飽き足らず、セシルさんともそんなうらやまけしからん事を………!この弟貴族がっ!俺にもお前のリア充度を分けやがれ!お前ばっかりズルいぞ!」
エリィとティオは蔑みの表情でロイドを見つめ、ランディは悔しそうな表情でロイドを睨んで叫んだ。
「ああもうっ!捜査が進まないから、もう話はこれで終わり!ルファ姉も今は捜査官の一人なんだから、事件と関係のない会話はほどほどにしてくれ!」
「フフ、そうね。」
そしてロイドは大声で叫んだ後ルファディエルを睨み、睨まれたルファディエルは微笑みなが頷き
(逃げましたね……)
(ええ………それも露骨に………)
(おのれロイド………!俺のドストライクな人達ばかりと………!)
エリィとティオはジト目で小声で会話をし、ランディは悔しそうな表情でロイドを睨んでいた。
「そこ!ヒソヒソ話をしない!それで、セシル姉。魔獣騒ぎのことなんだけど………」
そしてロイドはエリィ達を睨んで大声で注意した後、話を戻した。
「うん、そうだったわね。師長から許可は貰ったから私が説明させてもらうけど…………1週間前の夜のことよ。うちで研修医をしている人が魔獣に襲われてしまったの。ただ、おかしなことがあって………」
「警備隊の調書によると被害者の勘違いの可能性もあると書かれていましたが………?」
「……そう。やっぱり半信半疑みたいね。私も詳しくは知らないけど………病棟の屋上で襲われたらしいの。」
「屋上………!?」
「どういう事でしょう………?」
セシルの話を聞いたロイドとエリィは仲間達と共に驚いた。
「えっと、病棟の屋上は庭園みたいたテラスになってるの。奥には先生方が詰めている研究棟なんてのも建っていてね。」
「なるほど………要するに魔獣が出るような場所じゃ有り得ないってことッスね?」
「飛行型の魔獣なら可能性はあるけど………でもそれだと狼型の魔獣には当てはまらないわね………(クリエイターのように魔獣同士が合体した存在なら話は別だけど………)」
「ええ……警備隊の人たちも最終的にそう判断したみたい。でも、やっぱりどこか納得行かなかったんでしょうね。貴方達に調査をお願いしているところを見ると。」
ランディとルファディエルの言葉に頷いたセシルは真剣な表情でロイド達を見回した。
「い、いや~……どうかな。正直そんなに期待されてはいないと思ってるけど………」
「ふふ、謙遜しないで。クロスベルタイムズを読んだけどすごく頑張ってるみたいじゃない?」
謙遜している様子のロイドを見たセシルは微笑みながら言った。
「あ………そうか、あの旧市街の事件か。」
「ですが、最新の記事には私達が解決したまでは…………」
「ふふ、そう書かれてないけど頑張ってることは伝わってきたわ。それに、ちょっと前までうちに怪我をしていた男の子たちが入院していたんけど………お見舞いに来た仲間の子達からちょっとだけ話を聞いちゃったの。貴方達に大きな借りを作っちゃったて。それと最近のクロスベルタイムズでは貴方達の活躍は結構頻繁に載っているわよ。」
「そ、そうだったんだ………」
「ふふ、面白い偶然ですね。」
セシルの話を聞いたロイドは驚き、エリィは微笑み
「いや~、照れちゃうなぁ。」
ランディは嬉しそうな表情で呟き
「ランディさんはそれほど活躍してないと思いますが………それに、あの事件を解決できたのはルファディエルさんのお蔭のようなものですし、後私達が有名なのは全てルファディエルさんやメヒーシャさん達のお蔭じゃないですか………」
ティオは冷静な表情で突っ込み
「フフ、私は少し力を貸しただけよ。最終的に事件を解決したのは貴方達よ。それに貴方達だって『支援要請』を確実にこなしていっているのだから、有名になったのが全て私達の影響だと思わなくていいわ。」
ルファディエルは微笑みながらロイド達を見回した。
「でも、そうね………この先は、実際に被害にあった人から直接聞いた方がいいかもしれないわね。」
「うん、できれば紹介してほしい。それと………実際の現場を調べておきたいかな。」
「わかった。どちらも案内するから任せて。」
ロイドの言葉に頷いたセシルはソファーから離れて立ち上がった。
「あっと………セシル姉、時間の方は大丈夫?」
