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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第二十八話その2 敵の懐から脱出します!

エル・ファシル星域――。
第三哨戒艦隊 旗艦 アルフリード艦橋――。

「司令!」

 第三哨戒艦隊の主力艦隊を率いて現場に急行していたティファニーのもとに、通信が入っていた。

「先の到着した哨戒艦隊は敵の攻撃により・・・全滅!!なお、後から到着した一部の艦は接触を保ちつつ、追尾中です」

 椅子に座っていたティファニーは立ち上がった。美しい顔が、憤怒の形相をしている。

「何をしていたの!?あれほど早まるなと言っておいたはず!!!」

 舌打ちが彼女の口から洩れた。

「やはり10隻程度では倒せないか。敵の力量は侮りがたし、ね。いいわ、哨戒艦隊の主力をもって、包囲殲滅してやる!!」

 ティファニーは全軍を3隊にわけた。一隊は60隻ほどの艦艇で、これを連携させ、3方向からの包囲体制により、指定宙域に敵を追い落とす。
 二隊は指定宙域寸前で、敵の上方に出現し、一斉砲撃を浴びせる。
 そして相手が弱ったところでティファニー直属艦隊が出現し、とどめを刺す。
接触した艦からの情報によれば、相手は4隻である。10隻ならともかく、数百隻の艦隊が負けるはずなどない。

「全艦隊、待ちに待った獲物よ!!しっかりと食らいついて、離さず、惑星ハイネセンに持って帰って、凱歌を上げるわ!!!」

 ティファニーの激に、全軍が高らかに「応ッ!」と答えた。


* * * * *
 他方、超波動砲をもって敵艦隊を一気に撃滅したラインハルトたちは、その威力に驚嘆している暇もなく、一路イゼルローン要塞に向けて帰還の道についていた。

「敵の撃滅に成功したが、これで敵は我々の存在に完全に気が付いただろう。よく索敵を入念に行い、周囲の状況監視を怠るな!!」

 ラインハルトが司令席で檄を飛ばしている。アースグリム級新型戦艦にはラインハルト、キルヒアイスが搭乗し、抜けた後のシャルンホルストにはレイン・フェリルが乗り込んで指揮を執っている。

「背後から敵反応。ただし、距離を一定に保ったまま追尾中で、射程に入ってきません!」

 女性オペレーターが報告する。ついに見つかったか、といううめきが艦橋内に満ちた。

「キルヒアイス、このアステロイド帯を突破し、障害物が何もない宙域に達する最短距離はわかるか?」
「すぐに調べます。・・・お待ちください、このコースです」

 キルヒアイスが図示したのは、アステロイド帯を斜めに突っ切り、例の商船がよく航行する幅広い宙域に通じる道だった。

「敵軍が殺到するのも時間の問題だ。抜ける道は私は一つしかないと思う。すなわちワープにより一気に回廊出口付近までジャンプし、振り切ってしまうという手だ」

 それしかないと一同も思う。通常航行で切り抜けられる手があったら、逆に教えてほしいものだ。宙域に潜む手段もなくはなかったが、秘密基地の存在は知られてしまっているし、こちらがイゼルローン回廊に戻ろうとするのは敵は知っている。回廊出口付近を封鎖されれば、元も子もない。もっともすでにその連絡はいっているのかもしれないが、ラインハルトたちとすれば少しでも早く、敵の体制が整わないうちに回廊内に逃げ込みたいという思いだった。

