トスカ
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6部分:第一幕その六
第一幕その六
カヴァラドゥッシ「(一人呟く)いい時間だな」
ゼッナリーノ 「ではお帰りになられますね」
カヴァラドゥッシ「そうだね、じゃあこれで」
ゼッナリーノ 「そう仰ると思って馬車を」
カヴァラドゥッシは馬車と聞いて顔を明るくさせる。
カヴァラドゥッシ「おっ、気が利くね」
ゼッナリーノ 「有り難うございます」
カヴァラドゥッシ「じゃあそれを使わせてもらうよ。後片付けは頼むよ」
ゼッナリーノ 「はい」
エウゼッペ 「それで子爵」
カヴァラドゥッシ「うん、何かな」
エウゼッペ 「御気を付け下さいよ。スカルピア総監は貴方も」
カヴァラドゥッシ「わかってるさ。それはね」
エウゼッペ 「おわかりならいいんですがね。それじゃあ」
カヴァラドゥッシ「うん、じゃあゼッナリーノ」
ゼッナリーノに顔を戻す。
カヴァラドゥッシ「馬車を正面に回しておいてくれ。頼むよ」
ゼッナリーノ 「わかりました、それでは」
その間にアンジェロッティは話を聞きながらそっと礼拝堂から出て正門に向かう。カヴァラドゥッシはその姿を目だけで追っている。
カヴァラドゥッシ「まずはよし」
エウゼッペ 「それで閣下」
ここで話題を変えてくる。
エウゼッペ 「面白いお話があるんですが」
カヴァラドゥッシ「面白い話!?」
エウゼッペ 「(楽しそうな意地悪い顔になって)はい、マレンゴでですね」
カヴァラドゥッシ「オーストリア軍が勝ったのかい?」
エウゼッペ 「(その笑みのまま)左様です、悲しいことに」
カヴァラドゥッシ「そうだったんだ」
エウゼッペ 「あら、それだけで」
カヴァラドゥッシ「勝敗は常にあるさ。だからね」
エウゼッペ 「(気分を削がれた顔で)左様ですか」
カヴァラドゥッシ「別に驚いたりはしないね」
エウゼッペ 「だったらいいんですけれどね
カヴァラドゥッシ「うん。それじゃあ僕はこれでね」
帰ろうとする。
カヴァラドゥッシ「人も多くなってきたし。それじゃあ」
エウゼッペ 「ええ。ではこれで」
カヴァラドゥッシ「うん。じゃあ後は御願いするよ」
エウゼッペ 「わかりました」
カヴァラドゥッシ「ゼッナリーノもね」
ゼッナリーノ 「はい」
二人にチップを渡し最後の挨拶をする。
カヴァラドゥッシは部屋を後にしてすぐに扉から姿を消す。ゼッナリーノとエウゼッペが後始末する、その中で聖歌が流れ厳かな雰囲気になる。僧侶達もやって来る。
そこに黒い制服姿の警官達がどかどかと入って来る。教会の中が騒然とする。そこに数人の警官を従えた男がやって来る。
濃く黒い後ろに撫で付けた髪に重くそれでいて不気味な陰惨な光を放つ漆黒の目を持っている。無表情で何処か鉄仮面を思わせる表情に黒と赤で色彩られた服、山の様な背丈、古代ローマの剣闘士を思わせる身体、秘密警察の首領ヴィットーリオ=スカルピア男爵である。彼はそのまま教会の中央に来る。そうして指示を出す。
スカルピア 「出口は全部押さえろ。猫の子一匹逃すな」
警官達 「わかりました」
スカルピア 「相手は悪賢い。何処に潜んでいるかわからないからな」
急に出て来た警官達と彼の姿を見て皆怯えている。だがスカルピアは彼等に対して言う。
スカルピア 「諸君等は気にすることではない。礼拝の準備を進めるのだ」
神父 「(怯える声で問う)宜しいのですか?」
スカルピア 「何を言っている。今日は戦いに勝ったことを祝わなければならない」
神父 「それはそうですが」
スカルピア 「わかったら早くするのだ。いいな」
神父 「わかりました。それでは」
聖職者達も市民達もまだ怯えている動きを再開した。その中にエウゼッペとゼッナリーノもいる。彼等は人の中に隠れて黙々と働いていたがスカルピアに声をかけられて飛び上がる。
スカルピア 「おい、そこの二人」
エウゼッペ 「は、はい」
ゼッナリーノ 「何でしょうか」
スカルピア 「御前は確かここの堂守だったな」
スカルピアはエウゼッペに顔を向けて問う。
スカルピア 「御前に聞きたいことがある」
エウゼッペ 「(怯えきった様子で)な、何でしょうか」
スカルピア 「まずは近くに来い。いいな」
エウゼッペ 「わかりました。それでは」
言われるがままふらふらとスカルピアのところまで来る。そうして彼に応対する。
スカルピア 「(低く恐ろしい声で)ここに囚人が一人逃げ込んだとの報告があった」
エウゼッペ 「若しかしてそれは」
スカルピア 「知っているな。名はチェーザレ=アンジェロッティ、元ローマ共和国の領事だ。その男の家の礼拝堂はここにあったと思うがどうだ」
エウゼッペ 「その通りでございます」
スカルピア 「そうか。それは何処だ」
エウゼッペ 「あれです」
その礼拝堂を震える手で指差す。スカルピアはそれを見るとすぐに部下の一人スキャルローネに顔を向けて指示を出す。
スカルピア 「スキャルオーネ」
スキャルオーネ「はい」
スカルピア 「礼拝堂を捜せ。いいな」
スキャルオーネ「わかりました。それでは」
スカルピア 「うむ」
スキャルオーネはすぐに二人の部下を連れて礼拝堂の中に入る。暫くして扇を持ってスカルピアの前に戻ってきた。
スキャルオーネ「こんなものがありました」
スカルピア 「扇か。しかもこれは」
スキャルオーネの手から扇を受け取り直接調べる。すぐにあることに気付いた。
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