「うん、ちょうど今は休憩時間になっているから。それじゃあまずは、病院棟の2階に行きましょう。みんな、私に付いて来て。」
「はいっ。」
「………了解です。」
「お供しまッス!」
そしてセシルに促されたエリィ達はそれぞれ頷き
(………みんないきなりセシル姉に馴染んでるなぁ。)
(そうね………)
その様子を見ていたロイドは苦笑し、ルファディエルは微笑んでいた。
その後ロイド達はセシルの案内によって魔獣に襲われた被害者がいる病室に向かった。
~ウルスラ病院・2階病室~
「ふむ………経過は良好のようだね。うん、これなら明日にでも退院できるだろう。」
「ホ、ホントですか!?」
「ああ、嘘は言わないよ。ふふ………退院したら覚悟するといい。君にやってもらう仕事を山ほど用意してあるからね。」
「ちょ、ヨハヒム先生!?病み上がりの人間にそんな殺生な………」
「裂傷と打撲と捻挫くらいで情けないことを言いなさんな。逆にしこたま休んで体力が有り余ってるだろう?うんうん、今まで以上にバリバリと働けるだろうさ。」
「………先生ってよくSって言われませんか?」
「うーん、僕としてはMの方だと思うんだけどねぇ。」
「もう……何の話をしてるんですか?」
眼鏡の医師と患者が会話をしていると呆れた様子のセシルがロイド達を連れて病室に入って来た。
「おや……」
「あ………セシルさん!」
「お二人とも……他の患者さんもいるんですからあまり変な話をしたら駄目ですよ?子供が聞いたらどうするんですか?」
「す、すみません。」
「はは、参ったな。おや、そちらの方々は?」
セシルに注意された患者は謝罪し、医師は苦笑した後ロイド達に視線を向けた。
「クロスベル警察の方です。その、例の事件についてリットンさんから直接お話を聞きたいそうです。」
「あ………」
「なるほど、そういう事か。となると僕はここで退散した方がよさそうだね。他の病室を回診してくるよ。」
「お疲れ様です。………サボったら駄目ですよ?水辺の方で釣りとか。」
「ギクッ……いやいや、滅相もない。―――それじゃあ、失礼。」
セシルとの会話を終えた医師は病室を出た。
「えっと、今の人は?」
「ヨアヒム先生といって准教授をされている方よ。とても優秀な先生なんだけど少し趣味人すぎるというか……」
ロイドの疑問にセシルは答えた溜息を吐いたが、事情を聞きに来た事を思いだして患者に尋ねた。
「……それで、リットンさん。お時間を頂いても大丈夫ですか?」
「え、ええ。それは構わないですけど……でも、どうしてクロスベル警察の人が?警備隊が調べていたんじゃなかったのかい?」
「それが、警備隊の方でも手詰まりになったらしくて…………自分達も捜査協力することになったんです。」
「そうなのか…………うーん、やっぱり僕が夢を見たとか思われてるのかなぁ。それとも夢遊病?いやいや、そんなわけが………」
ロイドの説明を聞いた患者は頷いた後、考え込んだ。
「その、できれば改めて聞かせていただけませんか?1週間前の夜、起きた事について?」
「あ、ああ…………」
エリィの話を聞いた患者は頷いた後、再び考え込み、当時の事を思いだして話し始めた。
「――――そうだな。あれは研修レポートを書き上げた深夜のことだった。その研修レポートというのが気難しいことで有名なラゴー教授の指導研修のものでさ。もう全神経を集中する勢いで徹夜で書き上げたもんだから正直、意識は朦朧としてたんだ。意識は朦朧としてるんだけどなんかハイになってるっていうか……そんな状態で夜風に当たっていると………その声が聞こえてきたんだ。…………記憶があるのは実際、そこまでなんだ。翌朝、用務員さんがズタボロになって気絶した僕のことを発見してくれて………それで緊急入院して今現在に至るというわけさ。」
「………なるほど。状況は一通り把握しました。」
「襲って来た魔獣どもの姿ははっきりとは見えてないのか?」
「いや、恥ずかしながらショックで気絶したらしくてね。真っ赤に光る目と白い牙、それと黒っぽい毛並みくらいしか覚えていないんだよ………ただ、警備隊も確認してたけど、狼っぽいと言われたらそうだと思う。」
(………毛皮が黒?)