『ラインハルト』

 イルーナ・フォン・ヴァンクラフトとレイン・フェリル、アデナウアー艦長、そしてベルトラム少佐が通信スクリーンに登場した。

『話は聞いた。ワープによる追撃の振りきりだな。危険な賭けだが、もはやそれしかないだろう』

と、ベルトラムが言う。アデナウアー艦長とうなずきを交わしあったのが、見えた。

「この宙域を可能な限り全速で突破し、ワープ可能宙域に入り次第ワープに移る。各艦の航宙主任、航路測定計算を入念に行え!索敵主任は引き続き敵の監視を!」

 ラインハルトは矢継ぎ早に指示を飛ばす。

「追尾してくる敵艦の数、位置、速度、コースを知らせろ」

 ラインハルトの指示にすぐに索敵主任がデータを示した。

「ご苦労。・・・砲雷長!水雷長!」
『ハッ!』
「今我々はアステロイド帯を航行中だ。自動追尾機雷を3か所今図示する地点に設置せよ」

 ラインハルトがたちどころに示した地点が赤くマーキングされた。2人の士官は内心その速さに舌を巻きながらも、言われた通りのことをやってのけた。

 その結果はすぐに表れることとなる。追尾してきた敵の巡航艦は最初の機雷こそ、鮮やかにかわしたものの、時間差をつけて飛来してきた機雷に対応するところを、さらに別の機雷が飛来し、一撃で轟沈してしまったのだ。

 通信は再び途切れた。


第三哨戒艦隊 旗艦 アルフリード艦橋――

「何をしていた――!!」

 ティファニーはぐっと言葉を飲み込んだ。巡航艦一隻とはいえ、距離を保っている限りやられはしないというのは甘すぎた。敵は必死なのだ。こちらが巡航艦と交信をしているのはとっくに知れ渡っているだろうし、それを妨害するのは当たり前の事なのである。

「く・・・・!!」
 
 ティファニーは必死に頭を回転させた。こうなった以上、巡航艦の反応が消失した地点を入念に洗いなおすか、敵のたどったコースを予測して先回りするか――。

「おそらく敵は最短コースで最も移動に適したところを行くか・・・。それとも宙域にしばらく潜んで私たちの出方を待つか・・・・」

 ティファニーは考えた。どっちもあり得そうな話である。だが、と彼女は判断した。迷っている暇はなさそうである。待ち伏せは時間に追われるが、宙域に潜む敵の捜索などはじっくりと行えばいい。

「巡航艦の消失した位置を割り出し、さらに敵がたどったコースのデータを確認して、敵の予測コースを割り出しなさい!!」

 ほどなくして、おおよその予測結果が届いた。ティファニーがそれを受けとる、と、彼女の厳しい顔が心なしか緩んだ。

「敵は速度を最優先にしたわ。・・・大きすぎるリスクね。でも、私にとってこれは好都合でしかない!!」

 ティファニーは全艦隊の再編成を直ちに行い、一路商船航行宙域に向けて艦隊を動かし始めた。

 この時、ティファニーがイゼルローン回廊哨戒艦隊にいち早く電文をうたなかったことは戦略的には致命的であったが、ある意味自然な心境だったかもしれない。たかが数隻の艦隊を数百隻が撃ち漏らすというのはどう考えてもあり得ない事なのだから。

「敵、反応有、敵反応有!!」

 数時間後、オペレーターの声に、ティファニーはようやく笑みを浮かべていた。4隻の艦が単縦陣形で最大加速をしながら商船航行宙域を全速航行している。大胆すぎる行動だが、今回はそれが裏目に出た。これでようやくしとめられる!!!

「高速艦隊をもって、敵の左右をふさぎ、並行砲撃戦闘を開始!!しくじらないで!!!」





* * * * *

 ラインハルトたちはアステロイド帯を突破して、商船航行宙域に入ってすぐ後、レーダーに警報が鳴った。

「どこだ!?」
「左右からです!敵の高速艦隊、約30隻ずつが左右から突撃してきます!!」
「振り切れ!!」

 最大加速だ!!とラインハルトが叫び、各艦は増速した。

「ワープ準備完了まで、後4分!!敵艦隊到達まで、後3分!!」

 ギリギリか!!と、誰もが思ったが、ワープ計算をしくじると、どこか知らない宙域に飛ばされる可能性が大であるし、下手をすれば次元断層に引っかかって抜けられない可能性もある。実際そういう事故で喪失した艦は多数なのである。

 大丈夫だ!!1分なら持ちこたえられる!!ラインハルトはそう思い、機雷をここぞとばかりにばらまくように指令した。左右に放出された機雷群は追尾してくる同盟軍艦隊を次々と襲ったが、その他の艦は機雷をものともせず突っ込んで左右に展開してきた。砲撃をしてきたが、艦種に砲門が集中している同盟軍艦では、たいした砲撃もできず、命中しない。だが、敵はミサイルを発射してきた。
 囮を射出しろ!!対空砲で応戦しろ!!弾幕張れ!!とラインハルトが叫んだ。囮によってミサイル群は明後日の方向に飛び、囮に騙されなかった残りのミサイルも、迎撃ミサイルと対空砲火で弾幕を張った4隻の前に次々と爆破されていく。

「左右からだけでは包囲体制は甘い。どこかに待ち伏せているのか・・・」

 ラインハルトは考えていたが、少なくともこの宙域には自分たちと左右の敵以外には艦影はない。

 と、その時だった。キルヒアイスがはっと顔を上げた。何か重要なことに気が付いたように目が見開いている。

「ラインハルト様!!」

 キルヒアイスが艦長席を切り裂くように振り返った。

「ワープです!!」
「なにッ!?」

 ラインハルトが艦長席から身を起すのと、震動が襲ってくるのとが同時だった。

「わぁぁぁぁぁっ!!」
「きゃあっ!!」
「うぉうっ!!」

 艦橋要員たちが悲鳴を上げる。

「落ち着け!!損傷を確認し、負傷者のチェックをしろ!!各砲搭はそれぞれの部署に置いて、全力応射!!ミサイルも全弾射出だ!!」

 ラインハルトが矢継ぎ早に指示を飛ばす。

『ラインハルト!!』

 イルーナ・フォン・ヴァンクラフトが通信スクリーンに出た。

『上下から敵よ!!ワープで接近し、左右と連携して私たちを包囲しにかかっているわ!!』
「くっ・・・・!!」

 ラインハルトがこぶしを握りしめた。一筋の汗が額に流れた。損傷報告は今のところ機関部への影響はないということである、だが、それもいつまでもつか――。
 ふと、ラインハルトの脳裏にある考えが浮かんだ。手は荒っぽいし、こちらに被害が及ぶ可能性もあるが、この際手段は選んでいられないだろう。彼はすぐに3隻に連絡した。


 増援を含めた250隻の同盟軍艦隊が上下左右から、一斉に4隻を包囲したのは、壮観であった。

「第七駆逐艦隊、射程距離に入りました」
「第三巡航艦隊、砲撃準備よし」
「第一巡洋戦艦隊、照準完了しました」
「前方、増援戦艦部隊、戦闘準備完了!!」

 続々と入ってくる報告を、ティファニーは右手に持った指揮棒を左手の平に叩きながら、聞いている。戦場で指揮を執るとき、彼女はあたかもオーケストラの指揮者の様に指揮棒を振るうのだ。それがまるで演奏を指揮しているかのように華麗な動きをすると、評判であった。


 上からは巡航艦隊がその砲門を指向し――。
 下からはミサイル艦隊がその照準を合わせ――。
 左右からは駆逐艦隊が敵を砲撃と雷撃で追い詰め――。
 そして前方にはティファニーが増援として呼び寄せた大型戦艦12隻が砲門を開いて――。

 そして、後ろからはティファニー直属の巡洋戦艦部隊がその砲門を指向して砲撃体制を完了していた。まさに完全包囲体制である。250隻と4隻ではいかに4隻が知力の限りを尽くしても、数秒で粉砕されて終了だった。敵は必死に応戦しているが、圧倒的な戦力差の前には蟷螂之斧に等しい。

「これで終わり・・・投了しなさい!!」

 ティファニーの右手が、緩やかに後方に一度下げられ、さっと指揮棒を鮮やかに前方に振りぬいた。全艦隊砲雷撃開始の指令である。

 完全包囲体制の同盟艦隊は一斉に4隻の哀れな帝国軍艦船に砲撃を集中した。

 その時である。付近にいた同盟軍艦船が一斉に爆沈した。

「――!?」

 ティファニーが数歩下がる。どういうこと!?敵の援軍!?慌ててあたりを見まわすが、識別番号は4隻以外にはすべて同盟艦隊である。普通では考えられない。艦の故障か!?だが、ティファニーの脳裏に一瞬にして浮かんだある事象があった。