患者の話を聞いていたルファディエルは眉を顰め
「なるほど…………」
「その………傷の方はどうだったんですか?」
ティオは頷き、エリィは質問した。
「うん、右肩のところに牙で噛まれたような跡はあった。逆にそれ以外の怪我は打撲と捻挫とかくらいでね。たぶん噛み付かれたあと、そのまま床に引き倒されたと思うんだけど…………」
「………なぜか魔獣はそれ以上あなたを襲わなかった。つまり、そういう事ですね?」
「そうそう、そうなんだ!本当なら食い千切られてもおかしくないところなのに…………おまけに場所が屋上だろ?もう警備隊の人にも胡散臭い目で見られちゃってさぁ。しまいには、夜中フラフラ街道に出て魔獣に襲われたんじゃないかって疑われる始末だったよ。」
「でも、あなたが発見されたのはこの建物の屋上ですよね………?」
「うーん、襲われたパニックで屋上まで逃げてから気絶した………その可能性はゼロじゃないかもなぁ。」
「そ、それはさすがに無理があるんじゃ………」
患者が呟いた言葉を聞いたロイドは脱力し
「もう、リットンさん。襲われたあなたがそんな自信のないことでどうするんですか?」
セシルは呆れた後、患者を軽く睨んで言った。
「いや、その…………すみません。でもねぇ、説明が付かない事をそのままにするのも嫌じゃない?だったら自分の記憶が曖昧になってるって考えた方が気が楽っていうか………というか、もし本当に魔獣が屋上なんかに現れたんだとしたら………ちょっと恐すぎない?」
「「「「「……………………」」」」」
そして患者に言われたロイド達は黙って考え込んでいた。
「ふう………気持ちはわからなくもないですけど。でも、本当にそうだとしたらちゃんと対策を考えないと………」
「……………………ご協力、ありがとうございました。自分達の方でも襲われた現場を調べてみます。」
「あ、ああ、よろしく頼むよ。ちゃんとした説明がついて対策できるんだったらそれに越した事はないからね。」
その後病室を出たロイド達はセシルによって、襲われた現場を案内され、セシルは仕事に戻り、ロイド達が現場を調べた結果、魔獣は侵入可能な場所の2階の屋上に飛び移り、そして屋上にある木箱に飛び乗って3階の屋上に上がって、患者を襲ったという結果がわかったので、その結果と対策を報告する為にセシルを探して、ある病室に入った。
~ウルスラ病院・3階病室~
病室に入るとそこにはベッドに座っている少女とその近くにはセシルがいた。
「あ、セシル姉。」
「あら、ロイド。」
ロイドに話しかけられたセシルは気付き
「あ………」
少女は声を上げた。
「師長さんからここにいるって聞いてさ。その、お邪魔だったかな?」
「ふふ、大丈夫よ。―――シズクちゃん。いま話してたお兄さんたちよ。クロスベル警察に勤めてる正義のお巡りさんなの。」
「せ、正義のって………」
「さすがにそれは過大評価だと思いますけど………」
「………クスクス。」
セシル達の会話を聞いていた少女は微笑んだ後、自己紹介をした。
「えっと、その………お仕事、お疲れ様です。わたしはシズク………シズク・マクレインっていいます。」
「はは………ありがとう。って、あれ………」
「マクレインって………」
少女―――シズクの言葉を聞いたロイドは苦笑した後、エリィと共に少女の名前に気付き
「んー、どこかで聞いたような。」
ランディは考え込んでいた。
「ふふ、ひょっとしたら面識があるかもしれないわね。シズクちゃんのお父さんはアリオスさんっていうんだけど。」
「ええっ!?」
「”風の剣聖”………」
「あのオッサン、娘がいたのかよ!?」
「それは初耳ね………」
そしてセシルの説明を聞いたロイドとティオは驚き、ランディは信じられない表情で呟き、ルファディエルは意外そうな表情で呟いた。
「えっと………皆さんはお父さんのお知り合いなんですか?」
「い、いやぁ、知り合いというか………前に危ないところを助けてもらったんだけど………」
「ふふ、そうだったんですか。うちのお父さん、無愛想だからお気を悪くされませんでしたか?」
「そ、そんな、とんでもない。こんな偉い人がいるんだなって身が引き締まったっていうか………」
「厳しいけど思いやりがあって、頼りになりそうな方だったわ。ふふ、素敵なお父様ね。」
「え、えへへ………ありがとうございます。」
「うふふ、シズクちゃんはお父さんっ子だものねぇ。そのくせ、お父さんが訪ねても遠慮してあんまり甘えないし……『お父さん大好き!』とか言って抱きついちゃえばいいのに。」
ロイド達の話を聞き恥ずかしがっているシズクを見たセシルは微笑んだ後からかった。
「セ、セシルさんったらぁ………」
「はは…………」
セシルのからかいに顔を赤らめているシズクを見たロイドは微笑ましそうに見つめ
(あの凄腕のオッサンが娘に甘えられてる構図か………)
(少し想像しにくいですね………)
ランディとティオは小声で会話をしていた。
「そういえば、例の件なんだけど。実は、ここにいるシズクちゃんが気付いたことがあるらしくって。」
「気付いた事………?」
「えっと、その………リットンさんが襲われた晩のことなんですけど。わたし、眠れなかったから点字の本を読んでいて………その時、悲鳴みたいなのが聞こえてきたんです。」
「本当かい………?」
「それで………どうしたの?」
シズクの話を聞いたロイドは真剣な表情にし、エリィは尋ねた。
「その、気になったのでそこの窓を開けて耳を澄ませたんですけど………それ以上、悲鳴は聞こえなくてかわりにハッハッハッて息づかいみたいな音が聞こえて………しばらくしたらタンタンって何かはねるような音が聞こえて……えっと………それで終わりです。」
「そっか…………その事は警備隊の人には?」
「その、わたしずっと夢でも見たのかと思ってて………さっきセシルさんから話を聞いて初めてその事だって気づいて……ご、ごめんなさい…………もっと早く言ってれば………」
ロイドに質問されたシズクは答えた後申し訳なさそうな表情をした。
「いや、いいんだよ。」
「ありがとう、教えてくれて。」
「しかし………屋上での調査を完全に裏付ける証言ですね。」
「ああ、最初の悲鳴ってのがあの研修医が気絶した時…………そして、狼型魔獣の息遣いとあの木箱やらに飛び乗って逃げていった時の音みたいだな。」
シズクの話を聞いたティオとランディはそれぞれ頷いた。
「そ、それと………その、わたしの空耳かもしれないですけど……」
「………いいよ。気になった事は何でも言ってみて。」
「その………さっき話した音が聞こえてくる最中なんですけど……なにか………キーンってかすれた音が聞こえたような気がしたんです。
「キーンとかすれた音……」
「ふむ、特定の魔獣が発する、独自の鳴き声かなんかか…………」
「気になる話ね。」
シズクの話を聞いたティオは話の内容を繰り返し、ランディとルファディエルは考え込んでいた。
「その音は、普段は聞こえないのね?」
「はい…………あの晩だけだと思います。その……やっぱりわたしの空耳の可能性もあるかも…………」
「いや………貴重な証言、ありがとう。―――セシル姉。色々とわかったことがあるから一通り報告させてもらうよ。」
「うん、わかったわ。それじゃあシズクちゃん。また夕食の時に来るわね。」
「はい。お仕事頑張って下さい。ロイドさんたちも…………調査、頑張ってくださいね。」
「うん、ありがとう。」
「また、来るわね。」
そしてロイド達はセシルと共に病室を出た。
「セシル姉。その、彼女は……」
「うん…………数年前の事故で目の光をね。でも、まったく回復の見込みがないわけじゃないの。少しずつ回復治療を受けながら療養生活をしているのよ。」
「そうだったのか…………」
セシルの説明を聞いたロイドは重々しく頷き
「その……………他にも治療法はないのですか?」
ティオはセシルから視線を外して尋ねた。
「他の治療法………?」
ティオの話を聞いたエリィは首を傾げ
「はい。…………例えば治癒魔術とかです。治癒が専門の異世界の宗教ならシズクさんの目の光を治すことも可能なのでは?」
「あ………!」
「なるほど………癒しが専門のイーリュン教ならありえそうだな。」
ティオの説明を聞き、ロイドは声を上げ、ランディは納得した表情で頷いた。
「う~ん……実はその案も出て、イーリュン教に依頼して治癒魔術ができる方にお願いした事もあったんだけど…………相当の力を持つ術者でなければ、治す事は難しいって言われてね………」
一方セシルは考え込んだ後、複雑そうな表情で答えた。
「そんなに難しいのか………」
セシルの答えを聞いたロイドは驚き
「………セシル。確か貴女、イーリュン教の信者で治癒魔術が使えたはずよね?貴女でも無理だったのかしら?」
「え…………」
「セシルさん、イーリュン教の信者だったんですか?」