「まさか、ゼッフル粒子!?」

 ゼッフル粒子?と、聞きなれない言葉を聞いた同盟軍副官たちが眉をひそめたかどうか、そんな余裕は今はどっちにもなかった。まるで帝国軍艦船が不可思議なバリアに守られているように同盟軍艦艇は砲撃と同時に爆沈していったのである。これを見た包囲艦隊は動揺し、思わず帝国艦船から距離を置いてしまった。

 包囲体制に穴が生じた。

「今だ!!ワープしろ!!」

 ラインハルトが叫んだ。4隻は次々と超ロングワープに移行し、あっという間に戦場から姿を消し去った。すべては一瞬の事である。今までの戦闘がウソのようにあたりはしんと静まり返ってしまった。

 誰もが目の前に起こった光景を信じられないでいた。数百隻で包囲していたにもかかわらず、帝国軍艦船は離脱してしまった――。

 どっという膝をつく音がした。ティファニーは両膝を突いてひざまずくようにしていたが、すぐに立ち直った。こんなことは想定していなかった!!怒りもあったが湧き上がって来るのは恐怖である。
もはや遅きに過ぎるが、イゼルローン回廊方面の哨戒艦隊に連絡をしなくてはならない・・・・。

 そして――。



* * * * *

 戦艦ビスマルク・ツヴァイ 艦長室――

 帝国軍艦船はイゼルローン回廊に入っていた。幸いというか偶然なのか故意になのか、引っ返したときに同盟軍艦隊に発見されたものの、偶然進出していた2000隻の分艦隊がいち早くこれに気が付き、同盟軍艦隊を追い散らしにかかったため、あっさりとイゼルローン要塞に戻ることができたのである。

「アレーナ、ありがとう。助かったわ」

 自室に戻っていたイルーナは極低周波端末でアレーナに連絡を取って、お礼を述べた。要塞に入港する寸前だった。操艦だけであるから、後1時間は何もしなくてもいい。疲れていたが、その間に話しておきたいことがあった。

『間に合ってよかったわ。同盟領突破したって、イゼルローン回廊でやられたんじゃあなたも成仏できないもんね』

 そういう問題?とイルーナは苦笑した。ワープアウト終了すぐに、イルーナから回廊への帰還時間、位置の連絡を受けていたアレーナはグリンメルスハウゼン子爵の情報網とマインホフ元帥へのコネクションなどなどを使って、分艦隊を回廊方面に出撃するように仕向けていたのである。
 一歩間違えればタイミングが大幅にずれていただけに、アレーナ&イルーナ双方の勘の良さと迅速さ、正確さはコンピューターもびっくりの物であった。天性というやつである。

『それにしても・・・・』

 アレーナはちょっと不審顔をしている。

『いくらなんでも同盟軍、しつこすぎない?ヘーシュリッヒ・エンチェンの比じゃないわよ、あなたたちに対しての追撃の執拗さ。わざわざ4隻に数百隻の艦艇を差し向けてきた意味、一つを除いてわからないわ』
「そうね。・・・・残念ながら、同盟領内にも私たち同様の転生者がいるということがこれではっきりしたことになるわね。それもカロリーネ皇女殿下やアルフレート殿下ではない誰か別の者が」
『問題は誰を狙ったのかよ。ラインハルトを狙ったのか、それとも・・・・』
「私を?」

 イルーナは唇をかんだ。だとすればもしや――。だが、結論を出すにはまだ早いだろう。

「それよりもアレーナ。これは重要よ。きっとイゼルローン要塞内部には同盟のスパイが潜んでいる」
『あぁ、それね。今回の件については、一人同盟の情報部員がスパイとして引っかかったわ。ま、あれだけじゃないでしょ。まだまだいると思うわ。ゴキブリみたいにキリがないんだから』

 ゴキブリホイホイ置くわけにはいかないものね、とアレーナは冗談交じりに言い、

『ということは、まだ見えない敵は情報部関係かな?そうでなくちゃラインハルトとあなたが秘密裏にイゼルローン回廊を出立して同盟領内に潜入することなんて、わからないじゃない。神様でもない限り。でもそうだとすると、出先艦隊が執拗に攻撃してきた意味が分からないわね。矛盾するわ。たかが艦隊司令にそんな機密情報を閲覧できるコネクション、ないわけでしょ』
「複数いるのかもしれないわね。一人は首都星ハイネセンに。そしてもう一人は出先艦隊の司令に。そうであれば理由はつくわ」