一方考え込んでいたルファディエルは尋ね、それを聞いたティオは驚き、エリィは意外そうな表情で尋ねた。
「ええ。………最も、治癒魔術を使えるようになったのは最近だけどね………それと私も試してみたけど無理だったわ。病院が呼んだイーリュン教の方も言っていたけど………他の種族と比べて魔術師としての才能がよほど恵まれている人以外、魔力が低い”人間”では失明した眼に光を宿す事は難しいと言っていたわ。」
「そうか………あ。じゃあ、”天使”のルファ姉なら可能なんじゃ………!?」
セシルの話を聞いたロイドはある事に気付いてルファディエルに視線を向けたが
「それは止めておいた方がいいわ、ロイド。私は失明した眼の治療方法はわからない上第一、治癒魔術は専門ではないわ。………確かに毒や混乱を治癒する治癒魔術を扱えるけど、それとはまた話が別になるわ。それに専門でもない者が手を出す事は危険よ。」
「そっか…………」
ルファディエルの答えを聞き、残念そうな表情で答えた。
「しかし”人間”以外となるとやっぱりあれッスか?”闇夜の眷属”でないと駄目なんッスかね?”闇夜の眷属”かつイーリュン教のシスターなんて条件の人、いないような気がするんッスけど………」
「――――いえ、一人いるわ。ゼムリア大陸のイーリュン教の神官長を務めておられるティア様ならその条件に当てはまるわ。」
そしてランディが呟いた言葉を聞いたセシルは真剣な表情で答えた。
「そういえば………”癒しの聖女”―――ティア様は”闇夜の眷属”であり、眷属の中でも”最強”を誇る”魔神”の血を引くリウイ陛下のご息女でしたね…………あの方にも”魔神”の血が流れているのですから、術者として相当の力をお持ちなのでしょうね。」
「へ~………そうだったのか。それにしてもまさか”ゼムリア二大聖女”の両方がメンフィル帝国の皇室関係者だったなんてな。確か”闇の聖女”も皇室関係者だったろ?」
セシルの話を補足したエリィの説明を聞いたランディは意外そうな表情をした後、ロイド達に確認した。
「ああ。”闇の聖女”は”英雄王”の側室の一人のはずだ。それで話を戻すけど、その話を聞いて”癒しの聖女”は呼べなかったの?」
「ええ、残念ながら。あの方は世界中を周って傷ついた人達を癒している上、メンフィル皇女でもあるから祖国の大切な行事に参加する義務もある人でね………スケジュールが埋まっていて、こちらに来る余裕は今の所、ないそうなのよ………」
「そっか…………」
「まあ、宗教のトップなんだから忙しいのは当たり前だよな。」
「………………………」
「………………………」
複雑そうな表情で語るセシルの話を聞いたロイドは残念そうな表情で溜息を吐き、ランディは納得した様子で頷き、エリィは複雑そうな表情で考え込み、ティオは黙ってセシルを見つめていた。
「ふふ………シズクちゃんはとっても健気な子でね。お父さんが忙しい人だから滅多に会えずに寂しいでしょうにわざと明るく振る舞って…………貴方達も良かったら今後とも仲良くしてあげてね?」
「ああ………喜んで。」
「そうですね。とっても良い子みたいですし。」
「……ですね。」
「俺の素敵トークであの子を笑顔にしてやりますよ。」
「ふふ、ありがとう。さてと………何かわかったんでしょう?改めて聞かせてもらえるかしら?」
ロイド達の答えを聞いたセシルは微笑んだ後、ロイド達に尋ね、ロイド達は自分達の推理をセシルに説明し、魔獣達が入り込んだと思われる場所にセシルと共に向かった。
「なるほど………ここから魔獣が入り込んだのね。」
「魔獣が何故入り込んだかそこまではわかっていないけど……何らかの対応策はとった方がいいとは思う。」
「そうね、急ごしらえにはなってしまうと思うけど…………魔獣除けのフェンスくらいなら増設できるかもしれないわ。」
ロイドの助言を聞いたセシルは考え込みながら答えた。
「ああ、それだけでもかなり違いがあるッスよ。」
「それなりの強度で可動式のものが必要ですが………この病院にそんな設備が?」
「ええ、確か野外治療用の設備でそういったものがあったはずよ。事務長さんに相談して設置してもらいましょう。」
その後魔獣が入り込んだと思われる場所にはフェンスが設備され始め、ロイド達はセシルに見送られようとしていた…………
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