 イルーナの言葉を聞いていたアレーナは吐息交じりに苦笑した。

『帝国領内だけでも大変だってのに、自由惑星同盟内にも転生者か。いやになっちゃうわね。まるでキノコみたいにあとからあとから』
「仕方がないでしょう、ともかく要塞に帰還したら一度会議を開きましょう。情報を共有し、今度の戦略について話し合わなくては」
『了解。じゃ、気を付けてね』

 通信を切ったイルーナはほっと背もたれに身をもたせ掛けた。先の会話で結論は出さなかったが、彼女の脳裏には一人の人間の顔がうかんでいたし、確信もしていた。

「シャロン・・・あなたもなの・・・・?」

 シャロンは前世におけるイルーナ・フォン・ヴァンクラフトの騎士士官学校時代の同期であり、騎士士官学校の主席指導教官として名をはせていた。知略、武術、センス、どれをとっても超一流の人だった。イルーナでさえ、内心ひそかに嫉妬したこともある。もっとも、シャロンには少し奇妙なところがあって、周りの人に自分の本心をいつも韜晦しているというところがあった。
 イルーナたちの所属する国に反乱を起こし、最後には自分と自分の教え子たちによってシャロンは死んだ。その時の恨みがまだ残っているのか・・・・。

 イルーナ・フォン・ヴァンクラフトはほうっとため息をついた。前世からの因縁とはなんと執拗でなんと厄介なのだろう・・・・。



* * * * *

 首都星ハイネセンでは、シャロン・イーリスが私室で極低周波通信で報告を受けているところだった。

「・・・すると、エル・ファシル星域にそんな超兵器が放置されていたにもかかわらず、それを見過ごしていたと?いえ、そのようなことはどうでもいいわ。・・・ティファニー」

 日頃の微笑を全く見せずに、シャロンは冷然と報告を聞いて、そう結論付けた。

『も、申し訳ありません・・・。発見し、追尾したのですが、敵は戦術で我々を翻弄し――』
「取り逃がした、と」

 画面向こうでは、ブロンドの髪をポニーテールにし、そばかすのある女性がうなだれている。

「ティファニー。この問題は、自由惑星同盟と帝国との問題ではないのよ。何のためにあなたに辺境防衛の指揮官を拝命させたのか、わかっているのかしら・・・?」

 ポニーテールの女性の肩には少将の階級の肩章が付いている。それに対して、一介の大佐であるシャロンはまるで自分の部下に対するような言動をしている。これは――。

「まぁ、いいわ。あなたにはまだまだ働いてもらわなくてはならない。今回のことは後日の戦功次第で相殺という形にするわよ」
『あ、ありがとうございます』

 女性は額に汗を浮かべながら頭を下げた。

「いずれにせよ、これで帝国軍の技術力はまた一段と増すことになる。こちらも兵器開発部に指令して対抗できる新型艦を早急に開発させることにするわ」
『要塞と並行して、ですか?』
「要塞を建造するのはあのドーソン。艦船の建造はまた別ラインでやらせることとするわ。それよりも・・・」

 陽光の影響か、シャロンの眼鏡が若干光を帯びた。

『はい。既にフォークらを始末するべくアンジェが動いています』
「不要な芽はいち早く摘み取らなくては。彼らは同盟・・・いえ、私たちにとっては邪魔者でしかないわ。早急にご退場ねがうこととしましょうか」

 ティファニーとの通信を切ったのち、シャロンの口元に微笑がうかんだ。だが、それもすぐに消える。

「ラインハルト・・・やはりティファニーでは相手にならない、か。さすがは稀代の英雄。彼を助けようとする勢力、そして彼を排除しようとする勢力、どちらにも今のところ、一応は存在意義はあるわね」

 でも、それもこれもふくめ、いずれ頂点に君臨するのはこの私、とシャロンは再び微笑んだ。
 
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